21,温泉だよ! 露天風呂だよ! 混浴だよ!
昨日はサキュロスと日本の知られざる驚愕の真実を知った一日。
そして――
「それではお父様、お母様。 旦那様とノア様を大和村までご案内致してきますわ」
「お祖父様、お祖母様、これより夫であるアスカ様を終生支えたいと思います。 ……それと、余りご無理はなさらぬように」
「えーと、お祖母ちゃん達、お祖父ちゃんに手加減してあげてね……」
俺に行き成り三人のお嫁さんが出来た一日でもあった。
そして、その諸悪の元凶のニニギさんは、何故か頬がコケて足元がフラつき弱りきった姿ながらも俺達の見送り来てくれたのだが――
「また来てね! 待ってるからね! いや、ホントに必ず来てね! 来ないと儂、死んじゃうからね!」
俺にまた屋敷に訪れるよう必死の形相で訴えていた。 その後、サクヤさん、イワナガさんの二人の若くて美しい二人の奥さんに両脇を抱えられ、玄関から中に引き摺られる姿は仔牛が売られて行く姿を歌った歌詞を連想させられた。
ああ、そうそう。 俺とノアは名実共にサキュロスになった事で、いつでも母星に来られるように許可が降りた。
「ほな行こか、旦さん」
「そうだな」
俺はニニギさんの事は早々に頭から追い出し、今日の目的地である地球人が住むと言う大和村に赴く事になった。
と、言うよりも行くようにニニギさんにお願いされてしまったのだ。
『あの娘達は不憫でね。 マナに目覚めてしまったり、フォースが使えたりして周りの人達から迫害されてね。 それを儂らが助けたの。 久しぶりに同郷の人にも会いたいだろうから会いに行ってあげて。 ああ、そうそう。 日本人以外の娘達も居るからその娘達とも仲良くしてあげてね。 宿の予約は此方でしておくから。 新婚旅行も兼ねて楽しんでおいで~』
そんな風にお願いされたら会いに行かない訳にもいかない。 それに昔の時代に生まれた人達にも興味がある。 会って話も聞いてみたいし。
ああ、そうそう。 サキュロスでは結婚式は無いけど新婚旅行はあるそうだ。 理由は一夫多妻制なので後から後からお嫁さんが出来る度に結婚式を上げていたらキリがないし経済的負担も大きいから。 新婚旅行は旅行次いでに遠方にいる両親や親類、知り合いに相手を紹介する意味があるのだとか。
なので、新婚旅行の次いでに大和村に行く事が決まった。
「所でアスカさん、いい加減にわたくし達にさん付けするのはよして頂けませんか? その……他人行儀過ぎて結婚した実感が湧きませんわ」
「確かに。 夫婦なのにお互いさん付けは可怪しいですね」
「そうだよ、旦那様! ユリナってちゃんと呼んで下さい!」
「そうです――そうだな。 それじゃあ、俺も覚と呼んでくれ」
「「「分か(りましたわ)(ました)(ったよ!)」」」
三人共嬉しそうに俺の名前を呼ぶのだが。
「サトル様♡」
「サトル♡」
「サトル君♡」
「旦さん♡」
甘えた声で俺の名前を呼ぶ度に腕を絡めたり、手を繋いだり、後ろから抱き付いたりするのは歩き難いので勘弁して欲しい。 そしてノア。 ちゃっかり混じっているのはさすがだな。
☆
サキュロスで一般的な乗り物一つ、空飛ぶ車に乗って一時間半。 夕刻前に大和村に到着した、のは良いのだが……
「大和村って言うからてっきり純和風の家が立ち並んでいるものだと思ってたんだけど……」
「いやー、見事に色んなお国の建物が混ざってるわー」
純日本風の建物は存在した。 ただノアの言う通り、それに混ざって様々な国の建物が所々に立っているのだ。 中国様式の建物はまだ日本の建物と似ているから調和が取れなくもない。 丸太組のロッジもまだ良い。 レンガ造りの家は辛うじて許せる。 だがしかし、ギリシアの神殿やタージマハルのような建物、石造りの家やカッパドキアのような岩山をくり抜いた家は如何なものだろうか。 て言うか、岩山どっから持ってきた! ここら一帯緑に覆われていて、んなもん無かったぞ!
