第一話 夜のカバディは次の日がつらい・・・ 後編
夜のカバディは次の日がつらい 前篇の続き
―前回のお話―
パちえは朝から変な奴を轢いてしまってさぁ大変。大根で殴られるわ、学校には遅刻するわ。カバディの疲れはぬけないわでもう散々っどうするパちえどうなる青春!!??
頭にタンコブを抱えたパちえの青春冒険譚第1話後編、今、開幕!!!!!
チンポンパンポーン↑チンポンパンポーン↓
2時限目が終わるチャイムである。
私立サボタージュポメラニアン学園は休み時間を迎えようとしていた。遅れて登校することになったパちえは、先生に合わないようにして慎重に教室にたどり着いたようだ。
椅子に座った途端、まだ午前中とは思えないほどの疲れがどっとおしよせてくる。ズキズキと頭のタンコブも痛む。全部あの 八城 たけとの、とかいうやつのせいだ。
まぁ、三輪車を飛ばしすぎていた僕にも非がないといい難いが・・・
どうやら、3限目は我がクラスの担任が教鞭をとる古典の授業のようだが、そんなことは関係ない。先生の授業を子守歌に3限目は丸ごと寝てしまった。
授業後、担任に呼び出しを食らったようだ。予想はしていたのだが・・・
職員室に行くしかないか・・・やれやれ
僕にとって職員室は怒られるために部屋、拷問部屋といってもいいだろう。そんな場所に行くのは、どうも気が重い。
「おい、パちえなぜ遅刻したんだ?そして、遅刻しておいてあの態度はなんだ?」担任のタナカロドリゲスが厳しい口調で問いただす。
「登校中、事故にあいまして・・・それと人参と大根が・・・」
我ながら、なかなかにしどろもどろである。
「人参?大根?おい、パちえまだ夢でも見てるのか?ならば先生が夢から連れ戻してやろう」
ゴスンっ
げんこつだ。すごく痛い。
今時、げんこつとは昭和かよ・・・男子校なので多少荒っぽいのは仕方のないことだが・・・
ん?何かが心に引っ掛かる?なんだ?
「今後は気を付けるようにな。パちえ。」
そういうと頭を押さえるパちえをしり目に担任は去って行った。
まぁいいか、特に何もないのに、もやもやすることは人間よくあることだ。気にすることでもない。
「失礼しました」職員室からでる。
空気がおいしく感じる、まぁ圧倒的気のせいなのだが。
「うぬ、パちえ痛そうだったな大丈夫か?」後ろから野太い声がする。
振り返ると後ろにはさえない顔をした毛深い男が立っていた。
僕の名前を知っているということはおそらくクラスメイト・・・だれだったかな?
「あぁ、大丈夫だよ、かなり痛かったけどね」誰だかわからないので無難に言葉を返す。
「うぬ、災難だったなぁ、ところで昨日の特番のアニメ歌祭みたかぃ?」
二カッっと笑いながら話しかけてくる。
なんだこいつは、僕は名前も思い出せないんだぞ。くそっ、あまり長く話していたくない。
だって、名前も思い出せないんだもんっ。
「いやぁ、見てないな。あまりアニメとかには興味がないもんでね」
少し否定的な言い方で返す。
「うぬ、そうか、アニメに興味ないなら前期にやっていたピーマン少女なすびちゃん、がおすすめだぞ」
くそっ。なんなんだよぉ、こいつは・・・
アニメ興味ないって言ったのに瞬時にアニメをすすめてきやがった。頭ん中どうなってんだよぉ。
てかピーマン少女なすびちゃんってなんなんだよ???ピーマンなの?なすびなの?
なんなんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
「本当にアニメとかには興味がないんだ、次の時間の準備があるからもういかないと・・・」
もうこいつを振り切ろうと後ろをむく。
「うぬ。次は体育だからはやくいかねばな、いくぞパちえ」
一緒に行こうって言ってんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ。
つーか、誰だこいつ?まじで誰だ?
まとわりつきつつさらに奴が話しかけてくる。
「うぬ。アニメに興味がない君にこそっ、このピーマン少女なすびちゃん、がおすすめなのだよ。いちどみてみるといい。うぬ。」
そろそろ、うざい・・・・
もう、こいつの言葉をききたくない。悪い奴ではないのであろうが聞きたくない。
「うぬ。うぬ。うぬ。うぬ。うぬ。う・・・・・・」
奴はうぬうぬくりかえす。
疲れた体にうぬ、が響く。頭が痛い。
限界だ・・・・
仕方ない
「時間がやばいぞ」
そう言って小走りをしながら教室へ逃げるようにむかった。
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ピィィィー
けたたましい安物のスターターピストルの音だ。
そう、今日の体育は50m走の測定である。
「うぬ、走るのは好きじゃないぞ」
相変わらず、この毛深い男にはつきまとわれている。そろそろ、名前を思い出してやりたいところだ。
先生が名前を呼びあげることに期待するか・・・
「次っ、八野 ぱちえ、並べ」
どうやら先に僕の番が来てしまったらしい。
スタートラインに着く・・・
自分で言うのもなんだが、運動神経抜群、完璧超人である。50m走も5秒台で走れるだろう。
「ボサボサするなぁ、横に次の番号の 藻沙木 宙も並べっ」
体育教師が大きな声で呼びかけるとあの毛深い男がとなりにやってきた。
思い出した。アイツの名前は
もさき そら
すっかり忘れていた。
「うぬ。負けないぞ、パちえ」
アイツは僕の実力を知らないようだ。愚かなやつよ。
ヒュォォォゥゥゥ
風が砂埃を舞い上げている。
「位置についてぇ、ヨーイ」
ピィィィィィィィィィ
パちえは、華麗なスタートダッシュを決める。
高校生とは思えない、はやさである。
しかし・・・
なんと藻沙木はパちえの前方にいた。
なん・・・だと・・・
どうやら僕はアイツの事をみくびっていたようだ。
認めよう。アイツははやい・・・
ならば、もはや隣など見ずにゴールまで駆け抜けるだけだ。
全力で脚を前へ前へと進めていく。
ひさびさに対等な奴と出会った・・・負けるわけにはいかない。
パちえはゴールまで一切の手加減をせずに駆け抜けた。タイムは5.75秒、新記録である。
アイツは??
