19,おじさんと冒険少女
冒険者ギルドのステーション内――アストラーシュが係留されている中型船専用ポート内でアストラーシュから射出される戦闘用ドローン六機。 それらがアストラーシュに取り付き隔壁を強引に切断して中に入ろうとする警備員達を追い払う。
「ひいい!」
「うわっ! 来るな、来るなあー!」
「オペレータ室! 此方ギルドガードリーダー! 対象の船は戦闘用ドローンを射出し抵抗! 応援を求む!」
『此方オペレータ室。 此方でも確認。 直ちに防衛用ドローン及びボットを向かわせます』
これに伴い冒険者ギルドのステーション内に設置されているオペレータ室が慌ただしくなる。 直ぐにアストラーシュの抵抗を鎮圧する為、ギルド警備部のドローン十二機とボット三機が向かう。 冒険者ギルドでは常に最新の機材――ドローンやボットが使用サれているが、それらはサキュロスが作る物より格段に性能が落ち、ボットに至ってはサキュロスにとっては数千年前の型落ち品だ。 そんなものがアストラーシュが積んでいる宇宙超文明の技術を用いたユリナ謹製のドローンに敵うはずもなく瞬く間に無力化された。
「イオナさん、すみませんが貴女の船は諦めて下さい」
「いや、構いません。 もとより中古のボロ船に毛の生えた程度の武装を取り付けた安物の船です。 どうかお気になさらず。 それに目的を果たした今、私には必要ありません」
そう言ってくれると助かる。 そうだ! 今度イオナさんに新しい船をプレゼントしよう! これは飽くまでお詫びであって気を引くとかそういうのじゃないから。 だからね、ノアさん。 ジト目で俺を見ないように。
「戦闘用ドローンのシールド展開! アストラーシュの船体をシールド内に完全密閉!」
ギルドの警備員が離れたタイミングでノアはドローンにシールド起動を命令。 シールド発生により係留索及び係留橋が切断されギルドの警備員達は無重力空間に放り出された。 さすがに冒険者ギルドで働くだけあって警備員達は壁や障害物にぶつかる前に姿勢制御して体制を立て直す。
「アストラーシュ、目標座標設定! 目標座標の状況確認! 目標座標に障害物無し! 転移準備完了! 今や! 目標座標に転移!」
戦闘用ドローンが張り巡らせたシールド内からアストラーシュの姿が忽然と消えた。
「な!? 消えた!?」
「まさか……シールドの中から転移した…だと!」
信じられない状況に警備員達はただただ呆然とするしか無かった。
☆
「目標座標に転移完了。 アストラーシュ、システムダウン。 ……これでアストラーシュは十分間なんも出来ひんで」
「ノア、何処に転移したんだ?」
「出来るだけギルドから遠くに離れたかったから転移距離ギリギリの場所選んだんやけど……」
俺達の直ぐ近く五~六百mの距離に小型艦が一隻いた。 他の宙域に比べ航路から外れていた事もあり、船舶の往来が殆ど無かったのでこの場所に転移を決めたらしい。
「予定通り俺が出て様子を見よう。 アストラーシュは再起動したら亜空間航行でこの宙域を一気に離れてサキュロス船団に戻れるよう準備しておいて」
「了解、旦さん」
亜空間航法は現代宇宙世界では最もポピュラーな移動手段だ。 地球ではワープ航法が良く知られている。 だが実際のワープ航法は空間を縮めるのに宇宙に存在するエネルギーを全て掻き集めたとしても全然足りない。 つまり、実現が不可能なのだ。 亜空間航行は亜空間に入った時間と出た時間のロスが殆ど無く通常空間に居る者にとっては一瞬に移動したと思うだろう。 しかし、亜空間に入った者のの感覚では時間経過はしっかりと感じる。 亜空間でも距離に比例して時間は掛かるものなのだ。 しかし、何光年とか何億光年とか離れている場所に辿り着くのに何年とか何億年とか馬鹿みたいな日数が掛からないだけ遥かにマシだ。 アストラーシュの場合はそれすら必要としない。 それこそ亜空間に入ったと思った次の瞬間、亜空間から出ていて、いつの間にか目的の場所に辿り着いている、てな感じだ。
