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私の背中を押してください  作者: 箱々屋満平
16/16

小野透子 20000字インタビュー

ノーコンセプトガール 小野透子二〇〇〇〇字インタビュー

「今、僕らを救うアイドルの背中」



 私たちに「物語」はない。そう掲げたはずの彼女たちの「物語」は、なぜこんなにも僕たちの心を締め付けて離さないのか。アイドルグループ、ノーコンセプトガール。彼女たちは語らない。胸に誓った誓約が彼女たちから言葉を奪っている。しかし、その声に出さない彼女たちの叫びに耳を傾けたとき、控えめに言ってクソみたいなこの世界で、生きていくのも悪くない、ということを彼女たちは教えてくれるだろう。ノーコンセプト、故にフリーダム。彼女たちはアイドルでありながらその枠に留まらず、いくつものジャンル間をマージナルに浮遊し、かつ王道ど真ん中にも目配せする。その姿はかつて僕たちを夢中にさせたポップスターたちが言語や文化の壁をぶっ壊してきた姿にも重なる。

 この夏、ノーコンセプトガールはグループ史上最大規模の全国ツアーを行い、破竹の勢いで日本各地を熱狂の渦に巻き込んでいった。しかし、その狂乱の中に彼女はいなかった。

 突然の休養発表。ツアーの地方公演の全てで彼女の欠席が発表された。ライブの熱量が上がるごとに浮かび上がる彼女の不在は、僕たちの心に彼女への思いを募らせていった。

 そして約束の日、最後のピースは帰還した。

 激しい嵐を連れて。

 その最後のピースの名は、小野透子。直近のシングル曲で二作連続センターの大役を務め、復帰の舞台となったツアーファイナルでは次作もその座を任されることがサプライズで発表された。おそらくノーコンことノーコンセプトガールは今、まさにターニングポイントを迎えていると言えるだろう。

 勝負の次回作でセンターに立たされることになった小野透子とは一体どんな人物なのだろうか。伝説の夜と称された日産スタジアムライブで奇跡の復活を果たした彼女だが、あの日、日産スタジアムでは何が起こっていたのか。空白の八月には一体何があったのか。そして小野が語るノーコンセプトガールの未来。傷だらけになりながら高みを目指す彼女自身について――。

 今回、本誌ではライブから間もない彼女にコンタクトをとることに成功した。今やアイドル界のみならず、日本のエンターテインメント業界でも最重要人物の一人となった小野透子は、ゆっくりと言葉を選びながら、僕たちに希望の言葉を真摯に語ってくれた。


――まずはライブ、お疲れ様でした。

小野透子(以下、小野) ありがとうございます。

――ライブ前を含めて当日までいろいろなことがありましたね。

小野 お騒がせしました。でも、もう問題ないので。

――ノーコン初のスタジアムライブとなった日産スタジアムライブですが、まず初めに会場についてはどう感じられましたか?

小野 実はあんまりよく見られていないんですよ。ご存知の通り当日はバタバタしていましたし、でもとにかく大きかったという印象でした。

――バタバタしたということですが、あの日の出来事を教えてください。

小野 どこまで話していいのかわからないんですけど、私は最後のブロックで新曲を披露するときにステージに上がることになっていたんです。でもセットリストが変更されてあのタイミングでステージに立つことになりました。

――トーコさんの登場はあの日一番のサプライズになりました。

小野 まあ、なんとなく気づいている人もたくさんいたと思いますけど。

――たしかに僕もトーコさんが復帰するならこの日しかないと思ってました。

小野 ベタベタなタイミングですもんね。それでもスタッフの皆さんが話し合った結果ここしかないということで、私もファイナルでの復帰を目指してはいました。

――そもそも一ヶ月の休養の理由は何だったんですか?

小野 理由ですか……。

――言える範囲で構いませんので。

小野 まあ隠すとかではないんですけど、簡単に言うと私の自己管理不足です。それでちょっと色々なことが重なってしまいまして。

――確かに休養前はオーバーワーク気味と言いますか、かなり無理なスケジュールだったと伺っています。

小野 う~ん。特にスケジュールに問題があったわけではないです。私だけがそういう状況だったわけではないですし、なんなら私なんかよりもっとスケジュールがきついメンバーもいましたし。

――八月に行われた全国ツアーは結果的に全ての地方公演に出演できませんでした。

小野 本当に申し訳なかったです。

――楽しみにしていた人が本当に大勢いたと思います。その気持ちは誰に対してが一番大きかったですか?

小野 ファンの皆さんやスタッフさん、もちろんメンバーにも。……アイドルの模範解答みたいな答えでつまらないですか?

――いや、そんなことありませんよ! そんな顔してました?

小野 ふふふ。でもやっぱり仕事に穴を空けてしまうのはどんな場合でも申し訳ないです。特に私たちみたいな仕事は個人でやってるわけじゃないですし、あとやっぱりお客さんがいてくれて初めて成立することなので。

――ツアーを欠席している期間はどのように過ごされていたのですか?

小野 ずっと家にいました。新曲のレコーディングで家を出たくらいですね。

――ご自宅では何をされていたのですか?

小野 何もしてないです。文字通り。何もしなさすぎてお腹も空かなかったからほとんど何も食べなかったくらいです。いいダイエットになりました。

――そこはちゃんと食べてください(笑)。レコーディングというのは次回作の?

小野 そうです。そのときにまたセンターでという話を聞きました。

――そのタイミングだったんですか! てっきりもっと前から決まっていたんだと思っていました。休養中に次回のセンターを聞かされたということですけど、それについては率直にどのように感じましたか?

小野 いやもうただただびっくりでした。次は違うだろうなと思っていたので。まあでも指名されたからにはやるだけですけど、私たちは。

――新曲についてはあとでじっくり聞かせていただきたいと思いますので話を戻します。休養を経て先日のファイナルということになるのですが、あいにくの天候になってしまいました。

小野 もう、本当になんでよりによってこんな日に、って感じですよね。やっぱり自分は持ってないな、と改めて思いました。風が強くていろんなところに影響が出てしまって。演出のための機材がほとんど使えなくなってしまいました。

――ライブは中止される寸前だったと聞きました。

小野 そうなんです。でも本当にギリギリだけど、なんとかできるということになってセットリストを半分以上削って演出も変更してやることになったんです。これ以上天候が悪化したら即中止ということで。

――トーコさんがライブを敢行させるためにスタッフやメンバーを説得したとファンの方の間では話題になっていますが、実際はそういったことはあったのですか?

