正義の価値、後悔の対価
今回…戦闘シーン短め(ない)です。
~高校校舎 東渡り廊下~
ここでは生徒会長こと亡谷零乃とヒーローズのリーダー、飛鳥憐が戦っている。
「地獄がお似合い…だと?そう思うのならば何故償おうとしない?」
「償う気なんて無いと言ったつもりだったんですけどね…それに、私には私の正義があります。」
今ここで二つの正義が衝突する。
人によって正義観は違うが、一般的には『法律』を正義とする。
しかし、この学園の場合生徒を縛る法律があっても、それを否定する者を縛る力が存在しない。
それによって発生する不平等が第二校舎の戦争の引き金となった。
~一年前 中高第二校舎~
「私ももう二年生か。先輩として頑張らなきゃ…」
彼女の名は亡谷零乃。
穏やかで優しい彼女が何故独裁体制になったのか。
それにはある一人の女子生徒が関係する。
「あ!君が亡谷さんだね?ちょっとついてきてくれるかな?」
「あっはい。」
零乃の手を引く金髪の少女。
彼女こそが前生徒会長の『真頭晴乃』である。
~生徒会室~
「で…用って何ですか?」
「それはズバリ、あなたを生徒会役員に指名します!いわゆるヘッドハンティング!」
零乃は最初、唐突な言葉に戸惑って反応するのに数秒の間が生じた。
「………へ?」
「何か驚くことでも?成績上位者のあなたを指名するのは当たり前だと思うんだけど…」
「だったらもっと上に武翔さんとか三途さんとかいるじゃないですか!」
「武翔さんは前科があるし三途さんは不明な点が多すぎるし…っていうことであなたにしようって決まったの。ね?納得した?」
「はぁ…」
~中高共同校舎 屋上~
「そういえば他に役員がいませんけど…何でですか?」
「こう…『相棒』って呼びあえるような人が欲しかったの。分かるでしょ?」
こんな言い方をしているが、簡単に言うと『自分だけの友達が欲しい』。それだけだった。
零乃もその気持ちが分からなくは無い。
成績もよく、黙っていても向こうから人は寄ってきた。
しかしそれには友情は無く、友達とはお世辞にも呼べない。
晴乃の言葉は、独占欲とは違う何か暖かい感情を包み込んでいた。
「相棒…いい響きですね…」
「でしょ?じゃあこれからはタメ口ね!」
「えっ?ちょっ!何でですか?」
「相棒だからよ!」
「はい…あっ!うん!」
~半年後~
二人は誰もが認めるほどの名コンビになっていた。
当時の生徒会の仕事は今とかなり近く、校則違反を見つけたら取り締まるという内容だ。
しかし今と違うところは、『取り締まる』の内容だ。
今は武力行使の脅迫に近い方法だが、当時は話し合いで解決し、注意だけにとどめていた。
これによって生徒会と生徒は友和な関係を保っている。
しかし、この平和はいとも容易く破られてしまう。
それはある日のことだった。
「そこのあなた!能力の使用規定を破りましたね!待ちなさい!」
能力の制限を破った生徒が逃げるのを追いかけているときのことだ。
「あの子足速すぎない?」
「そうですね…差の開き方からして時速60kmは無いとおかしいです…」
晴乃は突然立ち止まった。
そして次の瞬間、
青白い一条の光がその生徒を焼き切った。
「会…長…?」
零乃も初めてだった。
噂には聞いていた『閃光』だが、一度も見たことが無い。
その威力は側にいるだけで伝わってくる。
学園を囲っている何百メートルもの防壁さえも一瞬で貫通してしまう熱量。
「それは会長の能力で間違いないですよね?何で使ったんですか⁉」
「えっ⁉能力を…使った⁉」
それは晴乃も無意識のうちの行動だった。
状況がつかめず混乱している晴乃の前に一人の女子生徒が現れる。
「これはこれは会長さんじゃありませんか。あの青白いビーム。噂が正しければ会長さんのモノですよね?まさか仏とまで謳われたあの会長さんが人殺しをするとは…」
晴乃と同じ長い金髪に赤い瞳。
彼女の名は武翔真木。どのような能力だかは言うまでもない。
「まぁ、私が全部悪いんですけどね。あの子は私の能力で操らせていただきました。勿論、会長さんもです。これで会長さんへの信用もダダ下がりですね。さて、じゃあ私はここら辺で。」
ネタばらしだけして真木は去っていった。
この事件は後の戦争の直接の引き金となる。
翌日の学校の掲示板にある記事が載っていた。
『生徒会長が殺人⁉揺らぐ正義と許されない罪』
その内容はと言うと、生徒会長である晴乃が能力を行使して無抵抗な生徒を殺害したということだ。
そしてそこには様々な考察が書かれている。
『この生徒は事件の直前生徒会室の近くにいた。そして生徒会にとって都合の悪い隠し事があり、それを聞いてしまったせいで殺されたと考える。』
「武翔…真木ね…こんなことするだなんて…」
