12,モノアイのユリナさん
「申し訳ございません。 お客様」
ロイクは俺達に頭を下げて来た。
「当然ですね。 ……ところで、そちらの方は謝罪してくれないんですか?」
俺は厳つい男――デギを睨んでいた。 この野郎、さっきのドサクサに紛れて何してくれてんだ。
「何故で御座いましょう?」
「その人、四人を追い掛けて俺を横切る時に思い切り一発食らわせてくれたんですけどね」
デギの一撃をガードして赤く腫れた右腕をロイクに見せ付ける。 俺が地球に居た頃だったら確実に体をぶち抜かれて死んでたぞ。
「っ!? デギ!!」
慌てたロイクはデギの名を呼ぶ。
「すいません、ロイクさん。 一発外しちまって……」
おい、なに誤魔化してんだオッサン。 チャラ男と俺とじゃ、加えた打撃力が全然違うだろ。 チャラ男共はちゃんと手加減した癖に俺に対しては本気の一撃を加えた事くらいド素人の俺でも判るぞ。 なんせ打撃を受けた瞬間、威力が凄まじくてちょっと体が浮いたんだからな。
「すみません、お客様! ほら、デギ! 貴方も頭を下げなさい!」
厳つい男は渋々と言った感じで俺に頭を下げた。
「直ぐに治療いたします。 それとお詫びと言っては何ですが、彼らが売りに来たヨトゥの彼女を差し上げましょう。 小間使いに便利ですよ。 ああ、サービスにヨトゥと奥方の服もお付けいたします」
「ヨトゥ?」
「HES連盟にもRL帝国にも所属しとらん人らの事や。 此処、人身売買も商っとるんよ」
おいおい……。 宇宙は文化的に見えて結構野蛮なんだな。 俺がネットで読んだ異世ファンタジー小説と引けを取らないぞ。
「女だけでいい。 治療と服はいらない」
「え~!? 旦さん、それ勿体無いんとちゃうん?」
「良く言うだろ? タダより高いモノは無いって。 これ以上は貰い過ぎだ」
「欲が無いのですね。 分かりました。 もしウチの商品で欲しい物が御座いましたら優先的にお譲りいたしましょう」
「好意は受け取っておこう。 それじゃ」
「ああ、その前にこれを」
俺はデギから女性の腕を施錠している鍵を受け取った。
「それではまたウチをご利用下さいませ」
出来ればゴメンだ。 特にアンタは。 その言葉を飲み込んで俺とノアは女性を連れてその場を立ち去った。
☆
――非合法組織
支配人室のイスに深く腰掛けるロイクとそのお付きでボディーガードも兼務するデギがロイクの傍らに立っていた。
「しかしデギ、レプトである君の一撃を受けて腕が腫れるだけで済むなんて凄いですね。 お陰で予定が狂ってしまいましたよ」
覚も無力化し、確保するつもりだったが予定が狂った。 喧嘩両成敗を理由に覚達にも責任を追わせ、賠償だの何だの難癖付けてノアから手持ちの品物を搾り取る予定だったのだ。 それだけノアの持って来た物はとても珍しく貴重な物が多かった。
デギはその厳つい容貌に不敵な笑みを湛えて言った。
「ロイクさん、俺は本気で奴を殺りに行ったんだ」
デギのその言葉を聞いたロイクは目を見開いて心底驚いた。
「おいおい……会社内で血肉を飛び散らせる様な真似は止してくれ。 それでなくとも清掃スタッフから苦情が絶えないんですから……。 それにしてもそうですか。 彼はそんなに――」
「ああ、今度は本気でやり合いたいな」
彼はとても興奮していた。興奮し過ぎて自身の性器が直立してしまうくらいに。 強者との戦いは彼らレプトに取って誉れであるから。
「さすがレプト。 戦闘狂ですね。 その望み、いずれ叶うでしょう」
「クックックッ! アンタが言うならそうなんだろうな」