小野 えっ? そんな話になってるんですか? 全然知らなかったです。実際にはもちろん私にそんな権限はないので、スタッフの皆さんの判断に従っただけです。

――ライブを見させてもらったのですが、ちょっと凄すぎて感動してしまいました。

小野 私もです。自分が出るのは最後だけだったからほとんどステージ裏のモニターで見ていたのですが、映像でもとても盛り上がっていることが伝わってきました。自分で言うのもあれですけど、ツアーで各地を回ってきてグループがまたひとつ大きくなったと感じました。

――それは具体的にどんなところが?

小野 やっぱりパフォーマンスです。私たちみたいなアイドルグループにとってライブで一番大事なことは結果だと思うんです。質はどうでもいいというわけではなくて、とにかく来てくれたお客さんに、結果として満足してもらうことが大事だと思っていて。そういう部分ではツアー前に比べるとメンバーそれぞれがあらゆる手段でお客さんを満足させようという意識がより一層高くなったと感じました。あと一体感みたいなものも感じました。これまでは良い意味で個性豊か、悪い意味で統一感がなかったんですけど、それがうまくまとまってきていると見ていて思いました。

――僕もツアーは何ヵ所かまわらしてもらったんですけど、他のメンバーの皆さんのトーコさんのいない穴を埋めようというモードが良い方向に作用したのではないかと感じました。

小野 そういうわけではないと思います。会場の規模が大きくなって目の前のお客さんだけに向けていては駄目だということに気がついたんだと思います。

――舞台裏でもそういった話し合いがあったとか?

小野 えっと、それはノーコンセプトなので(笑)。

――わかりました(笑)。では話を進めまして、遂にトーコさんが再びステージへと上がることになりました。どんなお気持ちでしたか?

小野 出る直前が一番バタバタで。変更したセットリストからまた更に何曲か削らないといけないということになって慌ててスタンバイしたんです。だから気づいたらステージに立っていた、という感じでした。

――久しぶりにファンの前に出るという緊張や感慨もなくといった感じですか?

小野 はい。でも花道を歩きだしたら、だんだんと周りも見えるようになって、凄いところまで来たんだなという感動はちょっとだけありました。

――あの光景は本当に感動しました。僕たちもプレス用に配布されているセットリストと全然違う曲順だったのであのタイミングでトーコさんが出てくるとは予想していなくてファンの人たちと一緒に歓声を上げていました。あのときの光景はいかがでしたか?

小野 もう、すごかったです。悪天候にも関わらず一番上の方まで埋まっていて。当日券が出たのは聞いていたんですけど空席もほとんどなくて。

――トーコさんが出てきたときの盛り上がりがあの日一番でした。

小野 そうでしたか? なんか最初はざわざわしていた印象なんですけど。

――それはしばらく誰が出てきたのかわからなかったのが原因でしょう。僕もわかりませんでしたから。

小野 ああ。モニターも映らなかったですもんね。雨も降ってきてたし。

――そしてその時お披露目された新しい髪型にも驚かされました。トレードマークだった長い髪をばっさりと切られました。やはり何か心境の変化などがあったのでしょうか?

小野 やっぱり、そう思いますよね。あれ以来、メンバーはもちろん会う人みんなに聞かれるんですけど、本当に特に意味はないんです。もうずっと同じ髪型だったし、前々から切ってみたいなっていうのはあったので。まあタイミング的に深読みされても仕方がないのは十分わかります。

――トーコさんと言えばノーコンの中でもダンスというのがストロングポイントだと個人的にも思っていたところがあって、激しい踊りの中で揺れる長い髪というのも相当魅力的だったので少し残念なところもあります。

小野 今は変ですか?

――いや! 全然! そんなことないです!

小野 ふふふ。冗談ですよ。でもそう言っていただける人もいるので嬉しいなと思います。まあ、髪はいずれ伸びるので(笑)。

――安心しました(笑)。話をライブに戻します。衝撃的な復活を果たしたトーコさんですが、歌い出したときの歌声というか、歌い方が以前とは違っていたように感じました。

小野 そうですか?

――はい。初めて聞く曲だったのに、歌詞の物語がスーっと頭に入ってくるような感覚にさせられたというか、言葉のわからない海外アーティストの曲を聞いたときに一瞬で彼らの生まれ育った国に連れて行かれたときを思い出しました。

小野 実際に行かれたんですか?

――いや、冗談ですよ(笑)。そんな感覚になったという話で。

小野 わかってます(笑)。

――あっ、そうですか(笑)。でもそれだけトーコさんの声が真に迫っていたというか、そこらのアイドルでは到底出せないような凄みがありました。

小野 アイドルでももっと上手い人たくさんいますよ。

――確かに技術的に高いレベルの人はたくさんいます。アイドルじゃなくてソロのシンガーの人なんかはそんなレベルの人がゴロゴロいると思うのですが、なんていうかそういう上手い下手の話じゃなくて、新たなディーバの誕生に立ち会えた喜びというか。

小野 いやいや、そんな。

――あの瞬間に立ち会えたことはこれからずっと自慢できますよ。俺、オアシスの初来日公演に行ったんだぜ、みたいに。

小野 行ったんですか?

――いや、行ってないんですけど(笑)。

小野 ははは。でもライブは中途半端な形になってしまって申し訳なかったです。

――それでも十分スペシャルなライブだったと思いますよ。開演時間を過ぎて始まったライブはいきなり針が振り切れたような盛り上がりを見せて畳み掛けるようにキラーチューンを連発、そして満を持しての小野透子降臨。これ以上ないストーリーを描いたライブでした。

小野 そう言ってくださる方もたくさんいるんですけど、やっぱりやってる方としてはもっと完璧なものを提供しないといけないと思うんです。いろいろやりたいことができなかったけど結果的におもしろくなったから良し、としてしまっては駄目だと思うんです。

――確かに不確定要素に対して希望的観測を持ちすぎるのはよくないですしね。トーコさんはセンターとしてライブをやるようになって意識や気持ちの面で変化したことはありますか?

