10,閑話
――HES連盟地球派遣部隊司令本部
覚がアストラーシュに乗り込んだ丁度その頃、HESの地球司令部では蜂の巣を突付いた騒ぎになっていた。
「た、大変です! 蟹座方面の偵察部隊の通信途絶! 同時にRL帝国のものと思われる艦隊が此方に向かってきます! その数およそ十万!」
「何だと!?」
「スクリーンに出します!」
無人衛生監からの監視カメラが映し出した映像は紛れもなくRL帝国の艦隊であった。 次々と更新されていく情報。
「艦隊の中にヴィマナ級を確認! 艦種識別及び数――戦艦1! 空母1! 航空戦艦1! 巡洋艦2! 駆逐艦5! フリゲート艦5! 補給プラント艦1! うち航空戦艦はレプト皇帝ヘルグラムの専用艦ヴァリトラと確認!」
「なっ!? そんなに! しかもレプト皇帝も居るのか! 直ぐに直通通信で代表達に連絡しろ!!」
派遣部隊の司令が狼狽えるのも無理はない。 ヴィマナ級とはアストラーシュと同様、太古に繁栄した現代知識や技術を超越した謎の高度知性体によって建造されたアストラーシュの軍艦バージョンだ。 その性能はフリゲート艦たった一隻で一万の艦隊に匹敵する。
通信オペレーターが三人の代表に通信を繋げ現状を説明した。 司令本部の宙に浮かぶサブモニターにサノス代表ディアスの顔が映し出される。
”……フム、動くのが遅いと思っていたら皇帝が出張ってきたか。 コレは好都合だ。 司令、ヘカトンケイルの準備は出来ているな?”
「はっ! 滞りなく! 何時でも位相空間より出撃可能です! ……しかし、そうなると地球は……」
”最初からこうなる事は承知の上。 覚悟もしていた。 今、出来るだけ大勢の地球人を可能な限り救助船に避難させてはいるが、間に合わないだろう……。 だが、例え地球を犠牲にして地球人類に恨まれ様とも今此処で奴らRL帝国に打撃を与えておかなければいずれはHES連盟が追い詰められてしまうのは目に見えている。 やるぞ、司令!”
今は軍事力に関して数値の上では拮抗しているが、RL帝国は宇宙超文明の技術を土台に軍事力を強化、拡大していた。 このままではいずれ追い越され苦しい局面に立たされるだろう。 今回の地球への強引な介入はそれを見越してのものでもあった。 つまりHES連盟三人の代表の身を囮にRL帝国の艦隊を誘き寄せ、殲滅し大打撃を与える計画を立てる準備をしていたのだ。
だがまさか、RL帝国を統べる皇帝自らそれに釣らえれてやってくるとは思いもしなかった。 もし此処で皇帝ヘルグラムを仕留める事ができれば帝国は暫く沈黙する。 その間に時間稼ぎは勿論、工作などの対策が帝国に対して色々行える。 HES連盟にとってこれは絶好の、そして最後の機会であった。
「ヘカトンケイル出撃準備! 準備でき次第出撃――」
そのHES軍司令の号令を通信士が遮る。
「待って下さい、司令! RL帝国艦隊の前面、地球側で超高エネルギー反応検知! エネルギー尚も増大中!」
「何!? くそっ! 作戦がバレたか! ヘカトンケイルの出撃を急がせろ!」
「エネルギーベクトルは敵RL帝国大艦隊に向いています!」
「どういう事だ? RL側の攻撃ではないのか?」
「超高エネルギー、RL艦隊に向けて射出!」
メインモニタに一瞬、白い閃光が瞬く、 その後、信じられない事態が次々起こる。
「高エネルギー、艦隊に接触! ッ!? RL艦隊、全艦艇…反応消失……、 ………………ヴィマナ級ヴァリトラを始め反応無し。 RL帝国艦隊………全滅、しました……」
メインモニタに映し出される大小様々な大きさの爆発に飲まれる無数の艦艇。 それは皇帝ヘルグラム旗下、RL帝国大艦隊の最後の姿であった。 ただ呆然とメインモニタに映し出される光景を見つめるHESの部隊司令官とオペレーター達。
静まり返る司令部。 ゴクリと唾を飲むHES司令官。 静寂が支配するその場では他の者にも聞こえたかと錯覚する程とても大きく聞こえた。
”……一体、何が起こったんだ?”
