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母上、攻略対象なので光源氏計画始めてもいいですか?  作者: 采火
学園生活編

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32/40

ヒロイン、これが公式の力。

 夏の長期休みが入ってすぐのヒロインとの邂逅。

 これは間違いなく今後の俺にとっての重大な鍵になる。

 その鍵をうまく使うためにも、『騎士ドレ』に対する認識を全て共有した方がいい。

 そのためにはヒロインであるユリアを含め、シンシア様と是非話がしたい。

 だから母上にはヒロインの話をして、なんとか皇妃であるシンシア様に繋ぎをとってもらおうと思ったんだけど……この長期休み中、シンシア様は公務が詰まっていたようで話し合いの場を設けることができなかった。

 くっそー、できれば早めに話し合いができれば良かったんだけど。

 だけどシンシア様は国の人だから無理も言えない。


 と、いうことで。

 夏の長期休みは仕方なくそのまま普通に過ごした。

 そうふつーに。

 侯爵子息らしく、社交界やら家のことやら、学校じゃできないことを色々と。

 とは言っても、社交界なんて社交シーズンってことでどうしても行かなくてはならない夜会に顔を出すくらいだ。あんまり俺や母上って良い印象をもたれないから、普通の貴族のようにあれこれと社交界に出ることってそうそう無いけど。

 シンシア様……というか皇家主催の社交界には参加した。

 人目もあるから個人的な話はできなかったけれど、ヒロインであるユリアの紹介はできた。

 さりげなくではあったけど、シンシア様はばっちり俺の意図を組んでくれたようで、そのスカイブルーの目が爛々と輝いていた。

 だけどあいにく、社交シーズン中は公務がぎっしりのようで、母上との個人的なお茶会は難しいらしい。

 まぁ、すぐにどうにかしないといけないような緊急事態にはなっていないので、シンシア様との騎士ドレ会議は社交シーズンが終わるまで待つことに。

 その代わり、ユリアとは学園の長期休みが明けて寮に戻った後も、度々町に降りて情報交換してる。学園は当然王都にあるんだけれど、ユリアの子爵家も王都の外れに屋敷を持っているようで行動がしやすい。

 そういうわけで、長期休み明けは休日に寮を抜け出してはユリアと一緒に細々と話し合いというか、打ち合わせというか、まぁそんなことをしている。


 イガルシヴ学園での生活はそれほど楽しいものではないけれど、ユリアとこまめに会って話せるのは楽しい。騎士ドレの話を含めて、前世の話をできるのはやっぱり息抜きというか、ストレス解消になってる。

 ユリアは前世で社会人だったらしく、今世の年を含めたら俺とタメになるっぽい。しかもその前世ではヴァイオリニストだったらしくて、今世でもヴァイオリンが弾ける立ち位置に生まれ変わってるって話を聞いたとき、すごく嬉しそうだった。


 そんなこんなで、一応はシンシア様以外からの情報源をゲットできる術を手に入れた俺は、学園の休日を利用して足繁くユリアのもとへ通っているわけで。


「ふむ。なんだっけ。よく聞くやつだよね」

「ヴィヴァルディの四季、春です。私これ、好きなんすよ」

「ふぅん。良いチョイス」


 ユリアはだいたい家にいて、使用人のほぼいない家の手伝いをしているか、ヴァイオリンを弾いているか、本を読んでいるかの三択だ。

 今日も家を訪ねてみれば、ヴァイオリンを弾いていた。

 あんまり人と関わるのが得意じゃないようで、外出していることの方が珍しいらしい。初めて会った時も、滅多に外に出ない彼女が出先で倒れたと聞いて、フロドリップ子爵夫妻は青ざめてたな。

 そんなユリアの住むフロドリップ子爵邸は庶民よりは大きい程度の小さな一軒家。それでもユリアがのびのびとヴァイオリンを弾けるようにと誂えられた音楽ルームがあるのでさすが貴族って感じの家だ。

 そのフロドリップ邸の音楽ルームで、今日はユリアのヴァイオリン鑑賞をしている。


「そういえばアルさん。こんな曲も弾けますよ」

「なに?」


 にやにやと笑ったユリアがヴァイオリンを構えた。

 こうやってヴァイオリンを構えていたり、両親の前で貴族子女として振る舞っているときはいいんだけど……俺の前では謎のヲタ女子みたいなにんまり顔をしていることが多い気がするのは気のせいか? そのせいか、ヒロインの可愛さが半減して、残念女子にしか見えない時がある。

 ユリアは一拍、二拍、三拍と呼吸を数えると、なめらかにヴァイオリンの弓を滑らせた。

 最初は前奏が穏やかでよく分からなかったけど、だんだんと軽やかな音が響きはじめて、記憶の底からその音楽が結びつけるものが浮上してくる。

 ……うっそだろ、これ?? まじで?