小野 明確にここが変わったと言えるところはないかもしれません。センターと言ってもライブにおいてはあくまでポジションのことですし、曲によっては違う場所になることもあります。なんならその位置ではないことの方が多いです。

――確かにこれまでセンター以外のポジションでもライブでのトーコさんのパフォーマンスは目を見張るものがありましたもんね。

小野 煽りとかですよね? まあ、あれはいつも榛名と一緒にふざけながらやってましたから。

――その榛名万李歌さん、通称マリーさんとトーコさんがノーコンの中ではパフォーマンスの面で引っ張っていたと思うのですが、パフォーマンスについてのこだわりとかは何かあるんですか?

小野 いや、マリーと比べると私なんか全然です。とにかく振付けをこなすのにいっぱいいっぱいです。

――そんな風には見えませんが、確かに榛名さんはバレエ経験者ならではのしなやかさと優雅さがありますよね。

小野 やっぱりパッと見ても目がいきますよね。結構、隣とか左右対象のいわゆるシンメトリーの位置にいることが多いから毎回大変です。

――榛名さんのダンスがすごいということですが、ご自身の強みはどういうところであるとお考えですか?

小野 強み、ですか?

――はい。一人のアイドルとして、トーコさんが他の人たちより誇れるところは一体何なのかと思いまして。

小野 なんか就活みたいな質問ですね(笑)。

――そうですね(笑)。

小野 なんですかね? 自分でこれと言えるものはないかもしれません。

――もし能力を数値化したとき、トーコさんはバランスの良いグラフを描くと思うんです。

小野 逆にどこか飛びぬけたものもない、みたいな。

――ですね。やっぱり一芸に秀でている人なんかの特徴は見ている人たちにも伝わりやすいと思うのですが、トーコさんのようにバランスが良くて水準も高い人って、ともすれば能力に見合った評価を受けられないこともあると思うんです。

小野 別に自分が過小評価されているとは思わないですけど、確かに特徴というか必殺ワザみたいなのはあったら良かったのになと思うこともあります。

――榛名さんで言うバレエ経験を生かしたダンスのような?

小野 はい。でもそれは頭でどうこう考えて手に入るものでもないし、持っている人の方が少ないから、最近では今ある手札でどう見せるかの方が大事かなと思っています。

――でも日産スタジアムでステージに立ったトーコさんは誰よりも特別なものを持っていると思わされました。

小野 私は何も持ってないです。だから必死でやるだけです。あの日もそうでした。

――ここまで日産スタジアムでのライブを中心にお話してきたのですが、今回は初のソロでのロングインタビューということでトーコさんのパーソナルな部分のお話も伺いたいと思っていまして。

小野 いや~、私はつまんない人間なので何も出てこないと思いますよ。さっきも言いましたけど、これといった特徴もないですし。

――そもそもどうしてアイドルになろうと思ったんですか?

小野 けっこう遡りますね。謙遜とかじゃなくて本当にそんなおもしろいことないですけど大丈夫ですか?

――大丈夫です。トーコさんの個人的な話はこれまであまり語られていないので聞きたい人たくさんいると思いますよ。トーコさんはノーコンのオープニングメンバーオーディションに合格して初期メンバーとして活動を開始されたわけですが、オーディションに応募された動機は何だったんでしょうか?

小野 動機って程大それたものはないです。それまでは本当に普通の人だったし、特に苦しい状況にいるっていうわけでもなかった。

――何もなかったと?

小野 何もなかったというとまた誤解されてしまうかもしれない。よく青春映画とかの主人公が言う『何もない自分』というわけではなくて。

――普通、という意味ですか?

小野 それもまたニュアンスで言うと違う意味も含まれる気がします。どこにでもいる、もまたちょっと違うし……。すいません、上手く言えないんですけど。

――なるほど。ではオーディションは何で知ったのですか?

小野 雑誌に載っていたのを見ました。当時、いろいろな雑誌に載っていた記憶があります。

――実際に応募しようと思った決め手とは?

小野 私たちのプロデューサー? でいいのかな? そのプロデューサーの方のことはそれ以前から存じ上げていて。

――ヒロサワさんですね。ヒロサワさんはunkNownを人気グループに育て上げたことで有名ですからね。トーコさんはunkNownのファンだったんですよね?

小野 はい。

――自分もunkNownみたいになりたいという思いなどもあったのでしょうか?

小野 そんなピンポイントでunkNownみたいになりたいっていうのはなかったです。もう雲の上過ぎて。私がオーディション受けたときにはもう東京ドームとかやられてましたし。

――個人的に目標としているグループやアーティストの方っていらっしゃるんですか?

小野 いません、って言うとなんか偉そうな感じになってしまうんですけど、ここで名前を出せるような人は特にはいません。

――なるほど。もう少し学生時代のことをお伺いしたいと思います。そもそもどんな学生だったんですか?

小野 どうでしょう? 自分で自分はこういう人間だったというのはあんまりわからないですけど、まあクラスの中心というわけではなかったです。

――どちらかと言うと目立たないグループだった? スクールカーストのあまり高くないような。

小野 最近その言葉よく聞きますよね。さっきも言った通り自分で自分はこんな奴だった、っていう明確な解答はないです。というのが答えって感じですかね。すみません、面倒くさいこと言って。

――いえいえ。言いたいことは伝わってきました。そんなトーコさんは実際に行動を起こしたわけですが、なぜ新人アイドルグループのオーディションに応募しようということになったのでしょうか?

小野 う~ん。また同じ答えの繰り返しになってしまいますけど、特に深い理由とかここで語れるようなことがあったわけじゃないんですよね。

――どんな些細なことでも構いませんよ。例えば真中彩雪さんに以前インタビューしたときにはご自身の辛い体験なんかも原動力になったとおっしゃっていました。

小野 はぁ……。でも本当にないんですよねぇ。

――やっぱり聞いていた通りトーコさんはこの手の話はあんまり好きじゃないんですね(笑)。

小野 あら、そんな話になっているんですか(笑)。でも本当になにもないんですよ。ライブとか好きだったし、ちょっと自分もやってみたいなってくらいだったので。何かやってみたかった、強いて言えばこれが答えですかね。

――わかりました。しつこくしてしまってすみません(笑)。そんなトーコさんは見事オーディションに合格し、ノーコンセプトガールのメンバーとなったわけですが、その後の道のりは決して順風満帆ということではなかったですよね。

小野 そうですかね? 十分恵まれていたなと自分では思っているんですけど。

――いやいやファンとしては歯がゆかったですよ!

