7.貧乏伯爵令嬢リリア
銀は次の日から、再びチェリーと活動を再開した。
銀がなかなか仲良くなれない中、チェリーは皆と打ち解け始めていた。
それを見た銀は、元々の目的は銀が彼らと仲良くなることだったのに、一歩後ろに下がってチェリー達の話を聞くようになってしまった。
ローズ学院の女生徒と約束していた日になって、銀は帰り道、噴水の前に立った。女生徒はまだ来ていなかったので、縁に座った。
銀はいつもは姿勢を正して座っていたが、少し崩して座った。そうすれば、より貴族令嬢には見えなくなるだろうと思ったからだ。
女生徒がやって来たのは銀が座ってから十分ほど経った頃で、沢山の買い物袋を抱えていた。
「ごめんねー、今日の夕飯を買ってたんだ~。タイムセールの時間がぎりぎりで先に行っちゃったんだー……です」
女生徒はえへへっと笑った後、すぐに気まずそうな顔をした。
「あの、私には気を使わないでください。」
銀が慌ててそう言うと、女生徒は目を丸くした。
「え。……そんな訳にはいかないですよ。私、ローズ学院に通ってはいるものの貧乏で。学院が『物を大切に扱うことを学ぶために制服は夏冬それぞれ一人一着まで』って言ってくれていたから費用面では助かったけど、この前はそのせいで公爵様なんかにご迷惑をお掛けして……これじゃあ一着にするのが本当に良いのか悪いのか分からないよねー。あ、ですよね!」
女生徒の言葉に銀は首をかしげて尋ねた。
「あなたは特待生ではないのですか?」
「違うよ。何でそう思った……んですか?」
「護衛もなしに徒歩で、自ら買い出しを……それに私のことをご存じではないようですし……」
「え?あなた有名人さんでしたか!私、実は一応、伯爵令嬢なんだけど、貧乏だからパーティーとか行ったことなくって、噂は聞くけど顔はよく知らないんだ。だから、名前なら聞いたら分かるかもしれない。っていうかあなた貴族さんだよね?名前言ってみて!」
銀はそれを聞いて少しがっかりした。貴族だと簡単にばれてしまった。
「……リーチェ、と申しますわ……。」
銀は目を逸らしながら言った。
「うーん……ごめんね、聞いたことないかも。明日学院で友達に聞いてみるね。」
「いえ!ご存知でないのならそれでいいのです!」
銀の勢いに女生徒は少し後ろに下がってしまった。
「そ、そうですか。……あ!私はリリアです。」
(えっ、私と同じ名前……!?)
銀は驚いて声を上げかけたが、なんとか我慢した。
「そう、なのですか。これからもよろしくお願いいたしますわ。」
銀は微笑みつつそう言った。
「え、これからも?」
「ええ。伯爵様のご令嬢なら、パーティーでなくてもまた会う機会もあるでしょう。それに私、リリアさんに教えていただきたいことが沢山ありまして……ご迷惑でしたか?」
「ううん!そんなことはないけど……」
チェリーに教えてもらおうと思ってもなかなかできなくなってしまったこと、それは買い物だった。
この間アクセサリー店には入ったが、リリアの言葉で、生活に必要な食料などを買う必要もあると気付いたのだが、チェリーに頼もうにも、最近仲良くなった人と帰っているようなので、なかなか言い出せそうにないのだ。
「教えていただく代わりに、私に出来ることがあれば、何でもおっしゃってくださいね。」
「え。……か、考えておきますっ……!」
その後、銀はリリアに食料を売っている店まで案内された。
リリアは商品の良し悪し見分けるコツを説明していたが、銀が疑問に思っていたことを尋ねると、リリアとても驚いた。
「ええっ?リーチェさん!?そ、そこからだったんですかっ!?でもそうだよね、分かってたらこんなこと聞かないよね……。もう、リーチェちゃんってば、こんなので今までどうやって生きてきたの!?」
銀は、食料品に限らず、この前チェリーと行ったアクセサリー店でしていたのと同じように店に入って、同じように指定された金額を支払うのだと知らなかったのだ。その上、支払うための貨幣の価値も、一部勘違いしていた。
銀は驚くだけでも何通りもあるリリアの顔を時々思い出して笑いつつ、屋敷へと帰ったのだった。