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ネオロエンサー  作者: 羇流遼
序章
5/17

004 パーティー戦 後編

 カザオリ達が次に攻略目標に定めたのは、小田急線地上改札口横のカフェエリアに作られた敵陣だった。眼の前の階段を上るか、それとも小田急地下改札をくぐって背後から敵陣を攻めるか。結局、タワケの機嫌をとるかたちで、階段を上がって真正面から攻め込むことになった。


<精霊の囁き>の有効範囲内に敵の反応はなかった。

陣地変換リバースの混乱も収まり、敵の影はない。しばしの安息。

カザオリのステータスも回復し、行動を起こすならば今しかない。

4人は目の前にある傾斜が少し急な階段を緊張した足取りで一歩ずつ上がっていった。敵の反応がないのが何とも不気味だ。


「あ~いるなぁ」

階段の最上段で頭を低くしながら、前方の様子を窺う。改札の向こうの敵陣付近には敵がたむろっているのが見えた。

時折小競り合いは起きるが、敵プレイヤーたちはビクともしていなかった。

「あれ、籠城戦専門のプレイヤーたちじゃないですかね」

敵の雰囲気を見てベンケイが言うと、

「だろうね。道理で攻めてこないわけだ」

 いかにもといった感じでタワケが頷いた。

「ほか、行っちゃう?」

コジロウがそう言った矢先だった。突如、あたりにかん高いアラート音が響き渡った。


「え? 何?」

 不快そうに鼻を鳴らすタワケ

「おいおい」

 あたりの人間の様子を観察するコジロウ

「はあ? 何事www」

 ポリポリと頭をかきながら、嬉しそうに笑いだすベンケイ

「!・・・!?」

 びっくり仰天してキョロキョロとあたりを見回し、異常の根源を探し始めるカザオリだった。


と、イメージウィンドウにシステムメッセージが表示された。


―――第三勢力登場! ルシファー・サタン3体が出現した。


「第三勢力ってナニ?」

「素材クエの敵乱入ってことかな」

「大型アップデート前のお試しって感じですかね」

「マップ見てみろよ」

カザオリの声に3人がマップを開く。

JR南口改札付近のコンコースに黄色いボスマークが3つ出現していた。


「ルシファー・サタンとか超レアでしょ、俺はじめてかもしんね」

浮かれ声でコジロウが言うと、

「カザオリは渋谷で会ったんでしょ」

ベンケイが話を振ってきた。

「強ぇーよ。倒せたの奇跡だからね」

「あ、なに、お得意のアナザーバースト?」

半笑いでタワケがチャチャる。

「あの超ボスとどうやり合うか、ディフェンダーズ(仮)のお手並み拝見といこうか」

前方の籠城戦専門プレイヤー達を見据えながらカザオリが言った。

「まずは彼らに戦って貰うわけね」

「おっと、言ってる間に1体コッチ方面に来るね」


マップを確認すると、ボスアイコンが1つ小田急との連絡改札を抜けてこちらにやってくるところだった。

そして・・・突然巻き起こる騒音、そして悲鳴と喚声と怒声。初めは微かに聞こえていたそれが、徐々に大きくなってきた。


 そして来た!


そいつは、1歩1歩踏みしめるようにゆっくりと階段を降りてきた。

初見の印象は純銀でできたギリシア彫刻といった感じだ。

ルシファー・サタン:アグニポス

ステータス画面を開いてみたが、分かったのは名前だけだった。素材クエストの時はHP・MPが確認できたのに。


そうしている間にも、敵味方関係なくプレイヤー達が次々に蹴散らされてゆく。

悲鳴や怒声を上げながら光の粒子となってゆく姿に煽られて、感覚がヒリヒリとザラつく。バーチャルな肉体のはずなのに身体が震えた。


 すくむ身体。


前回は何がなんだか分からないうちにルシファー・サタンとの戦闘に突入していた。だからこそ恐怖を感じる余裕がなかった。しかし今回は客観的にルシファー・サタンの強さを目の当たりにして・・・恐怖が全身を縛る。

