016 決戦!! 帝都城
目の前に帝都城があった。
振り返ると赤レンガ駅舎が見える。
どうやらいきなりワープしてしまったらしい。
城の側で何かが蠢く。それは、八岐大蛇の胴体だった。頭を失った八対の首がもがいている。怨念でもまき散らすように。
―――どうなってるんだW.G
<<OROCHIと共鳴したと推測する>>
W.Gの推測では『天叢雲』の欠片を8つ集めたこと、オロチの頭を八対全て倒したことによってOROCHI本体の下へと強制召喚されたのではないかということだった。
ここに、OROCHIの本体がいる。いよいよ最終決戦か。
カザオリは武者震いした。
「まてよ・・・」
ということは、あと7人ここに召喚されているはずでは?
<<カザオリ、敵が来るぞ>>
精霊の囁きに反応
ルシファー・サタンが襲いかかってきた。
この敵は、絢爛と鈍い煌めきを放つレザー材質で出来た長身で、手足が刀で出来ていた。飄々と宙に漂う姿には得体の知れぬ恐れを抱かせる。
ルシファー・サタン:ザフティス
ゆらゆらと漂いながらこちらに向かってきたかと思うと、突然、突きを繰り出してきた。カザオリは双剣を手に取ると、敵の攻撃を右手で受け止め、その勢いを借りて、左手で反撃に転じた。
ザフティスはフワリと数歩、跳び退く。その動きは軽妙で敏捷である。
感想を抱く間もなく、白光一閃、猛攻を繰り出してきた。
考えている暇などなかった。W.Gに言われるがままに、攻撃を避け、反撃を繰り出す。W.Gがいなければとっくにやられていただろう。
それほどルシファー・サタン:ザフティスは強敵だった。
何回となくやり合うが、なかなか決定打を繰り出せない。
アナザーバーストを発動しようとしたカザオリをW.Gが止める。
<<よせ、この城の中にはOROCHIがいる。それに敵はコレだけとは限らないぞ。温存するべきだ>>
精神がどんどんすり減ってゆく。
集中力の途切れがミスを招き、攻撃をくらいそうになった刹那、雷をまとった矢がザフティスの横っ腹に突き刺さりひるませた。
これ幸いと距離を取る。
「ブライ参上!」
己の身長ほどもあろうかという、長めの和弓を持ったキャラクターがカザオリの側に立った。
「ブライ? てことは・・・」
「そうそう、メギド、メギド。今はブライだけどな」
「助かった。ありがとね」
「いいってことよ。おっと来るぜ」
今度は2対1。が、なかなか優位に立つことが出来ない。
「いつものフォーメーション使えないのは調子狂うな」
いつもの調子でEXバーストを放つチャンスを作ったカザオリだが、弓攻撃だと剣の時と比べて微妙にタイミングがズレて、攻撃をかわされてしまった。
距離を取り、間合いを詰めながら、攻防を繰り返してゆく。
苦戦していると、八方からザフティスへ攻撃が集中した。
「助太刀するぜ」
「苦戦してるな」
ゾクゾクと現れる助っ人達。
最終的には8対1になり、ついにルシファー・サタン:ザフティスの討伐に成功した。安堵の息を吐く。落ち着いて皆を見ると、誰も彼も一騎当千のツワモノに見えた。
「ここに8人いるってことは、『天叢雲』の欠片を持ったプレイヤーが全員集合したってことかな」
「じゃない」
「シクヨロ」
カザオリ達は、お互い名乗り合った。
・カザオリ(♂) 幽刻酒:十六夜 風属性 武器:双剣
・ブライ(♂) 吟遊酒:仙酔 雷属性 武器:和弓
・ヒュドラ(♂) 逍遊酒:詩泉 火属性 武器:三節槍
・ハルアキラ(♀) 桃源酒:雪月花 水属性 武器:鏃槍
・クロノス(♂) 銀世酒:鶴錦 土属性 武器:青龍刀