 予め聞いてるから、ヒロインチートというよりは、ユリアの元になる人の力量だってことは分かる。

 分かるけど、まさか、という驚きのほうが強い。


「これ、騎士ドレのオープニング?」

「そ。『花束と』の方の」

「すごい。そんなことできたんだ」

「思い出したのはアルくんに会ってからですけど〜。でも久しぶりでも自分で楽譜起こしたからか、ちゃんと引けたんだよね〜」


 上機嫌でヴァイオリンを弾くユリア。

 今、自分で楽譜起こしたとか言った気がするけど、それこそチートみたいなことを前世からやってるのかこの人。さすが元ヴァイオリニストと言うべきか。

 懐かしいその曲に耳を傾けていると、音楽の切れ目で別の曲に変わったのに気づいた。

 それを聞いて思わす笑ってしまう。


「『ヴァイオリンと』?」

「せーかい〜」


 シリーズだから当然といえば当然なんだけど、オープニング楽曲を二曲とも弾けるのすごいな。

 とか思って感心していれば、今度は騎士ドレのエンディングまで弾き出すユリア。


「エンディングまで弾けるのか」

「全部いけますよ? オープニング、エンディング、それこそ挿入歌からBGMまでお茶の子さいさいでっせ?」


 ドヤ顔をするユリアは一度ヴァイオリンを弾く手を止めた。

 によによ笑うユリアは何か含みがあるようにも見えてちょっと不気味。

 何考えてるのか分からないけど、今の会話的になんだ? 褒められたい感じなの?

 確かにオープニング、エンディングどころか、挿入歌にBGMまで弾けるのはすごい。たまに動画投稿サイトとかでも「弾いてみた」とか「歌ってみた」みたいなのあったけど、ほとんどオープニングとかエンディングとかでBGMとかまではなかったな。作業曲メドレーですら騎士ドレ使用楽曲全部っていうのは無かったのに。

 というか記憶を掘り返すと、ストーリーに関係ないあれそれが簡単に蘇ってくる。あー、騎士ドレ作業用BGM集聞きながらの研究レポートは捗ったなぁ。


「すごいな。どれだけ騎士ドレ好きだったの。ベクトルの違うオタクですごいとしか感想が言えないけどさ」

「ベクトルの違うオタクかぁ。オタクなのは否定しないし、好きなのもあるけど……私が暗譜で弾けるのって仕事だったからなんだよね」


 ヴァイオリンを弾くのに満足したのか、ユリアがヴァイオリンをケースに仕舞い出す。

 俺は「ふうん」と聞き流そうとして……なんか聞き流しちゃいけないことを聞いたような?


「仕事だった?」

「あれ? 言ってなかった? 私の前職、ヴァイオリニスト」

「いや、それは聞いたけど。音楽家ってそんなほいほい暗譜できるの?」

「あ、そっか。これ言ってないか」

「だから何?」

「私、ヴァイオリニストだったんだけど、個人的なツテがあってさ。騎士ドレのゲームサウンドの収録に関わってたんだよ。ゲーム内サウンドのヴァイオリン担当は全部私ね」


 は?


「は?」


 思わずユリアをガン見。

 は?


「私そこまで有名なヴァイオリニストじゃなくてさ、コンサートとかだけじゃ食っていけなかったんだよね。それで別口で仕事もらうことあったんだけどさ。騎士ドレのシナリオライターと同級生だったんだよね。そのつながりでちょっと色々融通させてもらってた」


 さっぱりと説明してくれるユリア。

 寝耳に水な話にびっくり。

 つまり? つまりは?


「ユリアが死に芸シナリオライターの仲間だと……!?」

「ちょ、なんでアルくん私から距離取るん!?」

「いや、死に芸シナリオライターの仲間ってちょっと……ねぇ?」

「仲間って何! 確かに菜種ちゃんはメリバ大好きバッドエンド上等ハッピーエンドは地の果てでな子だったけどさ! 私は仕事もらっただけでこの死ネタの博物館ストーリーには関与してないからね!?」


 ちょっと裏切りのユリアから距離を取れば、ユリアは必死に弁明してくる。

 その必死さにほだされて……というよりは、その死亡フラグの綱渡りを一番沢山やらないといけないヒロイン事情のことを慮って、距離を取るのをやめてやる。

 でもそうか……ユリアの前世はクリエイター側だったのか。


「ん? というか死に芸ライターと仲良かった?」

「そこそこ。仕事もらえるくらいには? 中学の時はおんなじ女子グループの端っこにいさせてもらってた感じ」


 へぇ。それはそれは。

 謙虚なのか、陰キャなのか、ハイスペックなのかよく分からないユリアの前世だけど、ちょっと良い事が聞けた。


「それじゃあもしかして、制作秘話とか裏設定みたいなのを聞いたことも?」

「あ〜………うん、えーと、そういうのは、まぁ」

「その感じ、あるんだ?」

「……内緒だよ?」


 こてん、とユリアが小首を傾げる。

 さらりと黒髪が肩へと流れて、くりっとしたエメラルドの瞳が俺を真っ直ぐ見る。

 ……ちょっとドキッとするくらいに可愛く見えて、心臓に悪い。やはりヒロイン。故にヒロイン。なんというか、愛されフェロモンみたいなのでも出てんの?