俺は船内を急いで移動してアストラーシュの拡張された巡洋艦ユニットの格納庫部分に向かいボットに変身し、ギフト《ボット》の熟練度が最大になって手に入れた副次能力《位相空間格納庫》からアサルトライフル二丁を取り出した。 本当なら手に入れたボットを操ってみたかったが調整やら習熟訓練が間に合わなかったので今回は諦めた。
因みに俺のギフト《ボット》の副次能力は以下の通り。
《ボットとボットの武装開発》
ボットとボットの武装の開発。 ノアとのリンク、アストラーシュの各種ツール機能が必要。
《ボットとボットの武装強化・改良》
ボットとボットの武装強化・改良。 ノアとのリンク、アストラーシュの各種ツール機能が必要。
《ボットとボットの武装修理、修復、復元》
壊れたボットとボットの武装の修理、部品が破損した状態での修復、欠片や一部のデータのみ
からの復元。
《サイズ変換》
俺の体格と身に付けていた服や鎧、装飾品、武装に関して一~十mの範囲で大きさの変更が
可能。 ボットの武装も手持ち武器だけなら人形態でもサイズを変更して使用可能。 ただし、
それ以外の物を身に付けていた場合、人形態、ボット形態でそれぞれ装備や使用が不可に
なった場合、《位相空間格納庫》に自動的に収納される。
《位相空間格納庫》
異世界者でよくあるアイテムボックス。 ただし、ボットの部品、武装、マナ鉱石限定。 それ以
外は収納不可。
――の五つの他、”何故にこんな能力が?”と疑問に思ってしまう、もう一つの計六つ。
それはさて置き――
頭の中でノアが指示を出し、それに従って俺は発進位置まで進み止まる。
”ハッチ開放、重力カタパルト――スタンバイ! 発信OKや!”
カタパルトの衝撃に備え前屈みで構える。
『此方も準備完了! 出るぞ!』
その言葉を合図に重力カタパルトが起動、俺の体を少し浮かせて前に押し出した。 船内格納庫から飛び出した其処は一面の恒星や恒星に照らされて輝く星々が輝く重力が存在しない空間。 その中で俺は監視対象の船を探す。
さて、船は……居た! あそこだ。
アストラーシュの右舷前方二時の方角。 あちらさんは冒険者ギルドから情報が届いていないのか動きがないように思える。 そのまま立ち去ってくれるとオジサンはとても嬉しいんだけどな。 それがフラグとなったのか、小型船から光点が六つ射出された。
”旦さん、戦闘用ドローン五つと戦闘艇一つが出てきよったよ! 気い付けて!”
俺は戦闘艇と艦戦に向けて通信回線を繋げえうようコールした。
『争いは何も生まないと、オジサン思うんだけど? 君達はどう思う?』
”同感ね。 でもね、それが犯罪者で賞金が掛かっているならお金は貰えるわ!”
相手は俺の通信回線を繋げて此方のどうでも良い問に律儀に返してくれた。 相手は若い女性――少女の声だった。
『そんな若いのに殺伐とした世界に居るのはイカンよ。 もっと真っ当な世界で働きなさい。 ご両親も心配して居るぞ、と』
”ご心配無用よ。 アタシの両親はとうの昔に天に召されているから”
ドローンから次々と打ち出される光弾をダメージの影響を受けないギリギリで避ける。 こういう攻撃は紙一重で避けていると弾の周囲の見えないエネルギーでダメージを喰らってしまう。 その為、弾からある程度離れなければならない。
それにしてもこのドローンの攻撃、パターンが掴めない。 ドローンは搭載されているAIが優秀でも行動にある程度のパターンが見られるものだ。 まさか……
”旦さん! そのドローン、非自立型や! 戦闘艇から脳波で五機のドローンを操ってる!”
やっぱりか! それにしても戦闘艇を操縦しながら五機のドローンを同時に操るとは。 確かユリナさんから聞いた話だと、ドローンを同時に操るのは精々三機が限界。 それが五機、しかも戦闘艇も操縦しながらとなると相手はかなり優秀なドローン使いだ。
だが、しか~し! アストラーシュのインターバル時間は既に三十秒を切っている。 俺の時間稼ぎの目的は達成しているのだ! 俺はドローンと戦闘艇の攻撃をいなしながらアストラーシュに後退する。
『あ~ばよ、嬢ちゃん! 縁があったらまた会おう!』
”誰が嬢ちゃんよ! でも、残念でした! 逃がさないわ!”