デギは口角を上げて嬉しそうに笑った。
「人は欲で繋がっている。 その欲がいずれ再び我らと引き合わせるだろう」
照明で照らされる室内。 その明かりで生まれた二つの影。 一つは爬虫類の形のもの。 もう一つは人の形ですら無い、蠢く何かを浮かび上がらせていた。
☆
あれからアストラーシュに帰って来た俺とノア。 次いでに変態チックな出で立ちの女性。 直ぐにでも女性の拘束を解いて自由にしてあげたかったが、暴れられても困るので先ずはそのままの状態でアストラーシュに連れ帰った。 資材に関してもノアが既に回収してアストラーシュの位相空間に放り込んである。
俺達は一旦この星を離れ、改めて別の場所で応急修理をする事にした。 それというのもあの後、俺達の後を尾行して来た奴がいた。 十中八九、あのロイクとか言うおっさんの手下だろう。 まあ、そいつに気付かれない様手近な無人の建物内で直ぐにアストラーシュの中に転移したが。
と、言う事で女性の拘束を解いてボールギャグと目隠しを外したのだが。 これがビックリ! 彼女は一眼――モノアイだったのだ! そうとは知らず驚いてしまった俺はその拍子に彼女の着ていたコートに手を引っ掛けてしまい、脱げてしまった。 彼女にとって不幸なのはコートのその下は服を一枚も着ていなかった。 つまり全裸。 彼女は声にならない悲鳴を上げて艦橋の隅っこに避難。 体は震え、とても怯えていた。 あのチャラ男共め! 予想はしていたが、まさか何処にも所属していないだけでこの仕打ちとは! 許すまじ!
だが先ずは、粗相を致してしまった俺にはやるべき事がある。 それは謝罪。 そして日本人で謝罪と言えば・ど・げ・座である! 俺は迷う事無く怯える彼女の足元にジャンピングダイブ! 床に額を打ち付け、こすり付け。
「すんませんでしたーーーーーー!!!!」
彼女は俺の大声に一瞬ビクつく。
「旦さん、旦さん」
「何だ、ノア? 俺は彼女が許してくれるまで土下座を止めないぞ!」
「土下座は地球の、しかも日本だけにある最大級の謝罪の作法やろ? 流石に宇宙の人には理解出来んて……」
「ムッ! それもそうか。 ならどうすればいい? 俺、彼女達の謝罪の仕方は知らないぞ?」
「そう言われたらウチも困るけど……。 あの人がサキュロス言うんはHES連盟のデータベースで解ったんやけど、それ以上の事は載っとらへん。 サキュロスは最近発見された新種の種族らしいんやわ」
う~ん。 だとしたらどうしたら許してくれるだろう? 俺は彼女をチラリと見る。 すると、彼女はビックリお目々で俺達の様子を伺っていた。
「ん? どうしました?」
彼女は恐る恐ると――
「あ、あの……私達以外でも、その……ど、土下座の文化を持つ人達が居るんですね。 私、初めて知りました……」
か細い声でそう答えた。
「そうなんですか? ――と、これ……」
俺は全裸の彼女に慌てて顔を逸しながら脱げたコートを差し出した。
「え? きゃっ!?」
彼女は自分が裸である事を思い出し、胸と局部を手で覆い隠した。
「みみ、見ないで下さいぃぃぃ~~~っ!!」
「すっ、すみません!!」
彼女は長い前髪に隠れたそのつぶらで大きな一眼を涙目にして俺に訴え掛けた。
☆
ノアが彼女――ユリナを宥めて落ち着かせた後、手持ちの服を見繕って彼女に手渡し、そして着替えるのを待ってから彼女の事情を聞いた。
彼女達サキュロスはモノアイ(一眼)、ツインアイ(二眼)、トライアイ(三眼)の三種類居るそうで、その中でもモノアイが最も多く、物作りに特化した能力を持つらしい。 彼女もまたモノアイの一人だ。
