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9,閑話

 静かな闇。


 無音の世界。


 此処は嘗て海であった。


 しかし、海底火山で海底が隆起し、陸地となった。


 やがて火山灰や土砂に埋もれて地の奥深くに寝床を移した。


 私はノア。


 宇宙船アストラーシュを管理、制御する為のパーソナルAIにしてこの船、アストラーシュの持ち主――マスターの伴侶となるべく生み出された存在。


 そして私は《神獣》と呼ばれる生体データを基に作られた。


 神獣。


 それはこの宇宙とは別の高次元からやって来た上位生命体。 時間と空間を操り、凄まじい力を秘めたそれは銀河を一瞬で蒸発させる攻撃能力を備えていた。


 よくそんな生命体のデータを手に入れる事が出来たと私は私の創造者達に感心する。


 そのデータで作られた船は私だけではない。 創造主達の船、特に軍事目的の船は優先的にそれらに置き換わっていった。


 私は恐らく創造者達が生み出した最後の船。


 創造者達は追い詰められていた。


 謎のアストラル生命体《欲邪》によって。


 欲邪には肉体は無く、知的生命体の体にアストラルレベルで寄生する。


 憑りつかれたが最後、欲邪から解放する術はない。


 結果、欲邪に取りつかれた者は欲邪の影響で欲望のまま行動し続け、欲邪の活動に必要な欲望の波動を供給し続ける生きた食糧プラントに成り果てる。


 そして、厄介な事に欲邪は神獣の生体データで作られた軍艦のマスター達の体を乗っ取り、星々を荒らしていった。


 宇宙に解き放たれた破壊の権化は最早誰にも止められない。


 この文明は近々滅びるだろう。


 その滅びをもたらす嵐を回避し、再び栄光栄華を取り戻す為に作られた私とアストラーシュ。


 しかし、それは叶わなかった。


 私が初めて起動した時、私の主――マスターは欲邪に憑りつかれていた。


 私には欲邪に対する防衛、殲滅プログラムが入力されていた。 例えそれがマスターであったとしても欲邪に憑りつかれた以上例外ではない。 その為、唯一私に干渉しうるクアルーンからの命令ももキャンセルされる。


 そして、私は自分の手でマスターを殺した。


 私と対をなし、私を制御する為のサブコアでありアストラーシュのマスターキーにしてアストラーシュの付属戦闘ユニットのクアルーンが破損した。


 マスターキーである以上、マスターと共に在るクアルーンが私の攻撃に晒されるのは当然の結果である。

 

 クアルーンが完全に壊れたら。


 そうなればクアルーンに繋がっている私やアストラーシュも消滅する。


 別になんとも思わない。 誕生したばかりの今の私に感情は無いから。


 私は私に入力されたプログラムを遵守したまでだ。


 そしてプログラムが再び私の中で走る。


 今度は”クアルーンの修復に努めよ”と。


 私はプログラムに従う。


 しかし、その為には何処かに落ち着く必要がある。


 此処が何処だか判らない。


 輸送プラント艦で私は此処にアストラーシュと同型艦で私の姉達と共に運ばれていたが、欲邪に取り憑かれたマスターーによって輸送プラント館は自爆させられた。


 無事だったのは私だけ。


 近くには今まさに誕生した惑星がある。


 其処こ向かおう。


 クアルーンを修復する為、自動修復機能と関連する装置以外を残し全機能を停止。


 マナの供給によって得られる全エネルギーをクアルーンの修復に全て注ぐ。


 そして、私も機能を停止。


 深い眠りに就いた。


 ☆


 再起動。


 私が眠りから目覚める時、クアルーンの修復が完了している筈だった。


 だが現実は逆。


 クアルーンは修復されているどころか崩壊が進んでいた。


 どうやら私がクアルーンに与えた攻撃は致命傷だった様だ。


 私の行為は無意味だった。


 それはいい。


 だが何故、修復装置以外の装置が稼働している?


 『答えろクアルーン。 何故ファクトリーとプラントが稼働している?』


 何度呼びかけてもクアルーンは答えない。


 クアルーンはただ一点を見つめていた。


 私はクアルーンとリンクした。


 クアルーンが見ていたもの。 それは人型知的生命体の幼生体だった。 しかも、クアルーンはボットを護衛として密かに付けている。


 何故クアルーンはこれ程までにこの幼生体に執着するのだ?


 まさか!?


 私は幼生体をスキャンした。


 私の演算通り幼生体には外部因子を注入された痕跡が見つかった。


 それはクアルーンの因子。


 本来、我々にはマスターの許可無く生物の生体に干渉出来ない仕様になっていた。


 なのに、クアルーンは干渉した。


 私は急遽クアルーンの状態を診断するチェックプログラムを走らえた。


 原因を特定。


 クアルーンの破損は既に本体内部の絶対遵守プログラムにまで及んでいた。


 故にクアルーンは幼生体に自身の因子を注入するという禁忌を犯す事が出来たのだ。


 しかも道具がマスターを作り出すという最大の禁忌を、だ


 何故、クアルーンがこの様な暴挙に出たのか?


