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銀色のバレッタ  作者: 織山 千蔓
本編
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3.不毛なこと

 銀は屋敷に戻ると、いつものように、まずライルを探したが、夕食まで会うことは出来なかった。

 ライルは昨年までローズ学院に通っていたので、銀の方が早く帰ってきたときでも、大抵はすぐに会うことができた。しかし、今日は父と共に王宮へ行ってしまったからか、ライルの帰りは遅い。

「お兄様!お会いしたかったですわ!」

 銀は夕食が終わるとすぐにライルに飛びついた。母が淑女はどうのと騒いでいるが、どうせそんなことを気にするような人と銀が結婚する可能性は限りなくゼロに近いのだから、と銀は完全に無視している。

 銀は、いつものように、ライルも苦笑しながら抱きしめ返してくれると思っていたのだが、予想に反して、ライルは母の言う通りだと言って銀を押し返した。

「お兄様……何故です?」

「姉様、兄様を困らせてはいけませんよ。兄様は来年には金様とご結婚なさるのですから、もう姉様だけの兄様ではないのです。」

 弟のエリオットは、昔から母と同じようなことを言い続けていたので、銀はいつも母の言葉同様にエリオットの言うことも気にしていなかったのだが、初めて言われたこの言葉に一瞬固まってしまった。

 ライルは、その隙に銀から離れていってしまった。


 銀は項垂れて部屋に戻り、ロゼッタの気持ちを考えて、今までずっと、ロゼッタに悪いことをしていたのだと申し訳無く思い、落ち込んだ。

 ロゼッタとライルの婚約は銀のためであったが、ロゼッタの想い人は、おそらくライルであるからだ。


 ロゼッタは銀とアリエラに恋を打ち明けてから、ずっと金色のブレスレットを身に付けている。上の空ながらも、好きな人から貰ったのだと銀は聞いていた。

 そのブレスレットは、本物の金でできているわけではないらしく、あちこち塗装が剥げてしまっているが、よく銀と共にいることもあって、ブレスレットに因んでロゼッタは金と呼ばれている。

 もし、それがライルから貰ったものではなかった場合、きっとロゼッタは婚約が決まったときに外していたはずであるが、頻度こそ減ったものの、今でも時々茶会などで身に付けている姿を銀は見掛けていた。

 それに、ロゼッタは、好きな人と引き離されたと言ったり悲しそうな顔をしたりは全くしていなかった。むしろ、前より笑顔のことが多くなっていた。

 結婚を後回しにしてローズ学院に行くと言って皆を驚かせたこともあったが、ライルがしていることを側で見てみたいから通うことにしたのだと、銀とアリエラに話していた。


 だから、ロゼッタの想い人は、やはりライルなのだ。

 ライルがロゼッタのことをどう思っているのかは分からないが、大切に思っていることは確かである。ロゼッタと話しているときは、ライルも笑顔になっているからだ。


(もうやめよう、こんな不毛なことは。兄に恋をしていても、報われることなど決してないのだから。)


 銀は久し振りに泣いた。どれだけ辛いことがあってもほとんど泣いたことはなかったのに、涙はなかなか止まらなかった。


 翌朝、銀は早くに目が覚めた。

 目が腫れてしまっていたので、銀はメイドが起こしに来る少し前まで、ドアノブで冷やしていた。

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