その彼女がどうしてあのチャラ男達と一緒だったのかというと、彼女が所属しているサキュロス船団をヒュノス、エノス、サノスの三種族至上主義を掲げる宗教団体の強襲に遭遇。 一人脱出ポッドで宇宙を彷徨っていた所をあのチャラ男達冒険者に回収され、モノアイという見た目の珍しさから非合法組織に売られたそうだ。 だが其処で偶然にも俺達と出会い、チャラ男達とのすったもんだの騒動の挙句、結果ユリナさんは俺達に助けられた形になった。 因みに彼女の純潔は大丈夫だったそうだ。 モノアイだったのが幸いしてチャラ男達はユリナさんを気味悪がって手を出さなかったらしい。
「あ、あの! お礼が遅くなって申し訳有りませ! 助けて頂いた有難うございます!」
彼女は額を床に付けて土下座でお礼を言ってくる。
「いやいや! 俺達はユリナさんを見捨てて帰ろうとしたんだ! それに不可抗力とは言え貴女の裸を見てしまった! 申し訳ない!」
俺は土下座を仕返し誤った。 それに対し、彼女は顔を耳まで真っ赤にして。
「それは気にしないで下さい! 結果的に私が助けられた事実は変わりませんから!」
土下座でお礼を返された。
その光景に溜息を吐くノア。
「はあ……。 アンタらええかげんにしい。 切りないで。 それに、旦さん。 旦さんは初めからユリナさん助けるつもりやったやろ?」
「えっ……」
驚きの表情で俺を見るユリナさん。
「うっ……バレてたか……」
「当然や。 ウチは旦さんの嫁やからな!」
流石にあそこで騒動は不味い。 なので、ノアに頼んで彼女を買い取るつもりだった。 まあ、その必要はなくなったけれど。
俺が偽善? おいおい、俺だって一々人助けなんて出来ないのは理解しているさ。 ただ、彼女はなんというか……。 コートの上からでもわかるその見事なボディーラインが魅力的だったのさ! 俺がスケベというなら罵るが良い! 俺は男の本能に従った迄さ!
「本当に……あり、が…うっ、うう、うわあぁ~~~~~~んっ!!!!」
ユリナはそんな俺に抱き付き泣きじゃくった。 今まで一人ぼっちで心細くて怖かったんだろう。 あっ、今ユリナさんの胸が体に当たった。 やっぱり胸大きい……。
☆
「そうそう、旦さん。 気付かへんかった? あのロイクさんな。 あれ――」
「欲邪――とか言う奴、だったんだろ?」
俺はアイツには二度と会いたくないと思った。 それは多分、俺に同化したクアルーンの影響だろう。
「なんや、気付いてたんか」
「俺の中の、クアルーンだと思う。 警報出しまくりだったからな。 それにしてもノア、お前邪欲を前に防衛機構とか働かなったけど?」
「流石に前みたいな事態になるんは御免やからな。 ウチ、壊れかけのクアルーン経由してプログラム改竄してな。 他にもプラグラム書き換えてんで。 旦さんもそれが原因でウチとアストラーシュが暴走するん嫌やろ? せやから何事も全ては旦さん優先にしといたんや。 嬉しいやろ?」
「いや、逆に其処まで来ると重たい」
「旦さんは重たいくらいが丁度ええんよ……」
「勘弁してくれ……」
「ウフフ……。 ホンマは嬉しい癖に」
確かにノアの言う通り嬉しいな。 こんな俺に此処まで尽くしてくれるのだから。 おっと、それよりもユリナさんに今後どうしたいか話をしないとな。
そう思いユリナさんを見ると何やらブツブツ言いながらアストラーシュの艦橋――ブリッジ内を調べていた。
「どうかしましたか?」