メギドが一緒だったらな。

カザオリはそんなことを思いながら拳を握りしめた。


「見てみ。いよいよディフェンダーズ(仮)とぶつかるみたいよ」

無人の荒野を進むがごとく歩み続けるアグニポス。そのアグニポスがゆっくりと歩み続ける先には、自陣を死守する籠城戦専門プレイヤー達が待ち構えていた。


◇■◇■


イージスの盾団アスピーダ・アイギスの底力見せるぞ!」

リーダーの檄に団員たちが答える。勝鬨かちどきが地鳴りのように鳴り響いた。

メンバーの一人がサイキックを発動させた。


<アヌビス・アイ>:敵ステータス確認スキル


「どうなってんだ? こいつHPが10しかないぞ」

動揺がさざ波のように広がる。

「10万とかじゃないのか?」

このゲームはステータスが9999までしか表示できない使用になっていた。

「いや、本当に10しかないよ。マジで」

「たぶんバグだぜ。いただき!」

 勝ちをはやる団員が数人飛び出した。


 アグニポスは1撃1撃の攻撃は強力だが、動きが遅めだ。よく見極めれば恐れる程じゃない。

先ずは超重力派で動きを更に緩慢にして、氷結スキルで敵の体を凍らせた。

「いただき!」

 大剣に雷を纏わせたプレイヤーが上段に振りかぶった大剣をそのまま叩き込んだ。のだが・・・


「嘘だろ」

攻撃が入らなかった。

 2回3回と剣を振り下ろすが、攻撃が届かない。

 焦りが無駄な動きを増やす。

 右から左から袈裟懸けにしっちゃかめっちゃかに剣を振り下ろす。

が、攻撃が入らない。

EXバーストを決めようとした瞬間だった。

「マサーッ!!」

マサと呼ばれた男が光の粒子となって消滅した。拘束スキルを打ち破ったアグニポスの右ストレートがモロに決まったためだ。


慌てて散開するアスピーダ・アイギスのメンバーたち。

「ダメージが入らないぞ」

「いくらHP10だってダメージが入らなきゃ意味ねーよ」

「入らない訳あるか」


残りのメンバーたちが四方から攻撃を仕掛ける。が、どうしても攻撃が入らなかった。

「完全なバグキャラだぜ、これ」

「いや、違う、攻撃が入る瞬間に硬質化してるんだ。<ジークフリート・スキン>のサイキックだ、これ」

「おいおいSSSクラスの超レア技じゃん。ズルくね?」

「まあ、ルシファー・サタンだしな。こんぐらいないと超ボス感ないじゃん」

「確かあれって、装備するときに弱点を設定しなきゃいけないんじゃなかったっけ」

「その弱点で攻撃されてる時だけサイキックが発動しないってやつだよな」

「問題は何を弱点にしているかってことなわけで」

「みんなでやるしかないか・・・」

「リーダー!?」

言外の意味を読み取ったメンバーの一人が声を上げた。

「せっかくここまできたんだ、倒したいだろ?」



エリアチャットにメッセージが流れてきた。

『現在、イージスの盾団アスピーダ・アイギスは小田急地上改札付近でルシファー・サタンと交戦中。敵はジークフリート・スキンを装備している模様、各種攻撃を加えたいので応援を乞う』


メッセージを読んだ我こそはと思うプレイヤー達が続々と集まり、戦場は乱戦の様子を呈していた。敵はHPが極端に低い変わりに攻撃力が極端に高い。1撃でも攻撃を食らうと即、HPが0になってしまう。恐怖と虚栄心の間で功を焦ったプレイヤー達が次々に粒子と化し消滅してゆく。

