2,宇宙人の健康診断。 これで俺も魔法使いだ!
ところがどっこい世の中は、現在不況の真っ只中さ! なんせ日本は小さな島国。 物を作って売ろうにも、海外の国の殆どがレプトによって支配されている。 レプトは地球の技術の軽く1万年位先を行っている。 そんな奴らから見たら笑えるくらい低レベルの商品を、まして嫌ってる相手から買う訳がない。 それ以前に交渉に行ったら食い殺される。 それはHESにも当てはまるわけで。 彼らに対してセールスに行った豪の者達は彼らに苦笑いされて全員お引き取りをお願いされたそうな。
我が国日本はただでさえ以前から不況だったのに、これでトドメを刺されて企業の倒産が相次いだ。 因みに俺の働いていた会社は真っ先に潰れたぜ! ザマア!
それでも生き残る職種や企業はある訳で。 そうしたところに就職面接に行っているけれど求人倍率が物凄いことに成っていた。 一つの会社に千人単位で人が殺到しているのだ。 これじゃあ受かるより落ちる確率の方が高い。 アルバイトも同様。
唯一の救いはそうした貧困者に対して国を通じてHESから生活保護金が降りている。 これと両親の年金から捻出される金の援助でなんとか凌いでいるがそれでも現状かなり厳しい。 物価が物凄く高いんだよねえ……。 なんせ物を買おうにも売るのと同じ理由で必要な物が海外から入って来ない。 当然、品不足になり物の値段が跳ね上がる。 HSE側から援助として提供される物資は地球にない物が多く直ぐには扱えない物ばかり。 石油や原発に代わるエネルギーもインフラが整うまで時間が掛かる。 八方塞がりだよ……。
それでも腐らずHESから支給された地球製PCの性能を底上げする言語翻訳機能付きの装置を俺個人所有のPC(スマホは持ってない)を使ってネットで色々調べまくって勉強しているが如何ともしがたい。 そもそも俺の低レベルの頭脳では時間が物凄く掛かるのは当然の事。 だが高性能な姉や弟はとっくの昔に勉強を終え、弟に至ってはHES関連の仕事に従事している。 本当に凄いわ。 血の繋がりがあるのか疑ってしまうよ。
そんなこんなでやって来ました健康診断。
俺は両親と一緒に健康診断が行われる会場に来た。 受付で手続きを済ませて番号札を受け取る。 この健康診断で健康面に問題がなければその場でマナ器官とやらが解放される。 健康に問題があればやはりその場で治療が行われ後日再び健康診断が行われる。 マナ器官が開放されたら生体機能が強化され病気になり難く、寿命が千年近く伸びるそうな。 病気になり難くなるのは助かる。 それに魔法が使える様になれば現状が打破できるかもしれないと淡い期待を胸に秘め。
「はい、では始めます。 体の力を抜いて下さい」
目の前のエノスの男性医師は見た目がアクセサリーの翻訳機を耳に付け、聴診器の様な医療機器を片手に持ち、それを立ったままの俺に向けながら空中に浮かぶモニターを確認する。 男性医師の種族はエルフだ。 エルフだけにイケメンでそれだけで羨ましい。 だって俺、見た目がぽっちゃりメガネ君だし、もう四十五過ぎたおっさんだし。 溜息しか出ないよ……。
エノスはマナ器官やフォース技術がHES連盟の中で最も発達した人類型の知的生命体だ。 故に今回のマナ開放処置の担当に決まった。
マナ器官というのは宇宙に満ちるマナと呼ばれる生命や物質の素となる根源エネルギーを溜め込む目に見えない体内にある器官の事だ。
本来、生命体なら必ず生まれながらに持ち、誰もがマナの恩恵に預かれる。 例え、フォースという魔法の力に適性がなく使えなくても。
だが、地球人はマナが扱えなかった。 それは人類の創造主であるレプトが封じていたからだ。 レプトは遥か太古の地球で爬虫類を遺伝子操作して人類を誕生させた。 奴隷として。 奴隷に余計な力は必要ない。 だから、レプトは遺伝子操作の段階でマナ器官が使えないよう封印した。
そう、レプトこそが人類創造の神であったのだ。
だが宇宙にはレプト以外にも高い知能と技術力を有した知的生命体が存在した。 その代表格がヒュノス、エノス、サノスだ。 彼らはレプト率いるRL帝国と反目し、時に激戦を繰り広げた。 地球にも以前から訪れ、人類へ干渉しレプトの影響力を排除しようとしていた。 しかし、レプトの影響を排除しきれず、地球がレプトによって完全に支配される前に打って出た。 それが人類に対して要求したHES連盟への加盟要請だ。
此処まで話を聞いたらHES連盟は”人道的見地から地球人を救済してくれる良い宇宙人”と映るだろうが実はそうではない。 HESはただ単に大嫌いなレプトに対して盛大な嫌がらせをしたかっただけなのだ。 これはHESの代表者が加盟要請のプレゼンの時に地球人に対して話した内容の中に含まれていた。 ボランティアで自分達の命を危険に晒してまで他所様を救う言い分より此方の理由の方が俺は素直に納得出来た。
「……ふむ。 体に異常はありませんね。 健康そのものです。 では、マナ器官開放処置に移ります。 今からナノマシンを投与しますので早ければ一日で、遅くとも一週間でマナ器官が使えるよになります。 役目を終えたナノマシンは排尿や排便と一緒に体外に全て排泄されますので体内に残留する事はありません。 勿論、健康に悪影響はありませんのでご安心下さい」
エルフの男性医師は説明を終えると自身の横に積んである大きなプラスチック製の箱から金属カバーで保護された透明な細長い筒状の物を取り出した。 筒は大人の人差し指二本分位の大きさと長さだ。 その中には半透明な緑色の液体が入っていた。
「では、服の袖を巻くて右腕を出して下さい」
俺は指示通り袖を巻くって肌を晒し、右腕をエルフ医師の前に差し出す。 エルフ医師は筒の先端を俺の腕に押し当てた。 一瞬チクッと痛みを感じたが直ぐに痛みが引いていく。 細長い筒に入っていた中の半透明の緑色の液体が一滴残らず腕から体に流し込まれたのを確認したエルフ医師は筒を右腕から離した。
「はい、終了です。 後日、役所からマナやフォースの取扱いに関する講習会の案内が届きますので必ず受講して下さい。 お疲れ様でした」
「有難うございました」
エルフ医師の処置の終わりを告げる声と共に俺は礼を言い立ち去ろうとした直後。
「あれ?」
俺の視界が暗転、プッツリと意識が途切れた。