1,宇宙人の来訪。 エルフも居るでよ!
市役所から届いた健康診断の案内。 それは日本国民なら必ず受けなければならない義務。 いや、日本国民でなくとも世界中の誰もが進んで受けたがるだろう。 実際に亡命や移民希望者が日本やヨーロッパの一部地域に雪崩込んで来て大きな問題に成っている程だ。
それは五年前に遡る。
”宇宙人の来訪”
天地を揺るがす大事件。 上を下への大騒ぎ。 まあ、俺は当時クビに成る瀬戸際でそれどころではなかったが。
しかし、問題はそれだけではなかった。 来訪した宇宙人の二つの巨大な勢力は地球の人々にある事を迫った。 それは彼らの勢力のどちらかに加盟する事。
一つは《HES連盟》
ヒュノス、エノス、サノスと呼ばれる人型の知的生命体の合同勢力。
ヒュノスは人、エノスはエルフやドワーフといった妖精、サノスはロボやサイボーグの様な感じの見た目だ。
一つは《RL帝国》
レプトと呼ばれる爬虫人型の宇宙人がライカンという獣人型の宇宙人を支配する勢力。
レプトは見たまんま爬虫類が人型に成った感じで、ライカンは人の体に獣の頭をくっつけた感じだ。後、テレビ特番とかでよく見かけるグレイタイプの宇宙人は、実はレプトが作り出し生体ロボットだということが判明した。
そして彼らは自分達の勢力がどのようなものなのか世界中の人々にプレゼンした。
HES連盟はお互いを尊重し助け合うヨーロッパのEUの様な勢力だ。 彼らの勢力に加われば技術や食料、軍事や経済等様々な援助が得られ、生命体に本来備わっているマナ器官と呼ばれるものを開放し、フォースという魔法や魔術の様な力を使えるようにすると宣言した。 RL帝国。 彼らは弱肉強食。 強者が弱者を支配し従える。 そして、弱者は直接的な意味で強者の糧、つまり強者であり支配者であるレプトの食料となるのだ。
これら二つの勢力の説明を受け、比べてみればどちらを選ぶか一目瞭然。 当然、世界中の人々はHES連盟を選択した。
ところがどっこい。 そうは問屋が卸さなかった。
何と、世界中ほとんどの国がレプト達RL帝国と既に誓約を交わしていたのだ。 その誓約の内容は”技術供与を得る代わりに自分達の勢力に属する”というものだ。
それはアメリカ、ロシア、イギリス、フランス、インド等の大国も例外ではなかった。
これに驚いたのはその国に属する人々。 自分達の未来を知らないうちに売られたのだ。 これに対して政府は『自国の発展と国に住む人々の幸福の為にやむを得なかった!』と説明したがそんなもので人々が納得するはずもなく。 当然、暴動が起きた。 しかし、統治やその他諸々の権利が既にRL帝国に移譲されていた為、彼らレプトやライカンは喜々として暴動を鎮圧。 収容所という名の食肉加工所に連行されていった。 中にはその場で生きたまま食われた者もいた。 未だに食われていた人の悲鳴が耳に残っている……。 それがテレビで報道されたその国の最後の映像だった。
以降、自国から命からがら脱出して希望の地、HES連盟加盟国を目指す亡命者達。 その一つが日本だ。 日本はレプト達RL帝国の興味の範囲外であったのが大きかった。 レプト達は日本人を毛嫌いしていた。 特に優柔不断な性格なところとか。 レプトに言わせると”決まりきっている事を即決して行動出来ない無能だ”との事。 後、”必要な事に労力を費やさず、無駄な事に膨大な労力を費やす無能だ”とも言われた。 レプトは無駄が嫌いなのだ。 その御蔭で日本の直ぐ隣りにありながらロシアに奪われていた北方領土が帰って来たが。
ヨーロッパではスイス、フィンランド、ノルウェー、オランダ、ドイツ等。
これらの国々はレプト達にとって無価値な国らしい。
例外がドイツだ。 ドイツは第二次大戦の折にかの有名な独裁者がRL帝国と誓約を交わしたが、それは《ドイツ第三帝国》であって今の《ドイツ》ではない。 しかもドイツ第三帝国は南極の中心部や月の裏側に今なお存在し続け、独裁者は存命しているらしい。 びっくりだよ! だから弟は今もドイツに住み続けている。
ああ、後、例外中の例外の国があった。
中国、韓国、北朝鮮だ。
この三つの国はHESにもRLにも加盟していない。 正確にはどちらの勢力にも”加盟が認められなかった”のだ。
HES側は『人の話を聞かな過ぎだし、自分本位過ぎて信用出来ない』
RL側は『強者に敬意を払わず畏怖しない』
と、いうのが両勢力の言い分だ。
HES側の言い分はわかる。 しかし、RL側の言い分がイマイチ解らなかった。 レプトの代表者は語る。
”嘗て遥か昔、奴らの地で秘密裏に拠点を築こうとしたが、奴らは我々を発見し襲撃した。 戦力の差は明らかで何万もの兵士が目の前で死んで行くにもかかわらず、奴らは我らを倒した”と。
此処までの説明では彼の国の人々の武勇伝に聞こえるだろうが実はそうではない。 レプトの代表者は更に語る。
”奴らは我らを食らう為だけに大量の死人を出しながらも戦ったのだ! 我らレプトは強者に敬意を払い畏怖を持って支配を受け入れる。 戦いに敗れた弱者を食らう事もする。 だが奴らは戦いに幾度も敗れたにも関わらず従うどころか我らレプトに逆らい続ける! ただ我らを食らいたいが為に! そんな狂人共の子孫を我らの勢力に加えるなど怖気が走るわ!”
レプトの代表者が語り終えたその時、世界中の人々が沈黙した様な気がした。
すげえ! アイツらマジ半端ねえ! あのレプトに恐怖を抱かせるなんて!
俺は初めて彼の国々を尊敬した。 まあ、らしいといえばらしいが。 それにしても大量の死者を出してまでレプトを食べたなんて、レプトってそんなに美味いのか? ただ、その話を聞いた三国の指導者達は御先祖達がやらかした所業に対して苦虫を噛み潰した様な渋い表情をしていたのが印象的だった。 そういう訳で中国、韓国、北朝鮮は蚊帳の外。 現在、HESとRLは彼の国々の人々に関わるのはゴメンなので国内から人を出さない様なんたらフィールドを共同で張って人の流出を防いでいる。
世界はそうした混沌の中だ。 それでも俺は生きている 生きていると言う事は生きる為に必要な行動をしなくてはならない訳で。 その行動というのが労働でありその対価で得られる報酬が俺が生きて行くには必要なのだ。