小野 えっ、急にどうしたんですか(笑)。

――実は僕もかねてからトーコさんを応援しておりまして。

小野 ああ。そうだったのですか。ありがとうございます。

――初期の頃はいろいろ辛かったですよ……。個人的な話をしてしまってすみません。歌やダンスのパフォーマンスは申し分ない、ルックスだって他のメンバーと比べても全然引けを取ってなかったのにシングル選抜に選ばれなくて。

小野 いや~、なんかすみません(笑)。でもそういうもんですからね。何かがあるから選ばれるわけでも、何かがないから選ばれないわけでもないんですよね。

――それは歌やダンス、容姿などが秀でているからといって選ばれるわけではないし、かと言って劣っているからといって選ばれないというわけではないと?

小野 資質といったらそれまでですけど。歌が上手い、ダンスが上手いみたいな技術の話ではないことは確かです。私達はダンサーとか歌手じゃないので。

――ここで言うダンサーや歌手とアイドルの違いって何ですか?

小野 ただの競技の違いじゃないですかね。ダンサーや歌手の人の方がもちろんすごいですけど。

――アイドルも負けてない?

小野 よく聞かれますけどね。勝ち負けとかはないと思います。もちろん私たちも歌って踊ってはいますけど、その道のプロの方からしたら笑っちゃうような代物であることは間違いないと思います。球技という意味では同じだけどボールを使う点くらいしか共通点はない、みたいな感じですかね。

――歌やダンスといったことで評価されないとわかっていても、トーコさんは努力を続け自分の立ち位置を獲得し、どんどん上げていきました。

小野 獲得した感覚も上げていったっていう実感もないんですよね。数字とかの明確な指標がないのでどうしてそうなったか、逆にどうしてそうならなかったのかもわかりませんし。

――意識して取り組んだことなどはありますか?

小野 とにかくちゃんとやる、ってだけです。

――ちゃんとやる、とは具体的に言うとどういうことでしょうか?

小野 与えられたことを全力でやるみたいなことは当然ですし、それは当たり前の前提条件ですけど、変に穿ったりしないでやるってことですかね。またわかりにくいですよね。すみません。私、こういう話をあんまり上手くできないんですよね。

――わかります。でもそういうところもトーコさんの良いところでもあると思いますよ。

小野 あっ、あれです。良い格好しないみたいな感じです。

――取り繕わない?

小野 ちゃんとアイドルやるみたいな。こんな言い方するとメタっぽくなっちゃうけど。わかりやすく説明できてるかわからないんですけど、例えば普通とちょっと違うことすると簡単に注目集められたりするじゃないですか? あえて王道から外してみたり、マニアックなことをやってみたり。

――意識的にそういう方面を狙う方もいらっしゃいますね。

小野 意識的かどうかはどっちでもいいです。見てる人が決めることなので。そういうことすると簡単に目立てたりするかもしれないけど、偏ったイメージにもなってしまうと思うんです。それもひとつの道だとは思いますけど、どちらかと言うと私は多数派になりたい。最大公約数を目指したい質だから。

――そのために、ちゃんとやる?

小野 はい。あと欲張りかもしれないし、結果はまだ伴ってないかもしれないんですけどみんなの求められることをやりたい。

――みんなとはどういう人を指すのでしょうか?

小野 もう、みんなです。全員。私たちを好きな人も、好きじゃない人も。なんなら私のことに興味ない人も。理想ですけど。

――全ての人に愛されたいということですか?

小野 いや、ニュアンス的にはそうではなく、言い換えれば決まったターゲットだけを狙わないってことですかね。

――既存のファンだけでなく、潜在的にこれからファンになってくれる可能性のある人に向けた活動を大切にしていきたい?

小野 う~ん、既存とか潜在的とかではなくて。たぶん今私が言おうとしていることを文章にして誌面に載せるとまた印象が違ってしまうんですけど、ライブのときは来てくれるお客さんの皆さん、テレビに出ているときは視聴者の皆さん、握手会のときは来てくれる皆さんって感じですかね?

――なるほど。確かにトーコさんは偏ったことをせずに今の地位にまで昇り詰めたと思います。

小野 まあ、そもそもアイドル風情が何を偉そうに語っているんだって話ですけどね。

――トーコさんには自分なりのアイドルの理想像みたいなものがあるんですか?

小野 理想像は歌も踊りも上手くて話も面白くて見た目も良い。

――完璧ですね。

小野 理想ですから。まずはそれを目指さないと。その過程で自分の持っているものから逆算して特徴みたいなものがでてくると思うので。あと先天的な部分とかはどうしようもないところなので、そこをどうごまかすか。

――補うではなくごまかす?

小野 補うのは難しいと思います。どうにかして目線を違うところに逸らすしかない。

――僕にはそれほど目立った欠点なんかはないように思うんですけど。現に今や三作連続センターですし。

小野 じゃあ、目線逸らし成功ですね。

――あっ、まんまと術中に嵌められたわけですね(笑)。そもそもトーコさんには欠点とかコンプレックスってあるんですか?

小野 まあ、はい。でもこういうとき私たちみたいな人が率先してありますって言ってしまうとあんまり良い感じしないですよね。

――そういう風に受け取る人がいることは確かですね。

小野 だからどんなことを言ってもあんまり良いようにはならないんですよね。でもやっぱりコンプレックスとかって自分以外と比べると出てきてしまうものだと思うし、上を見ると切りがないですし。

――他のメンバーと比べてしまうことってあるんですか?

小野 まあ、ありますよね。ずっと行動を共にしているので。

――トーコさんから見てこのメンバーの、ここが羨ましいみたいなのはあるんですか?

小野 色々ありますよ。リンリンメイメイの若くて可愛いところとか!

――あれは反則です(笑)。

小野 でもここが、とか、誰より、と言ってしまうとなんだか同情を誘っているみたいになってしまいますからね。マイナスなことを言うと、どうしてもそんなことないよって言って欲しい奴に思われてしまいますから。

――それもアイドルを応援するひとつの形かと思います。

小野 う~ん。でもつまんないじゃないですか、そればっかりだと。あと言ってもしょうがないし、やるしかないし。アイドルといえばまあ何よりまず可愛いが求められているのは当然で、その可愛いから逃げないでちゃんとやるって感じですかね。

――なるほど。少しトーコさんのこだわりみたいなものが垣間見えた気がします。

小野 ちょっと真面目過ぎましたかね。

――名言でした。今の人気の秘密が少し解けた気がします。

小野 太文字で見出しにでもしてください(笑)。じゃあ後半はもっとふざけた話をしていきましょう。

――いや、まだもうちょっと真面目な話を聞かせてください(笑)。でもそんなところがトーコさんがファンから支持されているところでもあるし、グループ加入当初はなかなか理解されなくて苦労した原因でもありますね。同い年で普段から仲の良い榛名さんが評価を上げるなかで葛藤などはなかったのですか?

