010 第二のアイテム
今後どうするのか、地図を見ながら確認しよう。
というわけで、作戦会議をするために5人は紀伊国屋書店へと移動していた。
地図売り場
『清水』っていうとどこだ?
「水だろ、新宿にそんなとこあったっけ?」
「何言っんだ、水商売の性地だろ」
「お前そればっかだな。御苑の池とかどうよ?」
「例のプール一緒に行ったやつに言われたかねーっての。
!
おいおい、まさか水って」
「「「それは、ない」」」
全員に突っ込まれたじろぐアルレス。
それにしても、
霊峰の奥にひっそりと存在する銀霊湖・・・霊場にある湖。
『麹酵母』を手に入れた時のことを思い出す。
旅の茶屋が駅だったわけだから・・・
地図を眺め、映画の場面を思い出しながら、何とかそれっぽいところを搾りだそうとする。が、思い当たらなかった。
「新宿中央公園って、昔、貯水場だったって聞いたことあるけど。」
パラパラと地図をめくっていたオリヅルかぽつりと言った。
皆の顔が輝いた。
「それだ」
「ありそう。なんか湖っぽいよな<貯水場」
例のプールに反応しなかった、恥ずかしがらなかったオリヅルに多少がっかりしながらアルレスは相槌をうった。
「一番可能性ありそうだな」
ジュピテルが顎をさすりながらうなずく。
―――そうだW.G。君ならどこにあるか知ってるんだろ。
『回答不可。残念ながらそのデータを与えられていない』
―――使えねーな
『一つずつ実際に確認して行くしか方法はない』
――― ・・・
「これ以上は堂々巡りになりそうだし、とりあえず一番可能性の高そうな中央公園から攻めてみません?」
カザオリの言葉に皆同意を示し、次なる『聖米』のありそうな場所を探し始めた。
『聖米』
映画の中では魑魅魍魎の魔境、その中にある聖なる霊場で『聖米』をゲットしていた。
「魔境っていえばやっぱり歌舞伎町だよな」
ジュピテルの言葉に、聖は性に通ず・・・と喉まで出かかった言葉を何とか飲み込むアルレス。
「でも、それっぽいの見当たらなかったと思うんだけど」
ルシファー・サタンとの戦闘を思い出しながらカザオリが言った。
「歌舞伎町全体を歩いたわけじゃないんだろ?」
ジュピテルの言葉に頷く。
「他に候補地って言っても、思いつかないよな」
「せっかく近場なんだし、行ってみようぜ。地図とにらめっこも飽きちまったよ」
息詰まり感を感じていた5人は、まずは歌舞伎町を捜索してみることにした。案外、楽勝で全部揃えられるかもしれないぞ。そんな期待に胸を膨らませて・・・
が、どこを探してもそれっぽいものが見当たらなかった。
時々思い出したように発生するエネミー達を倒しながら、歌舞伎町の隅々まで探してみたのだが、それっぽいものに出くわさなかった。
「ここだと思うんだけどな」
ついに花園神社の境内で立ち往生する5人。
「魔境の中にある霊場って条件にピッタリだよな」
「ひょっとしてアイテムを取るためのアイテムが必要なんじゃない?」
「麹酵母の時は、駅員にクレって言うだけだったし」
「社務所で聞いても怪訝な顔されちゃったしね」
「リーダー何とかしてくれよ」
「無茶言うな」
気まずい沈黙。徒労感が更に気分を落ち込ませる。
「気分転換に新宿中央公園の方、行ってみない」
オリヅルがわざと明るく言った。
「そうしよう。新しい発見ていうか、気分変えたら何か思いつくかもしれないし」
『聖米』探しは、いったん保留になった。
◇■◇■
地下街へ入り、そこから西口へと移動するカザオリたち。
あれからどれくらいの時間が立ったのだろうか?
