14,拠点で開発①
あれからサキュロス船団は木星くらいの大きさを誇るミジンコ――プラネットイーターを位相空間に収納して直ぐに移動を開始。 それはサキュロス船団を敵視する宗教団体の襲撃を警戒してだ。 先行したサキュロスの偵察部隊からの報告で安全が確認された宙域においてプラネットイーターの解体作業を行う。 この時、俺も解体作業に参加したい旨をサキュロス側に伝えた。 俺の体――ボット体が先のプラネットイーターとのマナ吸収合戦で得た大量のマナを消費して完全な状態に修復出来た。 今のうちにボットの体に慣れるのとボットの能力の熟練度を上げるのにプラネットイーターの解体作業は最適だと思い作業に参加したのだ。 サキュロス側も超巨大なプラネットイーターを解体するのに人手が足りないので大変喜ばれた。
そして現在、俺はプラネットイーターの解体作業に従事していた。
『ふんふんふ~ん♪』
作業手順はモノアイの作業員の娘に教えて貰いながら、先ずは簡単な触手部分の解体に着手。
俺は鼻歌交じりに唯一使用可能な兵装、スラッシャーでもって触手を切断していく。 宇宙空間での移動は移動したい方向とは逆にマナを放出すれば進み、速度の調整はマナの放出量で決まる。 それらを巧みに使い次々に触手を解体していく。 解体した触手は作業用ドローンに信号を送れば専用の収納倉庫に勝手に持っていってくれる。 この作業の繰り返し。 今では慣れたもので作業用ドローンの運搬が追いつかない速度で解体しまくっていた。
其処へ作業責任者のユリナさんが作業艇に乗って様子を見に遣って来た。
”はあ~、凄いですね。 もうこんなに解体したんですか”
ユリナさんは感嘆の声をあげて俺の作業成果を見ていた。
『この解体作業ってどれくらいで終わるんです?』
”予定では九十日――三ヶ月以上は掛かると予想してたんですが、アスカさんのお陰で一ヶ月以内で終わりそうです。 こういう長期作業は教団に察知され易いので本当に助かります”
サキュロスを付け狙う教団――宇宙統一教団。 まるで日本にあった昔の宗教団体を連想させる名前だが、此方はとんでもなく質が悪い。 なにせ”ヒュノス、エノス、サノス以外は人類に非ず。 人類でなければ生きる価値無し”が心情の宗教団体で、それ以外の知的生命体は尽く滅ぼしに掛かるとんでもない連中なのだ。 サキュロスの場合はその見た目、一眼の化物を生み出す魔物としてサキュロスを襲っている。 HES連盟も一応対処しているらしいが警告で留まっている。 なんでも教団には各種族のお偉いさんの縁者が多数所属していて中々手出しが出来ないらしい。 故に警告止まりなのだ。 何というか……宇宙でも偏見や宗教問題があるんだね。
☆
交代の時間となり俺は自分ホームに戻った。 サキュロスとの交渉で得たホームのある恒星船6番艦は古い型式だが船内にある都市は恒星船の中では品物の流通が盛んで一番発展しているらしい。 ユリナさんも此処に住んでいる。
サキュロス船団はサキュロスの母星をフォースの術式を組み合わせて形成して特殊な空間の中に収容した母船を中心に36隻の恒星船と無数の護衛艦隊で構成されている。 恒星船は中に都市が一つ丸々入る馬鹿デカさ。 初めて見た時には度肝を抜かれた。
「あっ、おかえり旦さん」
「おかえりなさいませ、アスカ様」
「ただいま。 ノア、アップデートの方は順調か?」
「うん。 クリスさんが手伝ってくれてるからあと一週間で終わるよ。 アストラーシュの船体と旦さんのボディの設計はそれからやね」
クリス――クリスティナさんは船団内での俺達のアドバイザーであり、ユリナさんの母親で両の眼に額に一つ眼を持つ三眼――トライアイのサキュロス船団のお偉いさんだ。 トライアイはサキュロスの中でも知能とマナ器官が異常に発達している。 それ故に生まれながらのフォースの使い手であり船団内では重要な地位を占めている。 ただし、トライアイは希少で出生率が男性以上に低い。 その為、トライアイは二人以上の子供を生む事を義務付けられている。 それで生まれてくる子供が例えモノアイやツインアイでも隔世でトライアイの子供が生まれる可能性が高いのだとか。 なので、クリスティナさんには後一人、イオナさんという娘さんがいる。
