第百十章・千百合さんと野毬先輩
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第百十章・千百合さんと野毬先輩
夜の九時になると、小説書きを再び始める文芸部員のメンバー。
雪枝先輩もバス酔いから解放されたので、男子部屋にみんな集まって、それぞれが自分の作品を書いている。
パソコンは雪枝先輩の分もあるので、一人一台使っていた。
昔は手書きで小説を書いていた時代があったらしい。
うちたちの世代では、文章も絵もコンピューターで描くのが普通だ。
手書きの時代はもう終わったらしい。
時代の流れとは早いものである。
光陰矢の如しって言うんだっけ?
うちたちがパソコンの画面と睨めっこしていると、お茶を持ってきた千百合さんが部屋に入って来た。
入る前に声をかけて欲しかった。
「やっほー。千百合だよ。今夜はぶっ続けでやるつもり?」
千百合さんは省吾くんに言った。
「一応はな。出来上がれば早く寝るけど…」
省吾くんは冷静に千百合さんに言う。
「省吾の小説、面白いのかな?見ていい?」
「ダメだ。書いてる途中のものを見られたくない」
「ケチんぼ!じゃあ海っちのは?」
うちの書いているものを見ようとする千百合さん。
「ダメです。うちも書いてる途中のものを見られたくはありませんから」
「省吾と同じことを言うのね」
誰だって、途中のものは見られたくないでしょう。
芸術面では常識ですよ。
「皆さん真面目ねぇ…」
千百合さんは呆れたように言った。
真面目ですいません。
というか、仲居のバイトを放っておいて、ここに来て良いのでしょうか?
うちはそうツッコもうとしたけれど、うちの品位が下がりそうなので、黙っていた。
「省吾の先輩も真面目そうな人たちですねー」
千百合さんはそう言って、野毬先輩の方を向いた。
千百合さんと目が合う野毬先輩。
「君は部活とかしないの?」
野毬先輩は千百合さんに言った。
「興味がないです。バイトはお金になるから好きですけど、部活はお金が掛かるだけで、それを頑張っても何かの実になるとは思えないし」
千百合さん、それはうちらに対して失礼じゃ…。
うちがそう言いかけた時、野毬先輩は苦笑する感じで千百合さんに向かって言った。
「お金じゃないんだよ。俺たちはもっと充実した青春を送りたいんだ。それに対する投資も労力も時間も惜しくはないのさ。分かる?」
「はぁ…」
千百合さんはよく分かってないようだ。
うちもこんな野毬先輩の顔は初めて見る。
「じゃあ、この中から素質のある人は、将来物書きになりそうですね」
千百合さんがまともなことを言った。
「そうかもしれないね。でも今は、そんな将来よりも、今の時間が大切なんだよ」
熱く語っているワケでもないのに、野毬先輩の言葉は胸に刺さる。
「そうなんですね。私は野毬さんの言葉に感動しました」
千百合さんの反応がおかしい。
野毬先輩に対しての好意は本物なのでしょうか?
うちはそれが気になった。
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