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白金記序章・黎明編  作者: 富士見永人
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「月世。あなた」

 剣持に腕を切り落とされ、隙だらけになっていたヒヅル。

 だが、間一髪乱入した月世がヒヅルを抱え、小柄な体躯からは想像もつかぬ脚力で横に飛び、難を逃れた。

「危なっかしいわね。あなたらしくないわ。ヒヅル」

 ヒヅルはすぐに、月世の〈異変〉に気がついた。

 難を逃れたのは、ヒヅルひとりだけ。

 ヒヅルを抱えて飛んだ月世の左脇腹から右脇腹にかけて、まるで猛獣か何かに食い破られたかのように大きく裂け、赤黒い血と臓物が、びちゃびちゃと溢れ落ち、純白のヒヅルの髪や肌を、グロテスクな土留色(どどめいろ)で染めあげた。

「だめ、だった。逃げ、て」

 口から勢いよく血を噴き出し、まるで糸の切れた操り人形のごとく月世は突然脱力し、地面に崩れ落ち、そのまま動くことはなかった。

「ごめんなさい」

 ヒヅルはなかば悲鳴ともいえる声で叫ぶと、高神に背を向け、全力で駈けだした。

 数秒前に浴びせられた月世の血肉から、まだほのかに彼女の温もりが、感じられた。

 鉄火場には慣れていたはずだったのに、頭がどうにかなってしまいそうだった。

 眼の奥が熱い。

 溢れ出る涙が、視界を歪める。

 まったく麗那の言う通りだ、と、ヒヅルは先程安易に挑発に乗り、怒りで我を忘れた己の未熟を呪った。

 初めから冷静に戦況を分析し、撤退していたなら、右腕を失わずに済んだし、月世が死ぬこともなかったのだ。

 せめて旭と月世が命を賭して守ってくれたこの命を使って、ヘリオスに追いつめられているであろう仲間をひとりでも多く救う。今のヒヅルの頭にあるのは、それだけだった。そして無我夢中で、走り続けた。

 生き残った仲間たちと、合流しなければ。

 自分と旭を除いた人工全能たちが、ヘリオスの部隊と正面からぶつかって勝てるわけはない。第二世代の人工全能は身体能力こそ勝っているが、戦場での経験がまるでない。そんな彼らが、第三世代の子供たちを守りながら戦えるはずがなかった。

 左腕の袖を強引に引きちぎり、右上腕に巻きつけて即席の止血措置を行う。

 大丈夫。かなり失血したが、致命傷ではない。

 私の命は、もはや私だけのものではない。

 私を助けるために死んでいった旭や月世に報いるためにも、私は生き残り、仲間を救い出さなければならない!

 どんな手を、使ってでも。

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