・サンダーボルト(♂)笑傲酒:蓬雷櫻 雷属性 武器:太刀
・ガラジャ(♀) 羅遥酒:梵寿 風属性 武器:薙刀
・ゴウリュウ(♂) 紅咲酒:雲海 火属性 武器:鉤爪
皆、いまいち状況を飲み込めていないようなので、映画館で見た八岐大蛇との戦闘シーンをかいつまんで話し、オロチの本体が帝都城に横たわっている尻尾の方の可能性が高いので、これから倒しに行こうと言った。
「なるほど、城の中に本体がいると」
「いよいよ最終決戦なわけか」
「さっさと終わらせましょ」
「善は急げ!」
「まった!! 敵がいる」
ブライは突然、城門に向かって身構えた。
「よく気がついたわね」
「ハッハッハ、これ以上は行かせん」
いつの間にか、城門の上に人影が立っていた。
「あなた達、ここでゲームオーバーだから」
それも二か所に。
「何者!」
クロノスが鋭く叫ぶ。
「ラセツ」
坂下門の上に立つ鎧武者の格好をした男が言った。
「シュラ」
続いて、桜田門の上に佇む、肢体を強調した露出過多な女が名乗る。
二人とも赤黒いオーラをまとい、見た目の凶悪さが3倍増しになっていた。そして見た感じ、妖魔ではなくプレイヤーっぽかった。
「あんたらプレイヤーじゃないのか」
「だったらどうなんだ」
鎖鎌をもてあそびながら、ラセツが言った。
「なんで邪魔するんだ」
「さっさと終わらせて、現実に帰ろうぜ」
できれば無駄な労力は避けたい。
「現実なんてクソゲーでしょ」
「ここで俺TUEEEEEしてた方が楽しいじゃないか」
何とか説得しようとするも、議論は平行線をたどり、気が付けばバトルが始まっていた。
猛攻。
敵は巧みに鎖鎌と鞭を操り、なかなか間合いを詰めることが出来ない。
数人がかりで攻めかかるが、敵に翻弄されてしまいザフティスの時のようにうまくいかなかった。
逆にカザオリ達の方が、うまく囲い込まれてしまっていた。
仲間に当たるのを恐れて、なかなかサイキックを発動できないでいるのに、敵は容赦なくサイキックを連射してくる。
追い詰められてゆくカザオリたち。
「いくぞシュラ」
敵が、EXバースト発動のモーションに入った。
「みんなボクの下へ集まって」
ハルアキラの叫びに呼応するかのように、皆が彼女のもとに集まるのと、EXバーストが発動されるのは同時だった。
眩い光と爆炎が辺りを包む。そして煙が晴れると、無傷のままの8人が姿を現した。
ハルアキラが槍を大地に立てて結界を張ったのだ。顔を歪めたラセツとシュラが攻撃を加えるがびくともしない。
しかたなく2人は距離を取ると、事の成り行きを見守り始めた。
「なんだ、この技。スゲーな」
「天叢雲の欠片を手に入れたら、使えるようになったんだ」
「なに? ということは我々も使えるということか」
「たぶん、一人一人独自の能力だと思うぜ」
ブライが自信ありげに言った。
「ひょっとして君も」
「ああ、オレの場合、天叢雲の欠片を手に入れてから、第六感っていうのかな、スパイ〇ーセンスみたいなものが身についた気がするな」
「気がするだろ」
「そうなんだが、あの時確かに分かったんだよ、カザオリがルシファー・サタンと戦ってるってのがさ」
「確かに、他の人たちよりも圧倒的に早く駆けつけてくれたもんな」
「だとすると、ワタシに備わった能力は何なのだ」
確かにそうだ。待ちに待った特殊能力である。
だが、実感がなかった。
―――W.G。俺の特殊能力はなんだ。何の能力を身につけたんだ?
<<不明。特に変わったところはない>>
―――なん・・・だと?