「あの岩山は白浜の砂を濾した細かな砂の粒子を態々近くの海岸から運び込んで固めたものを後から土属性のフォースを使ってくり抜いたそうですわ」
俺の奥さんの一人、トライアイのクリスが親切に説明してくれた。 態々海岸からって……よっぽどこだわりがあるんだな。
俺は奥さん四人と連れ添って村の中を少し歩き、村人(殆どが若い娘さん達)の注目を浴びながら今日から一週間お世話になる宿、《蝶亭》に到着。
「いらっしゃいませ! クリスティナ様、お久しぶりで御座います。 イオナ様、ユリナ様もご無沙汰しております」
「いらっしゃい、クリス様! イオナお姉ちゃんにユリナお姉ちゃんも久しぶりです!」
妖しい色気を醸し出す艶やかな着物姿で熟女の女将さんと地球人の年齢で言えば十四歳位のおかっぱ頭の美少女が仲居姿で出迎えてくれた。
仲居の美少女は元気一杯に挨拶した後、嬉しそうにイオナ、ユリナに抱き付いた。
「コラコラ! お客様になんて事を! 先にお部屋にご案内するのが先でしょう!」
「は~い、お母さん!」
「美咲! お母さんではなく女将さんと呼びなさい! もう! この娘ったら……」
クリス、イオナ、ユリナの三人はクスクス笑いながら女将と少女のやり取りを微笑まし気に見ていた。
「お久しぶりですね、お銀女将。 今日から一週間、よろしくお願い致しますわ」
「はい、此方こそ。 ところでそちらの方はもしかして……」
お銀女将はチラリと俺達を見てクリスに訪ねた。
「はい、わたくし達の旦那様のサトルですわ……」
クリスは俯きがちに頬染めて答えた。
う~ん、クリスはイオナ、ユリナの母親だけど、男性馴れしてない初々しさが何とも可愛らしい。
「あらあら、まあまあ! そうですか! 御予約の際に伺った、私達と同じ地球の!」
「飛鳥 覚です。 お世話になります」
「ウチはノア言います。 ウチも旦さんの妻やよって。 よろしゅう頼みます」
「蝶亭の主を勤めさせて頂いております女将のお銀です。 今後ともウチを宜しくお願いしますね、覚様、ノア様」
☆
お銀さんの娘、仲居の美咲ちゃんに俺達四人が止まる部屋を案内された。 外観は老舗の旅館を彷彿とさせる豪快な木造建築だが、宿の中は素朴で落ち着きがあるものの最新の技術が取り入れられた作りで所々に電子端末やらが壁に埋め込まれていた。
この宿、惑星サキュロスでは五本の指に入る名湯なのだとか。 でも今はシーズンオフで、宿泊客は少なく、俺達を含めて十人だとか。
俺達が宿泊する部屋は大部屋と寝室の二部屋に分かれていた。 何故かと言うと、サキュロスは一夫多妻制がデフォルトで男女の営みをする夫婦の組と普通に休む他の奥さん達の組に配慮して分けてあるのだとか。
「あ、覚お兄ちゃん、ノアお姉ちゃん! ウチのお風呂は混浴の露天風呂しか無いからね!」
俺達を部屋に案内してくれた仲居の美咲ちゃんが部屋から立ち去る時、とびきりの爆弾を落としていった。
「……お風呂どうするよ」
「何言うとんの? 皆で入るに決まっとるやろ」
「サトル様、わたくし達と一緒に入るのはお嫌ですか?」
「やはり、サトルは付き合いが一番浅い私と入るのは抵抗があるのですね?」
「私がモノアイだから……サトル君はやっぱり気味悪い?」
三人は俺の不用意な発言で彼女達の後ろに暗闇が垂れたかのような錯覚が見えるくらいに彼女達の気持ちが沈んでしまった。
俺は慌てて弁明する。
「いやいやいやっ!? そ、そうじゃないよ!! 魅力的な君達と一緒にお風呂なんて入ったら、理性を抑えることが出来なくなるからであって、別に嫌とかじゃないんだよっ!!」
俺の拙い言い訳に途端、彼女達は頬染めて答える。
「そんな、魅力的だなんて……」
「それにサトルは私達の夫なのだから我慢しなくて良いのです」
「そ、そうだよ! 何だったらお風呂の中で……キャッ♡」
「露天風呂いうシュチエーションでのえっち……萌える!」
「止めよう! 露天風呂でエッチは止めよう! 他のお客さんも居るから止めよう!」
俺には人に見られながらエッチする性癖は持ち合わせてないからね!
なんとか許してくれて助かったのは良いけど、話がとんでもない方向に向かってしまい、俺は必死になって四人を説得。 お風呂でエッチは回避できたけど、皆で一緒に露天風呂に入るのは避けられなかった。




