003 パーティー戦 前編
喧騒があちらこちらから聞こえる。
人々の大声、武器がぶつかり合う音、サイキック発動音。
ここは新宿駅構内・・・を模して作られたバトルフィールド。
ゲームはもちろん、VRゲーム『TOKYOラビリンス 』
今日は、同じ学校のゲーム仲間3人と共にパーティー(対人)戦をプレイ中だ。
パーティー戦は各キャラが東軍西軍に別れて、両軍に5つづつ用意される陣地を奪い合うもので、(どこに陣地が敷かれるかは毎回ランダム)先に10個すべての陣地を確保するか、1時間経過した時点でより多くの陣地を確保していた軍の勝ちとなる。東軍西軍の振り分けはコンピューターがおこなうが、エントリーするときにユニットを組んでおくと、ユニット単位で振り分けてくれるので、仲間内で敵味方に分かれることがないのが有り難い。
京介たちは東軍だった。布陣を確認。
JRの新南口から東口改札にかけてのコンサード(昔はキオスク、もしくはニューデイズって言ってたらしい)やカフェがある場所のいくつかが陣地になっていた。
西軍の方は、大江戸線から小田急、京王線にかけて布陣されていた。
「西軍の方が有利じゃね?」
「陣が独立してるもんな」
「こっちは一筆書きで攻め込まれますよ」
「ヤバイ」
「逆に言うと、あっちは連携出来ないから各個撃破しやすいよね」
そんなことを言い合いながら4人は作戦を練った。
4人は、
雷属性の長刀使い コジロウ
火属性の剣使い タワケ
土属性の金棒使い ベンケイ
風属性の双剣使い カザオリ
という組み合わせだ。
現在地はJR中央東口を入ってすぐの、現実だと喫茶店になっている場所だった。
「ここから一番近い敵陣は」
「小田急地上改札横の茶店かな、西口でたところのみどりの窓口も近いね」
コジロウ、タワケの後をベンケイが引き継ぐ。
「ここから小田急へ行くとなると階段登らなきゃいけないですね」
続けてカザオリが、
「茶店の方へ行くと、立体構造を利用した奇襲戦法が使いづらい・・・と」
腕組みしながら言葉をつないだ。
結局はいつもどおりの出たとこ勝負でいくことになった。結構いい加減だよね。
周りの他プレイヤーたちのザワザワにテンションが高まってきたところで、ゲーム開始のブザーが鳴った。
ゲーム開始だ!
いきったプレイヤー達が一斉に駆け出す。
その人の波に乗って進軍していったら、みどりの窓口方面へ向かっていた。前方ではすでに戦闘が始まっている。カザオリ達は、最前線から少し距離をとって、東口通路、11・12番線の階段の所に陣取った。
「さ、敵さん来るよ」
鬨の声と共に両軍がぶつかる。
喧騒があちらこちらから巻き起こった。
人々の大声、武器がぶつかり合う音、サイキック発動音。あちらこちらからゴーレムが生まれ、眩い炎の飛沫や、雷撃が地を這い、氷の礫が空を裂く。地水火風雷さまざまなサイキックが乱れ飛ぶ。近接戦闘したり遠距離から狙い撃ったり、ゲーム開始直後はいつもこんな感じの混戦状態だ。
HPがゼロになったら、5分後に自軍の陣地からペナルティなしで復帰出来るので、特攻戦法を取りたがるプレーヤーが意外と多い。
カザオリ達はその様子を見守りながら、戦況が落ち着くのを待っていた。時折、前線を突き破ってこちらに攻め込んでくる敵達を連携プレイで撃退しつつ敵陣へと攻め込む機会を伺う。
「いつみても壮観だよね」
タワケがそう言っている間に敵が一人、前線を抜けてこちらに侵攻してきた。どうやらソロプレイヤーみたいだ。
ベンケイが重力の壁を展開した。氷の槍で突っ込んできた敵の攻撃を防ぎ、更に敵の体勢を崩した隙きに背後からタワケが火炎剣を横薙ぎに叩き込んで撃退。
「血の気多すぎ」
コジロウが長刀の刀身をもてあそびながらいった。それに応じるように
「そうじゃなきゃ、こんなゲームやんないでしょう」
タワケが言うと。
「違いなし」
ベンケイが同意した。
「そろそろ、いいんじゃない?」
4人は様子をみつつソロリソロリと前進を開始した。
サイキック:<妖精の囁き(D-3)>を装備して超感覚を強化(という名のレーダー装備)しているカザオリが敵の気配を察知し、ベンケイの超重力の盾が攻撃を防いでゆく。
他の三人がそれぞれの武器で牽制しつつ敵陣の一つ(西口みどりの窓口)を目指す。そして頃合いを見計らってダッシュした。
改札を抜けたところで敵陣が光り輝きだす。
これはHP0になったキャラが5分経って復活するという合図だ。
青くなる4人。どうやらペース配分を間違えてしまったらしい。
「まずいですよこれは」
ベンケイが言うのとカザオリが飛び出すのがほぼ同時だった。
「カザオリ!」
タワケの叫びに、
「先手必勝!!」
カザオリが吠える。
周りに居た敵が、今まさに陣を攻略しようとするカザオリに気づき飛びかかってきた。カザオリは双剣とスキルを使って牽制する。
と、敵の群れの隙間からフラッグが見えた。コレを破壊すると敵陣を攻略したことになり、陣地が味方のものへと切り替わるのだ。
間髪入れずにサイキック:<羽手裏剣(G-2)>を発動して、全弾をフラッグに向かって叩き込んだ。
光の羽根は狙い過たずにフラッグに向かって飛んでいく。
やった!