「なかなか弱点にたどりつかないな」

今や、敵味方一丸となってルシファー・サタン:アグニポスの攻略に躍起になっていた。


その中にカザオリ達の姿もあった。


 大混戦は続く。

不毛な戦いを強いられ続け、募る焦燥感。集中力が落ちる。プレイヤーたちが一人また一人とやられて精神も削られていった。

「なあカザオリ、はやくお得意のアナザーバースト使いなよ」

焦れてきたタワケが煽ってきた。

「ふざけんな、もう使えないって知ってんだろ」

集中力を削がれ思わず語気が荒くなる


「え?! アナザーバーストって本当にあるの?」

「都市伝説じゃなかったのか」

 そんなやり取りを聞きつけた周りにいた何人かのプレイヤー達が反応し、どんどんと波及する。

 あたりがざわつき始めた。

「この人使えるから」

 タワケの煽りに、周囲のざわつきが大きくなる。

「本当なのか?」

敵の攻撃をやり過ごしながら、ガッチリした男キャラが話しかけてきた。確かイージスの盾団の団長リーダーだ。

好奇と羨望と興味津々の視線がカザオリに集中した。

「あれは一回のクエストにつき一回しか使えないんですよ。その一回もさっき使っちゃったし、悪いけど今はもう使えないんだ」

失望と疑惑の空気が渦巻いた。疑いの眼差しがカザオリに集中する。


「誰かこの中で、エホバレポート装備してる人いる?」

そんなことはお構いなしにタワケは声を張り上げた。

「エホバ・・・って、え? あのチュートリアルってか操作方法が書かれたマニュアルのこと?」

「そう、あれ」

エホバレポートとは、ゲームを開始してチュートリアルをクリアするとみんなもらえる最初のアイテムのことだ。

「なんでまた」


 話に夢中になりすぎた何人かがアグニポスの餌食になった。

 が、話は止まらない。


「アナザーバーストの発動には3つの条件があってね、

・HPが残り3分の一でステータスバーが赤く光ってること。

・MPがゼロであること

・エホバレポートを装備していること。

を満たしてないといけないんだよ」

 みんなの視線に陶酔したように、得意げにまくしたてるタワケ。


プレイヤー達に動揺が広がる。

「嘘だろ、アナザーバーストってそんな簡単な条件で使えたのか」

「あんなゴミアイテム一回も装備したことねーぞ」

「盲点だったー。玉ねぎ剣士理論か~」

 タワケは喜色満面で周りの称賛に答え、カザオリは黙り込んだ。


 カザオリはアナザーバーストの使い方を教えてしまったことを後悔した。

 もともとこの技は、βテスターだった範政メギドの兄が仲間内から教えてもらったものを範政メギド経由で教えてもらったものだ。

 なるべく秘密でという約束で。こんなに大ぴらに広めたら間違いなく修正されてしまうぞ。苦い思いがカザオリの心に広がる。


「てことはキミも使えるんだろ」

 プレイヤーの一人がタワケに言うと

「チート技なんてダセェこと出来るかよ」

 どや顔でタワケは言った。


 そのダセェことを他人にやらせようとしてんだよアンタは 


 不特定多数の誰かが心のなかで突っ込む。

 コジロウは肩をすくめ、ベンケイは『うわぁ』という表情を作った。


 空気が白けかけたその時、アグニポスがベンケイに襲いかかった。

 そいつのことを忘れていた。

 完全に意識の外にいて、思わぬ不意打ちに、まったくの無防備になってしまったベンケイ。


「ベンケイ危ない!」

 カザオリはサイキック:<悪霊の唄ディスネンス>をアグニポスに向かって放った。ルシファー・サタン相手にどこまで命中率を下げられるか分からないが、ハズれろ! そう念じながらカザオリはそれを敵に放つ。


