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銀色のバレッタ  作者: 織山 千蔓
本編
2/26

1.あと一年

(あぁ、あと一年しかないなんて……)

 椅子と椅子の間を歩く新入生の列を眺めながら、銀はこっそり溜め息をついた。


 自分の想いに気付いてから八年経った今、リリアは銀と呼ばれている。銀という渾名の由来は、リリアの兄であるライルが誕生日にプレゼントしてくれたバレッタが銀色だったことだ。そのバレッタを銀は毎日付けていたが、今では欠けてしまったので、宝石箱の中にしまって、他の銀色のバレッタで髪をハーフアップにしている。

 銀はシクラメン学院の二年生だ。シクラメン学院は、少しお金に余裕のある平民が主な生徒である学校だ。

 このフロール王国には学校は二つあって、シクラメン学院の他にローズ学院というものがあり、そちらへは特待生以外で通っているのは大金持ちか貴族ばかりだ。ローズ学院には、大抵の場合、勉強意欲が強く実力もある者か、研究者や官僚を目指す者しか通っていないので、生徒はとても少ない。

 銀はレイモンド侯爵家の令嬢なので、本来なら、銀は結婚や花嫁修行をするか、ローズ学院に入るかのどちらかを選ぶはずだったが、銀はこのシクラメン学院に通っている。なぜなら、銀は額に傷があるからだ。貴族は顔に傷があることを嫌い、いつも銀を遠巻きにしていた。だから、平民の集まるここで伴侶を見付けなければ、銀はおそらく、一生実家暮らしになるのだ。

 両親はそのことを考慮して、銀と仲の良いロゼッタを、次期レイモンド侯爵であるライルの婚約者にした。

 ロゼッタは今年ローズ学院の三年生となり、あと一年で卒業し、ライルと結婚してしまうのだ。そのことは、銀を憂鬱にさせていた。

 銀は、自分の気持ちに気付いた当初は、ライルへの想いを諦めようとしていたが、諦めきれなかったので、誰とも結婚せず、想いを打ち明けないのであればずっと想い続けていても構わないだろうと開き直って、諦めることを諦めたのだった。


「どうしたの、溜め息なんかついて。」

 銀の唯一の学友であるチェリーが心配そうに銀を見た。銀は誰にも気付かれないようにしたつもりだったが、隣にいるチェリーには気付かれてしまったようだ。

「何でもないから心配しないで。」

「本当に?悩み事があるなら聞くよ?」

「ありがとう。でも大丈夫。」

「それならいいけど……」

 銀は作り馴れた笑みを顔に浮かべて、新入生達の方へと視線を戻した。


 一年前の入学式の日、皆この新入生達と同じように期待に満ちた目をしていたが、銀だけはただつまらないと思っていた。長い学院長の話を上の空で聞いていた。

 ここは他の新入生たちにとって、希望のある将来への始まりだったが、銀にとっては、終わりへの始まりだった。

 式が終わって、クラスごとに別れて移動していたとき、隣にいた生徒に、いきなり前髪を掴み上げられてようやく、自分は今、邸ではなく学院にいたことを銀は思い出した。どこから噂が漏れたのか、その生徒は銀の額の傷を、貴族の落ちこぼれの証拠だと笑った。周りにいた者や、チェリーの知り合いも銀を笑っていたようだったが、チェリーだけは銀のことを庇った。自分達のなかにも顔に傷がある者はいるのに、銀が貴族だからとそう言うのは間違っていると言ったのだ。

 その時からチェリーは銀の友人になった。一年経った今では、親友だ。


 銀はその時のことを思い出して、わざわざ外聞重視の周りの反対を押しきってまでこの学院に入れてくれた両親には悪いが 、未来の伴侶どころか知り合いさえ、チェリー以外に作れそうにないと改めて思い、再び溜め息をついたのだった。

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