小野 榛名は客観的に見ても、主観的に見ても過小評価されることはあっても過大評価位されるような子じゃないので、葛藤とかはあんまりないですね。

――仲の良いマリーさんに先を越されているような気持ちや焦りみたいなものもまったく?

小野 ここであるって答えられたらドラマチックなんですけどね。

――確かにそこで何らかの反骨心が芽生えて競争して今の立ち位置を手に入れたとするならわかりやすい物語になりますけど、そうならないのがトーコさんらしいと思います。

小野 まあ、そもそもノーコンセプトガールなので(笑)。

――そうでした(笑)。だからこそ僕たちみたいな人間が勝手にあれやこれや考えられるから面白いんです。

小野 何か考えてられるんですか?

――例えばセンターとして真中彩雪さんとトーコさんのコントラストなんかも職業柄すごく興味があります。

小野 そろそろなんか変わったことやりたいってなって適当に私を選んだだけかもしれませんよ。

――いやいや、そんな重要なことを適当には選ばないでしょう。でも僕みたいに傍から見てる人間からするとトーコさんってなんだか生きづらそうに感じるんです。それはいわゆるメンヘラとか拗らせではなく、真っ当であるが故の苦悩というか。

小野 おっ。また私の内面をえぐってきますか?

――いきますよ(笑)。今回はせっかくソロで話を聞けるチャンスなので小野透子という人間をこれまでにないくらい深く掘り下げてやろうと思っています。

小野 さっきも言いましたけど、何にもないですよ、私。

――今やその地位を確固たるものにしたトーコさんですが、先ほどセンターというのはあくまでポジションということでしたが。

小野 それはライブにおいては、です。やっぱり特別なものっていう意識はあります。それぞれの場所に意味はあるといっても確実に上下は存在しますから。

――やっぱり立場の違いが存在するんですね。

小野 グループで何かをやるってなったときに与えられる機会は全然違いますね。ただそれも世の中の人からしたらどうでもいいことでもある。

――確かにノーコンの知名度は今や全国区ですが、個人名や楽曲についての認知度はまだまだのように感じます。

小野 全然ですよね。たぶん個人だと知られているのは榛名とか真中くらい。でも一人も知らない人の方が多い。

――いや、その二人にトーコさんも含まれると思います。あと最近では山田さんなんかもよくファッション誌なんかで拝見しますね。アイドルってある種クローズドなカルチャーという側面がありますからね。

小野 そうなんです。それでも日産スタジアムを満員にできてしまう。このギャップは常に意識しないといけないと思います。

――でもそれはアイドルに限った話ではないんですよね。最近ではどのジャンルも好きな人はすごく好きだし継続的に一つのものを追いかけているんだけど、興味のないことは本当に知らないという人ばかりという状況になっています。うちの雑誌的な話をすると夏フェスなんかでそんな現象が目立っています。

小野 それで良い面とかもあるとは思うんですけど、私達はまだその段階に入ったらまずいというか。今の段階でコアなファンの人だけを重視してしまうのはよろしくない。

――繰り返しになりますが、やっぱりもっと多くの人に支持されたいと?

小野 そういう風に言ってしまうと元も子もないんですけど。まあそうですね。単純にファンになってくれる人の数はまだまだ増やしていきたいです。真面目な話になってしまうけど、今では現代アイドルっていう存在が認知されてきて、アイドル自身もある程度取れるスタンスも広がってきたと思うんです。

――順番に聞かせてください。現代アイドルとは?

小野 そんな深い意味はないですよ。今、活動しているアイドルという意味です。ライブしたり握手会したりする。

――ではスタンスとは?

小野 どこに向けてやるかですね。

――王道を目指すか、もしくはサブカル的な層を狙うか。

小野 また今風の言葉出てきましたね。でもそんな感じです。まあ自分たちで全部決めることはできませんが。ある程度的を絞った方がもしかしたら大きな効果を得られるかもしれないとかいろいろありますよね。

――確かにマニアックなサブカル層に向けて発信するのは今の時代の常套手段のひとつではあります。SNSなどを利用して。

小野 それで出てきたバンドとかもいますもんね。

――ネットで影響力のある人の発言は今やどんな媒体よりも宣伝効果があります。

小野 そんなもんですかね。あんまりそっちはわかんないです。

――トーコさんはエゴサーチとかはされないんですか?

小野 自分の名前で検索するやつですよね? しないです。

――お話聞いていて、今のシーンとかを分析して俯瞰で見られているという印象があったのでちょっと意外です。ネットでご自身やグループについて調べたりしないのですか?

小野 はい。

――それは何か理由が?

小野 シンプルに興味がないからです。こんな言い方あれですけど。

――批判などは気にしないタイプ?

小野 いや、言ってくださることはありがたいですけど、そういうところで言われることは本当かどうかもわからないし。良い意見も含めてですけど。

――今は誰でもネットの世界で意見や批評をドロップ出来ますし、どんな人にレコメンデーションしてもらうかは大きな意味を持ちます。

小野 まあ、それはやってる方としてはどうにもできないことなので。

――確かにご本人からしたら誰にどんな風に何を言われるのかは操作できないですもんね。今はコミュニティがいくつも分かれていて、あるコミュニティでは評価されているものでも別のコミュニティではまったく評価されていないなんてことも珍しくないですから難しいですね。それも踏まえてどこに向けてやるかを選択しなければいけないと?

小野 また逆説的な言い方になってしまうんですけど、どこにも向けないことが大切かなと。さっきの話とも重なるんですけど。

――狙ったターゲットを定めないでマスに向けてということですね。それは一番難しい道かもしれません。

小野 でもグループアイドルでテレビにもいっぱい出て大きな会場でライブするなら当然というかそうしなきゃいけない。あとアイドルは音楽性とか活動の指針を定めなくてもいけるので。

――ある意味、今一番自由な存在がアイドルかもしれませんね。そうやって当然売れること、たくさんの人に応援されることを目指すのだと思いますが、どうしてもその過程で離れていってしまう人も出てきてしまいます。

小野 売れたら変わった、とかですか?

