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銀色のバレッタ  作者: 織山 千蔓
本編
7/26

6.赤色のリボン

 次の日、チェリーと銀は、早速授業の無い時間に一年生の振りをして、一年生の男子生徒に声を掛け始めた。

 銀はチェリーの真似をして平民に見えるように振る舞うが、ちゃんとそう見えているのかは、銀にも、銀を見慣れたチェリーにも分からなかった。どう見えるのかを聞いてもらえる人物に当てがない二人は、ぼろを出さないか心配で、長時間話し続けることは出来なかった。



 その翌日、銀はカナシュツ公爵家へと向かった。前々から約束していたお茶会をするためだ。

 銀はアリエラが来る前に、四日後に女生徒とここへ訪ねてもいいかと聞くと、ロゼッタは既に昨日学院で会ったので来る必要はないと言った。


 いつも通り、アリエラを茂みまで迎えに行ったとき、アリエラは銀を見て不思議そうな顔をした。

「銀、あのバレッタは壊れてしまったの?」

「……ええ。」

 実は銀は、あの日、帰ってから二つのバレッタを蓋付きの小さな壺に入れて、庭に埋めていた。どうしても捨てることが出来なかったが、諦めると決めたのだから、せめて手元からは遠ざけようと思ったのだ。

 しかし、銀がアリエラにそんなことを言えるはずはなかった。

「また銀色のものが見つかると良いわね?」

 アリエラは、銀色のものだから、銀があのバレッタを付けていたのだと思っているのだろう、首を傾げながらそう言った。

「そう、ですわね。ですが、このリボンは友人が代わりにとわざわざ買ってくれたものなので、しばらくはこれを付けていようと思っておりますわ。」

 銀がそう言うと、アリエラはそうなの、と言って、いつものテーブルへと歩いていってしまった。

 だが、ロゼッタはじっと何かを考えているようで、その場に立ち止まっていた。

「ロゼッタ様?どうかなさったんですか?」

「え?……あ、いえ、何でもないわ……」

 何でもないと言う割にはどこか深刻そうな顔をしていたので銀は心配になったが、二人がいつまでたっても来ない二人をアリエラが呼んだので、再び声を掛けることは出来なかった。


 アリエラが帰った後、銀とロゼッタは二人きりになった。

 アリエラと街中で周りに誰か両家の仲の悪さを知っている者がいるときに二人が鉢合わせしてしまい、その誰かに気付かずに仲良くしようものなら噂の種になったり両親に怒られてしまったりするかもしれない。

 また、折角時間をずらしても、銀が先に出てしまうと、もう帰ったのならその場所を使おうとでも思った誰かにアリエラが見つかってしまうかもしれない。

 なので、いつもメイド達がアリエラの分を片付けた後も、しばらく二人で続きをすることになっており、銀の屋敷へロゼッタとアリエラが来たときも同じようにしていた。


 この日は、アリエラが帰るまでいつも通りであったが、その後はいつも通りでないこともあった。


 ロゼッタが、一切笑わなかったのだ。


 銀が帰る時間になるまで、二人はずっと無言のままで、テーブルを囲み続けた。



 銀が半分ほど帰路を進んだ頃、後ろからやって来たカナシュツ公爵家の馬車が停まって、ロゼッタが飛び出してきた。

 銀が突然のことに驚いていると、ロゼッタが銀のドレスのポケットに手を当てた。

「無、い……?」

「な、何がです?」

「バレッタよ。三日前にはしていたでしょう?本当に壊れてしまったの?壊れていないのだとしても、お友達に貰ったものをしているのなら、ポケットにでも入れているのかと思って。」

「……あれは、本当に壊れてしまったのです。それと……このポケットには、あれは入れられませんよ?」

「そ、そうよね。それなら、欠片は?欠片なら入るでしょう?」

「確かに前回はそうしていましたが、……今回は欠片は見つからなかったので。」

「そう……。」

 銀はロゼッタに嘘がばれないか不安だったが、ロゼッタは気付かなかったようで、ロゼッタは新たに銀に尋ねた。

「ところで、リボンのお友達とはどんな方なの?」

「リボンのお友達……?」

「そのリボンをあなたに渡した方よ。」

「ええと……正義感が強くて、明るくて、世話好」

「そうではなくてっ!」

 銀はそう話したが、ロゼッタの求めていた答えではなかったらしく、途中で遮られてしまった。

「その方のことが、どのくらい好きなのかを聞きたかったのよ……。」

「……ロゼッタ様やアリエラさんと、同じほどだと思いますが。」

 ようやくロゼッタは答えに満足したのか、新たな問いを口にした。

「その方の名前は?」

 銀は一度答えかけたがやめた。何故ロゼッタがそのようなことを聞くのか分からなかったからだ。

 先程までの質問はまだ銀にも理解出来た。

 バレッタのことを聞いたのは、いつもと違う銀に疑問を抱いたからだろう。どのくらい好きなのかという質問をしたは、公爵令嬢という身分のせいで、友人が少ないロゼッタにとって、重要な問題だったのだろう。

 そう思ったのだ。

 だが、名前を聞く理由は、銀には思いつかなかった。

「ご両親のご職業は?いつどこで知り合ったの?どうしてその方とお友達になったの?」

 銀が答えないでいると、ロゼッタは次々と銀に質問を浴びせかけた。

「銀、どうして黙っているのよ。早く答えて頂戴。」

「……ロゼッタ様は何故、そのようなことを?私の友人のことは、ロゼッタ様には何の関係もございませんでしょう。」

「それはそうだけれど……」

 銀がそう言うとロゼッタは目を逸らして下を向いてしまった。

 だがすぐに顔を上げて、何事もなかったかのようににっこりと銀に微笑みかけた。

「ごめんなさい、話せないわ。次に会えるのは来月だったかしら?」

「え、ええ。」

 銀は慌てて返事をした。

 銀がぼんやりしているうちに、ロゼッタは馬車に乗り込んでさっさと帰っていってしまっていた。


 銀は鳥の鳴き声で我に返り、何だったのだろうと疑問に思いつつ、速足で残りの道を歩いた。

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