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ネオロエンサー  作者: 羇流遼
序章
1/17

000 プロローグ

「衛藤、まだか」

「もう少し」

 モニタのステータスバーは2/3を超えたところだった。どうやら、どこかのネットワーク上に何かのプログラムをアップロードしているらしい。


「ヤバす、OROCHIに感ずかれまスた」

 奥の方、6枚のモニタに囲まれたデスクに座って、忙しそうにキーボードを叩いていた彫井がさけんだ。


「うそだろ!」

 馬場が慌てて駆け寄る。

「馬場氏、スイッチするから手伝ってくれめんす」

「OK カウント3でいくぞ」

 自分のPCデスクに滑り込むと馬場が叫んだ。

「スリー、ツー、ワン!」

 危険を示すアラート表示が消えた。

 ホッと胸を撫でおろす2人。


「OROCHI野郎、ウィルスでも喰らえやゴルァ」

 彫井は目をランランとかがやかせながら再びキーボードを叩き始めた。  

が、その手がふと止まった。

「まずいぞゥ。3分後にギーグルバンファイのエージェント達が乗り込んでくる系?」


 馬場が舌打ちするのと衛藤がアップロード完了を告げるのはほぼ同時だった。


「よし、とっととずらかろう」

「まってくれ、アップロードの痕跡を消さなきゃ」

「PCごとぶっ壊しちまえ」

「まてまて、メモリー破壊したくらいじゃ復元されちまう。相手は超AIのOROCHIだぞ。しかもギーグルバンファイは世界中から優秀なエンジニアを集めてるんだ。ちゃんと自滅プログラムを作動させよう」

「とりあえず馬場氏は、証拠隠滅風に偽装工作してくれる」

 馬場がそこら辺の書類を山積みにして火をつけている間に、衛藤と彫井は室内に8器置かれている物理サーバー内のデータを破壊し、それにガソリンをぶっかけた。


「やばみい、来る!」

「みんな掴まれ」

 彫井と馬場が衛藤に掴まった。

 そして、馬場が物理サーバーに火を放った瞬間、3人の姿はその場から掻き消えた。まるで霧か霞のように。


 ワンテンポ遅れて完全武装した一団が部屋に乗り込んできた。


◇■◇■


「おうおう、やっとるやっとる。消火活動ご苦労さん」

3人は今までいた老朽ビルの向かいにあるビルの屋上にいた。


「ちょっと偽装工作やりすぎたかな」

「いいさ、『スピリットオブエホバ』の存在さえ気づかれなきゃね」

「大事なデータはもう移してあるしい。せいぜいあるはずのないデータを探してくだすぃ」

忙しく動き回る武装団の様子を見ていると自然と笑みがこぼれる。3人は出し抜いてやった爽快感にひたった。


「それにしても彫井よお」

「馬場氏、どうしたんだい」

「いくら予知能力ったって3分後は余裕なさすぎんだろ。せめて15分後とか予知出来ないかね」

「お前さんの念動力が100m先の物体まで動かせるようになったら、出来るようになるかもね」

「ざっけんな」

「有効範囲3mとか微妙に不便だもんな」

「おっと衛藤選手も参戦か?」

「お、やるか」

 馬場がシャドーボクシングしながら言った。

「俺、命の恩人よ」

「「それはそれ、これはこれ」」

「ハモルんじゃねえよ」

 3人は心の底から笑った。張りつめていた糸が切れて、気が緩んだからだ。


突然、彫井が真顔になる。

「あ、見つかった。3分後に何人かここに来るからシクヨロ」

「俺ら、ちょっと緊張感なさすぎるな」

「超能力身につけた弊害かもね」

 3人は三者三様の方法で反省した。


「さっさと次のアジトへ行こう」

「賛成!」 

衛藤が先程までいた部屋に目をやると、武装した男たちが数人、こちらを見ながらどこかと通信しているところだった。


―――願わくば、心正しき者の手に渡らんことを願う。

 心の中でそうつぶやく。


3人は念のために武装集団の視界が届かない場所まで移動すると、そのままテレポーテーションして消えた。



◇■◇■



 その日はどんよりとした曇りだった。空を覆う厚い雲が気分まで重苦しくさせた。


とある多国籍企業の軍事研究所では、所長のウォイス=クオンリーが大きな声を上げていた。

「なに!? 3人の確保に失敗しただと!」

「なにぶん、地の利は奴らの方にあるもので」

「言い訳はいい!! それで、『リインシャーラ』の奪取は?」

 その剣幕に気圧されながらも、実行部隊隊長は報告を続ける。


 それは、いつも通りの、いやどちらかと言えばとてもイージーなミッションのはずだった。戦闘訓練も受けていない、武器の扱い方も知らない民間人、運動不足プログラマーを3人拉致するだけの。


―――なぜ気づかれた?


実行部隊が突入した時には、既に3人は脱出した後で、しかも慌てて証拠隠滅しようとした痕跡まであった。


―――なぜだ?


 同業者相手にすら後れを取ったことはなかったというのに・・・


「『リインシャーラ』をプログラムするためのデータはあったのか?」

「消火活動は終了し、現在は解析班が瓦礫を調査中であります」

それから2~3やり取りをした後、通信は終了した。


 ウォイスは大きなため息をつきながら、指で目頭を揉む。そして独り言のようにつぶやいた。

「まさかZERO-α部隊が失敗するとはな」

「これは真実味を帯びてきましたな、例の話」

 それまで影のようにウォイスの傍に控えていた男が口を開いた。

「『リインシャーラ』が人を超能力者へと覚醒させるプログラムだというあれか」

「はい、奴らはすでに超能力者へと覚醒しているものと思われます。そうでなければ、ただの民間人がZERO-α部隊から逃げおおせるなどあり得ない話です。」

「超能力・・・人智を超えた超常の力。にわかには信じがたいな」

 一呼吸おいて傍らに立つ男が話を紡ぐ。

「これはあくまでも噂なのですが」

「いやに勿体ぶるな」

 ウォイスは話の続きを促した。

「なんでも上層部は、今度のイラン侵攻の際にサイキックソルジャーを投入して、各国にデモンストレーションをする予定なのだそうです」

「なるほど。それで、あれだけせっついてくるわけか」

 思い当たる節があるのか、ウォイスは一人うなずいた。


「どうしますか、彼らが『リインシャーラ』をプログラミングしてしまうきっかけとなった、彼らの開発したゲーム。たしか『TOKYOラビリンス』でしたか、データの欠片を集めさせ、再構築させるためにOROCHIを投入しますか」

 一瞬の間

「まずは解析班からの報告を待つ。それで再構築出来るのならばそれでよし。投入はそれからでも遅くはあるまい」


 超AI:OROCHI

宇宙に浮かぶ無数の人工衛星、その中の一つが量子コンピューターを搭載した超AI:OROCHIの本体だ。これのおかげで多国籍企業ギーグルバンファイは地球上第一位の企業になり、今では国同士のパワーバランスまでも操るようになっていた。


―――頼りすぎている。

 AIなどただの道具に過ぎない。便利に利用すれば良い。それは理解しているのだが・・・


 ウォイスは、言葉にできない薄ら寒いものを感じた。




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