「あっ、はい。 このブリッジの構造、私が知ってる機種によく似ているんです」
「知ってる?」
「ええ。 今では伝説に成っているんですが、宇宙超文明と呼ばれる時代の人々が作り出した船です。 その船が時々、辺境惑星や宇宙遺跡で発見される事があるんですが、私達サキュロスはそうした船を修理したりレストアしたりしているんですよ」
俺とノアは互いに顔を見合わせる。
「え~と、HES連盟やRL帝国なんかがヴィマナ級て呼んでる船やねんけど、それ直せるん?」
半信半疑でユリナに尋ねるノア。
「状態が良ければ可能ですが……大抵はメインユニットが損壊、消失していて、船体や内部構造しか残っていないのでそれらを利用した全く別物になりますね」
「じゃあ逆にメイン部分が残ってて、 船体や内部構造が無い場合は?」
「サキュロスで一般的に使われている知識や技術は宇宙超文明を基礎としていまして。 その多くは大幅に発展しているので船体や内部構造をそれらに置換して性能を以前のものより向上させたりしますね。 勿論、ご希望であればその船を以前の姿に復元したりも出来ますよ」
俺とノアはハイタッチして喜びの舞を踊る。 俺は早速この船、アストラーシュを修理して貰えないかユリナさんに相談を持ち掛ける。 アストラーシュの名前を聞いたユリナさんはととても驚いた。
「えっ! この船って伝説の万能船アストラーシュなんですか!?」
「万能船アストラーシュ?」
「はい! アストラーシュは御先祖様が最後に作った船で、でも結局行方不明になったって伝承には記されているんです」
今度はノアが驚いた。
「ユリナさん、アンタ創造主の子孫なんか!?」
「あっ、はい。 そうですね。 ノアさんから見たらそうなりますね。 でも私達と違い、元の姿を留めた人達もいますよ」
サキュロスは宇宙超文明人の生き残りの子孫だったのだ。 なら、その当時の記録や技術が残っていても不思議ではない。 だからなのか、ユリナさんは事も無げに言う。
「だから、私達ならこの船を修理出来ますよ」
でも問題が一つあるのですよ。 それは彼女達に支払う報酬、お金が無い。 彼女達は冒険者ギルドを運営している団体と密かに交易しているのでHES連盟やRL帝国で使われているお金は使えない事はないのだが、サキュロスは独自の経済システムを持っている。 でもって、ノアが非合法組織で売りさばいた物品の代金を全て両替しても百分の一の予算にも満たない。 とてもお高いのだ。 どうしたものだろう。
其処でノアがユリナさんに提案した。
「ウチが持ってる技術データと交換ていうんはどやろか?」
「どんなデータですか?」
「こんな感じやねんけど」
ノアが小型のモニタでその情報の一部を開示した途端、ユリナさんは宙に浮かぶモニタの両端を掴んで食い入る様に見る。
あのモニタ、掴めるんだ……。 驚愕の事実だ。
でも今はそれよりもユリナさんだ。 一体どうしたんだ? 体が震えてるぞ。
「ここここの技術、ほほほ本当に提供してくれるんですか!?」
「今のウチに出せるんはこんなんしか無いんよ。 で、どうなん?」
「これなら、十分! いえ! それどころか一生遊んでもお釣りが来ますよ!!」
「よかった! ほんなら改造や拡張込みで宜しゅう。 後、旦さんの方も頼むな」
「え? アスカさんもって?」
「俺、ボットに変身出来るんだけど、今こんな状態」
俺は手だけをボットに変える。 生身の大きさ以上になる俺の手。 う~ん、この状態だとボットと生身の境がよく解らん。 一体どういう仕組みなんだ?