サノス代表ディアスはその一言を発するのが精一杯であった。
☆
その表情から何を考えているのかさっぱり読めないRL帝国地球方面軍司令官グラメル。 そのグラメルを睨めつけるHES連盟の三人の代表ガラリア、トリト、ディアス。
此処は地球におけるHES連盟とRL帝国の会談の場。
「おい……テメエ、どういうつもりだ?」
口火を切ったのはヒュノス代表トリト。 怒りを隠そうともせずグラメルに怒気と殺気をぶつける。
「どういうつもりとは? はて、何の事でしょうな!」
「惚けんじゃねえ! 病院船襲撃と帝国艦隊によるHES連盟襲撃だ!」
備え付けのテーブルを殴りつけ、余りの衝撃に机に亀裂が走る。
RL帝国襲撃後、ミスティから病院船襲撃及びアスカ=サトルの失踪報告を受けていた。 これに関しHES連盟にとって完全に想定外の出来事であった。
『トリト、落ち着け。 それでは話し合いにならんぞ』
「ディアス! っ……そうだな、わりぃ……」
深呼吸して気持ちを落ち着けるトリト。 そのトリトに替わり今度はエノス代表ガラリアが話をする。
「貴方がたRL帝国は地球に於いて互いのテリトリーを侵さない、武力衝突を起こさない――というルールを破りました。 これは明らかな条約違反ですよ。 グラメル司令官」
「ほほう! だが、先に条約に違反したのはそちらではないですか、ガラリア殿!」
「違反も何も、貴方への直通回線の通信や重要書類を添付したメールを無視し続けていたのは貴方でしょう? しかもご丁寧に記録を破棄して」
本当はそれを理由にグラメルに連絡するつもりがなく、先に交渉を済ませて覚を囲い込もうとしていたのだ。 それにレプトの習慣を知っている者――ヒュノスならばまずRL帝国を選ばない。 本来なら交渉終了後にでも連絡すれば何も問題ない筈であった。
「ハハ! ガラリア殿は何か誤解していらっしゃる様だ! 通信やメールに関しては通信機器のトラブルやメンテナンスと重なってしまい受信出来なかったのです! その為、記録にも残らなかった! それに私とてまさか皇帝自ら艦隊を率いて地球にまで来らていたなど全く預かり知らぬ事! 不幸な出来事であった! 許されよ!」
グラメルはRL帝国側の責任者が自分一人と副官の二人しか居らずそのくせやるべき事は山積み。 なので通信に出るのが面倒だった。 メールにしても一応部下にチェックさせてはいたが地球人に関わる事では連絡しないよう厳命していた。 RL帝国にとってHES連盟は対等ではなく格下なのだ。
グラメルはそれでも一応、HES連盟による地球人のマナ開放処置について情報を調べさせていた。
部下からたまたま聞いた面白そうな事――覚について報告があった。 丁度暇だし、最近仕事のストレスも溜まっていたのでその鬱憤を晴らす為、HES連盟に対して嫌がらせのつもりでの行動だったのだが。 まさか、そのタイミングで皇帝が大艦隊を率いてこの地球に来るとはグラメル自身思ってもみなかった。
(ですが、意外な収穫がありましたね! 新型のヴィマナ級シップの発見! これは面白い!)
