002 素材クエスト 後編
イーブル・デビルを殲滅した二人は中ボスがいるJR線のホームへと向かっていた。
壁や垂れ幕には、綺羅びやかな広告ディスプレイが自己主張をしている。 俗に言う開発元の制作費回収行為ってやつだ。
それらを横目に眺めつつ無人の連絡通路を二人は進んだ。JRの改札を越えてホームに入る。ハチ公方向の先端にイーブル・アモンの影が見えた。
イーブル・アモン、特撮で言う怪人ポジションの存在だ。各駅ごとに5体設定されており、何が登場するかは毎回ランダムで決まる。
あれは、5体の内のどれだろうか?
二人で対策を練ろうとした矢先、イーブル・アモンがこちらに突っ込んできた。
「うそやろ」
「まだ索敵エリア外じゃん」
「どうなってるんだよ」
「サイレントアップデートあったのか?」
戸惑う二人。
混乱しているうちに敵は目前に迫っていた。
「ピューテリクス!」
大蛇と蜘蛛の合成怪物で、鈍く光る濡れそぼった鱗や八本の節足が生理的嫌悪感をもよおさせる。
「メギド、感電させるぞ」
カザオリはリングコマンドを開くと、アイテム『小アルカナ』を選択した。
小アルカナ:いわゆるチートアイテムの一つで、自分の属性に関係なく、
全属性のサイキックを使役できる万能攻撃アイテムだ。手に入れるためにかなり苦労しただけの性能はある。
<スプラッシュ・ロイヤルフラッシュ>
念を込めると中ボスに放つ。カードが水流へと変化しピューテリクスを取り囲み渦となってその周りを回転する。
「くらえ! ∀・リボルバー!」
そこへ、メギドが放った火炎弾が直撃した。
水流と火炎の激突。
高温の水蒸気が敵を包む。
そこですかさず、もう一度『小アルカナ』を取り出すと念を込めて放つ。
<ライジング・フルハウス>
水蒸気を雷鎚が疾る。
まばゆい光。幾筋もの放電が中ボスを貫いた。
やがて水蒸気が晴れる。すると、感電し痙攣しているピューテリクスが姿を表した。イーブル・デビルならばこれで殲滅出来るのだが、さすがはイーブル・アモン、まだ体力が残っていた。
「トドメいくぜ!!」
<幻影炎帝剣>
<征嵐刃裏乾(GalaxyCyclone)>
EXバースト(超必殺技)が炸裂し、ピューテリクスは粒子となって消滅した。
敵はすでに瀕死状態であったため、通常攻撃を2~3加えるだけで倒すことは可能であった。が、そこは男のロマン。二人はためらいもなくEXバーストを繰り出した。灼熱の炎と真空の刃が意思持つ獣のように敵を蹂躙し、駆逐した。
ドロップアイテムを回収すると一息つく。
「焦った~」
「だよね。索敵エリア外から来んだもん」
「大型アップデート前に小さな調整入るなんて聞いてないぜ」
ホッとしたのも束の間、旧東急線のホームに積乱雲が巻き起こった。
上空に出現した黒雲と雷を螺旋状に取り込みながら積乱雲は膨張し、そして収縮し始めた。それに合わせて禍々しいオーラをあたりに放ち始める。
いつもと違う雰囲気に二人は身体をこわばらせた。
「大ボス登場・・・だよな」
怪訝な表情のメギド。
「ああ、いままで通りならね」
カザオリはマップを開いた。しかし旧東急線のホームには何も表示がなかった。いつもならば、イーブル・アモンを倒せばすぐにデーモン・サタンが表示されるはずなのに・・・
赤いプラズマを帯びた積乱雲が、1点に向けて収束してゆく。
「あれ、ルシファー・サタンじゃないの?」
雲塵の中から現れた妖魔を見たカザオリがつぶやく。
ルシファー・サタン
いわゆるレアボスで、特撮に例えるならば、敵幹部ポジションの怪人だ。極稀にデーモン・サタンの代わりに登場する。
「デーモン・サタンって基本的に巨大怪獣だからな」
「だよな」
ルシファー・サタンがこちらを向き、ニヤリと嗤った・・・ような気がした。
そして、翔んだ。
どうやら息つく暇もなく、ラスボス戦突入のようだ。
「ズッケー。直にコッチ来るぞ、反則でしょまったく」
大剣を構えるメギド。カザオリはと言えば、
―――まずい。
焦りまくっていた。
ルシファー・サタンは超Sクラスの強敵だ。なのに残りMPが1/3しかない。男のロマンを優先して、EXバーストを放ってしまったことが裏目に出てしまったようだ。
通常EXバーストを放つためには、MPが140以上必要だ。なのにカザオリの今のMPは70だった。メギドも似たり寄ったりの状況だろう。
「MPポーションもってきた?」
「まさか」
「だよね」
そうこうしているうちに、ルシファー・サタンが放った衝撃波が二人を直撃した。裂帛の気合と共に大剣で斬り伏せるメギドと回避行動をとるカザオリ。敵はすぐそこまで迫ってきていた。
「レアボスなんだから、コッチが行くまでそこでまってろよな」
毒づきながらメギドが斬り結んだ。ラスボス戦突入だ!