不吉な予感。脳裏に浮かんだのは、プログラムがバッティングして発動しないってことだ
現在カザオリは、W.GというイレギュラーなサポートAIを己の一部としている。そのイレギュラーさゆえに不具合を起こしているのでは? と考えた。
<<否定する。同じエホバが作ったものである以上、彼らがそんなミスを犯す確率は極めて低い。確率で言うならば99.999999・・・・・%ない>>
―――100%じゃないのかよ
<<この世に100%などありはしない>>
その僅かな確率が・・・
そう考えていたところで、ゴウリュウが声を上げた。
「見ろ、オロチ野郎が目覚めそうだぜ」
城内に横たわる、オロチの胴体にエネルギーが集まり始めていた。嵐が吹き始める。状況は悪くなる一方だ。目覚める前に何とかしなければ。
「どうするよ」
「どうするって、行くしかないじゃないか」
「そうだ、このまま結界の中に籠っていてもゲームオーバーだ」
「そうだな。ハルアキラ、頼めるか」
「いいんだね。それじゃあ、結界を消すよ」
結界が解除される、8人は4人ずつに別れてそれぞれ敵に猛攻を仕掛けようとした。矢先だった
「サイキックウェーブ!!」
ラセツがハルアキラへ向かって右手をかざす。
すると、ハルアキラは見えない力に捕まれ、そのまま宙に引きずり上げられた。苦悶のうめきを上げるハルアキラ。他の7人はいきなり何が起こったのかと躊躇した。
「まずは邪魔者から始末してやる」
舌なめずりするラセツ。シュラがニヤニヤと笑った。
<<いけない。カザオリ、アナザーバースト発動後、ラセツを攻撃。ハルアキラが殺られる>>
ラセツとシュラが、今まさに、ハルアキラへ攻撃を加えようとしていた。
「南無三」
カザオリはアナザーバーストを発動すると、ラセツへ向かって距離を詰めた。攻撃を加えて、サイキックウェーブを止めさせなければならない。
<<カザオリ、左へ跳べ>>
カザオリが跳んだ刹那、その空いた空間に毒蛇のような鞭のしなりが加えられた。驚嘆するカザオリ。鞭の先には、シュラがいた。
「何驚いてんだい、別にあんたの専売特許ってわけでもないだろう」
鞭がしなる。同時に、三方向から攻撃が飛んできた。
二つまでは捌くことが出来たが、最後の一つが蛇のようにうねり、剣に絡みつく。シュラがニヤリと笑う。
<<手を放せカザオリ>>
剣が爆発するのと、カザオリが手を離すのはほぼ同時だった。
<<シュラは鞭で触れたものを爆弾にすることが出来るようだ>>
ここでアナザーバーストの有効時間がきれた。
届かなかった。しかしここなら射程距離だ。カザオリはラセツへ向けてEXバースト:征嵐刃裏乾(GalaxyCyclone)を放つ。
乱数乱舞するかまいたちが無数に巻き起こり、一定のエリア内にいる敵にダメージを与える。
結果、サイキックウェーブの効果がきれて、ハルアキラは解放された。大地にたたきつけられて、思わずお尻をさするハルアキラ。
「気をつけろ、こいつらも変な力を持ってるぞ」
その特徴を説明しようとした矢先、
「ボーッとしてんじゃないよ」
鞭がしなり、稲妻のごとき烈撃がカザオリを襲う。
仕方なく戦闘に集中する。
からくもやりすごして、コマンドリングをいじって、サイキックを変えようとした刹那、体の自由を奪われた。
「サイキックウェーブ」
万力のような力がカザオリを抑えつける。
左手の薬指でクリック動作をしようとするが動かない。
「まずはテメエから始末してやるよ」
カザオリを助けようとする、味方の援護攻撃をシュラがことごとく捌いてゆく。
強大な力がカザオリを締め上げる。抵抵抗しようにも手足をバタつかせることすら出来ない。カザオリの体が宙に浮いてゆく。
「くそっ」
悪態が口からこぼれるが、それでどうなるものでもない。
―――ざっけんな。負けるか、負けてたまるか
上空高くに掲げ上げられるカザオリ。
「シュラ、サイキックザンだ」
「OK」
シュラの鞭がピンと伸びて、1本の長剣になった。刀身が闇のように黒く変色し、鮮血のように鮮やかな赤が闇の隙間から鼓動する。
シュラが跳んだ。剣を振り上げてカザオリに襲いかかる。
「サァイキック・・・」
―――ふざけんな!!
カザオリの強烈な意思がW.Gと共鳴した。
彼の体内から青白い光が放射される。その強烈な光はラセツとシュラを吹き飛ばした。
事の成り行きに戸惑う人々。
彼らの体も発光し始めた。
今、天叢雲が一つになろうとしている。
互いに共鳴する戦士たち。
プラスとマイナスは引き合う定めなのか。
城内で力をチャージしていた、オロチの尻尾が天高く、垂直に直立した。その尻尾に亀裂が走る。それはみるみる、真っ赤な目と大きく裂けた口へと変貌してゆく。
八岐大蛇の本体が復活したのだ。
それを見て狂喜するラセツ、シュラ。
一触即発。
が、復活したばかりのオロチは、まだ本調子ではなかった。
英気を養う必要がある。そう考えると、ありったけの力を放出した。
「妖魔界へ引きずり込んでやる。」
歪む世界。カザオリ達はOROCHIの邪気に包まれた。
そして天が割れ、帝都城にいるものすべてを飲み込む。
天の亀裂に吸い込まれ、異世界へと飛ばされる戦士たち。オロチ自身も邪悪な高笑いをあげながら、自ら亀裂の中へと飛び込む。
後には、静寂だけが残った。
そして静寂が訪れた。
妖魔界ZIPANG編へ続く