そんな人が何故、俺達のアドバイザーに任命されたかといえば、ノアのアップデートのサポートと宇宙超文明の失われたテクノロジーをノアから提供を受ける為の一時的な措置だ。 ロストテクノロジーのデータは途轍もなく貴重なもの。 それ故一般要員には任せられない。 だが、それが終わればユリナさんと交代する予定だ。
「今、ノア様から提供するデータリストを此方で作成していますが……凄いの一言ですね。 宇宙超文明時代の失われた貴重なデータが完全な状態で残っているのですから」
宇宙超文明はこの宇宙に於いて最も栄えた文明で現代では考えられないテクノロジーを有していた。 しかし文明崩壊、そのテクノロジーの多くは失われ、その生き残りであるインセクター達でさえ再現は不可能だとか。
「旦さん、お腹減ったやろ? 食事の用意出来てんで」
「ギフトで人型ロボットに変身できても腹は減るのな」
「そりゃあ飽くまでベースは生体やもん。 ウチもこの体やとお腹空くし。 体外のマナを体内に吸収して活動に必要なエネルギーに変える生命体も居るけどそんなん少数やし」
別にそれを不便とは思っていない。 食事が毎回燃料オイルだとかそんなのになるのは勘弁して欲しい。 だが幸運な事にサキュロスの食事文化は地球と似ている。 特に日本の食材が豊富で醤油、味噌、梅干しや納豆まである。 これは素直に嬉しい。 服飾文化に関しては……何というか悩ましい。 特に女性はぴっちリしたハイレグレオタードスーツを着ている。 HES連盟の服といい作為的なものを感じるぞ。 この服は宇宙服の機能もあり、とっさの事態にも対応する為らしいのだが。 正直、デザイン的に眼のやり場に困る。 因みにそれら食材や工業製品はマザーシップ内に収容されている母星で生産されている。 俺達は新参の余所者なので流石に母星に降りる許可は居りてない。 いずれ行ってみたいと思うが。 今日のおかずは特大エビフライ。 ニートの時には食べられなかったご馳走だ。 有難く頂こう。
☆
こうして日々は過ぎ、ノアのアップデータとプラネットイーターの解体作業が終了し、いよいよアストラーシュの改良と拡張ユニットの建造が始まる。 先ずアストラーシュを一旦全て解体する。 これはアストラーシュに付着した岩を取る手間を省く為だ。 解体と言ってもアストラーシュの本体――メインコアであるノアがアストラーシュに自壊命令を送るだけ。 そうして今度は俺がノアとリンクして俺のマナをノアに渡してアストラーシュの中央ユニットのみを復元。 ここからはユリナさんに監修して貰いながら船体を組み上げる。 資材は勿論俺のマナを使用して量子変換で生み出す。 マナさえあれば元でタダだし。
あっという間に完成したアストラーシュは上辺が短く底辺が長い左右対称の台形だ。 後ろの底辺部分の両側には翼がある。
うん? ちょっと待て。 これ、なんか見覚えがある。
それはアストラーシュの拡張ユニットの建造が始まる時。 完成予想図をユリナさんに見せてもらって発覚した事実。
「こ、これ、俺が3Dモデラーで作った航空戦艦じゃないか!?」
俺の数少ない二つの趣味のその一つ、3Dモデラーで宇宙船や人型ロボットの制作。 そのデータが使われていた。 しかも注釈付きの。 因みに俺のもう一つの趣味は鮎釣りだ。
「どうせなら旦さん好みの宇宙船がええやろ? せやから旦さんの作ったそのデータ使わしてもろたで!」
「……もしかして、俺のボットのボディも?」
「勿論! 旦さんが恋い焦がれとった合体、変形ロボのデータを元にユリナさんに設計、開発依頼したで!」
「やめて! 恥ずかしいから大声で言わないで!」
素人の俺がデザインしたものがまさか実物に成るとは思わなかったよ! それならもうちょっと気合い入れて制作したよ!
「何も恥ずかしがる事ないやん。 ユリナさん達には無茶苦茶好評やったで」
「そうです! この機能性と重視した素晴らしいデザイン! サキュロスにはなかったものです!」
ユリナさんは一つ眼を大きく見開いて興奮している。
「いや、俺のは飽くまで趣味の領域で……俺の国ならこれ位の作品、もっと上手く作れる奴らが沢山居るよ」
「は~、凄いんですね、地球の日本と言う国は。 いつか行ってみたいです」
なんか凄く感心されてるけど。 ま、まあいいか。
超文明時代の船であるアストラーシュを弄れるという事で他の開発スタッフ達も物凄くやる気を出してくれたお陰でアストラーシュの拡張ユニットは一月で完成した。
次は俺のボットのボディだ。




