008 3つのアイテム
「助かりました。ありがとうございます」
W.Gのアドバイスにより、サイキック:『精霊の囁き』を再び装備しなおしながらカザオリは言った。彼の言葉に、三人も相互を崩す。
「倒せてよかったよ。まさかルシファー・サタンと2回も戦闘することになるなんて思ってもみなかったけどな」
「それにアナザーバーストも使えるようになったし。スッゲーよなこの・・・」
「ハートゥー、ストップ! で、あれからどうなったの?」
「それが・・・」
W.Gがカザオリの思考に割り込んできた。
<<OROCHIが世界を侵食し同化率を高めている。奴が聞き耳を立てていることを忘れないように。自立型が倒されたときのことを考えて、ワタシのことは秘匿しておくことを推奨する>>
―――どこまで隠せばいいんだ。
<<そのほかの情報は開示して、協力を求めてみることを推奨>>
視線の先にゴジラヘッドが見えた。
いつの間にか、映画館の近くまで来てしまったみたいだ。
ついでにもう一度行ってみよう。
ゲームセンター『夢幻館』へ移動しながら、カザオリはW.Gのこと、超能力うんぬんのことをぼかしながら、ゲーセンでの出来事を話した。
「マジかー」
「オロチウィルスねえ。やっかいだな」
そして角を曲がったところで言葉を失った。
「無い・・・ゲーセンが消えてる・・・」
先程まで確かに存在していたゲームセンター『夢幻館』が消え、そこは更地になっていた。
「無いね」
「オロチウィルス。マジはんぱないって」
「でもさ、ルシファー・サタンごと消してくれただけでもよかったんじゃない」
「リーダー何言ってんだよ。ルシファー・サタンならさっき倒したばっかじゃん」
「こおいうゲームってさ、普通は倒されても復活するよね。他のプレイヤーもいるわけだし」
「さっきのと、また戦いたくはないよな」
23区内で、この『TOKYOラビリンス』が稼働しているゲームセンターは新宿、渋谷、池袋、秋葉原、六本木の五か所。新宿はだめになってしまったけれど、他のところはどうなのだろうか?
ワンチャン、彼ら3人にも『エホバの紋章』を取ってもらおうと思ったのだが、W.Gが言うには、エホバ研究所自体が消滅してしまった以上それは不可能だと言われた。
―――でも、ほかのエリアで取得しているプレイヤーがいるかもしれないよな?
<<カザオリよりも早く、エホバ研究所へマトリックスインしたのであればYESだ>>
ログアウト失敗からエホバ研究所まで、体感的には15~20分くらいだろうか。それよりも早く、俺と同じことを考え実行した人間は果たしていたのだろうか。ゼロではないはずだ。そう信じたかった。
!!!
ふと思った
―――ところで、なんでW.Gって名前なの? なにか意味はあるの?
<<衛藤は『ワタシを得たものはWitGain(機転を得る)ことになるだろう』と言い、彫井は『WishGem(希望の宝石)とか素敵じゃね』と言い、馬場は『敬愛するWilliam Gibson(人名)リスペクトだ』と言った>>
てきとーすぎんだろ!!
「おーい!!」
ハートゥーの声に我に返ったカザオリ。3人が心配そうに見つめていた。
「あ! っと申し訳ない」
「大丈夫かい」
「ちょっとこれからのこと考えてて」
「で、キミのことなんて呼べばいいの」
アルレスに言われて、互いのことをほとんど知らないことに初めて気がついたカザオリだった。彼はアスピーダ・アイギスの3人と改めて自己紹介を交わす。
・カザオリ 風属性 双剣使い 攪乱サポートタイプ。
・ジュピテル 土属性 盾使い 絶対防御&盾式武闘術で近接戦闘もこなす。アスピーダ・アイギス(イージスの盾団)のリーダー。
・アルレス 火属性 大太刀使い 近接戦闘タイプ
・ハートゥー 風属性 槍使い 中距離援護攻撃タイプ
「で、これからどうするつもり?」
アルレスの問いに
「新宿駅で『エホバの落とし物』ってアイテムを探そうとおもってるんだ」
JRに向かいながらカザオリは答えた。
「落とし物っつったら、預かり所だよな?」
「JR新宿の預かり所ってどこにあったっけ」
そんな話をしながらゴジラヘッドの横を通り過ぎようとしたとき、あるものがカザオリの目に入った。
それは映画のポスターで・・・
『ヤマタノオロチ伝説』
というタイトルだった。
八匹のオロチ、そして八つに分割されたプログラム。ひょっとして、これもエホバが残してくれた手がかりなのでは?
カザオリは、三人を説得すると映画館の中へと入っていった。
◇■◇■
「なんか、やたら酒造りシーンが長かったね」
ハートゥーが欠伸をしながら言った。
映画自体はヤマトタケルが八岐大蛇を倒すために、酒を造ってそれを飲ませて、酔っぱらっているうちに倒す。という何のひねりもないものだった。
「最後のバトル大迫力だったじゃん」
興奮気味にアルレスがまくしたてる。
「八方から襲いかかってくるオロチをかいくぐって最後の一撃。たまらんかったね」
「そうそう、実は尻尾の方が本体で、八対の頭だと思ってた方が実は尻尾だったっていう変化球。ビックリしたね」
「そうなんだけどさ、途中、中だるみしすぎだよ。酒造りに気合い入れすぎ」
「まああれは確かにくどかっな」
そんな会話を聞きながら、劇場を出てきたカザオリ。
三人とは対照的にかなり興奮していた。
違う、ヒントだ!
直感がそう告げていた。
<<カザオリ、気持ちが高ぶっているな>>
―――モチロン。あの映画は間違いなくエホバからのヒントだ。
映画のシーンを反芻する。
・旅の茶屋で旅人から貰った『麹酵母』
・魑魅魍魎の魔境、その中にある聖なる霊場で『聖米』を手に入れ
・あの世とこの世の境目といわれる、霊峰の奥にひっそりと存在する銀霊湖の『清水』を汲む。
この3つをそろえて、九神薙の巫女と共に霊酒を作った。
符合する3つのアイテム。
『駅で『エホバの落とし物』を手に入れて!』
エホバ研究所でのセリフがリフレインする。
『旅の茶屋で旅人から貰った麹酵母』がたぶんこれに符合するよな。
思考が加速してゆく。て、ことは霊場と湖ってどこなんだ?
そんな疑問を3人にぶつけていると、突然悲鳴が聞こえた。