相手が通信回線越しで不敵に笑う。 何を企んでる? それともただの苦し紛れかハッタリか?
”旦さん! 相手の小型船がアストラーシュに向かって突っ込んできよる!”
ノアに指摘され後ろを振り向くといつの間にか相手の小型船がアストラーシュに迫っていた。
何っ!? 自分の船をぶつけて来るだと!? マジか!
『おいおい、嬢ちゃん! そんな神風アタックかましたら、赤字も赤字、大赤字だろうに!』
”大丈夫よ。 アンタ達を捕まえられれば余裕で戦艦一隻買える位のお金が手に入るんだから。 だからアンタは大人しくアタシに捕まりなさい”
俺が驚愕している間にどんどんアストラーシュに近づいてくる。 この角度だとギリギリだが仕方がない! 俺は右手に持つのアサルトライフルを投げ捨て手刀の構えを取る。
”何をするつもりか知らないけど、もう遅いわ。 諦めなさいよ”
『そんなの、やってみないと判らないんだよ!』
俺のボット状態で唯一の内蔵武装がアストラーシュの真下を通り抜け、小型船に命中。 直後、小さな爆炎を上げて進路が大きくハズレた。
”なっ!?”
今度は相手の方が驚愕してくれた。 よし! 今のうちにずらかろう! 俺はそのままアストラーシュに向かおうとして――
『あれ? あれ?』
全然進行方向に進まないどころか身動き取れなくなった! どうなってんの!?
「あれを凌いだのには驚いたけどね。 だけど、見す見すアンタを逃がすと思ってんの?」
”旦さん! ドローンから射出された細いワイヤーで絡め取られてんで!”
しまった! アストラーシュ気を取られ過ぎて相手の攻撃を見逃してた!
『ふっ! だがな嬢ちゃん、こんなヤワなワイヤーごときで俺を縛り続けるなんて出来ないぜ!』
”それも承知の上よ。 ほら来た”
”旦さん、冒険者ギルドから追手が仰山此方に向こうてる!”
狭い範囲でしか探査できない俺のボット用内蔵センサーからでも大多数の艦船が此方に向かっているのが感知できた。
あ~もうっ! 何とか穏便に事を収めようとしてた俺の努力がパーだよ! 仕方がない!
『ノア! アストラーシュで追手の船の動きを封じろ! ただし、死者は出すなよ! 後が面倒だからな!』
相手が悪いのに賠償しろだとか後でゴネられて要求されるのはゴメンだ。
”ま~た面倒な注文出してくれるな、旦さん。 せやけど、それに答えるんがウチの信条やし、しゃあないか”
”アンタ達、まだ何かやるつもりなの? さすがにこの数を相手じゃあ、さしものアンタ達も無理でしょうに”
呆れた口調で俺達に諭してきたお嬢ちゃん。 だがなお嬢ちゃん、アストラーシュの実力はこんなものじゃあ無いんだよ。
”兵装安全ロック解除、ホーミングイレイザー砲撃準備。 目標照準、追撃艦艇の噴射口。 目標照準全艦艇ロック完了”
ノアは此処で一呼吸於く。 そしてアストラーシュに向けて号令を出す。
”ホーミングイレイザー全砲門発射!”
アストラーシュの両舷のバトルユニットから連続して幾筋もの青白色の帯が放たれる。 それらがアストラーシュに群がろうとしていた艦艇の推進機の開口部に命中。 削り取っていく。 噴射口を削り取られた艦艇は小爆発を起こし、エンジンが機能停止。 次々と脱落していった。
”……”
それをただ呆然と口を開けて見ている事しか出来なかった戦闘艇の少女。 ハッとして我に返りドローンのワイヤーで拘束していたボットを確認すると既にボットはワイヤーを引き千切抜け出した後であった。
『じゃあな、嬢ちゃん。 今度こそ、あ~ばよ!』
☆
”じゃあな、嬢ちゃん。 今度こそ、あ~ばよ!”
賞金が掛けられたボットパイロットから通信が入った。 実際にはボットは覚が変身した姿であるがそんな事知る筈もない少女。 ボットは仲間の船、巡洋艦に回収され亜空間航行で亜空間の中に消え去っていった。
少女はアストラーシュが消えた場所を見つめて口角を上げる。
「見つけた」
戦闘艇の薄暗い操縦席の中で少女は喜色満面浮かべて一言呟いた。