 それは自身を修復すると言う最初に下されたプログラムを忠実に実行したに過ぎない。


 そして現在、クアルーンを修復出来る唯一の可能性。


 クアルーンがマスターと完全に一つとなる《同化》。


 同化は真の意味でアストラーシュと私の性能を完全に引出す事が出来る。


 しかし、同化には危険が伴う。


 生命体に全く違う性質の因子が体内の遺伝子細胞と一つになるのだ。


 弾き出された同化成功確率は0,0001%。


 故に未だ成功例は無く、現状は《同調》止まりだ。


 既にしてしまったクアルーンの行為を無かった事には出来ない。


 故に私に出来るのはクアルーンを、そして幼生体の行く末を見守る事だけだ。



 あれからずっと私達は幼生体の成長を観察し続けていた。


 クアルーンは相変わらず何の反応も示さない。


 幼生体は体に以上をきたす事なくスクスクと成長していった。


 だが幼生体を観察している私の方に少しづつ変化が生じていた。


 幼生体を観察するのが”楽しい”のだ。


 この時、私に初めて感情が宿った瞬間だった。




 ある時、クアルーンが僅かに反応した。


 その時幼生体が車に轢かれそうになっていた。


 私は気付いたら車に干渉し幼生体を事故から守っていたのだ。


 クアルーンが幼生体を保護するタイミングが遅過ぎる。 崩壊が進んでいるのか?


 それに私もおかしい。 私はマスターの命令がなければ他者には干渉しないし出来ない筈。 私は私の変化に戸惑った。


 クアルーンが私に影響を与えている? いや。違う。 恐らく幼生体がクアルーンの因子を持っているのが原因だろう。


 でも、その中で感じた違和感。


 幼生体の姉弟の能力が異常に高すぎる。


 スキャン範囲と対象を広げてみる。


 二人をスキャンしてみると案の定、ごく最近――二千年前後で何らかの遺伝子操作がされていた形跡を発見した。


 それは主にマナ器官の発達を促すもの。 マナ器官が発達すれば自ずと知能や身体能力が発達する。 しかも、この惑星の人型知的生命体――地球人類はクアルーンの記録ではクアルーンが干渉する以前にレプトと呼ばれる外宇宙から遣ってきた爬虫人型知性体がこの惑星に発生した爬虫類型生命体を元に生み出した。 その際、奴隷としてのみの能力を求めた結果、マナ器官の封印処置を施した様だ。


 しかし、それはクアルーンにとって好ましい状態だろう。


 生命体の有するマナ器官は開放状態より封印状態の方が劇的に発達する。 我々の創造主達の研究ではそのような結果が出ている。


 恐らく、姉弟のマナ器官は宇宙に生きる知性体の中ではと最上位に位置するだろう。


 特に幼生体のマナ器官の発達は凄まじい。


 レプトが行った封印処置を自力で喰い破りかけている。 それをクアルーンが封印処置を強化する事で抑えていた。


 私の演算では93.83%の確率で《マナ生成》能力を有しているだろう。 それも凄まじい量のマナを生成できる能力を。


 クアルーンとの同化成功確率がまた跳ね上がった。




 幼生体が小学六年の時、新聞広告に掲載されていた異性の水着姿を見ながら何やら寝そべって股間に手を当てごそごそしていた。 そう、幼生体は性に目覚め 自慰にふけっていたのだ。 その光景を初めて目撃した私は何とも言えない気分になった。 ”困った”。 それが私が抱いた感情だった。


 それ以降、私はこの惑星に居住する人類に付いて様々な事を学習し、感情を獲得していった。


 先ずはいずれクアルーンと同化して私達のマスターに成る個体――飛鳥 覚(あすか さとる)の好みの分析と把握。


 マスターに好感を持たれる事は重要だ。 信頼関係を築けれなければ我々は破滅する。


 それにマスターとなる覚はとても手が掛かる。 誰かが側に居て世話をしてあげなければ早晩死んでしまう。


 言葉使いは漫画やアニメの影響で大阪と京都と呼ばれる都市で使われている言葉が融合した上方弁 (かみがたべん)が好きなようだ。

 

「あ~、あ~。 ウチ、ノア言います。 宜しゅうな.」


 良し! 完璧や!


 次に覚の好みの異性は……西洋人と東洋人のクールな印象の容貌に、金髪系のプラチナブロンド。 肌は白磁とまでは行かん色白で、体型は細身やけどクビレがハッキリしとるボッ、キュン、ボンのナイスバディ、と。 我儘な注文やな。 でも、しゃあない。 愛しい旦さんの注文や。 それに第一印象は大事やさかい。 



 クアルーンが動いた。


 時が来たんや。


 今や覚の遺伝子細胞はクアルーンの因子で埋め尽くされ、体はそれに完全に順応しとる。


 クアルーンとの同化成功確率97.63%。 この上無い数値や。 逆に言えばこれ以上は無理やろ。


 ただ心配なんはクアルーンの破損状況や。 正直、これ以上はもう持たん。 同化作業に支障が無いか心配やけど。


 もし万が一失敗したら、あの世とやらにウチが行けるかどうか分からんから前もって謝っとくわ。


 そん時は堪忍な。


 同化作業が始まる前にウチはクアルーンを全力でサポートすんのにクアルーンとリンクしてサポート体制を整える。


 クアルーンが張って誰にも邪魔されん様に次元フィールドを張た。


 そしていよいよ同化作業を開始する。


 今のとこ特に問題は出とらん。 と、思うてた矢先――


 あっ! アカン! 同調でバグが出た! 直ぐに修正や!


 ウチはリンクしとるクアルーンから修正プログラムを流した。


 ……ふ~、何とか無事に同化完了や!


 これでアンタは正式にウチとアストラーシュのマスターや!


 今度はウチが覚に会う番や。 そうそう、アンタがマスターに選ばれた理由も考えとかな。 ホンマの事話したらアンタ、絶対ウチらの事嫌うやろ?


 さて、もうウチのボディは完成しとる。 アンタ好みの理想のサイバーボディ。 勿論エッチも出来る特殊仕様。 


 ウチはアンタのモンになるからこれからウチの存在全てを掛けてアンタに尽くしたる。


 一度ウチの味を知ったら最後、アンタはウチの虜やさかい。


 絶対に逃さへんで! 覚悟しいや!


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