「かっ、変わったギフトをお持ちなのですね……。 うわっ! フレーム剥き出しで電装部品が「申し訳ございません。 お客様」
ロイクは俺達に頭を下げて来た。
「当然ですね。 ……ところで、そちらの方は謝罪してくれないんですか?」
俺は厳つい男――デギを睨んでいた。 この野郎、さっきのドサクサに紛れて何してくれてんだ。
「何故で御座いましょう?」
「その人、四人を追い掛けて俺を横切る時に思い切り一発食らわせてくれたんですけどね」
デギの一撃をガードして赤く腫れた右腕をロイクに見せ付ける。 俺が地球に居た頃だったら確実に体をぶち抜かれて死んでたぞ。
「っ!? デギ!!」
慌てたロイクはデギの名を呼ぶ。
「すいません、ロイクさん。 一発外しちまって……」
おい、なに誤魔化してんだオッサン。 チャラ男と俺とじゃ、加えた打撃力が全然違うだろ。 チャラ男共はちゃんと手加減した癖に俺に対しては本気の一撃を加えた事くらいド素人の俺でも判るぞ。 なんせ打撃を受けた瞬間、威力が凄まじくてちょっと体が浮いたんだからな。
「すみません、お客様! ほら、デギ! 貴方も頭を下げなさい!」
厳つい男は渋々と言った感じで俺に頭を下げた。
「直ぐに治療いたします。 それとお詫びと言っては何ですが、彼らが売りに来たヨトゥの彼女を差し上げましょう。 小間使いに便利ですよ。 ああ、サービスにヨトゥと奥方の服もお付けいたします」
「ヨトゥ?」
「HES連盟にもRL帝国にも所属しとらん人らの事や。 此処、人身売買も商っとるんよ」
おいおい……。 宇宙は文化的に見えて結構野蛮なんだな。 俺がネットで読んだ異世ファンタジー小説と引けを取らないぞ。
「女だけでいい。 治療と服はいらない」
「え~!? 旦さん、それ勿体無いんとちゃうん?」
「良く言うだろ? タダより高いモノは無いって。 これ以上は貰い過ぎだ」
「欲が無いのですね。 分かりました。 もしウチの商品で欲しい物が御座いましたら優先的にお譲りいたしましょう」
「好意は受け取っておこう。 それじゃ」
「ああ、その前にこれを」
俺はデギから女性の腕を施錠している鍵を受け取った。
「それではまたウチをご利用下さいませ」
出来ればゴメンだ。 特にアンタは。 その言葉を飲み込んで俺とノアは女性を連れてその場を立ち去った。
☆
――非合法組織
支配人室のイスに深く腰掛けるロイクとそのお付きでボディーガードも兼務するデギがロイクの傍らに立っていた。
「しかしデギ、レプトである君の一撃を受けて腕が腫れるだけで済むなんて凄いですね。 お陰で予定が狂ってしまいましたよ」
覚も無力化し、確保するつもりだったが予定が狂った。 喧嘩両成敗を理由に覚達にも責任を追わせ、賠償だの何だの難癖付けてノアから手持ちの品物を搾り取る予定だったのだ。 それだけノアの持って来た物はとても珍しく貴重な物が多かった。
デギはその厳つい容貌に不敵な笑みを湛えて言った。
「ロイクさん、俺は本気で奴を殺りに行ったんだ」
デギのその言葉を聞いたロイクは目を見開いて心底驚いた。
「おいおい……会社内で血肉を飛び散らせる様な真似は止してくれ。 それでなくとも清掃スタッフから苦情が絶えないんですから……。 それにしてもそうですか。 彼はそんなに――」
「ああ、今度は本気でやり合いたいな」
彼はとても興奮していた。興奮し過ぎて自身の性器が直立してしまうくらいに。 強者との戦いは彼らレプトに取って誉れであるから。
「さすがレプト。 戦闘狂ですね。 その望み、いずれ叶うでしょう」
「クックックッ! アンタが言うならそうなんだろうな」
デギは口角を上げて嬉しそうに笑った。
「人は欲で繋がっている。 その欲がいずれ再び我らと引き合わせるだろう」