そう確信した瞬間だった。
カンッ
そんな音とともに羽手裏剣が弾き飛ばされた・・・
「やらせねえよ」
両手に巨大なパワーアームを装着したゴリマッチョキャラがニヤリと笑いながら立ち塞がった。
ガタイに似合わず俊敏な動きをするそいつが一気に間合いを詰めて雷撃振動破を打ってきた。
『あぶない、雷撃くるよ』
タワケがチャットで割り込んできた。
その大声に気を散らされた分だけ回避行動が遅れ、敵の攻撃をモロにくらい、ふっ飛ばされるカザオリ。HPが3分の2ゴッソリと持っていかれてしまった。
HPゲージが赤く明滅している。
仲間たちが駆け寄ろうとするが、敵に阻まれて側に来ることが出来ない。
カザオリは舌打ちしながら体勢を立て直し敵の追撃に備えた。
「へえ、1撃で沈まねぇなんてやるじゃん」
パワーアームゴリマッチョが鼻息荒く、両腕に雷を纏わせるとカザオリをいたぶるようにジャブを数発繰り出してきた。眩い雷電を纏わせたいかにも凶悪そうなその拳を上体をそらしながら、右に左に紙一重で躱すカザオリ。
「あぶな~い、しっかり避けないとやられちゃうー」
ゲラゲラ笑いながらへなちょこジャブを繰り出すゴリマッチョ。残りHPが少なくなって竦んでいると思っているのだろう。
「ホラッ ホラッ」
威嚇するように右足を2~3回踏み鳴らす。
カザオリはサイキック:<羽手裏剣(G-2)>を連射して敵を散らし、フラッグへの道筋を作った。
「どこねらってんだオイ」
ゴリマッチョが嘲笑いながら攻撃を仕掛けてきた。相手を馬鹿にした嘲りのこもった右ストレートだ。
カザオリは残った最後のMPを使ってサイキック:<悪霊の唄>を放つ。これは、超音波で精神を乱し命中率を下げる。という技だ。結果、ゴリマッチョの攻撃は明後日の方向へ繰り出され、盛大に空振った。
「どこねらってんだオイ」
ゴリマッチョの口真似でやり返す。
怒りに燃える目で睨みつけてくるゴリマッチョ。
「てめぇキメーんだよ」
怒鳴り声をあげて、ゴリマッチョがサイキックを発動しようとした刹那、
「うっせーよ、タコ」
カザオリはアナザーバーストを発動した。
風属性のアナザーバーストは超加速。
3秒間だけ通常の300倍のスピードで行動することができる。
カザオリはゴリマッチョのサイキックを繰り出そうとしている腕を蹴り飛ばして、技を自分で喰らうように仕向けると、その脇をすり抜けて敵陣を目指した。
そして、フラッグを破壊した。
返す刀で近場にいた敵2~3人を切り伏せたところでタイムアップ。
超加速が終了した。
瞬間、敵陣が味方陣地に切り替わる。復活しようとしていた敵は光の粒子となって霧散し、変わりに味方が復活し始めた。
何が起こったかわからずキョトンとし、続いてギョッとする敵軍のプレイヤーたち。
「うをッ」
ゴリマッチョは己の技をモロに食らって、もんどりうって倒れた。
そして始まる大混戦。
陣営が切り替わった直後はだいたいこうなる。
「敵は浮足立ってるぞ。やっちまえー」
復活してきた味方をそそのかすようにゴリマッチョを指差すカザオリ。
「テッメー」
何が起こったか分からず、呆気にとられていたゴリマッチョの顔が歪む。
ナメプしていた相手に出し抜かれ、ゴリマッチョの怒りはド髪天に達していた。大声で吠えるとコッチに向かって突っ込んでくる。自分に向かって突撃して来たのだと勘違いした復活味方プレイヤーたちが、ゴリマッチョを取り囲みヒット&アウェイでボコりはじめる。
口汚く罵りながら無茶苦茶に暴れまわるゴリマッチョ。
が、多勢に無勢。やがてHPが尽きゴリマッチョは消滅した。カザオリを憎々しげに睨みつけながら。
「まずいな、復活したらここに来そうだな」
自軍に切り替わったばかりの陣地の中に入り、HP・MPを回復させながらカザオリはひとりつぶやいた。
「カザオリ氏、やりますな」
興奮しながらベンケイが陣地内に入ってきた。周りにいる見知らぬ自軍プレーヤー達も口々にカザオリに称賛の声を贈った。
「ちゃんと連係しなきゃダメじゃん」
そんな和やかな雰囲気をぶち壊すように不快そうなタワケの声。
「臨機応変でしょ」
多少苛つきながらカザオリが受け流す。
「ちゃんと役割分担決めてるんだし」
「さ、この調子で次は小田急の地上改札攻略だね」
険悪なムードになりそうな二人の間にコジロウが割って入った。