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母上、詰んでる。

 父上に倣って、軽く体の動かし方を兄弟(ネヴィル)と一緒に覚えた。毎日の日課とするように言われて、二人で大きく頷く。


 汗を拭って簡単に身なりを整えればもう昼食の時間だった。

 兄弟と別れて父上と一緒に昼食を摂っていると、母上がそろりと食堂にやってきた。


「おはようございます、母上」

「おはよう、愛し子」


 金糸の髪をふわりと靡かせながら母上は俺に微笑んで、着席……しようとしたのを、父上が母上の腰をさらって自分の膝の上に乗せてしまった。

 横抱きにされるようにして父上の膝に乗った母上は一瞬何が起きたのか分からないと言うようにきょとんとした後、顔を真っ赤にして父上を上目遣いに見やる。


「エルバート様……っ」

「エレ、体は大丈夫かい? いつ気分が悪くなっても良いように、食事の間は僕が支えておいてあげる」

「結構です……! アルもいるのですから降ろしてくださいませ……!」

「駄目だ」


 ぎゅうっと母上を抱き締めて、その首筋に口づける父上。


 俺は白けた目を向けてから、黙々と自分の食事に集中する。

 夫婦仲が良すぎて問題になることもほとんど無いしね。放っておこう。


 俺が小さい手口を動かしてせっせと昼食を食べてる間も、両親は(特に父上が)イチャイチャイチャイチャしながら昼食の時間を過ごす。


 黙々と昼食を完食した俺は、食事一つ、落ち着いて食べられない母上に向けて合掌した。

 御馳走様です。


「あ、アルっ、あなた後で私の部屋にいらっしゃい! 昨日の事でもう少し詳しく話したいの……っ」

「エレ? 僕以外の男を部屋に連れ込むつもり?」

「エルバート様、落ち着いてっ。アルは私達の息子ですっ」


 あたふたする母上と、母上の体に手を這わせている父上。父上のあからさまな嫉妬がまさか俺の方に向いて、顔がひきつる。


 前々から思ってたけど、父上立派なヤンデレ患ってんじゃねぇか!

 母上、ルート回避できているようでできてないな!?


「確かにアルフォンスは僕達の息子だけど、男だろう? しかも見た目や体は差し置いて、中身は大人のようだ。そんなアルフォンスがいつ君に欲情するか……」

「父上、お言葉ですけど、さすがの僕も母上に欲情なんてしません。そもそも三歳児に何牽制してくるんですか」

「君は普通の三歳児とは違うんだろう?」

「そうですけど」


 ヤバい、母上の事に関して父上には全く話が通じない。むしろ余計な情報を得たせいか悪化している気がする。

 かといって母上とは早い内に話し合っておきたいし……。


「エレ、話ならここですれば良いだろう?」

「そう、ですけど……でも、やっぱりアルと二人だけで話したくて……」

「駄目。僕に隠し事は許さないよ」


 困り顔の母上。

 だけどまぁ、父上には洗いざらい吐いてあるんだし、気にしなくてもいいとは思うけど……。


「母上、父上には僕の知っていることは粗方話しました。なので内緒にすることはほとんど無いですよ」

「そうなの?」

「そうです」

「でも……」


 それでも食い下がろうとする母上。何を言いたいのか分からずに首を傾げていると、父上がくいっと母上の顎に指をかけて上向かせた。


「エレ、君が憂いているのは何だい? 僕には話せないこと?」

「そ、それは……」

「僕に秘密は無しって昨日約束しただろう?」

「エルバート様……っ」


 恥ずかしそうに視線を忙しなくうろつかせる母上。

 父上はそんな母上を黙らせるように熱烈なキスをかました。


 甘い……なんだこの桃色空間……口の中がジャリジャリする気がする……胸焼けしそう……。


 前世の両親のイチャイチャなんて見れたものじゃなかったけど、目の前で繰り広げられてるのは両親兼推しのイチャイチャだ。どっちかというと、漫画とかアニメでラブシーンを見ている心境になっている。これ絶対に前世のノリで「スーエレンは俺の嫁!」とか言ったら俺が死ぬ奴だ……物理的に父上に排除されそう……。

 生ぬるい視線を向けて両親の甘ったるい攻防を見ていると、やがて母上が観念したのか頬を染めてくったりと父上の胸にもたれかかった。


「その……私、続編……アルフォンスの話について、全く知らなかったって言ったでしょう……? たぶん、続編が出たのは、前世の私が死んだ後で……私ではアルフォンスの力にはなれないので、私の代わりとなる味方を教えてあげようと……」

