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ネオロエンサー  作者: 羇流遼
幽閉空間
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007 強襲

 ゲームセンター『夢幻館』の入り口に立つ門番、ルシファー・サタン:スーザバングが小刻みに震え始めた。全身に血管が浮かび上がり、それが赤黒く輝き始める。それは、見るものに禍々しい印象を与えた。

 一度活動を停止したそれは、次の刹那、ゆっくりと動き始めた。



 カザオリが意識を取り戻すと、ゲームセンターのポットの中だった。

 現実世界に戻ってこれた?

 一瞬そんなことを考えたが、あたりに人の気配がなく、イメージウィンドウを浮かび上がらせることに成功してしまったために、ここがまだバーチャル空間であることを思い知らされてしまった。


 あれは、夢だったのだろうか?


 意識を取り戻したカザオリは、なんだか動くのが億劫になって、その場にぐったりと身を沈める。疲労感だけはマジものだった。


「超能力・・・本当にそんなもの存在するのか?」

「その前に、オロチを倒さないとこの世界から出られないらしい。てゆうか、『エホバの落とし物』ってなんだ? 駅って新宿駅だよな?」

 とりとめもなく浮かんでは消えてゆく思考。


 突然、そのまどろみを打ち砕くような轟音が轟いた。

 驚いて音のした入り口の方を見ると、ちょうど物陰からルシファー・サタン:スーザバングがこちらに向かって姿を現したところだった。

「嘘だろ・・・」

 絶句。カラダが震えた。

敵はカザオリを見つけると、いきなり飛びかかってきた。

慌ててカプセルから飛び出す。同時にカプセルが四散した。敵は、やっちまう気マンマンのようだ。


ここ非戦闘エリアだよな!?


 息つく暇もなく攻撃を仕掛けてくるスーザバング。

響き渡る剣戟音

鷹翼刀を出して何とか応戦しようとするも、2~3回打ち合ううちに打ち負けて、刀を弾き飛ばされてしまった。

スーザバングの背後で何かが動いた気配。危険を感じたカザオリがサッと跳びのくのと、翼剣の三連撃が襲い掛かるのはほぼ同時だった。

 鈍く光る翼剣の刃の煌めきに、カザオリは冷や汗をかいた。

全身に走る血管が赤黒く発光する姿は、さき程よりも禍々しさをましていた。なんだかさっきよりも強くなっている気がする。気圧されるカザオリ。


このままじゃやられる・・・


スキル・・・いやアイテム・・・何かないか・・・小アルカナ装備しとくべきだった・・・

後悔先に立たず。錯綜する思考。


そんなことを思いながら、気が付くと無意識にコマンドリングを開いていた。と、リングの中心に見慣れないアイコンを見つけた。

「なんだこれ?」


『エホバの紋章』?

 

藁にもすがる思い。

無意識にクリックしていた。そのアイコンは光の粒子に分解すると、左上にあるステータスバーに吸い込まれてゆく。


・・・・・・


・・・・・・


・・・・・・


何も起きない。何も起きなかった。


 体の力が抜け、思わず膝が崩れ落ちた隙をついてスーザバングの息もつかせぬ猛攻が始まった。

慌てて横に飛ぶ。しかしモーションがワンテンポ遅れてしまった為、HPを削られた。痛覚などないはずなのに、切り裂かれたわき腹に痛みを感じた気がする。これも視覚の生々しさゆえだろうか?


<<私はサポートAI:W.G>>


 動揺するカザオリの脳裏に突然声が響いた。

 な、なんだ? 何が起こった?

<<コマンド入力を求む>>


 なんのことだ?


我に返ると、スーザバングの放った無数の魔爪が迫る。かわしきれずにダメージを受けつつも、なんとか距離をとった。

 が、敵は態勢を立て直す暇を与えてくれない。


 あっちで爽ッ爽ッ、こっちへトンズラ。何とか勝機を掴もうとするが、なかなか攻勢に転じることが出来ない。振りきれない。焦りばかりが募る。

 いつの間にか、スーザバングが全身から赤黒い煙を放出し始めていた。


<<動きに無駄が多すぎる。このままではやられる確率90%>>

「うるさい!」

 集中力を乱すノイズに思わず声を荒げる。

 と、力んだ拍子につんのめってズッコケてしまった。

サーッと絶望感がカザオリの中を駆け抜けた。

 この好機を逃がさじと迫るスーザバング。

 絶体絶命!!


<<アナザーバーストの発動を推奨。戦闘エリアからの緊急離脱を提案する>>

 考えている暇はない。カザオリは言われるがままにアナザーバーストを発動し、一目散にゲーセンを飛び出した。

 破壊された入り口から外に飛び出す。

そして入り口から見渡すことのできない裏手に回った。そこでタイムアップ、アナザーバーストの有効時間がきれた。


 なんとか一息つくことが出来た。


<<まだ終わっていない。今は態勢を立て直す時だ>>

―――ところで、アンタ何者なんだ?

