天の地の底へ
今回から地下と地上の話を別々に挟みます。
~疑似娯楽施設街南西部~
俺は今ステ…芹音と共に疑似娯楽施設街へ来ている。
デート…というわけではない。
この超能力学園の地下には誰にも明かされていない秘密があるらしい。
その地下空間で俺は芹音に師事し、真木を倒せるようにならなければいけない。
一応言っておくが俺には幼女趣味といういかがわしい趣味は無いからな!
俺は年下のぺったんこ幼女よりもカオルさんみたいなスタイリッシュな年上の女性が好みだからな!
「誰がぺったんこの幼女です?ぶっ殺しますよ?」
「だから心を読むな!」
「だったら心臓を動かさないでください。聞こえただけで言語へ自然変換されるので。」
酷い幼女だ。そもそも地下空間って何があるんだ?
「幼いが余計です。地下空間に何があるかは自分で確かめるといいです。」
「その読心術どうにかならないのか?」
「なりません。」
そうかい。だったら俺喋る必要なくね?
「ごもっともです。」
違和感が凄いんだが。
「まぁ慣れない間はそうですよね。あ、着きました。」
目の前には何重もの隔壁に囲まれたタワーが見えた。
「ここが入り口です。隔壁は全て穴を開けたので通って大丈夫です。」
「今開けたよな⁉停止してたった今開けたばっかだよな⁉」
「はい。三日ほどかかりました。寮で5日ほど寝たので疲れはありませんが。」
「どうやってソレ測ってんだよ?」
「懐中時計は動くようにしてあるので。じゃあ行きましょう。」
数キロメートル歩くとタワーのふもとに着いた。
目の前には巨大で重厚な鉄の扉が待ち受ける。
「厚さは30mほど…刀で切断するには無理がありますね…シンヤさん。溶かしてください。」
「俺⁉」
「はい。約1300℃程で大丈夫ですので。」
「規則違反になるだろ⁉」
「嫌なら私がやります。」
そう言うと芹音は地面に落ちている小石を拾い上げた。
「下がっててください。ソニックブーム.衝撃波が出ます。」
芹音は刀で扉に切れ込みを入れるとそこに向かって小石を投げつけた。
手から放たれた小石は突然、爆音と共に姿を消した。
それと同時に鉄の扉が裂け、向こう側が見える。
「さすがは合金。簡単には壊せませんね…危険ですが仕方ないです。まだ下がっててください。焼け死にます。」
そう言うと断面が突然赤く変化し、脆く崩れ去る。
「酸化速度を速めました。ここまで酸化すれば…」
不可視の剣閃が鋼の扉を引き裂き、ついにタワーの内部が明らかになる。
中に入るとそこには壁に設置された一つのエレベーターしかなかった。
しかもタワー部分は空洞になっている。
「エレベーターに乗ってください。下に行きます。」
「そういえばここには何がいるんだ?」
「怪物…いや、遺伝子的には…」
エレベーターが止まり、荒れ果てた廃墟の様な空間へ出る。
「人間。と言った方が正しいですね。」
廃墟の所々におぞましい姿をした化け物がうごめいていた。
1m程から、大きいものでは20mもある。
「彼らは自らの体を別の物へと変質させる能力を持っていました。しかしその能力を制御しきれなかったせいで生物としての本質までもが別の物へと変質してしまいました。それがこの生物たち、恐獣です。」
これが人間だと信じることはできなかった。信じたくなかった。
確かにヒト型はしているが背骨が異常発達し、骨の棘が突き出ている。
これでもまだ人間に近い方で、酷いものでは不定形のゲル状のものまでいた。
「彼らは死ぬまで苦痛を感じ続けます。それも痛みを超えた苦痛。殺す以外の方法ではその苦痛は消えません。」
話している途中で人型の恐獣が襲いかかってくる。
パチンと鍔鳴りが聞こえた瞬間その人型は真っ二つになった。
しかしその死体はまだ蠢いている。
「不死身と言ってもいいほどの生命力を持ちますが、苦痛と異形の元凶はバイオプラズマの暴走によるものなので超低温で冷やせば苦痛は無くなり、人間らしい感情が蘇ります。そして…」
「命を落とす…か…」
「ザッツライト!その通りです。どのみち殺すしかありません。わざわざ冷凍しなくとも熱でドロドロに溶かしたり能力で完全に消滅させれば死にます。化け物と人間のどちらとして葬るかはあなたの自由です。」
冗談じゃない。人殺しだなんて…
俺は殺せない…
「殺せない?殺すつもりで姉に挑んだ人でも何人死んだか分かってんですか?どんなに努力して強くなっても生半可な覚悟で挑んだら無価値無意味ですよ?」
だけど…
「覚悟を決めなさい!それでも男ですか!青春という名の平和を守る。それが男としての、あなたの使命ではないのですか!確かに突然人を殺せと言われたら戸惑うかもしれません。しかしあなたは、自分で覚悟を決めここに来たはずです。」
覚悟…
「それに、選択肢は一つじゃないですから。もしあなたが熱操作を自分の物にすれば、生体機能が停止する前に体温を元に戻せば人間として生かすことができます。」
「本当に…救えるのか?」
「それはあなたの技量で決まります。体は戻りませんが人間としての真っ当な生活はできるでしょう。」
俺が…救う…
「どうしますか?YESかNOか。口で言う必要はないです。心で答えなさい。」
俺はしばらく迷った。
ここで逃げればこの戦争には傍観者としての参加になり、危険性は何倍も低くなる。
しかしそうなったら無限の罪悪感で押し潰されるだろう。
全ての選択肢が苦痛となる中どうやって決めたらいいのだろうか?
「悩んでいるようですね。ではヒントをあげましょう。あなたは何故ここにいるのですか?」
何故ここにいるか、
それは強くなって真木に勝つため、この戦争を終わらせるため。
それとここにいる恐獣たちを化け物から人間に戻してやるため。
答えが出た俺は芹音と目を合わせる。
「なるほど。ベリーグッド.いい答えです。ではまず寝床探しですね。一か月ほどはここにこもるので。」
「一か月⁉」
「もっと長い方がよかったですか?」
「そうじゃない!その間戦争はどうするんだ⁉」
「安心してください。会長さんにカオルもいるので大丈夫ですよ。カオルなら一人で勢力を一つぐらいは潰してくれると思います。」
「ならよかった。あ、あの建物とかどうだ?背が高いから襲われないだろうし。」
「いいチョイスですね。では荷物を置いたら行くところがあるのでついてきてください。」
「どこに行くんだ?」
「話の通じる恐獣に会いに行くんですよ。」
番外編を間に挟みます。