割れた窓の向こう側に
前の話は間が2週間も空いたのに今度は一日…不定期投稿って怖い…
~西の噴水広場~
噴水の前で二人が対峙する。
校舎側にはカオルが、噴水側には現アウトローリーダーのカルヤが立っている。
「ではお話はこの辺で。そろそろ始めましょう。」
「その丁寧な態度が逆にムカつく奴だな。」
「よく言われます。」
直後、カルヤの足元の地面が砕け、その穴に落ちる。
その穴はカオルの目の前へとつながっており、着地した瞬間カオルは手首のリストバンドに仕込んであるナイフでカルヤを突き刺した。
しかし手を突き出したときには既にカルヤはカオルの後ろに立っていた。
「『粉砕』…空間をガラスのように割って繋げる能力…噂通り中々の能力だ。ステルスの召使いってだけはあるな。」
「あなたこそ。二つの物体の位置を入れ替えるとはかなりユニークな能力ですね。」
今度は肘のプロテクター内に仕込んだ刃を出し、腕を薙ぎ払う。
やはり当たらないが、今度は後ろに回り込まれるのを予想していたため既にトラップを仕掛けていた。
「これは!」
「小型の地雷です。このサイズでも足の裏を吹き飛ばすには十分ですよ。」
カオルが振り向いた瞬間、カルヤの代わりに赤いボンベが地雷を踏んでいた。
「やばいッ!」
空間を割り、ボンベと距離を取る。
それとほぼ同時にボンベは大爆発を起こし、辺り一帯を爆風が包む。
この赤いボンベ、中には圧縮された水素が詰まっていたのだ。
中身の総質量はなんと500gもあり、その爆発エネルギーはとてつもない威力の爆風を生み出す。
ちなみにこのボンベだけが特別赤いわけではなく、水素ボンベは基本全て赤い。
友人などに豆知識として自慢しよう。
「どうだ?水素爆発の威力は?」
「今のはちょっと危なかったですね…では本気を出しましょう。」
カオルは両手に防刃グローブをはめると、金属製のナイフの様なブーメランを取り出し投げつける。
もちろん避けられるが、ブーメランの軌道上には無数のヒビができ、その向こう側からは機械が動くような音が聞こえた。
「さて…この音が何の音かわかりますか?」
「重火器系か…マシンガンとかか?」
「惜しいです。ガトリング砲ですよ。それも有名なM212です。一分間に20000発もの弾丸を発射可能!しかも貫通力も高く、500mmの鉄板を貫通できるほどなんですよ!手元のコントローラーでも繊細に操作できるのでとても汎用性が高くて、それでもって…おっと、ヒートアップしてしまいました。では、」
コントローラーのスイッチを入れ、その瞬間空間が完全に砕けて大量のガトリングガンが姿を現す。
その銃口から放たれた弾丸は凄まじい轟音と共に地面をえぐる。
既に傘立てと入れ替わっておりダメージは無かったが、先に回り込んでいたカオルはブーメランを直接叩き込んだ。
カルヤは姿勢を低くして避け、同時にカオルを蹴り上げる。
蹴り上げられたカオルは空中で空間を割り、地面からアッパーを放った。
カルヤはその腕を掴み、地面へ叩きつける。
しかし叩きつけた地面は脆く砕け、そのまま空へと繋がる。
「なっ⁉お前正気か⁉」
「あら?たったの地上150mですよ?大丈夫です。衝突まで10秒もかかりません。」
地上150m。ピンとこないだろうがこれは恐ろしく高い。
しかも落下する場合は更に危険だ。
人間は落下した時、頭を打てば1mに満たない高さからでも死に至ることがある。
今のカルヤはカオルに振り下ろされる形で落ちている。
地面に衝突する際のスピードは約54m/s(SはSecの略で、秒を表す)もあり、それを相殺するエネルギーは到底作りだせない。
つまり、カルヤはこの一瞬でこの攻撃を回避する何らかの策を実行しなければならない。
「さて…どうやって回避するか楽しみです。」
「回避?残念ながらカウンターだ!」
地面に叩きつけられる直前カルヤはカオルと場所を入れ替え、地面に叩きつける。
「そう来ると思ってましたよ。」
叩きつけられた地面が割れ、すぐ近くの地面から飛び出してくる。
秒速50mのアッパーは、カルヤを吹き飛ばすには十分な速度だ。
しかもカルヤが地面に着く寸前だったため、威力に直接かかわる相対速度は100m/sにも及ぶ。