 いきなり頭の中に聞こえ出した男とも女ともつかない無機質な合成音に、カザオリはつっこんだ。

<<私はサポートAI:W.G。OROCHIを殲滅する手助けをするために創られたAIだ>>

 先程クリックした『エホバの紋章』のことを思い出す。たぶんあの中に封印されていたのだろう。

―――どうせなら自立型にして、勝手に殲滅してくれたらよかったのに。

<<そのタイプも開発されている。>>

―――え、いるの?

<<OROCHI殲滅プログラムは、ワタシだけではない。>>

―――まじか、何体いるんだ

<<不明>>

―――なんでそんなまどろっこしいことをしたんだ

<<可能性の問題だ。体をもった自立型の場合、OROCHIに認識されてしまうが、憑依型の場合、プレイヤーに寄生することによって、OROCHIの追跡を躱すことが出来る。>>

―――じゃあ、その自立型って今どこにいるんだ?

あわよくば、そいつこのルシファー・サタンも倒してもらおう。わずかに出てきた希望に喜ぶカザオリ。

<<不明。現時点で所在を突き止めることは不可能>>

カザオリが口を開こうとしたところで、W.Gのインフォメーション。メッセージが入った。

<<敵は我々の所在を突き止めた模様。接触までカウント10>>

 その言葉通り、<精霊の囁き>に映るルシファー・サタンの反応がこちらに向かってきた。

「しつけーな。で、どんな技があるんだ?」

<<意味不明。指示は明確に>>

―――あんたを装備したことによって、スッゲー必殺技使えるようになったんだろ。どんな大技が新しく使えるようになったか教えてよ

<<ワタシはデウス・エクス・マキナではない。あくまでもサポートAIであり、あなたが常に120%の状態で闘えるようにサポートするだけである。したがって、あなたのスペック以上のことは出来ない>>


絶句!!

しっかりしてくれよエホバさんよ!

ユーザーサービスが足りてなくない?

カザオリは心の中で叫んだ。


「ラノベだったらこう言う時、超絶必殺技習得するもんだろ」

 思わず声に出して叫んでいた。

<<理解不可能。敵が来る。接触までカウント3>>

 その言葉通り、建物の陰からスーザバングが姿を現した。


<<先手必勝。羽手裏剣を投擲後、懐に飛び込むことによってダメージを与えられる確率60%>>

 が、そんなW.Gのアドバイスを無視して、カザオリは一目散に逃げだした。

<<奴はオロチに侵食されている。倒さない限り永遠に追ってくるぞ>>

「だからって、一人で闘うことはないだろ。仲間を集めるんだよ」

<<了解した>>

一人で闘うなんて無理だ。何とか人がたくさんいるところへ逃げ込んでレイド戦に持ち込もう。カザオリはそう作戦を立てた。


サイキック<妖精の囁き>の弱点は敵の位置しか表示されないことだ。カザオリは、この近くでプレイヤーがたむろしていそうな場所、西武新宿駅を目指した。


幸い、西武新宿駅駅前の広場には何人かの男女がだべっていた。

 ありがたい。天に感謝するカザオリ。

「みんなレイド戦に協力してくれ」

 勢い込んで駆け込んでくるカザオリを、怪訝な表情で眺める他のプレイヤー達。

「レイド? 敵なんかいねーじゃん」

一人がそういった矢先、スーザバングが姿を現した。

「うわ、うわ。何アレ」

「ぐろ~い」

「気をつけろ、あいつはルシファー・サタンだ」

「まじで」

「レアキャラ、ゲッチュ!」

 いきった男たちが武器を構えた。

「やっちゃえ、やっちゃえ」

一緒にいた女がキャッキャキャッキャ囃し立てる。男たちのテンションがミルミル上がっていった。


が、連携をとる暇もなく、男たちは瞬殺された。そのままカザオリに迫るスーザバング。W.Gの助言にしたがい、からくもやり過ごすが、とても一人では倒せる気がしなかった。

そういえば、まだ女性プレイヤーが残っていたはず。おもわずあたりを確認すると、遠くに走り去ってゆく彼女の後姿が見えた。


嘘だろ!