「味方って誰だい?」

「それは、その……私も、随分お世話になった方で……」

「妬けるね……誰がいったいエレの信頼を僕から奪ってしまったのかな」


 母上が話す間も、キスをしまくる父上。

 尋問だ。

 これは尋問だ。

 これ絶対昨日の夜とか、これ以上の事をされながら母上ゲロっちゃったんだろうなってのが想像に容易い。

 ……母上御愁傷様です。


「ふぁ……っ、その、こういうのは、繊細な事なので……っ、でもエルバート様もお世話になった方ですから……っ」

「教えて、エレ。教えてくれないと、またお仕置きをしようか」


 母上の耳を甘噛みしていた父上。お仕置きの言葉にさらに顔を真っ赤にした母上が、ぎゅうっと父上の胸にしがみつく。


「え、エルバート様……っ、お仕置きはヤ……っ」

「それなら教えて、僕の可愛い人」


 なんかもう見ててエスカレートしていきそう。

 俺、部屋に戻っていいかな? いいよね? その方が父上も母上も思う存分イチャコラできるよね? まぁ満足するのは父上だけだろうけど。


 おもむろに俺が席を立とうとした時、母上がようやく俺に紹介しようとしてくれた名前を教えてくれた。

 でもその名前が予想の斜め上をいくものだったので、俺は思わずチュッチュされてでろでろに溶けそうになってる母上をガン見してしまった。


「シンシアです……! 彼女なら、もしかしたら私の知らないことも知ってるかも」


 母上が味方だと挙げた名前は、まさかの前作ヒロインの名前だった。

 マジかよ、悪役令嬢だけじゃなくてヒロインも転生者かよ……。


 イチャイチャしまくる両親をガン見してしまった俺はそっと視線を外して少し考え込む。

 確かウェブ小説の乙女ゲーム転生って三パターンあったよな。ヒロイン転生か、悪役令嬢転生か、モブ転生か。

 それで、たいてい悪役令嬢転生とかモブ転生が主人公の話でヒロインが転生者の場合、十中八九ヒロインが電波女だって妹が言っていた気がする。

 うーん、この世界にいるヒロインもそういうクチなのか……?

 母上が転生悪役令嬢らしく華麗に死亡フラグを回避しているのなら、そういう可能性もありえるよな……。

 母上の実家は悪徳が過ぎて一族郎党処刑されるレベルの家だ。母上が処刑されずにここにいる理由の一つに、もしかしたらヒロインがろくでもなくて勝手に自滅していった可能性もなきにしもあらず……。

 いやでも、母上がお世話になったとか言っているくらいだからマトモな路線の方が可能性が高いのか?

 前作ヒロインの現状はどうなってるんだろう。

 色々と考えていたら、予想外の言葉が父上から飛び出した。


「皇妃が? いったい何時から……」

「私がエルバート様と結婚する一年前には既にシンシアも、記憶を取り戻していたと聞きました。私がその事を知ったのは、エルバート様と結婚した後です」

「……皇帝は、その事は」

「他言できるような話ではないので、おそらくは……」

「僕もあいつも、つくづく君たちに踊らせられていたということかい?」

「そ、そんなつもりじゃありません……! 全ては成り行きなのです! 私もシンシアも、未来があるとは思っていませんでした……!」


 焦ったように言い募る母上に、父上が少しだけ寂しそうな表情になる。


「君たちの手のひらで転がされていようと、今僕の腕の中にエレがいるのは事実だ。君が生きてくれて、僕と一緒に生きようとしてくれたのは間違いないんだから」

「エルバート様……」


 見つめ合う母上と父上。

 二人がどんな経緯で結ばれたのか知らないけど、それなりに困難だった事は分かる。


 それにしても、シンシア……前作ヒロインは今皇妃なのか。前作ヒロインがイガルシヴ皇国で皇妃になるルートは難易度が高くてすぐにバッドエンドになる激ムズルートだったはず。

 電波女がそんな綱渡りみたいなルートで完璧なハッピーエンドにおさまれるのか?

 母上とも仲が良さそうだし……やっぱ電波女ではないのかも?


 悶々と考えるけど、俺が生まれる前の事なんて想像もつかない。ゲームシナリオ通りならともかく、悪役令嬢な母上が攻略対象の父上と結婚してる時点で破綻してるわけだから、俺の知ってるシナリオはあてにはならない。


 とりあえず俺は、二人でくっついてイチャイチャしてる両親へと視線を向けた。

 父上はご機嫌で母上に悪戯を仕掛けているようだけれど、母上が俺に向かって助けを求めてくる。


「あ、アル、お父様を止めて……!」

「いやぁ、母上。ヤンデレが旦那とか詰んでる」

「ちょっ、アル!?」

「馬に蹴られたくないので僕はこれで……父上、ごゆっくり」

「ああ、夕食でまた」

「アルぅぅぅ!?」

「エレ、僕以外の男の名前を呼ばないで」


 俺は母上を見捨てて食堂を出た。

 息子に嫉妬するヤンデレを、三歳児の俺が止められるわけもないからな……母上、強く生きて。


 さーてと。

 午後イチで何しようかと食堂を出た俺は、控えていたメイドさん達に、まだしばらく食堂に入らないようにだけ伝えて自分の部屋へと戻ったのだった。






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