照明で照らされる室内。 その明かりで生まれた二つの影。 一つは爬虫類の形のもの。 もう一つは人の形ですら無い、蠢く何かを浮かび上がらせていた。
☆
あれからアストラーシュに帰って来た俺とノア。 次いでに変態チックな出で立ちの女性。 直ぐにでも女性の拘束を解いて自由にしてあげたかったが、暴れられても困るので先ずはそのままの状態でアストラーシュに連れ帰った。 資材に関してもノアが既に回収してアストラーシュの位相空間に放り込んである。
俺達は一旦この星を離れ、改めて別の場所で応急修理をする事にした。 それというのもあの後、俺達の後を尾行して来た奴がいた。 十中八九、あのロイクとか言うおっさんの手下だろう。 まあ、そいつに気付かれない様手近な無人の建物内で直ぐにアストラーシュの中に転移したが。
と、言う事で女性の拘束を解いてボールギャグと目隠しを外したのだが。 これがビックリ! 彼女は一眼――モノアイだったのだ! そうとは知らず驚いてしまった俺はその拍子に彼女の着ていたコートに手を引っ掛けてしまい、脱げてしまった。 彼女にとって不幸なのはコートのその下は服を一枚も着ていなかった。 つまり全裸。 彼女は声にならない悲鳴を上げて艦橋の隅っこに避難。 体は震え、とても怯えていた。 あのチャラ男共め! 予想はしていたが、まさか何処にも所属していないだけでこの仕打ちとは! 許すまじ!
だが先ずは、粗相を致してしまった俺にはやるべき事がある。 それは謝罪。 そして日本人で謝罪と言えば・ど・げ・座である! 俺は迷う事無く怯える彼女の足元にジャンピングダイブ! 床に額を打ち付け、こすり付け。
「すんませんでしたーーーーーー!!!!」
彼女は俺の大声に一瞬ビクつく。
「旦さん、旦さん」
「何だ、ノア? 俺は彼女が許してくれるまで土下座を止めないぞ!」
「土下座は地球の、しかも日本だけにある最大級の謝罪の作法やろ? 流石に宇宙の人には理解出来んて……」
「ムッ! それもそうか。 ならどうすればいい? 俺、彼女達の謝罪の仕方は知らないぞ?」
「そう言われたらウチも困るけど……。 あの人がサキュロス言うんはHES連盟のデータベースで解ったんやけど、それ以上の事は載っとらへん。 サキュロスは最近発見された新種の種族らしいんやわ」
う~ん。 だとしたらどうしたら許してくれるだろう? 俺は彼女をチラリと見る。 すると、彼女はビックリお目々で俺達の様子を伺っていた。
「ん? どうしました?」
彼女は恐る恐ると――
「あ、あの……私達以外でも、その……ど、土下座の文化を持つ人達が居るんですね。 私、初めて知りました……」
か細い声でそう答えた。
「そうなんですか? ――と、これ……」
俺は全裸の彼女に慌てて顔を逸しながら脱げたコートを差し出した。
「え? きゃっ!?」
彼女は自分が裸である事を思い出し、胸と局部を手で覆い隠した。
「みみ、見ないで下さいぃぃぃ~~~っ!!」
「すっ、すみません!!」
彼女は長い前髪に隠れたそのつぶらで大きな一眼を涙目にして俺に訴え掛けた。
☆
ノアが彼女――ユリナを宥めて落ち着かせた後、手持ちの服を見繕って彼女に手渡し、そして着替えるのを待ってから彼女の事情を聞いた。
彼女達サキュロスはモノアイ(一眼)、ツインアイ(二眼)、トライアイ(三眼)の三種類居るそうで、その中でもモノアイが最も多く、物作りに特化した能力を持つらしい。 彼女もまたモノアイの一人だ。