耳を覆いたくなるような罵詈雑言が口からこぼれた。


<<気を抜くな。攻撃がくるぞ>>

 W.Gの声に我に返るカザオリ。スーザバングの剛剣がうなりを上げる。

 丁々発止

 やり合うこと数十回。新宿通り上での攻防が続く。

こうなったらJRまで引っ張っていくしかない。あそこまでいけば、人がいっぱいいるはずだ。少しづつHPを削られながらも何とか気力を奮い立たせるカザオリだった。


と、カザオリとスーザバングの間に、巨大な光の盾が突然姿を現した。それはスーザバングの呻りを上げる袈裟斬りを弾く。勢い余ってたたらを踏むスーザバング。




 突然のことに呆気にとられていると、背後から楽し気な声で話しかけられた。

「苦戦してるね」

「またルシファー・サタンと戦ってるんだ」

「ルシファー・サタン出過ぎだろ」

振り返るとそこには先ほどのアスピーダ・アイギスのメンバーたちが立っていた。しかも今回はリーダーまで一緒にいた。

「ありがてー。助かった」

「前のルシファー・サタンとタイプが違うんだな」

「どっちかっていうと万能型? かな」


<<この機会に装備の変更を提案する>>

 W.Gが割り込んできた。

 装備の変更?

―――そんなこと出来るの?

<<可能だ>>


「すまない。ちょっと態勢を立て直させてくれ」

「ああ、いいから休んでな」

「リーダー、こんどは普通に攻撃通るぜ」

「いいねえ」

アイギス達は3人がかりでスーザバングと戦い始めた。見る間に数十手をまじえる。スーザバングは全身の武器を駆使して3人を振り切ろうとするが、アイギス達は巧みな連携プレイでそれを阻んだ。


 カッケー

 

 その流れるような連携プレイを羨望の眼差して眺めていたカザオリは、W.Gに促されて慌てて物陰に避難した。


―――で、装備の変更って?

安全を確認してからW.Gに話しかける。

<<まずはコマンドリング展開>>

 左手の薬指でクリックアクションをとって、コマンドリングを展開した。

<<"悪霊の唄ディスネンス"にカーソルを合わせて更にダブルクリック>>

 言われた通りにアクションすると、"悪霊の唄ディスネンス"のコマンドの後ろに多重構造のコマンドリングが展開し、今、カザオリというキャラクターが身につけている全てのサイキックが表示された。

<<多重乱数飛刀(CIRCUS‐1)に変更>>

 インターミッションと同じ要領でサイキックの付け替えに成功した。

「すげえ」

思わず感嘆の声がこぼれる。


W.Gに言われるがままにサイキック、アイテム、EXバーストと付け替えていく。そこでカザオリはふと思う。

――― ひょっとして他の人たちも出来るのか、これ。

<<可能なはずだ>>

 これは、いけるかもしれない。カザオリは期待に胸を膨らませた。



 アスピーダ・アイギスはプレースタイルが籠城戦専門なだけに、戦闘スタイルも守りが主体だった。ヒット&ウェイならぬ、ガード&ヒット戦法を得意としている。

「いける」

 前回のアグニポスの時は、ガードタイプの装備もサイキックもまるで使い物にならず、拳の一撃で粉砕されてしまった。しかし今回のスーザバングは攻撃を防ぐことが出来た。素早い動きにさえ気をつけていれば戦える。自分たちの戦闘スタイルが通用する。そのことが3人に自信を与えた。


 スーザバングが背中に装備した3枚の刃で攻撃してきた。閃々と煌めく3本の稲妻が襲いかかる。リーダーのジュピテルが、冷静に巨大な盾を構えてそれをはじく。スーザバングは剛剣を構えると猛然と攻めかかってきた。打ち合うこと数回。隙を見つけたアルレスとハートゥーが左右から攻撃を仕掛ける。


「持久戦だなこりゃ」

アルレスがつぶやいた。

攻撃がヒットしているのはいいものの、思ったよりHPを減らすことが出来ずに焦れ始めていた。そして、自分たちのHPが思ったよりも削られていることが焦りを加速さる。

「クロヌスがいれば色々とアナライズできたんだけどな」

「今はダメージを与えていることだけ分かればいい」

「でもリーダー、このままじゃジリ貧だぜ」


 数十回やり合っていると、装備を整えたカザオリが復帰した。

 彼は隙を見てアスピーダ・アイギスのメンバーたちに装備の付け替え方を教えた。敵の猛攻をかいくぐりながら、三人にアイテム:エホバレポートを装備してもらう。オロチに支配されたルシファー・サタンを倒すには、もうこれしかない。W.Gも勝率84%以上とはじき出した。やれるはずだ。


「コマンドリングを展開してみて」

「おお!! アナザーバーストのアイコンが出てる!!」

 3人は感嘆の声を上げた。

「今は使うとHPが1/3減るから気を付けて」

「仕様が変わったってわけか」

「そう、使うとHPごっそり持ってかれるから」


 ここで、火属性のアルレスがいたことが幸いした。

 火属性のアナザーバーストは瞬間火力。3秒間だけ攻撃力が通常の300倍になる。

 ここぞとばかり、一気呵成にたたみかけ、スーザバングを撃破した。


「星六武器でなかったな」

「こおいう仕様変更って、嫌いだわ~」

 ルシファー・サタンのあまりの強さに、今になって恐怖心がわき上がってきたアルレスとハートゥーは、内心の動揺を悟られぬようにことさら軽口をたたいた。




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