――そうです。今まで小さい会場でライブしていたのがアリーナクラスの大きな会場になって物理的にも精神的にも距離が生まれてしまったり。

小野 それでも信じて付いてきて欲しいです、とか言えたら一〇〇点なんでしょうけど。

――そうではない?

小野 いやそれもありますけど、やっぱりそう思われてしまう時点でだめですよね。自分では変わらずやっているつもりでも外から見てどこかが変化してしまっているならこっちが気を付けないといけないし。小さい会場でやってたこととか昔はできていたことはずっとできないといけないと思います。

――それは途方もなく困難なことです。

小野 それ言い出してしまうと全部困難なので(笑)。まあ小難しいこと抜きにすれば飽きずにやるってことです。

――飽きずに?

小野 これは最近わかってきたことなんですけど、やってる方と見てる方では感じ方が違うんです。例えばライブでやる曲にしても私たちはレッスンとか含めてもう何回もやってるから飽きてきてしまうこともあるんです。それでライブではちょっと変わった演出をつけたりする時があるんですけど、それはあんまり求められていないんです。

――確かに変にアレンジされるよりは普通にパフォーマンスして欲しいかも。

小野 なんかファンの人の声みたいになってますよ(笑)。でもそういうことなんですよね。髪型とかもすぐ変えたくたってしまうものなんですけど。まあお前が何言ってんだっていう(笑)。

――自分でツッコんでくれてありがとうございます(笑)。変わらないことが重要ということですが、どうしても変わってしまうこともあると思います。

小野 はい。

――アイドルとして今は順調にキャリアアップされているトーコさんですがその先については何かお考えなんでしょうか?

小野 あー、考えてないです。

――卒業後や近い将来のことなんかも?

小野 はい。すみませんご期待に添えなくて。

――いや、やっぱりこういうことも聞いておかないとと思いまして。

小野 まあ、そうですよね。その質問を聞かれたらいつも同じ答えになってしまうんですけど、本当に何も考えていないです。

――女優や歌手、モデルになりたいと答える人が多いですよね。

小野 でもそれってみんな多かれ少なかれなりたい職業ですもんね。大きく括ったら小学校の卒業文集と同じ感じ。

――お花屋さんとかケーキ屋さんとか(笑)。

小野 あとアイドルも(笑)。でも真面目な話、本気でそっちの方向に進みたいなら今の時点でアイドルやってたら駄目ですよね。

――でもアイドルにしかできない経験が後々生かされることもあるのかもしれません。

小野 いや、ないです。

――言い切りますね(笑)。

小野 ここはあえて言い切ります。何になったとしても元アイドルというのはなくならないから。今の世の中なんか特に。それが悪いってわけじゃないですけど。そういう特別な才能を持った人がたくさんいるような世界は努力したらとか経験があるからとかはあんまり関係ないような気がします。

――もし別の目指したい道が見つかったらすぐにでもアイドルは卒業した方がいい?

小野 卒業した方がいいかどうかはわかりません。自分は今までそんな風に思ったことがないですし、見送る側にしかなったことがないので。

――そういうときはどういう心境なんですか?

小野 いろいろです。

――なるほど。トーコさんはその「元アイドル」になったときのことはどうですか? やっぱり考えていない?

小野 う~ん、少なくともおとなしくしておこうとは心に誓っています。

――おとなしく?

小野 はい。今更アイドルみたいなこと言いますけど、今応援してくれている人たちが残念な思いをしないように。どうなるかはまったくわからないけど、暴露とかは絶対しないです(笑)。まあしないも何も元からないですけどね。

――やはりアイドルはそれだけルールも多いですから縛られていた鎖が外れたときは言いたくなるんでしょうね。

小野 恋愛禁止とかの話に持っていこうとしてます?

――ばれましたか(笑)。

小野 まあパターンですから。アイドルの恋愛禁止についてどう思われますか?

――えっ! 逆質問ですか!?

小野 はい(笑)。

――そうですね。個人の意見を言わせてもらうと、人として自然な感情ですし、それを禁止するのはやはり少し理不尽にも思いますね。ましてやそれで解雇とか。人を好きになる感情とか遊びたい気持ちを取り上げて清く正しくしていろ、で俺は勝手に好きになったり嫌いになったりするから、とかは人権を否定した暴力的な思想だと思います。少なくとも年齢的にも十分な大人になった女性が自分の責任で自分の稼いだお金で自由に遊ぶ権利はあってしかるべきだと思いますね。

小野 過去になんかあったんですか?

――そういうわけでは。

小野 お優しいんですね。

――いやいや。でもそういう風に考えてる人の方が多いと思います。やっぱりあのルールはどこかおかしいですよ。

小野 まあでもそれをわかって入ってますからね。話が違うってわけじゃない。

――ルールに納得はしていると?

小野 はい。だってバイトの面接で土日入れるか聞かれて、入れますって言ったから採用されてるのに、土日にシフト入れられて文句言うのはおかしいじゃないですか?

――逆に文句言ったらクビですね。

小野 そう、だからそんなもんです。正直、周りの人がギャーギャー言う程、私自身はそんなに重要視してない。

――ぶっちゃけ恋愛したいとか思わないんですか?

小野 恋愛したい状態って何ですか?

――いや、なんか猛烈に人肌恋しかったり、寂しかったり。

小野 そんなときあるんですか?

――いや、僕じゃなくて……。

小野 でしょう? そんな人、実はいないんですよ。思いが止まらないんじゃなくて止める気がないだけなんですよ。

――でも恋をすると女の子は綺麗になるなんてことも……。

小野 それ本気で言ってますか?

――えっ! いや、違うんですか?

小野 そんな話、それこそオカルトの一種ですよ。

――はあ……。

小野 こんなこと言うと次は「お前は本当に心から人を好きになったことがない」とか言われますけど、それに対しては「ふーん」って感じです。

――なんだか少し危ない方向になってきたので話を変えまして……。日産スタジアムでのライブを終えてこれからのノーコンについて伺います。近い目標などはあるのでしょうか?