電脳世界に閉じ込められたという不安感による、異様な高揚とストレスに人々のテンションがおかしな事になってきていた。
西口に出て中央通りへ向かおうとしたところで、JRの駅構内の中が騒がしいことに気づく。見ると、何人ものプレイヤー達がPK合戦をしていた。 ゲームの続きでもしているつもりなのだろうか。
一種、狂気を孕んだ異様な熱気にたじろぐ5人。そんな現実逃避した人々を遠巻きに眺めなつつ、足早に新宿中央公園を目指した。
都庁を越えたあたりで、公園の右側、芝生のあたりに卵雲が出来上がっているのが見えた。大きさ自体は、まだ小さかった。が、新宿御苑にあるものと同質であることは間違いなかった。
「時間がたてばたつほど状況が悪化してるね」
なんだかバーチャル世界が只ならぬことになっている気配を5人は肌で感じた。
「オロチウィルスが侵食してるってやつ?」
「怖いな。急ごう」
まずは何かありそうな気がする、というか雰囲気がプンプンに漂う中央通りを終わりまで歩いた突き当りにある水の広場を探してみる。が、空振りだった。
新宿ナイアガラの滝周辺を重点的に調べてみたのだが、それっぽいものがまったく見つからなかった。
「ホントにアイテムなんてあんのかな」
「『麹酵母』は実際あったわけだし」
早口でまくし立てるカザオリ。
「映画がヒントってのが間違っていたのかも、的な?」
ここまで何も見つからないと、本当にそんな気がしてくる。
不気味に胎動する卵雲の存在も気になった。
「リーダー、あれ」
アルレスが水の広場の中央付近を指さす。見ると、空間が歪みだしていた。みるみる赤黒い鱗状の亀裂が走る。
「団体様、いらっしゃいませ、いらっしゃいませー」
ハートゥーが武器を構えながら、おどけた調子で言った。
他の人々も武器を構える。そしてイーブル・デビルを蹴散らすために空間が歪んでいる敵出現ポイントへと殺到した。
しかし、出現したのはイービル・アモンだった。しかも3体。
「いきなり中ボス3体出現とか。難易度上がりすぎだろ」
問答無用の戦闘開始。
敵のイービル・アモン、"ザーシン""サイケジー""ハヨロヒ"は統率が取れておらず、それぞれが思い思いに攻撃を仕掛けてきた。結果、同時に襲い掛かってきたり、時間差で攻撃してきたり。間が読めず、苦戦する5人。が、W.Gの助言をみんなに伝えて戦っているうちに、何となく連携らしきものが取れてきて、遂にイービル・アモンを1体撃破することに成功した。
「やった!」
「カザオリって軍師だな」
サポートAIのおかげです。内心そう思いながら、カザオリは笑ってお茶を濁した。
と、本来ならば粒子となって消滅するはずのイービル・アモンが高密度収縮し、点になった後で一気に弾けた。そしてそれは、10mは在ろうかという巨大な怪物へと変貌してゆく。イービル・アモンの死骸を媒介としてデーモン・サタンが誕生したのだ。
デーモン・サタンが尻尾を振った。
勢いの乗った強烈な横薙ぎの一閃が、問答無用で5人を弾き飛ばす。
盛大に吹っ飛ばされる5人。そのせいで、5人はちりじりになってしまった。
吹っ飛ばされたカザオリは、公園を飛び越えビルに激突した。
壁にバウンドし道路へ落下してゆく。物凄いスピードで眼前に迫るアスファルト。すくみ上る心臓。彼は、なすすべもなく大地に激突した。
それから数十秒後、恐る恐る目を開けてみる。体はなんともなかった。負傷の後を探していてふと我に返る。ここがバーチャル空間だったことに。
「たすかった」
大きくため息をつきながら安堵するカザオリ。
視覚の生々しさにいまでも心臓がドキドキしていた・・・ん?
・・・バーチャルな体に心臓なんかないだろ?
