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きょうだい、鍛えよう!

 父上と二人、乙女ゲームのあれそれについてぽつぽつ話す朝食を終えると、父は早速有言実行と言わんばかりに俺を庭へと連れ出そうとした。


「剣を持つには早いから、まずは体作りから始めようか」

「はい、父上!」


 食後の運動をするから着替えておいでと言われて、俺は一旦部屋へと戻る。

 エッタに手伝って貰って動きやすい服になっている所に、ひょっこりと兄弟(ネヴィル)が顔を出してきた。


「どこかいくのか?」

「父上が鍛えてくれるって」

「きたえる?」


 興味を引かれたらしい兄弟が近寄ってきた。

 エッタがそれを見て渋面になる。


「こらネヴィル。ここはイガルシヴのお屋敷ではないのですから、わきまえなさい」

「え~。母さんのいじわる~」

「ネヴィル!」

「エッタ怒らないでよ。いいの、兄弟は俺の乳兄弟なんだし。普段通りにしていてもらえたら嬉しい」

「さっすがきょうだい~! わかってる!」


 兄弟が白い歯を見せて笑う。エッタはその顔を見て深々と溜め息をついていた。俺ら三歳児なんで、多少の事は多めに見てもらえるからいいんじゃない?


 エッタにさくっと着替えさせてもらって改めて兄弟を見ると、兄弟は唇をムニムニさせていた。この動きは何か言いたいけど言っても良いのか空気を読んでるときの、兄弟の癖だ。


「どうしたの兄弟? 何か言いたいことある?」

「えっと、だな~……その……」


 またムニムニする兄弟。小さい子がこうやってもじもじとしているのは、男女問わずにめちゃくちゃ可愛いと思うのは俺だけか? 俺だけか?? 大事なことだからもう一度言うぞ、俺だけか???


 言いにくいことなのか、中々話してくれない兄弟。さてどうしたものかと考えた俺は、おもむろにその場にしゃがみこんだ。

 つられたように、兄弟も一緒にその場にしゃがみこむ。

 顔を付き合わせるようにしゃがむと、俺はにやりと不敵な笑みを浮かべてやった。


「たけのこたけのこにょっきっき! いちにょき!」

「えぁっ!? ににょきっ!」


 ぴょこんっと合掌した手を天へと突き刺すように高く飛び跳ねながら立ち上がる。俺の合図で兄弟も同じようにぴょこんと立ち上がった。


「とつぜんやるのはズルい~!」

「負け惜しみは聞こえなーい。兄弟の負けは負けー。はい、内緒話カモーン!」


 まぁ確かにズルいんだけど。これほんとは二人じゃゲームにならないし。

 でもここは勢いだ! 兄弟から言葉を引き出すなら俺は何でもするぞ! ルールに関しての突っ込みはなかったしな!


 言えー、言えー、と耳に手を当てて待機していると、兄弟は観念したのか一瞬だけ視線を明後日の方向へやってから、俺の方へと戻す。


「きたえるって、きょうだいはやっぱ昔のだんなさまみたいに、騎士さまになるのか?」

「ん? ……ん~? たぶん?」


 父上に鍛えてもらう理由は別件だけど、でも、可能性としては高いかもしれない。

 家は継ぐけど官僚になるつもりはないし、芸術方面も俺にできるとは思ってないから、父上に鍛えてもらって十五歳になってから入学する予定の学園では騎士の真似事をするつもりだ。そうすれば卒業後の進路は自然と騎士団への入団になるだろう。


 イガルシヴ学園には四つの学科がある。

 騎士を目指すための騎士科。

 官僚、研究職を目指すための学問科。

 イガルシヴ皇国が誇る音楽を継承する音楽科。

 そして貴族令嬢のための淑女科。


 ゲームでのアルフォンスは父親の影響か騎士科に在籍していた。フラグを折りたいなら俺は騎士科を選ぶべきではないけど……まぁまだ先の話だし。今ここで父上に習ったからといって騎士になるかはやっぱり別問題だ。