 咳払いを一つして、ユリアに言葉の先を促すと、ユリアは天井の方へと視線を向けながら、思い出すように一つ一つを教えてくれる。


「制作秘話というか。シナリオカットされた話とか出さなかった設定はあるんだよね。本編の下敷きにはなるけど、ゲーム収録するには話の裾が広がりすぎて消されたやつ」


 なにそれ詳しく。

 ちょっとつついたつもりが、予想外の大物がひっかかったぞ?

 俺は無駄口を挟むのをやめて、ユリアの言葉に耳を傾ける。


「えと、アルくんはストーリー全部知ってるんだよね?」

「大筋は。細かいところは覚えてないけど」

「それなら全ルートに共通するラスボスって誰だと思う?」


 全ルートで共通するラスボス?

 悪役ではなく?


「ラスボス? 悪役じゃなくて?」

「うん、ラスボス」


 騎士ドレの悪役といえば、第一作の『花束と』は母上の実家であるクラドック侯爵家だし、第二作目の『ヴァイオリンと』はオーレリアのサルゼート伯爵家だ。

 だいたいはこの貴族が何某かにストーリーで一枚噛んでいる。


『ヴァイオリンと』の話だけで言えば、ユリアを囲い込もうとする悪役貴族としてサルゼート家が表立って出てくるんたけど。


 皇子ラスカールートはラスカーの婚約者としてオーレリアがいて、オーレリアを中心に最終的にはラスカーと敵対する。

 平民デニスルートはユリアの稀有な音楽の才能を囲い込もうとする貴族がいて、これで動いていたのがフランツ。つまりサルゼート伯爵家。

 貴族のフランツルートはその生家がサルゼート伯爵家だ。ユリアの囲い込みをしようとするのが出会いのきっかけになっていた。

 俺のアルフォンスルートはハッピーエンドの黒幕がサルゼート家だった。アルフォンスの孤立はユリアを囲い込みたかったサルゼート家の策略だったという内容。

 隠しキャラの教師ルスランルートもデニスと同じでユリアの囲い込みをするべくサルゼート家のフランツが動いていた。


 なんかよくよく考えてみると、フランツが不憫すぎるな。他攻略対象の当て馬ポジションみたいになってる。隠しキャラルスランじゃなくて、フランツであるべきでは? って感じの他ストーリーの関わり具合だ。

 まぁルスランは全ルート共通で、ユリアの担当教師としての相談役ポジションを持っているので、その強みからの隠しキャラ抜擢っほいけど。


 話がそれた。

 ラスボスだっけ。

 全ルート共通の悪役はサルゼート家だけど、ラスボスじゃないの?


「……基本的に悪役らしい悪役はサルゼート伯爵家だけど、サルゼート家とは違う?」

「うん。サルゼート家は表向き。言ったでしょ、消されたストーリーだって。実はサルゼート家の手綱を握ってたキャラがいたんだって。収拾つかなくなるから結局消したんだって話だけど」


 消されたんなら俺が知るはずもないけど、逆に言えばヒロインの行動に干渉できるような人物がいるはずだ。

 いるはずなんだけど……駄目だ、サルゼート家の存在が大きくて、それ以外だとパッとは出てこない。


「それってゲームに出てくるキャラ?」

「うん」

「ヴァイオリンとに?」

「あ〜……」


 ユリアの目が泳ぐ。


「出てないかも。裏設定みたいな感じだし」


 そんなの分かるわけないな。

 裏設定で公式アナウンスがないならファンに知る術なんてないし。


「お手上げ。誰?」

「名前でわかんない?」

「誰の?」

「ユリアの」


 ユリアが自分の顔を指差した。

 黒髪に緑の瞳。イガルシヴ人らしい顔立ち。ユリア・フロドリップ子爵令嬢。

 ユリア……。


 ゆりあ?


「…………………………そこかよ」

「気づいた?」


 顔が引きつるのが嫌でもわかる。

 俺とかラスカー王子くらいわかりやすいならともかく、そういう繋がり???


「両親がアレだし、シンシア様のこともあるから、すぐ気づくかと思った」

「気づくか!? 髪色違うし! ユリアの母方の話なんて記憶ないし!」

「母方の伯父らしいよ〜」


 ユリアは誰がとまでは言わなかった。

 でもわかる。

 というか、名前ってそことる!?


「ユリエル・マクベイン、ここで繋がるのか……」


 死に芸シナリオライター、二次創作以上の裏設定持ち込むんじゃねぇよ!



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