「心臓なんか無いのになんで心臓がバクバクいってんだ?」
<<肉体的生理現象と連動した脳の誤作動とでも思っておけばいい>>
うん、訳わからん。
「どういうこった?」
<<意識がここにあったとしても、ポッドに入っている生身の体、その心臓は今この瞬間も鼓動している。互いに影響し合っていると考えるべきだ>>
大地をつんざくような怪獣の咆哮が辺りに轟いた。
見上げると、先のデーモン・サタンが雄叫びを上げながら、こっちとは反対方向にあるフットサル場へ向けてノッシノッシと移動しているのが見えた。あそこに誰かがいる。そう思った時には既に走り出していた。まずは仲間たちと合流しなくては。
十二社通りを駆け上がるカザオリ。熊野神社の横を通り過ぎようとしたところで、境内から響いてくる戦闘音を耳にした。
誰かが戦っている。
急いで神社の境内に入ると、オリヅルがサイケジーと闘っている最中だった。
子供くらいの大きさしかないイービル・アモン:サイケジーは身のこなしも素早く、上下左右前後と八方からすさまじい攻撃をしかける。オリヅルは軽やかに体を舞わせてその猛攻をいなしながら、隙あらば反撃を加えていた。一進一退の攻防。が、均衡は突然破られた。サイケジーの出っ張った幅広のおでこが突然まばゆい光を放ったのだ。視界をやられ、よろめくオリヅル。
サイケジーはカラカラと体を揺すって、相手を嘲笑するような音をたてるとオリヅルに飛びかかった。
EXバースト:ギャラクシーサイクロン
今まさに、オリヅルに襲い掛かっているサイケジーを無数のかまいたちが包み切り裂く。敵が大地に転がっている隙に、オリヅルは態勢を立て直し武器を構えた。
「オリヅル、大丈夫かい」
駆け寄るカザオリ。
「ええ、ありがとう。たすかったわ」
サイケジーは呻りを上げながら立ち上がった。獰猛な叫び声を上げながら、硫酸の水弾を放つ。
<<ギャラクシーサイクロン発動。水弾を無散せよ>>
カザオリがEXバーストを発動しようとした刹那、あたりに冷気が立ち込め水弾が凍り付いた。紫電一閃、オリヅルは剣を一閃させると凍り付いた水弾を弾き飛ばし、その勢いのまま敵に切りかかった。たちまち十数手斬り合う。
隙を見て、カザオリも戦列に加わった。2対1の攻防。戦況は一気にこちらに有利になり、そして撃破した。
撃破されたサイケジーは光の粒子となり、空中を舞いデーモン・サタンに吸収される。デーモン・サタンが更に巨大化した。
呆気にとられる2人。
「とにかくみんなと合流しよう。誰かがあのデカ物と戦ってるはずだ」
走り出そうとしたカザオリをオリズルが呼び止めた。
「ねえ、これ見て」
石碑を指さしながらオリズルが言った。
そこには『龍神池碑』と書かれていた。
「龍神池?」
横に建てられた看板を読むと、どうやらここには昔、龍神池と呼ばれた大きな湖があったようだ。
目を見合わせる2人。互いのその瞳は、絶対にここに何かある。と言っていた。
「ここって、大昔は湖だったのね」
「ああ」
そう言いながら、何げなく石碑に触れたとたん、景色が一変した。
見渡す限りの水面。
そこは湖の真ん中の離れ小島だった。見渡す限り水面で、彼方に柳の影が揺れていた。目の前には小さな祠が立っている。
遅れて現れたオリヅルも、その景色に感嘆の声を上げた。
「これが龍神池ってわけ」
「だろうね」
これ見よがしに立っている目の前の祠。
「開けるよ」
オリズルが頷くのを確認してから、カザオリは祠の扉を開けた。
そこには水で出来た珠が浮いていた。
しゃぼんの渦のように珠の表面に水流の渦が渦巻いている。
そっと触れると、アイテム欄に『清水』が加わった。カザオリは、見事に第二のアイテムを手に入れることに成功した。
「やった!」
カザオリの喜色満面の笑みにオリヅルの顔もほころんだ。
カザオリに促されてオリヅルも水珠に触れてみると、彼女も『清水』をゲットすることが出来た。どうやら早い者勝ち、というわけでもなさそうだ。