 それをまだ三歳の兄弟に説明しても、内容が難しいので分かってもらえるかどうか……適当にお茶を濁しておく。


「いいなぁ。おれも騎士さまになりたい~」


 曖昧に笑っていると、兄弟がそんな事を言い出した。

 俺がきょとんと兄弟を見ていると、エッタが「こら」と軽く兄弟の頭を叩いた。叩くというより、ぽんぽんって感じだけど。

 エッタは兄弟を窘めるように言い聞かせる。


「坊っちゃまはお父君から直接教えを乞うのですよ。騎士を目指すのは遊びじゃないのだから、軽々しくそんな事を言わない。お前には追々子爵家を継いでもらわないといけないの」

「きょうだいだって、こうしゃく家つぐじゃん!」

「その侯爵家の当主様の方針なのです。よそはよそ、うちはうち」


 おお、リアルよそうち文句来たわ。

 俺が何も言わずに傍観していると、エッタの言葉に兄弟は納得しかねるのか拗ねたような顔になる。


「母さんのばか!」

「こら、坊っちゃまの前で汚い言葉を使わないの!」

「いいよエッタ」


 眦をつり上げたエッタを見て、兄弟が怯む。

 母は強いなぁと思いつつ、俺は兄弟の手を引いて歩きだした。


「坊っちゃま、どちらへ?」

「父上の所」

「ネヴィルは……」

「どうせなら一緒にやろうかなって。一人より二人の方がやりがいあるでしょ?」


 兄弟の手を引きながら歩きだす。笑いかければ、兄弟が白い歯を見せて笑った。


「さっすがきょうだい!」

「ふははー、兄弟はもっと僕を褒めるべき!」

「すごい! あたまいい!! きょうだいがきょうだいでよかった!」


 それに父上相手に鍛練するだけよりは、比較対象として同年代がいた方が燃えるし! 絶対そっちの方が断然楽しそうだろ!


 二人でわぁわぁ喋りながら部屋を出ようとすれば、エッタが溜め息を吐きながら後ろを着いてきてそっと部屋の扉の開閉をしてくれる。

 エッタは「旦那様の許可が出たら、よ」と兄弟に釘を刺してはいるものの、うきうきしている兄弟に無駄だと踏んでいるのかそれ以上は何も言わなかった。


 ごめん、エッタ。やんちゃなガキで。

 でも男の夢として、勇者とか騎士とか、そういうヒーローみたいなものに憧れてしまうのは理解できてしまうので、俺は兄弟の味方なのである。






 小さな歩幅で玄関までのちょっとした道のりを冒険して庭へと行けば、父上はグレーのシャツに黒のパンツというラフな格好をして既に待っていた。腰には父の愛剣がある。


「おや、ネヴィルもかい?」

「僕一人だけだと不安なので、兄弟も一緒にいい?」

「大丈夫だ。ただ、僕は厳しいからね。ネヴィル、覚悟しておいて」

「はい、だんなさま!」


 思った以上にあっさりと許可が下りてしまった。

 後ろにいるエッタを見れば苦虫を噛み潰したような顔になってる。

 俺の隣には一緒に鍛えてもらえると分かった兄弟が唇をムニムニさせている。あ、嬉しくて叫びたいんだな。


 父上は、兄弟が武器を持つことにあまり良い顔をしていないエッタに歩み寄る。何かを小声で話し合っているので、ムニムニしている兄弟を横目にしつつ、耳をそばたててみた。


「小さな内は体作りしかしない。体の基礎が出来ない内から剣を振らせると危ないし、変な癖も付きやすいからね。暫くは様子を見て、また数年後に改めてネヴィルには聞くつもりだ」

「しかし旦那様自らしなくとも……」

「僕らの天使のついでだよ。それにライバルがいた方が天使も張り合いが出るだろうしね」


 ナイスフォロー父上。

 しかしいい加減俺の名前をナチュラルに天使と呼ぶのはやめて頂きたい。


 父上はエッタの説得をしてくれたらしく、兄弟も今後一緒に鍛えて貰えることになった。二人して大喜びでさっそく父上の前に立って背筋をピンと伸ばす。

 エッタと話し終わった父上は笑いながら俺と兄弟の頭をぐしゃぐしゃにした。


「やる気があるのは良いことだね」

「ネヴィル、やるからには旦那様のお話を良く聞くのですよ」


 俺と兄弟は二人で顔を見合わせる。

 ムニムニと動いている兄弟の口。俺も体がうずきだす。


「「がんばります!」」


 大きく返事をすれば、父上はさっそく「今日の授業だ」と言って、体作りの基本を教えてくれた。





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