ave ― 鳥 ―
破れたガラス窓から差し込む朝日が、埃まみれの地面に幾何学模様を描いている。
昨夜来の湿っぽい冷気がかすかに緩み始め、夜が明けたことを肌で知った。
夜中に幾度も目を覚ました。
愛用の寝袋。この分厚いシェルですら、この地方の晩秋の冷え込みには抗しきれないらしい。
貧乏旅に栄養不足が追い打ちを掛けて、疲労が抜けきらない。寝袋にくるまったままの身体を芋虫の様にモゾモゾと動かせて、埃っぽい地面を這う。
こわばった身体を窓からの朝日に晒して、微かな温もりを暫時むさぼる。
ここは、街から5キロ程離れた荒野に打ち捨てられた駅舎。
建設中に放棄されたのだろうか。構内にはまだ建築資材や工具類が散乱したまま、埃を被っている。
どういった理由なのか知る由もないが、旅の羊飼いから教えてもらったこの場所は、確かに良い滞在場所だった。
だが、流石に野宿には厳しい季節になりつつある。
数日前に野犬の群れを見掛けたし、そろそろ次の場所へ移動するタイミングかも知れない。
――――――
寝袋から腕を伸ばして、バックパックのポケットから林檎を一つ取り出した。
ナイフで皮ごと削って、口に運ぶ。
強い酸味に顔をしかめるが、町の教会で話し掛けてきた中年の女性が恵んでくれたものだ。
彼女の人の良さそうな笑顔が思い出されて、口元が少し緩んだ。
寝袋をバックパックに縛りつけて、朝焼けの荒野に踏み出す。
数羽の鳥が、目の前の繁みから飛び立っていった。
白銀と濃紺に染め分けられた細身の躯体。菱形の尾翼がタキシードを連想させて優美だった。
この地方に入ってから見掛ける様になったが、何という名の鳥だろうか。
目を凝らすと、荒野の向こうへ消えていく大型トラックが見えた。
国道が近いことは、地図で確認してある。
ジャケットのジッパーを首元まで引き上げると、褐色に枯れた草むらを縫う細道をたどり始めた。