更にカオルは体勢を変えると、上向きにキックのラッシュを叩き込む。
「どうですか!これぞ桐山流反重力コンボです!」
カルヤは更に吹き飛び、カオルは自由落下を利用して空間を割り地面へ着地した。
150mとはいかなくとも、かなり高い位置にまで吹き飛ばされたカルヤはそのまま地面へと落下を始める。
「15m…ですかね?頭から行けば十分死に至る高さです。では、私はこの辺で。」
「待て!戦いはまだ終わってねぇ!」
カオルは声のした方を向く。
「まさか…100m/sですよ?」
そう。そんな速度の拳を喰らえば並の人間はおろか、鍛えた人間でも意識が飛ぶ。それどころかかなりの確率で死に至る。
「だから何だ?そういうことは終わってから言え!」
カルヤは手元のボタンとカオルの位置を入れ替える。
衝突寸前の今、カオルは考える間もなく地面を砕いて空間を繋げる。
その瞬間、カルヤはカオルと屋上の貯水タンクを入れ替えた。
カオルは落下の速度を持ったまま貯水タンクと入れ替わったため背中を強く打ち、意識が飛びそうになる。
対してカルヤはタンクがクッションとなり、大したダメージはない。
「どうして…あの速度の攻撃を受けても…意識が残って…」
「ただの体術だ。クラゲが深海で活動できるのと同じ理由。どんなに強い打撃でも水は砕けないだろ?骨が通ってないところなら打撃は通じない。さすがにノーダメージってわけにはいかねぇけどな。」
「見たところあなたもかなりのダメージを受けている…五分五分といったところでしょうか?」
「お互いにあと一回しか能力は使えなさそうだな…次で最後だ!」
「いいでしょう。では、」
カオルは地面へ飛び降りると、カルヤに向かって走り出す。
右腕を振りかぶり、握りこぶしを作った。
「最後は拳か。」
カルヤは拳を大きく振りかぶる。
走り出す気配は無く、右手を前へ突き出して左の拳は肘を曲げた状態で後ろに引いている。
「クロスカウンターですか?懐かしいですね。」
クロスカウンター。本来であれば相手のパンチを掻い潜って放つカウンターだが、ボクシングをやったことの無い人間からしたら相打ちと紙一重の技だ。
このお互いボロボロの状態でそんな危険な技を使おうとするのか。
カルヤには策があった。
カオルがカルヤに極限まで近づき、力を込めた拳を放つ。
しかしその寸前カルヤはカオルと場所を入れ替わり、右腕の肘を引く。
そう。カルヤは正面から殴り合う気などそもそも無かったのだ。
肘をぶつけるだけでは決定的なダメージにはならない。
だが攻撃が回避されたことに対する動揺とそれに反応して振り返る姿勢に対しては効果が高い。
バランスを崩れさせることは容易だろう。
しかしその策略は失敗に終わる。
「なっ⁉」
カオルは振り向きもせず、そのまま走り抜けたのだ。
止まって振り向くことを前提としたこの策略は完全に意味をなくしたのである。
カルヤは勢いのまま振り向いてカオルを確認するが、ここで姿勢を直さなかったのが命取りだった。
空中に叩きこまれた拳は空間を割り、振り向いたままのカルヤはそれを避けることができない。
走るスピードが上乗せされた拳がカルヤの額へ直撃し、その体を吹き飛ばす。
「最初から…止まるつもりなんて…無かったのか…」
後頭部を強く打ち、気を失う。
「中々手ごわい相手でした…一組織の長というだけはありますね…この勝負、引き分けです。」
限界まで疲労とダメージがたまったカオルも倒れ、気を失った。
~中高共同校舎 屋上~
「ステルスちゃんのところのメイドさんとヤンキーのリーダーさんは相打ちか~さてと~生徒会長さんたちはどうかな~?」
「別にあの人達なら私たちの敵じゃないでしょ?真木を誰が倒すか、それによって対応が変わるわ。」
「じゃぁ~今のうちに調整入れとく~?」
「それじゃあ意味が無い。最小の労働で最大の利益を手に入れる。ノーリスクハイリターンが私達のモットーでしょ?」
「そうだったね~じゃああとちょっとだけ待つよ~」
本編中に登場したM212ですが、M134の後継機種という設定があります。
カオルの『実は兵器マニア』という裏設定と共に覚えておいてくださいね。(たぶん今後も登場する)
特撮ファンはもうお分かりでしょうけどカオルの能力は一角超獣バキシムが元ネタです。