006 OROCHI
どうやらここは、『TOKYOラビリンス』を開発したプログラマー達の部屋を再現した部屋らしい。
開発に携わったプログラマーは3人、衛藤、彫井、馬場
その頭文字をとってエホバ研究所なのだそうだ。
「私が起動したってことは、OROCHIがこの世界を侵食し始めたのね」
「オロチ?」
「量子コンピューターの闇から生まれた超AIの怪物」
「超AI? 凄いの? ソレ」
「世界のパワーバランスをコントロールして国を操るくらいにわね」
「は?」
世界を支配してるってことか? 規模がでかすぎやしませんか?
「そんな凄いAI様がなんでたかがVRゲームを侵食するんだ?」
「『リインシャーラ』を手に入れるため、いえ、己で再プログラムするための手がかりを探しているのかもね」
「り、リインシャーラ?」
「平たく言えば、人間を超能力者にする為のプログラム。エホバの3人は小脳の中の無憂樹と呼ばれる部分と脳幹の中の沙羅双樹と呼ばれる部分を活性化し、互いを共鳴させることによって、松果体の中に第8のチャクラが顕現することを発見したの。そうすることによって、人は超能力が使えるようになるわけね」
解説が難しくてさっぱりだったが、超能力が使えるようになるというのは、にわかには信じがたい話しだった。
「だって、VRゲームの開発してただけだよね」
「凝り性だから」
「どおいう事?」
「VRゲームって普通、使うのは視覚と聴覚だけでしょ。でも彼らは五感でフルに感じられるVRゲームを作りたかったのよ。それで試行錯誤してたら偶然『リインシャーラ』なんてやっかいなもの作っちゃったわけ」
天才とマッドサイエンティストは同義語というが、本当かもしれない。
「てことは、このゲームやってたら俺たちも超能力が使えるようになるってこと?」
「ざ~んねん。そのプログラムは既に破壊されてるから、いくらプレイしても超能力が使えるようにわならないから」
ホッとしたような残念なような。
そこでふと疑問が頭をもたげた。
「人間が超能力者として覚醒するためのプログラムなんだよな」
「ええ」
「なんで実体を持たないAIが欲しがるんだ?」
「OROCHIを使役しているギーグルバンファイはこの技術を軍事に利用してサイキックソルジャーを作りたいみたい」
「ギーグルバンファイ・・・」
脳内ではスカイネットVS人類みたいな構図が出来上がってたから少し肩透かしを食らったような気分だ。
が、それにしたって・・・
「ギーグルバンファイってこのゲームの運営会社だろ、しかも元はスマホ作ってた会社でさ。スマホアプリから始まって色々手広くやってるけど軍事用って・・・」
「何事にも裏はあるものでしょ」
理屈は分かるが理解が追い着かない。思考の中を無数のはてなマークが乱舞した。
「じゃあ今のこの状態って、ゲームがオロチに乗っ取られてるからってわけ?」
「そうね」
「だったらどうやってログアウトすればいいの」
漠然とした恐怖がカザオリを包む。嫌な予感しかしない。
「OROCHIを倒せばゲームクリアってことね」
―――やっぱり
こともなげに言う目の前のホログラムに内心イラっとした。
「簡単に倒せるものなの?」
「まさか、正攻法では倒せないわよ。なにせこの世界と融合して、この世界のルールそのものを書き換え始めているんですもの」
絶句
「こんなことして何になるんだよ」
「『リインシャーラ』を再構築したら、そのまま人体実験する可能性が高いわね」
おい、おい、おい。その為にログアウトさせません、てか。
「安心して、この世界、そう簡単に乗っ取られたりはしないから。それにエホバの三人は、OROCHIに対抗するためのプログラムを密かに用意したの」
「助かった。もちろん貰えるんだよね」
「そうしてあげたいんだけど、ここにはないのよ。3人はOROCHI、そしてギーグルバンファイに見つからないようにプログラム『天叢雲』を8つに分割してこの世界のどこかに隠したの」
「8つに?」
「そう。その8つの・・・」
と、突然、空間が歪み始めた。
「ダメ! OROCHIに気づかれたみたい」
空間に蛇の鱗のような亀裂が走り、その空間が剥がれ落ち、崩壊を始めてゆく。
虚無空間が姿をのぞかせる。
「オロチ・・・」
突然のことになんだか現実感がなくポカンとその名をつぶやくカザオリ。
空間が崩壊を続け真っ暗な虚無空間が広がってゆく。世界が歪む。
徐々に現実感が回復し激しく動揺するカザオリ。
体が強張って思うように動かない。
エホバちゃんがカザオリの手を握って、崩壊する空間を飛翔し始めた。
その手は暖かかった。そう感じた。
「時間がない、よく聞いて。『天叢雲』の欠片を手に入れるには3つのアイテムが必要なの。まずは駅で『エホバの落とし物』を手に入れて!」
そこまで聞いたところで世界は虚無に包まれた。エホバちゃんが光の塊になりカザオリの体を包む。そして、光の粒子の飛沫が弾けた。