其の三
「繰子言うんよ」
人形はお母ちゃんが付けてくれたんよと誇らしげに自分の名を名乗った。
それに対してかの(・・)え(・)と名乗ったのは、先程少女の前から姿を消したはずの巫女だった。
名を聞いただけで嬉しそうにしている人形を見ると少し複雑な気持ちになる。
「なんで旅してるんよ」
少女が問う。
「仕事の為よ」
巫女が言う。
先程、と言ってもそれなりの時が過ぎている。完全に人形を撒いた巫女は一人悠々と道を歩いて行った。そうして一刻程たった時だろうか。
――人形、か。
ふと思う。あれは一体何だったのか。本当に現実のものだったのか。
そうして、ふと思いつく。
――これは・・・金になる。
悪い考えだった。
思い立ったが即日と、巫女は振り返り、今来た道を戻って行った。勿論、人形がまだ隠れている訳はないと思うが、それでも、もしかしたらとも思う。祟られるかもしれない。けれど、眼の前の金蔓を見す見す見逃す程愚かではない、と巫女は自分でそう思っていた。
だから、人形がまだ隠れていた時は跳び上がる程に喜んだ。既に二刻は経っている。
顔の緩みを引き締め、岩陰へと近づく。
「見ぃ〜つけた」
人形に呼びかける。
「もう、隠れるのが旨すぎてこんなに時間がかかちゃったわよぉ」
出来る限りの笑顔で言う。言ってみて自分でもわざとらしいと思う。普通は気付くだろう。只いじけてそのままで居たのかもしれない。その時は如何するか考える。
しかし人形の反応は、巫女のそんな考えを吹き飛ばした。
「本当?本当に旨い?」
飛び切りの笑顔で振り返る。
そう、此方の常識は通用しないのだ。