振り返ると、藻沙木は死にそうな顔をしてまだ30m地点を走っていた。
コケたのか?
そう思ったのだが、外傷はない。
様子から見るに恐ろしいほど体力がないのだ。
ようやくゴールした藻沙木のタイムは9.96秒、50mのタイムとしては遅すぎる。
「うぬー。最初はよかったのだがなぁ」
悔しがる、藻沙木に声をかけてやる。
「5m走なら僕よりもはやかったかもな」
ぶっちゃけ、勝った自慢である。
「うぬ。体力がなくてな、もう体がガクガクだ」
そう言って歩き出した藻沙木の身体がビクッと跳ねた。
「うぬぅっ、イタタタタタ」
どうやら脚をつってしまっている。
「はぁ、まったく。大丈夫か? 僕に掴まれ」
肩に藻沙木がつかまりつつ
「うぬ、すまないな。ものすごく痛い。鼻毛を一気に3本抜いたくらい痛い」
「どれくらいだよ・・・いまいち伝わってないぞ」
「うぬ。痛みの単位としての鼻毛は意外と伝わると思ったんだけどなぁ笑笑」
2人で笑いあった。
もう、藻沙木のことを忘れることはないだろう。
たぶん・・・
体育もたまには悪くないな、そう思った矢先であった。
カキィィィィィィン
気持ちのいい音が響く。
「「危なぁぁあいぃぃ」」
グラウンドと隣接する野球場からボールが飛んできたようだった。
完璧超人のパちえなら、不意打ちの玉でも簡単に避けられる。
誰かに肩を貸していたりしなければ・・・
避けられない・・・
パちえは目の前が真っ暗になった。
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カァッカァッピギョー。
カラスの鳴き声で目が覚めた。
どうやら保健室のベッドにいるようだ。
カーテンの隙間から差し込む光は既にオレンジ色である。
「やっちまった、夕方かよ」
どうやら夕方まで気絶していたらしい。
あたりには誰もいない。
まったく、保健室には女の優しい先生くらい欲しいものだ。まぁ、それは叶わぬ願いなのだが・・・
それにしても、気絶した生徒をそのままベッドに放っておくとは、この学校の荒っぽさにはあきれた。
起き上がり、帰る準備をはじめる。
ふと、鏡を見ると今朝、大根で殴られてできたタンコブの上にさらにタンコブができている。
「これじゃぁ、まるで鏡餅だ・・・」
はぁぁぁ
大きなため息をつく。
最悪だ。本当に最悪の一日だった。もう何も考えずに学校をでた。
嫌なことがあると、いつもの通学路がやけに長く感じる。
カァッカァッピギョー
カラスが不幸なパちえをあざ笑うかのように、頭上でないていた。
気が付くと、なぜか僕は最寄りの駅によっていた。
ただただ、腹が減っていたのかもしれない。
あるいは、あまりに最悪すぎた今日という日を最悪なまま終わらせたくなかったのかもしれない。
どちらにせよ、コロッケでも買って食べよう。そう思った。
この駅前のコロッケは昔からとてもうまいのだ。
「アチチ」
どうやらコロッケは揚げたてである
購入したコロッケを片手に飲食スペースへとむかう。
飲食スペースにはもちろん男しかいない。当然だ・・・
隔離されているから
この国には男女共学の学校など存在しない。もちろん教師の性別もきっちりと別れている。
大人になるまでは、男と女が同じ空間ですごすことはないのだ。
なぜこうなってしまったのかはわからない。
冷めた若者たちがこれを是としたのか? 潔癖な大人が子どもをそうしたのか?
とにかく、青春は謳歌できないのだ。
パちえは今日の朝、轢いてしまった たけとの、のことを思い出す。
黒くて長い髪。白い肌。人参・・・
かわいかった・・・かな?
女の子と朝から出会えたのなら今日という一日もそんなに悪くなかったのかもしれない・・・
ポジティブに考えてみることにした。
「悪くないな」
そう呟いてから帰路についた。
辺りが暗くなった頃、パちえは自宅に着いた。
疲れているときはまず、風呂に入る。
パちえの数少ないリラックスタイムである。
湯船の中、温まり気持ちよくなりながら、もう一度今日のことをおもいかえしてみる・・・
「ふぃーー、今日はいろいろあったなあ」
ん?やはり何か心に引っ掛かる・・・
「あああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁーーーー」
気が付いた。気が付いてしまった。
黒い髪、白い肌、人参・・・
同じ校章・・・
うちは男子校だぞ・・・
つまり・・・八城 たけとの は男である。
やっぱり今日の1日は最悪だ。
夜のカバディは次の日がつらい 後編 完
今回で第1話完結です。
2話もすぐに投稿したいと思うので、応援引き続きお願いします。