その彼女がどうしてあのチャラ男達と一緒だったのかというと、彼女が所属しているサキュロス船団をヒュノス、エノス、サノスの三種族至上主義を掲げる宗教団体の強襲に遭遇。 一人脱出ポッドで宇宙を彷徨っていた所をあのチャラ男達冒険者に回収され、モノアイという見た目の珍しさから非合法組織に売られたそうだ。 だが其処で偶然にも俺達と出会い、チャラ男達とのすったもんだの騒動の挙句、結果ユリナさんは俺達に助けられた形になった。 因みに彼女の純潔は大丈夫だったそうだ。 モノアイだったのが幸いしてチャラ男達はユリナさんを気味悪がって手を出さなかったらしい。
「あ、あの! お礼が遅くなって申し訳有りませ! 助けて頂いた有難うございます!」
彼女は額を床に付けて土下座でお礼を言ってくる。
「いやいや! 俺達はユリナさんを見捨てて帰ろうとしたんだ! それに不可抗力とは言え貴女の裸を見てしまった! 申し訳ない!」
俺は土下座を仕返し誤った。 それに対し、彼女は顔を耳まで真っ赤にして。
「それは気にしないで下さい! 結果的に私が助けられた事実は変わりませんから!」
土下座でお礼を返された。
その光景に溜息を吐くノア。
「はあ……。 アンタらええかげんにしい。 切りないで。 それに、旦さん。 旦さんは初めからユリナさん助けるつもりやったやろ?」
「えっ……」
驚きの表情で俺を見るユリナさん。
「うっ……バレてたか……」
「当然や。 ウチは旦さんの嫁やからな!」
流石にあそこで騒動は不味い。 なので、ノアに頼んで彼女を買い取るつもりだった。 まあ、その必要はなくなったけれど。
俺が偽善? おいおい、俺だって一々人助けなんて出来ないのは理解しているさ。 ただ、彼女はなんというか……。 コートの上からでもわかるその見事なボディーラインが魅力的だったのさ! 俺がスケベというなら罵るが良い! 俺は男の本能に従った迄さ!
「本当に……あり、が…うっ、うう、うわあぁ~~~~~~んっ!!!!」
ユリナはそんな俺に抱き付き泣きじゃくった。 今まで一人ぼっちで心細くて怖かったんだろう。 あっ、今ユリナさんの胸が体に当たった。 やっぱり胸大きい……。
☆
「そうそう、旦さん。 気付かへんかった? あのロイクさんな。 あれ――」
「欲邪――とか言う奴、だったんだろ?」
俺はアイツには二度と会いたくないと思った。 それは多分、俺に同化したクアルーンの影響だろう。
「なんや、気付いてたんか」
「俺の中の、クアルーンだと思う。 警報出しまくりだったからな。 それにしてもノア、お前邪欲を前に防衛機構とか働かなったけど?」
「流石に前みたいな事態になるんは御免やからな。 ウチ、壊れかけのクアルーン経由してプログラム改竄してな。 他にもプラグラム書き換えてんで。 旦さんもそれが原因でウチとアストラーシュが暴走するん嫌やろ? せやから何事も全ては旦さん優先にしといたんや。 嬉しいやろ?」
「いや、逆に其処まで来ると重たい」
「旦さんは重たいくらいが丁度ええんよ……」
「勘弁してくれ……」
「ウフフ……。 ホンマは嬉しい癖に」
確かにノアの言う通り嬉しいな。 こんな俺に此処まで尽くしてくれるのだから。 おっと、それよりもユリナさんに今後どうしたいか話をしないとな。
そう思いユリナさんを見ると何やらブツブツ言いながらアストラーシュの艦橋――ブリッジ内を調べていた。
「どうかしましたか?」
「あっ、はい。 このブリッジの構造、私が知ってる機種によく似ているんです」
「知ってる?」
「ええ。 今では伝説に成っているのですが、宇宙超文明と呼ばれる時代の人々が作り出した船です。 その船が時々、辺境惑星や宇宙遺跡で発見される事があるのですが、私達サキュロスはそうした船を修理したりレストアしたりしているんです。」
俺とノアは互いに顔を見合わせる。
「え~と、HES連盟やRL帝国なんかがヴィマナ級て呼んでる船やねんけど、それ直せるん?」
半信半疑でユリナに尋ねるノア。