小野 とりあえずライブはやっていきたいです。最近では年間のスケジュールがなんとなく固まってきているので、それに向けて活動していきたい。日産スタジアムはコンディションのいい状態でまたやりたいですね。

――どんなライブにしたいとかはあるんですか?

小野 具体的にどんなライブというのはありません。極論を言ってしまうとアイドルのライブは定番の曲や盛り上がる曲を今まで通りにきちんとやれば成立してしまいます。求められているものもそれに近い。だからそれを踏まえたうえでどうやって新しい曲や新しい見せ方をするのかを毎回更新しないといけない。曲や演出について私たちができることは限られているので、パフォーマンスとかあとメンタルの部分を伸ばしていけたら。

――それは先ほどからトーコさんがおっしゃっていることに通じますね。

小野 はい。あとやっぱり飽きて自己満足や内輪だけが楽しいような変なことをやっては駄目です。それでお客さんを置いていってしまうのは違うと思います。バンドの人とかと違ってアイドルは自己表現の場ではないので。

――ではどんな場でしょうか?

小野 綺麗事と取られる覚悟で言いますけど、お客さんに満足してもらうためだけの場です。それだけでいい。言いたいことなんてない。主張したいことなんてない。ライブの二時間ならその二時間、ただただ楽しければそれでいい。込められたメッセージとかサプライズとかもいらない。

――それでステージに立つトーコさんは満足なんでしょうか?

小野 満足する、しないはないです。お客さんがどう感じるのか、なので。どこかの政治家の失言みたいなことを言うと、私たちは楽しませるための機械でいいんです。

――そうなってくるとトーコさんが活動をやっていくモチベーションは何なのでしょうか?

小野 私は自分が具体的にこんなことをやりたいってことがない人間だったんです。オーディションの話の時に少し言いましたけど。でもとにかく何かやりたいなという漠然とした思いはあって。その思いがアイドルで満たされているのでそれがモチベーションになってるのかもしれません。

――もしかして、それがアイドルになった理由では?

小野 結果的にはそうですね。

――今日のインタビューで初めてトーコさんの核心に迫れた気がします。

小野 じゃあもうちょっと核心に迫ると誰かの笑顔を見ていたいんです。

――ほお!

小野 自分にやりたいことがなかったからなれたアイドルというのは、誰かの笑顔を作れる存在だと知りました。そしてそれはとても嬉しかったです。自分にやりたいことはないくせに何かをやりたいなんて傲慢な動機で辿りついた場所なので、どうせなら誰かのためになることがしたいなんて思いました。

――……感動しました。

小野 嘘でしょ(笑)。そんな大げさな。まあ戯言ですので……。

――トーコさんって本心をあまり見せないタイプだと思っていたのでそんなお話が聞けて感激しました。

小野 やめてください(笑)。ただの面倒くさくてイタい奴ですよ。

――トーコさんは間違いなくたくさんの人を笑顔にしていますよ。

小野 いやいや、私なんてそんな。でも笑える世の中にしている人はやっぱり一番偉いと思います。その一端でも担えたらいいと思います。

――それがトーコさんの原動力なのかもしれませんね。いい話が聞けました。

小野 良かったです。

――それでは新曲についても聞かせてください。ノーコンの楽曲はいつも制作陣が豪華ですが今回は百尺玉の日出吉貫太郎さんが提供されています。

小野 毎回、いろんな凄い人に楽曲を制作してもらえることは、それこそノーコンの強みだと思います。

――楽曲を聞かれたときの率直な感想を聞かせてください。

小野 曲の始まりのメロディがすごく綺麗で、徐々に明るくになっていく感じがすごくいいなと思いました。

――まるでこの夏、辛い境遇だったトーコさんの復活を祝福するかのような美しい曲を初めて聞いたときは鳥肌が止まりませんでした。

小野 個人的に百尺玉の音楽は好きで昔から聞いていて、良い意味で全然違う感じだったのでびっくりしました。

――確かに百尺玉の音楽性を考えると意外ですよね。僕も個人的に百尺玉のファンだったので今回の件には驚きました。

小野 ですね。まさかアイドルに曲を書いてくれるなんて思いませんでした。

――日出吉さんには何度かインタビューさせてもらったことがあるんですけど、あの人もどこか破滅的というか刹那主義なところもあるので、そういう面では今日のトーコさんのお話ともリンクする部分がありますね。日出吉さんも長い休止期間を経て今年カムバックを果たしましたし。

小野 この雑誌で復活ライブのレポートを読みましたよ。

――本当ですか? ありがとうございます。あれ書いたの僕なんです(笑)。

小野 そうですか。でも本当に毎回、いい曲を貰えるので感謝しています。

――今回の曲も含め、ノーコンは新しい曲を発表する度に耳の肥えたリスナーの方からも高い評価を受けています。

小野 ありがたいです。

――しかし、一方で老若男女誰もが知っている曲というのはまだないように思います。トーコさんが先程おっしゃっていたように王道を目指すなら誰もが口ずさめるようなヒット曲が必要になってくると思うのですが。

小野 もしそんな曲ができるならあるに越したことはないです。でもそんな曲は狙って作れるものではないんじゃないかなと思います。以前まではいわゆるこのグループと言えばこれという誰もが知っている代表曲を持たないといけないと思っていたこともありました。

――今はそうじゃない?

小野 もちろん今もありますけど、逆に最近で誰もが歌える曲って何がありますか?

――確かに数える程しかありませんね。CDが売れない時代と言われて久しいですし、音楽を聞く人の数が減っていますからね。

小野 そういうのは奇跡みたいな出来事がいくつも重なって生まれるものだし、間違っても狙って作れるものではない。でもどこでそんなことが生まれるかわからないから常にやり続けないとだめ。

――確かにそんな曲を持っていないことが当たり前の世の中ですもんね。

小野 でも絶対ないといけないような曲もあって。

――それはどんな?

小野 ライブでアクセントをつけられる曲というか、その日のハイライトで必ず歌われるような、そのグループのアンセムみたいな曲は不可欠だと思います。ファンになってもらうための曲。

――ライブの定番曲と言われるものですね。ノーコンでは『透明少女になりたい』とかがそうですね。

小野 私たちに興味を持ってもらって、検索してくれた人が早い段階で行き着くような曲がそうだと思います。

――僕もノーコンを知ってから透明少女のライブ動画を見て興味を持ちました。

小野 今回の『Paint it, colorful!』はそうなっていくかもしれないと初めて聞いた時に感じました。ライブではまだ一回しかやってないけど実際歌ってみてもそう感じました。

――ライブ映えしますし、生のオーケストラと一緒にパフォーマンスするのも見てみたくなりました。

小野 できたらいいですね。

――センターも三作目になりましたが心境の変化などはありますか?