「証拠も十分。ビームの目撃情報も多数。死者39名。負傷者は重軽傷合わせて87名。あなたはこんな状況でも信頼されるほどの人間ではありませんよね?会長さん。」
いつの間にか背後に立っていた真木は晴乃に挑発的なセリフを吐く。
「あなた達がたった二人で自己満足している間、私は上下関係にも近い人脈を広く築いた。要するに、私は生徒のナンバーワンになったんですよ。そんな私があんな記事を書けば直接手を下さなくてもあなた達を引きずり下ろすのは容易なこと。」
「なんの目的があってこんなことをするのかしら?」
「強力な力を持つ者は力で支配する権利と義務がある。その第一段階として私はこの学園の生徒たちを使って世界最強の軍隊を作り上げる。手始めとしてまずはトップに立つ。こんなところですかね。」
真木は間違ったことを言っている。
しかし二人はそれを「間違っている」とは言えなかった。
真木の言葉が帯びていた紛れもない『自信』。それが精神の刃となり二人の言葉を封じ込めた。
だが、二人の反撃はすぐに始まることになる。
翌日、高等部の門の前に晴乃と零乃が立っていた。
「あの記事は全くのデタラメです!全て武翔真木によって仕組まれたトリックです!信じてください!」
真木は当初、誰も彼女らの言葉を信じないだろうと考え、大した対策を取らなかったが、それが命取りだった。
彼女らは嘘を見破れる能力者を味方につけていたのだ。
これによって晴乃達は信用を取り戻していく。だが、これが最大の悲劇を生んだ。
二つの勢力に分かれた生徒たちは、次第に対立の関係へと変化する。
そしてある日、対立が具現化した。
戦争が始まったのだ。
~高校校舎 屋上~
「会長さん。私を恨まないでくださいよ。彼らの怒りの根源はあなた達に見つからず注意されなかった生徒へのちっぽけな恨みが積み重なったモノ。それだってあなたが下らない友情に固執しないで人数を増やしていれば多少は少なくなったのに…私はそのベクトルを本来向けるべきあなたに向けただけ。それをあなたが中途半端にこちらに向けるものだからこんなことになっちゃったじゃないですか。」
「で、用って何かしら?できれば早く済ましてほしいのだけれど…」
「ここで急ぐんですか?まぁあなたの勝手です。では要件を済ませましょう。」
直後、真木の拳が晴乃の体を貫く。
「あなたの能力をもらいに来ました。」
真木は拳を引き抜くと、晴乃の胸に手を当てた。
「瀕死の状態なら簡単にバイオプラズマを引き抜けるんですよ。」
青白い光を引き抜き、それと同時に晴乃は倒れる。
「会長!」
「あら?付いてきたんですか?」
「零乃…不平等とか…怒りは…絶対に無くならない…だけど…そのシワ寄せを自分が受ければ…少なくともみんなは…嫌な思いをしなくて済む…お願い…キツイかもしれないけど…みんなの怒りを受け止めてあげて…」
「先輩が散り際に後輩へメッセージを伝える…感動的ですね。ですが無価値です。そんな茶番で私を倒せるとでも?この戦争が終わるとでも?バカ言わないでくださいよ。」
真木はあざ笑うように零乃を挑発する。
それによって冷静さを欠いた零乃であれば真木の敵ではない。
そう思っていたが、その予想は悪い方向へ外れることになる。
「真木!」
零乃の手が自分の目を掴もうとした。
その力はすさまじく、止めようとした腕が逆にへし折られるような力だ。
人間は本来の力をセーブしており、せいぜい元の10%程度しか解放されていない。
しかし、突発的な感情の変化によってそのリミッターが外れることが稀にある。
今の零乃は正にそれだった。
鉄球でも軽く握り潰してしまうようなパワー。
晴乃との思い出を『無価値』と罵られ、『茶番』と笑われた怒りが生命のリミッターを外したのだ。
そして眼球を掴んだ手は遂に、
グシャッ
真木の右目を握り潰した。
そのまま地面へ真木を叩きつける。
「真木!私はあなたを許さない!この学園の生徒全員の怒りを受け止めてあなたにぶつける!覚悟しなさい!」
「調子に乗るな…ザコ能力者が…」
目を潰され冷静さを欠いたのか、口調は荒くなり、目付きも相手を憎む目付きへ変わっている。
しかし真木ほどの実力者となれば、今自分に勝ち目が無いことぐらい分かる。
真木は柵を飛び越え渡り廊下へ逃げた。
第一校舎へ異動後、零乃は自分へ怒りを向け団結を生み出すために、自らを『絶対悪』へ仕立て上げた。
そして狙い通り生まれた『団結』が今の反逆組織である。
晴乃の信念(=慈愛のための孤独な自己犠牲)の元に正義を考える零乃にとって、その正義を否定する相手は晴乃を侮辱したのと同じ。
彼女にとってそれは許されないことなのだ。
真木はモチーフとしてDI〇が強く出てますね。
感動的だな。だが無意味だ。
ニーサンのセリフをオマージュする日が来るとは…