 ここでまさかの事態が起こる。

アグニポスのHPが9に減ったのだ。どうやらベンケイが咄嗟に放ったグラビティー・バンカーが刺さった様だ。

「やった」

ベンケイの顔が喜びに変わった瞬間だった。顔面に1撃食らって彼は消滅した。それはアっという間の出来事で、しかし今はそれどころではない。


「おい、HPが減ったぞ。」

「何が起こったんだ、今」

あたりがざわつき、にわかに活気づく。

「グラビティー・バンカーだ! あの攻撃が効くぞ」


◇■◇■


「きかねーじゃん」


グラビティー・バンカー持ちが何名かアグニポスに攻撃を試みるも、HPを削ることが出来なかった。


 もしや・・・


 カザオリはハッとして、もう一度、<悪霊の唄ディスネンス>をアグニポスに放つ。

「誰か攻撃してみてくれ」

 3つの攻撃がヒットし、HPが6になった。

「<悪霊の唄ディスネンス>だ! それを喰らってる間だけ、ジークフリート・スキンが発動しないぞ」

 にわかに活気づく。が、残念ながら<悪霊の唄ディスネンス>を装備しているプレイヤーは今この場にはカザオリしかおらず、結果的に彼はアグニポスの標的になってしまった。


 逃げ回るカザオリ。

敵の追撃を掻い潜りながら<悪霊の唄ディスネンス>を放ち、周りのプレイヤーがそれに合わせて攻撃。2~3度繰り返すうちに残りHPが遂に『1』になった。


あたりが異様な熱気を帯びる。


「あと一回、あと一回!」


 その場にいるプレイヤーたちの合唱に、皆の目がギラつく。皆、ルシファー・サタンにとどめを刺そうと殺気だっていた。


「おっしゃ行くぞ!」

 カザオリが気合コールを入れ。周りのプレイヤー達が怒号レスポンスを返した。

敵が放った渾身の右ストレートが眩く光る。それをかわして<悪霊の唄ディスネンス>を放った。


そして、とどめを刺したのは・・・タワケだった。


ルシファー・サタンを撃破したその報酬は

「スゲー。星六武器だ」

だった。


煌晶剣:純白に鈍く光る七又に分かれた剣。


興奮気味にそのステータスを確認し始めるタワケ。

羨望、嫉妬の入り混じった周りの視線に気づき、彼はわざと得意げに剣をかざした。


と、<精霊の囁き>に反応。

慌てて身をかわすカザオリ。氷柱の一群が彼をかすめた。攻撃が来た方を見ると、ニヤニヤと笑うさっきのゴリマッチョとひょろながのっぽが立っていた。のっぽのほうが氷槍を放ったらしい。

「まじかよ」

思わず悪態がこぼれる。


戦闘態勢に入ろうとした矢先、

質量を持った巨大な残像剣がゴリマッチョとのっぽを瞬殺した。

「星六武器スゲー」

得意げなタワケ。その目は興奮にギラついていた。彼が盛れば盛るほど周りが白けてゆく。


と、ここでタイムアップ。けたたましいブザーの音が辺り一面に鳴り響く。パーティー戦は終了した。

 

 目の前に掲示板が現れ、結果を表示する。

最終所有陣地は、東軍3西軍2第三勢力5で第三勢力の勝利となった。

 他の2体のルシファー・サタンは倒されなかったみたいだ。まあ、今回自分たちが倒せたのは運がよかったのかもしれない。

 そのようなことをつらつらと考えていると、周りの景色が薄くなり始めた。インターミッションルーム『ラプラスの間』への帰還が始まったのだ。

 ラプラスの間に戻ったらどうしよう、そんなことを考えていたら突如、視界が急激に狭くなり、あたりが闇に覆われた。


虚無。


何もない空間に意識だけが漂っているような感覚。戸惑っていると、ものすごい重力を感じ、全身からワッと冷や汗が溢れ出す感覚に襲われた。


 それは・・・貧血の症状に似ていた。


 何かがいつもと違う。

 恐怖を感じる暇もなく、意識がゲシュタルト崩壊を起こし、グワングワンと意識の中を幾何学模様が乱舞する。

 歯を(意識を?)食いしばって耐えるカザオリ。

 そのうちに意識の枝が八方に伸び根を張り始めた。どのくらいの時間がっ経ったのだろうか。やがて、感覚が戻ってきた。


 視界が戻りあたりを見渡すと、そこは丸ノ内線の改札前だった。



次回から新章『幽閉空間』編が始まります。

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