表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀色のバレッタ  作者: 織山 千蔓
本編
3/26

2.ローズ学院の女生徒

 入学式の後、銀はいつものように門でチェリーと別れて一人で歩き始めた。貴族の娘なのに平民と同様に、迎えの馬車が来ることはないし、護衛も少し離れた場所にすら一人もいない。馬車に関しては、ここに銀が通うのを許した両親でもさすがに外聞を気にしたからではあるが、護衛がいないのは銀と両親の関係によるものだ。


 昔、父は子供の中で銀だけが自分に似ていないことから、銀にあまりよい顔をしておらず、母も銀を疎ましがっていた。

 銀は王太子と一つ違いで、王太子妃候補の一人であり、狙われることも少なくなかったのに、その頃から護衛の数は少なかった。

 銀が額に傷を負ったときも、両親が銀を心配することはなかったし、事件性があったことが発覚したときの犯人探しもなおざりだった。

 この事は誰もが知っていることであり、銀を拐って人質にして両親に言うことを聞かせようとしたり、両親への復讐として、銀を殺してしまったりしたとしても、両親は気にもとめないだろうと皆が思ったのだ。

 それだけでなく、からかうことはあっても、銀本人を本気で恨んで危害を加えようとする者はほぼいなかったので、護衛はただ付き従うだけになり、両親は元々少なかった銀の護衛を全て、新たに王太子妃候補となった妹のマリアンナのところに回してしまった。

 今でこそ、銀と両親の仲は良好であるが、そのことはレイモンド侯爵家内の秘密にし、護衛も無しのままにしている。権力の強い両親を疎ましく思っているものは多いので、変に守ったりせず、仲が悪いままだと思わせた方が、もう貴族としての価値の低い銀にとっては安全だからだ。



 銀が噴水の側を通りかかったとき、ローズ学院の女生徒が水へと身を乗り出すのが見えた。何かを水の中に落としてしまったらしく、後ちょっとなのにと呟いていた。

 馬車も護衛も見当たらないということは平民の特待生なのだろうか。

 銀が噴水から少し離れたとき、後ろからバシャンという音が聞こえてきた。どうやら女生徒が身をり出しすぎて、水の中に落ちてしまったようだ。

 周りには銀とその女生徒以外には誰もいないようだったので、銀は噴水のところに戻った。

「あっ、どうしよう……明日も着るのに。今日は曇りだし乾くかな?……うう、寒……」

 女生徒はなんとか水から出てきたものの、びしょ濡れになってしまっていた。

 銀はその女生徒にハンカチを差し出しながら言った。

「あの、これ、良かったら使ってください。それと、もしかしたら制服を私の知り合いに借りることが出来るかもしれません。」

 数年前、ロゼッタの姉は結婚を期にローズ学院を中退しており、制服を実家に置いているはずだった。

「えっ、本当に?ありがとう!……ございますっ。」

「いえ、私は何も出来ませんが……」


 二人はロゼッタの実家のカナシュツ公爵家へと向かった。

 だが銀は正門には行かなかった。銀の記憶が正しければ、今日はロゼッタの親戚の一人がここに訪ねてきているはずであった。そんなときに、シクラメン学院の制服を着て、びしょ濡れの者を連れて訪ねたのでは、ロゼッタと仲の良い銀であっても追い返されてしまうだろう。

 だから銀は、門から少し離れており、生垣が塀になっているところから公爵家の敷地に入った。その時に銀は、近くにいた警備員に、ロゼッタを呼ぶよう合図を送った。

「えっ、あの、こんなところから勝手に入ってもいいんでしょうか……」

「ええ。でも、あなただけで入ったり、誰かにおっしゃったりはしないでくださいね。」

「あ、はい……。」

 女生徒は恐る恐る敷地内に入った。


 実は、この侵入経路はアリエラがお茶会の度に使っており、レイモンド家に来る時も、似たような場所から入ってきている。

 アリエラは二人の家と対立する侯爵家の令嬢なので、親には内緒の友達だった。二人で庭で茶会をすると親に言いつつ、三人で集まることはよくあることだった。この事は親達は知らないものの、その付近の警備員や使用人のほとんどは、いつもアリエラとのことに協力してくれている。


 銀と女生徒が、いつもアリエラの隠れている茂みに隠れていると、ロゼッタが小走りでやって来た。帰ってきたばかりなのか、制服を着ている。

 銀はそっと茂みから抜け出した。

「どうなさったの?」

「あなたのお姉様は、まだ制服を置いていらっしゃいますか?もし置いていらっしゃるなら貸していただけないかと思って参りました。お持ちでないのであれば、タオルだけでもお貸しいただけませんか?」

「制服もお貸し出来ると思うわ。でも、どうして?」

「こちらの方が、制服を濡らしてしまったのです。」

 銀が茂みの方を手で示すと、女生徒が申し訳なさそうにしながら姿を現した。

「まあ……少しそこでお待ちになっていてください。」

 ロゼッタはそう言って去っていったので、銀と女生徒は再び茂みに隠れた。

 その後すぐに、メイドが数人やって来た。

 制服とタオルだけでなく、着替えも持ってきてくれていたので、女生徒は濡れたままで帰らなくてもよくなった。

 制服は、そのままでは少しサイズが合わなかったが、女生徒が着替えている間にメイドの一人が素早く直してしまった。

 ロゼッタはその後一度も来ず、女生徒は会ってお礼を言いたいと言ったので、銀と女生徒は噴水のところまで戻った時、一週間後にまたここで会い、もう一度ロゼッタのところに行くことを約束をした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