グラメルは心の中でほくそ笑む。
「貴方に都合が良い通信機器ですね。 そのような状態が続いていたのでまず先に我々がサトル=アスカと交渉しながら貴方に連絡を取っていた最中でしたのに……。 それで、今回の騒動です。 サトル=アスカは現在行方不明。 グラメル、あなた何か知りませんか?」
「知りませぬな! それに今回の騒動で一番被害を受けたのは我々RL帝国ですぞ! なにせ宇宙超文明の貴重な船ヴィマナ級シップ。 そして――我らが偉大な皇帝を失ったのですからな!」
レプトの皇帝はHESの代表三人が揃って地球に居ることを知り、これを気に目の上の瘤を潰してしまおうと考えでの地球出陣だったが、丁度到着したところを覚の放った一撃により呆気ない最後を遂げたのだ。
「それはお気の毒様――と、お悔やみ申し上げておきましょう」
にこやかに微笑むガラリアの隣ではトリトが溜飲を下げて満面の笑みを讃えていた。 原因は未だ調査中だが、RL帝国の被害は甚大。 帝国軍のおよそ三分の一が消失。 その上、皇帝が戦死。 それ比べ此方の被害はゼロ。 予想外の戦果だ。
「ですので我々RL帝国は地球より撤退させて頂きます! 我々はこのような辺鄙な惑星に関わっている暇は無いですからな! いや、忙しい忙しい!」
それは暗に”地球はお前らにくれてやる。 だからこっちに余計な手出しはするな”というグラメルを通したRL帝国側からのメッセージである。 RL帝国はこれから自国の立て直しに注力せねばならない。
☆
「退職願い? どういう事ですか」
此処はエノス代表ガラリアのオフィス。 そのオフィイスにある人物が訪ねて来た。 と思ったら、その人物は退職願いを口にした。
想定外の出来事に目を丸くして問いただすガラリア。 相手はリトルジャイアントと呼ばれる巨人族の最後の生き残りヴィオーラ=パラス。
ヴィオーラはガラリアの視線を真っ直ぐ受け止め堂々とした態度で話す。
「私は自分と一族の未来を掛けるべき相手に出会いました。 その方の下に向かう所存です。 ガラリア様には目を掛けて頂き大変お世話になりました。 ですが、こればかりは曲げる事は出来ぬのです。 お許し頂きたい」
語り終えた後には頭を下げた。
ガラリアは嘆息し、一言。
「サトル=アスカ、ですね?」
そう断じた。
ヴィオーラの体が僅かに反応した。 それを見て確信したガラリア。
「ヴィオーラ、心に強く決めたのであれば私に貴女を止める事は出来ません。 しかし、彼は今行方知れず。 彼が何処にいるか探す宛はあるのですか?」
「はっ! 私が目撃したアスカ=サトルの状況とRL帝国の艦隊が全滅した原因は無関係ではない筈。 そして、そんな事が可能なのは宇宙超文明の遺産が絡んでいると思われます。 それに詳しい友人の助力を得るつもりです」
ヴィオーラ自身、確証はない。 しかし、覚の傍にあったサポートAIの反応から意思があり感情があったのが伺えた。 何者かが覚と接触し、覚を抱き込んだ。 そしてその何者かは宇宙超文明の遺産を手に入れ尚且つ操れる者。 幸いヴィオーラの数少ない友人の中には宇宙超文明に関して専門の研究者がいた。 先ずはその友人に事情を話し、何らかの手掛かりを得るつもりであった。
「そうですか。 ですがヴィオーラ、貴女は私の家族も同然。 何か困ったことがあったら直ぐに連絡を頂戴」
「はっ! 有難うございます、ガラリア様」
「貴女はもう特務官ではなく一般人よ。 昔の様に呼んで頂戴、ヴィオーラ」
ガラリアは慈愛に満ちた瞳でビヴィオーラに微笑む。 久しぶりにガラリアのそんな顔を見たビィオーラは涙ぐむ
「はい、お祖母様……」
そして、ヴィオーラはガラリアの下から旅立った。 自分の願いを叶える希望の種、覚を目指して。