「状態が良ければ可能ですが……大抵はメインユニットが損壊、消失していて、船体や内部構造しか残っていないのでそれらを利用した全く別物になりますね」
「じゃあ逆にメイン部分が残ってて、 船体や内部構造が無い場合は?」
「サキュロスで一般的に使われている知識や技術は宇宙超文明を基礎としていまして。 その多くは大幅に発展しているので船体や内部構造をそれらに置換して性能を以前のものより向上させたりしますね。 勿論、ご希望であればその船を以前の姿に復元したりも出来ますよ」
俺とノアはハイタッチして喜びの舞を踊る。 俺は早速この船、アストラーシュを修理して貰えないかユリナさんに相談を持ち掛ける。 アストラーシュの名前を聞いたユリナさんはととても驚いた。
「えっ! この船って伝説の万能船アストラーシュなんですか!?」
「万能船アストラーシュ?」
「はい! アストラーシュは御先祖様が最後に作った船で、でも結局行方不明になったって伝承には記されているんです」
今度はノアが驚いた。
「ユリナさん、アンタ創造主の子孫なんか!?」
「あっ、はい。 そうですね。 ノアさんから見たらそうなりますね。 でも私達と違い、元の姿を留めた人達もいますよ」
サキュロスは宇宙超文明人の生き残りの子孫だったのだ。 なら、その当時の記録や技術が残っていても不思議ではない。 だからなのか、ユリナさんは事も無げに言う。
「だから、私達ならこの船を修理出来ますよ」
でも問題が一つあるのですよ。 それは彼女達に支払う報酬、お金が無い。 彼女達は冒険者ギルドを運営している団体と密かに交易しているのでHES連盟やRL帝国で使われているお金は使えない事はないのだが、サキュロスは独自の経済システムを持っている。 でもって、ノアが非合法組織で売りさばいた物品の代金を全て両替しても百分の一の予算にも満たない。 とてもお高いのだ。 どうしたものだろう。
其処でノアがユリナさんに提案した。
「ウチが持ってる技術データと交換ていうんはどやろか?」
「どんなデータですか?」
「こんな感じやねんけど」
ノアが小型のモニタでその情報の一部を開示した途端、ユリナさんは宙に浮かぶモニタの両端を掴んで食い入る様に見る。
あのモニタ、掴めるんだ……。 驚愕の事実だ。
でも今はそれよりもユリナさんだ。 一体どうしたんだ? 体が震えてるぞ。
「ここここの技術、ほほほ本当に提供してくれるんですか!?」
「今のウチに出せるんはこんなんしか無いんよ。 で、どうなん?」
「これなら、十分! いえ! それどころか一生遊んでもお釣りが来ますよ!!」
「よかった! ほんなら改造や拡張込みで宜しゅう。 後、旦さんの方も頼むな」
「え? アスカさんもって?」
「俺、ボットに変身出来るんだけど、今こんな状態」
俺は手だけをボットに変える。 生身の大きさ以上になる俺の手。 う~ん、この状態だとボットと生身の境がよく解らん。 一体どういう仕組みなんだ?
「かっ、変わったギフトをお持ちなのですね……。 うわっ! フレーム剥き出しで電装部品が所々ショートしてる! 分かりました! アスカさんの体も纏めて修理しちゃいます!」
「おおっ! 助かる!」
「おおきに!」
「ではまず、アスカさんの体を応急修理ですが直しますね。 あ、工具はフォースで代用できますから大丈夫です」
こうして俺達は当初の目的、アストラーシュと俺の体の修理の目処がたった。
ョートしてる! 分かりました! アスカさんの体も纏めて修理しちゃいます!」
「おおっ! 助かる!」
「おおきに!」
「ではまず、アスカさんの体を応急修理ですが直しますね。 あ、工具はフォースで代用できますから大丈夫ですよ」
こうして俺達は当初の目的、アストラーシュと俺の体の修理の目処がたった。