小野 いやまだまだ緊張するというか、座りの悪い感じはなくなりませんね。

――真中さんが「みんなが守りたくなるようなセンター」だとしたらトーコさんは「自ら切り開くセンター」だと思うんです。

小野 そんな風に言ってもらえるのはありがたいですけど、全然ですよ。目の前のことをこなすので精一杯だったので。でも最近はちょっとだけ慣れてきました。

――それは見ていても感じます。やっぱりトーコさんと真中さんと榛名さんの並びはバランスが良いですし。

小野 まあシルエット的に真中ショート、榛名ポニーテール、私ロングで見分けもつき安かったですもんね。切っちゃいましたけど。

――並びと見た目が多少変わっても最強のフロントマンであることには変わらないです。個性の違う三人にはまったく違った魅力があるし、何よりそれぞれに違った物語を感じます。

小野 少なくとも私には物語とかはないですよ。トラウマになるような辛い過去とかないですし、これまでも劇的な出来事なんてなかったですし。

――そうですか? グループに入ってからのストーリーは惹きつけられるものがたくさんありますし、どことなく影の部分というか、心に闇を抱えている気もしないでもないのですが……。

小野 いや、そんなのないですよ(笑)。病んでるとかまったくないし、そういう人を面倒くさいと思ってしまう方だし。

――でもなんだか話を伺っていると、こだわりというか自分にすごく厳しい印象を受けるんですよ。

小野 そうですか? 自分ではまったくわからないです。

――潔癖症っぽい。

小野 たまに言われますけど、全然違うんですよ。そもそも潔癖症って言っている人に矛盾を感じるタイプです。

――と言うと?

小野 例えば潔癖症の人ってペットボトルを回し飲みできないとか大人数で一つの鍋を食べられないとか言うじゃないですか? で、それって突き詰めると誰かの唾液が嫌ってことになると思うんです。人の唾液イコール汚いみたいな。

――そうですね。

小野 じゃあ自分の唾液はいいんだ、自分の唾液は綺麗だと思ってるんだって思ってしまうんです。成分一緒なのに。

――なんだか複雑ですね。

小野 この話するといつもこんな空気になります(笑)。まあそんな感じの自分ルールみたいなのは多いって言われることはありますね。私はただ矛盾していることに対して疑問を持っているだけなんですけど。

――その話はもっと聞きたいのですが時間が迫ってきたのでまとめさせてください(笑)。先日のライブで新曲を歌い終わった後、トーコさんがファンのみなさんへ復帰の報告をされたとき、最後に「私の背中を押してください」という言葉を残されていたのがとても印象に残りました。あの言葉はどういった心境から発されたのでしょうか?

小野 あの言葉は用意していた言葉ではなく、なんかあの場で自然と出てきたんです。自分では後から何を言ったか覚えていなかったくらいで。

――個人的にあの言葉は少し意外だったというか、これまでのトーコさんらしくないなという感想を持ちました。

小野 どうなんですかね? 珍しくアイドルっぽいこと言ったなとは思いましたけど。

――今までブログやコメントでそういうことをあまり言わなかったトーコさんなのでファンの皆さんは特に驚かれたと思います。

小野 まあブログとかであんまりマイナスなことを書いてもおもしろくないじゃないですか?

――驚いた反面、すごく嬉しいとも思いました。やっぱり応援している側としてはそういう面も見せて欲しいと思います。

小野 今まではあんまりそういう面を出すのは鬱陶しいかなって思ってたんですけど、ファンの人が求めてくれるものを提供するのも私たちの役目かなという風には考えるようになりました。とりあえず出来たものだけじゃなくて、出来るまでの過程とか出来なかったこととかも見せる必要もあるのかなって。

――今はアイドルに限らず、作り手と受け手が物語を共有することは不可欠ですから。そういう部分も見せなければいけないというのは大変なことかもしれませんけど、確かに大きな需要は存在しますからね。それこそトーコさんの求められていることをちゃんとやるということに繋がると思います。

小野 今まで応援されっぱなしだったので何か恩返しできたら。

――これからもノーコンとトーコさんには期待しています。僕が思う小野透子とは世界を変える人だと思っていますので。

小野 いやいや、それは言いすぎです。

――少なくとも僕はノーコンに出会ってトーコさんのことを知っていくうちに世界が変わりました。

小野 ありがとうございます。私みたいなものには世界そのものを変える力はないですけど、誰かの世界を少し楽しくて笑えるものに変えることはもしかしたらできるかもしれないので頑張ります。

――今日はありがとうございました。

小野 ありがとうございました。


 そう言って彼女は夏の終わりのライブでも見せてくれたような眩しい笑顔を残して去っていった。

今回のロングインタビューはとても有意義なものになったように思う。内情のことを暴露すると、実は本誌では過去にも小野透子へのインタビューを試みていたのだが、互いのタイミングが合わず立ち消えとなってしまっていた。その少し後、個人的に小野とコンタクトを取れる機会がありインタビューをしたいと思っている旨を伝えると、あまりいい顔をしていなかった。そんな小野が今回、心の奥底にとどめていたことを包み隠さず語ってくれたことに僕は驚いた。と同時にあの凄まじい夜に、胸に広がっていた靄がパッと晴れていくような感覚に再び襲われていた。

 小野との別れ際、僕は直接その思いをぶつけてみた。

「トーコさん、やっぱり何か変わりましたね」

 僕の言葉を聞いた小野はニヤりと笑ってこう答えた。

「なんにもないですよ」

 そう言い残して去って行く彼女を僕は呼び止めなかった。彼女も振り返りはしなかった。

いいさ。そのまま進めば。早くスターになってしまえ。そして僕の、この、しょうもないクソみたいな世界を変えてくれたら、それでいい。色鮮やかに染め上げろ。

 もし流行りの四つ打ちロックやEDMに飽きてきたリスナーがいたら僕は迷わずノーコンセプトガールを教えてあげるだろう。そうすればきっと、君の世界も変わるはずさ。




(9月某日都内某所にて)


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