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土下座はどの世界でも偉大です。


 私は、つまらない人間である。


 小中高と平凡な日々を過ごし、大学生になって周りは色恋や遊びに夢中になる中、私は勉強一筋であった。

 冗談を真に受けるタイプ、と言えばわかるだろうか。

 20歳を越えて、酒を飲める年になって、友人に誘われた飲み会でも真面目ぶりを発揮して、場をシラけさせることも度々。

 一発芸を求められても、私は常日頃から持ち歩いていた参考書を手に、二宮金次郎の物真似しかできず、苦笑しか取れない程に、つまらない人間だ。

 そんな私も就職し、今の会社に勤め、社会の荒波に揉まれて、早20年。


 これは43歳になった私のつまらなくも、不思議な物語である――――。

 


「部長! 誠に申し訳ございませんでしたっ!」


 私の大声にオフィス内にいた人間が一斉にこちらに振り向いた。

 この光景は何度目だろうか。衆人環視の中、私はでっぷりと肥え太ったハゲジ――ではなく、部長の目の前で膝を折り、床の上に正座すると、そのまま頭を地面に擦り付けた。

 

 これは、『土下座』である。

 

 古くから伝わる、日本の伝統的とも呼ばれる謝罪方法。これこそが日本人の美徳を、ワビサビを体現した、日本人たる行い。

 用途こそ謝罪ではあるものの、日本人を表せ、と言われたら、土下座をするだけで全てを語れると言っても過言ではない。

 

 しかし、昨今の時代、この美しさを良しとしない風潮がある。事実、今現在、私の回りでは密やかな話し声と冷たい無数の視線が私に向けられている。

 

 ――――だが、それがどうしたというのだ。

 

 陰口も、冷ややかな視線も、土下座の前では等しく無力。

 あぁ、なぜそれが理解できないのか、そんな無意味な行動とは違い、土下座とは魔法にも劣らない、まさに奇跡だというのに。

 どれだけミスを犯そうが、どれだけ損失を出そうが、この土下座をするだけで全てが無に帰す。

 

「君ねぇ……これで何度目? 土下座すりゃ許されると思ってるでしょ?」

 

 まさしくその通りですが? ん? 今回は何かがおかしい……。

 

 大学卒業後、すぐにこの会社へと就職し、そこからコツコツと努力を重ねるも何故か昇進できず、平社員のまま、もうすぐ43歳を迎えるサラリーマン歴20年の私。

 ちなみに会社の大事な書類を無くし、5億の損失を出した時も、やるべき仕事を終わらせ、暇を持て余していたので会社のPCでエロサイト巡りをしてウイルスに感染してしまい、会社の情報漏洩した時も、社長の誕生日に社長室の扉を開けると固定したクラッカー鳴る仕組みを施して、社長が退社する時にそれが実際に作動してその音に驚き、ひっくり返って頭を強打して、意識不明の重体に陥った時も、全て、土下座で帳消しにしてきたというのに。

 

「――――――」

 

 何故、今回に限って土下座が効かないのか。

 

 部長が居眠りをしていた隙に、部長のカツラの中に小型のドローンを仕込んで、重要な会議の時にドローンを作動させてカツラと共に飛ばしたのがそんなにいけなかったのか。

 

 確かに、羞恥の象徴であるハゲをカツラで偽装しているという事は、他人に知られたくない思いの表れだろう。しかし、私は部長の素晴らしい本当の姿を幹部、率いては社長や会長に知ってほしかっただけなのだ。

 

 良かれと思ってやったことなのだ。むしろ、今まで後ろめたい気持ちを抱えて何かをやったことなどない。

 損失を出した時は、会社に逆境にも強くあってほしいと願ってやったことだし、情報漏洩した時も、この会社を世界に宣伝したくてやったことだし、社長が意識不明の重体に陥った時も――いや、これはただクラッカーでビックリさせて『おめでとう』という思いを伝えただけであって、社長が負傷したのは私の知るところではない。

 

 まぁ、この様に、私は全て会社の為を想ってやってきただけなのに、何故こうも伝わってくれないのか、私には全く理解できない。

 今回に至っては、土下座も効かず、ただ無駄に私が部長の足元で丸まっているだけである。

 

 その状況に混乱していると、私が頭を擦り付けていた床から眩い光と幾何学的な模様が浮かび上がってきた。

 これは知っている。ファンタジー小説や映画で見たことがある。これは『魔法陣』だ。

 しかし、何故今こんなところにこの様なものが? まぁ、そんなことよりも目下の問題は部長のことである。

 私は魔法陣に一瞬気を取られてしまったものの、すぐに部長へと意識を向けた。未だ私の下では魔法陣が光っているが、そんな事は些末な問題である。

 

「うおっ! おい、お前の下、何か光ってるぞ?」

 

「その様なことはどうでもいいのです。私は今、心の底から申し訳なく思い、部長のカツラを――――」

 

「な、なんか! 光が強くなってない!?」

 

「聞いてください!! ですからそんな事はどうでも――――」

 

「おまっ! なんか身体薄くなってるけど?!」

 

「この度はカツラを無断で飛ばしてしまい、誠に申し訳――――」

 

 

 

 

 これが、私が元いた世界、日本にいた最後の記憶である。

 

 そして、今――――。

 

「貴方が異世界の勇者様ですね!」

 

「いえ、申し訳ありませんが、人違いです。勘弁してください」

 

 異世界で土下座をしていた。

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