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9話 『私死んでも、涼夏の傍にいるから』

 

 ***



「行ってきま〜す!」


 変わらず元気な声が、境内に響く。建屋裏側の塀の切れ目に、一人の女子高生。


「おはよっ」


「おはよう」


 いつもと変わらぬ、笑顔が眩しい涼夏。


「「おはよう」」


 駐車場の裾にいた、ボサボサ頭の男子高生に挨拶した女子ら。2人の後方を同ペースで歩み始めた。路線バスで3停留所、徒歩10分ほどの道のりは、近からず遠からず。通学光景は、日常的無偏の行動である。

 一本の標柱だけが頼りの、海の見える最寄りバス停。待ち時間数分で、古さを感じる小型ノンステップバスが、やってきた。


 車内中央より後部に座る、女子高生2人。


「フワァアァウァアァ」


 手を口で隠すが、欠伸あくびの大きさは隠せない。


「何時に帰ってきたの?」


「んん、1時半は過ぎてたかなぁ」


「睡眠3時間くらいだね。大丈夫?」


「うん。車の中でも少し寝てたから」


「でも、授業、寝そうだね」


「だね。午後はヤバそう。あっ体育の後の、4時限目もヤバい」


「国語だね」


「本郷先生……ヤバさ、確定……」


 ため息、一つ。


「昨日は、茉莉那さん?」


「うん」


「牛久だっけ!?」


「そう、大仏の町。観てないけど」


「だよね。……成功した?」


「したぁ。60歳前くらいの男の人」


「病死?」


「うぅうん。詳しくは聞いてないけど、懲役の判決が出て、控訴したタイミングでられたみたい。でも家族は冤罪を訴えていて、このまま終わるのは嫌で、まだ闘いたいからって。……成功したから、真剣なんだと思う」


「冤罪、かぁ。難しいね」


「うん」


「でも、復讐代行やっている人、まだいるんだね」


「それも仕方ないのかなぁって。別に認めてるわけじゃないけど……でも、自分の子ども殺されて、犯人を殺したいほど憎む感情って、他人が抑えつけることじゃないかもって。

 ……もしもよ、もし涼夏が、組織に殺されたら私だって、組織を憎むだろうし、犯人を殺してやりたい、って思うよきっと。

 ……実際その時にならないと分からないけど、多分、自分のこと、抑えられないと思う」


「レイちゃん。……例えばね、例えばだよ。それが組織じゃなくて、身近な人、例えば先生とか同級生が犯人だったら、どう思う。やっぱり殺したい?」


「……分かんない」


「知らない人なら、殺したい。知っている人なら、殺したくない!?

 ……勿論、感情って単純じゃないよ。コントロールするって難しいけど、でもね……だから強くならなきゃいけないんだぁ、と思う。

 私のことで行動してくれることは有り難いけど、でも……でもやっぱり、レイちゃんには犯罪者になって欲しくない。んんん、レイちゃんは生命いのちを奪う人じゃないって信じてる。どんな時も、乗り越えて、正しい選択をしてくれるって……」


 隣の真友の真剣さが、伝わってくる。


「涼夏……大丈夫よ。その前に、私は涼夏を護るから」


「ありがとう! でも無理しないでね、絶対。運命には逆らわない方がいい場合もあると思うから」


「うん、分かった。……やっぱり涼夏は、私の宝物。ず〜っと一緒にいたいね」


「そうだね。……ところで、レイちゃん」


「ん、な〜に?」


「進路、決めた?」


「一応……」


「……どこ?」


 涼夏の腕に腕を絡ませる、レイ。


「……東京! 涼夏についてく」


「ホントっ!?」


 笑みが咲く。


「水恵さんも親戚の人にも、OKもらったぁ……と言っても、専門学校だから2年間だけどね」


「その後は?」


「まだ分かんない。……水恵さんたちは『自由にしていい』って言ってくれてるけど、ず〜っとお世話になってるし、この町も好きだし。……ほらっ、栄養士の仕事ならこの辺りにもあるから。……」


「そっかぁ〜……」


「私、涼夏ほど頭脳あたまないから、同じ大学は無理だし……でも一緒に居たいし……美人に寄ってくる悪い虫を追い払わないといけないし」


「やっだぁレイちゃん、それ関係ないしぃ」


「「ハハハハハッ」」


 バスの中でのバカ笑いに、前方乗客が後ろを向いた。


「「…………」」


 間が空く。


「でも、ず〜っと一緒にいるって、やっぱり無理あるのかなぁ!? 一人立ちってそういうことなんだろうね!?」


 寂しそうに漏らす涼夏。


「うん……でも距離は関係ないよ。想いはいつも同じ。私死んでも、涼夏の傍にいるから」


「ありがとう。レイちゃん、大好きぃ〜」


 抱きつく涼夏のテンションに、再び前席乗客に睨まれた。


「「…………」」



 

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