第百二章・千百合さんの仲居姿
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第百二章・千百合さんの仲居姿
食事の時間まで、うちは小説を書いていた。
もうすぐ七時になる。
「野毬先輩、雪枝先輩のところへ行きますので、ここで終わってもいいでしょうか?」
うちはデータを保存しながら野毬先輩に言う。
「ああ、終わっていいよ。部長はもう平気なのかな?」
野毬先輩は雪枝先輩のことを心配していた。
うちも心配はしてる。
それなのに、うちは省吾くんと、さっきキスしてた…。
ちょっと罪悪感。
うちはパソコンからUSBを抜き取ると、電源をオフにする。
さて、女子は女子同士で食事をしましょうか。
うちはUSBを持って、雪枝先輩が寝てる女子部屋へと移動した。
「雪枝先輩」
部屋は照明が落とされて、少々暗かった。
でも夏場は夕方になっても明るいので、西日の残りが部屋に入っている。
眩しさがうちの視界を遮った。
「雪枝先輩、起きてますか?」
見ると、雪枝先輩はスースーと寝息を立てて寝ていた。
もうじき食事だというのに。
まあ、バス酔いしたのだから、体調が戻ってないのかもしれない。
そっとしておいた方がいいでしょう。
うちは奥の椅子に座って、食事を待った。
隣で声が聞こえた。
夕飯が届けられたようだ。
省吾くんと野毬先輩の分のお膳が運ばれたのだろう。
きっと持ってきたのは千百合さんだ。
少々話し声が聞こえるけれど、何を話してるのかまでは分からなかった。
千百合さんと省吾くんは幼馴染なんだし、千百合さんのさっきの野毬先輩に好感が持てるような発言のせいで、うちは心の中がざわつく。
冷静に冷静にと、うちは自分を落ち着かせた。
その時、雪枝先輩が目を覚ました。
「う~ん。もう食べ切れない…」
雪枝先輩は寝ぼけて妙なことを言い出す。
食事は今からですよ?
「あっれ~。海、いるの?」
雪枝先輩は布団から起き上がると、うちの姿を探してキョロキョロする。
「はい、いますよ」
「わたしどのくらい寝てた?」
「四時間ほどです」
「結構寝たなぁ…。お腹空いた…」
もう食べれないと今言っていたのに。
「もうお膳が来ますよ。七時に予定してましたから」
「あー、ゴメンね。わたしが部長として手続きしなきゃいけなかったのに…」
「いいえ、野毬先輩が代わりに全部やってくれましたから、大丈夫ですよ」
「野毬が…?ああ、サンキュと言っておいて」
「自分で言ってくださいよ」
ほどなくして、うちたちの部屋にも食事が届けられた。
やっぱり千百合さんが持ってきた。
「海っち、食事だよー」
なんとラフな言い方をする仲居だろうと思ってしまった。
雪枝先輩もいるのに。
「ああ、どうも!旅館を友達割引で安く手配してくれてありがとう」
雪枝先輩は千百合さんに気が付いた。
千百合さんは雪枝先輩に手を振る。
「何度も仰らなくて結構ですよ。わたしと先輩は〝友達″なんですから」
「そうね。ありがとうね。お食事?」
「はい。今日のお膳は夏野菜の天ぷらをご用意させていただきました。ご賞味ください」
バス酔いなのに油ものですか…。
というより、千百合さんは学校での喋り方と全然違う!
これが本物の仲居なの?
バイトとはいえ、プロっぽかった。
「ではごゆっくり!」
千百合さんは正座してお辞儀をすると、すぐに出て行った。
「海、食べよっか?」
「は、はい」
うちと雪枝先輩は、夕食をいただくことにした。
「で、海。あの子は恋敵なの?」
雪枝先輩の痛恨の一言。
うちは茄子の天ぷらを吹き出してしまった。
読者の皆様には感謝しかありません!!