理科室の人体模型が人骨で作った鎧を着こんでいるような感じ。
ルシファー・サタン:プァーガトリオ(ステータスにはそう表示されていた)の第一印象はそんな感じだった。
筋肉も人骨も再現度が高くてなんとも生々しい。
プァーガトリオは、肉切り包丁を3倍に大きくしたような武器を振り回す。そのジェイソンの猛襲のごとき攻撃は淀みなく続いた。
二人はサイキックを織り交ぜながら連携して攻守につとめるが、劣勢に追い込まれていた。敵のHPを思うように削れない苛立ちが無駄な動きを多くさせる。
颯・颯・颯
カザオリは紙一重でプァーガトリオの攻撃をかわしつつ連撃を叩きこむ。
本来ならばここでメギドにスイッチするはずなのだが、焦りがもう一撃を繰り出させた。
「え?」
メギドの驚いた様な声。接触する二人。たたらを踏んでバランスを崩した。
隙あらば攻め立てる。敵はそのようにプログラムされていた。ましてや超ボスともなれば、手心を加えるなどというプログラミングなどされているわけもなく。
プァーガトリオの放った衝撃派が二人を襲う。
<超光燐気(AuraBattler)>
体が勝手に反応していた。質量のある残像が3体出現しプァーガトリの攻撃を受け止め、消滅してゆく。しかしすべての攻撃を受けきることは出来ずに二人は吹っ飛ばされてしまった。
なんとかダメージを軽減することは出来たが、カザオリのHPは3分の1をきってステータスバーは赤く明滅し始めていた。
「大丈夫かカザオリ」
「ああ。だけど赤バーになっちまってるよ」
「Me Too」
プァーガトリオが剛剣を振りかぶって突っ込んできた。慌てて左右に回避する。
「やるしかねえよ」
「おう」
うなずき合うと、二人はサイキックを連射し始めた。が、防御行動をとられてたいしてダメージを与えることは出来ない。やがてMPが0になってしまった。
「さて、いきますか」
「だな」
不敵に笑いあうと、二人はアナザーバースト(超必殺技2)を発動させた・・・
アナザーバースト:いわゆるバグ技である。もともとはβ版テストのときデバッカーがデバック作業しやすいようにと用意された必殺技だ。その後、本リリースの際、削除されたはずなのだが、ある特定の条件下で発動出来ることをどこかのプレイヤーが発見、口コミで伝授されている。修正されることを恐れて、SNSには決して載らない秘密技なのだ。
◇■◇■
ラプラスの間
からくも勝利したカザオリは、メギドと別れてラプラスの間に戻ってきていた。ホッと一息つく。
「まさかルシファーサタンと出くわすとはな」
そんなことを呟きながら、パラメーターをアップさせてゆく。
アップできる項目は『射・突・斬・壁・撃・疾』の6つ。アップさせた項目の組み合わせによってステータスが上がったりサイキックやEXバーストを覚えるという仕組みだ。
先程までの激闘を思い出して思わずニンマリする京介。他人には見せられない表情だ。
「さてと・・・」
最後にルシファーサタン:プァーガトリを撃破した事により手に入れたレア素材を使って、EXバーストの一つである、爆裂烈風刃(GALACTIC GALE)のレベルを上げ、新たに習得したEXバースト『疾風彷徨刃』にCALACTIC WHIRLWINDと名前を付けてその日のプレイを終了させた。