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6話 戦慄舞台(3)

 

 ***



 あれだけの騒動だったのにもかかわらず、この事件、いや出来事はメディアに取り上げられる、気配すらなかった。ホテル外の野次馬によるSNS投稿はあったものの、一文字足りともメディア発信されていない。20人以上が犠牲になったはずだが……。

 私は入院中の4人に、取材を申し込んだ。が、完全拒否。そう、彼らは死後約半日で蘇生よみがえった。あの時のキャップ帽男が命毘師みょうびしである、と確信した。

 現場となったホテル側も、ノーコメントの完璧姿勢。ありのままを公表おおやけできない事件、と承知はしていた……しかし……。


 事件から3日後の午前11時頃、状況が一変する。


 ――『……被害現場となったホテル関係者様、さらに報道関係者様にはご理解ご協力を賜り、先ずは感謝の意を申し上げます。……犯人逮捕を最優先とし、完全非公開で捜査を致しましたところ、今朝……』――


 全国ネット局で放送された、警視庁の記者会見。これが大きな波紋を巻き起すことに、なってしまう。私は街頭ビジョンで、偶然にもタイムリーに視聴できた。

 犯人逮捕の報告だ。名前と顔写真も公表された。


(そう来たかぁ)


 犯行者を知っている私は、呆気にとられた。犯人は、33歳の男に入れ替わり。

 制服で身を固めた者は、逮捕の経緯などと共に、この者の過去や生活、思想、動機などを原稿読みしていた。その中で語られたことに、耳を疑う。犯行に及んだキッカケは、ある記事だと言う。

 昨年11月、官僚らによる裏組織の存在と計画および犯罪行為を暴露した、週刊誌の記事。これに感化され、計画し、実行したことになっていた。騙されてきた国民の代表として『悪徳官僚たちへの制裁』という掲示板書込みを、発見したらしく。


 ――『……記事を書いた自称フリーライター柳刃公平、本名木戸(きど)駿平しゅんぺい氏も、この現場に居たことが判っており、重要参考人として……』――


 つまり警視庁は、私を悪者にしたいのだろうか。犯罪者を扇動したジャーナリストとして。


(まっ、それならそれで、こっちも手を考えるかなぁ)


 事実との相違点は、他にもあった。犯行は爆破物によるもの。室内での“暴風”は確かに理不尽だが、“爆弾”とは大袈裟に感じた。


(そっかぁ、だからこいつなんだ!)


 犯人は工学大卒。陸上自衛隊除隊後、3年ほど某国軍の爆発物処理担当に従事していたらしい。彼の住居で自作爆弾の部品などを押収した、と言っている。真偽は不明だが。

 そして被害は、19名死亡、6名重軽傷、と発表された。


(6名、かぁ〜。……あの4名以外に……ん!? 俺! ということは、もう1人いるってことか!?)


 不可解な会見により私の興味は、次の展開。

 犯人に仕立てられた男を警察は、どこから調達したのだろうか。もう1人の生存者とは誰か。そして、警視庁と指令を出したであろう組織が隠したことになる、少年のこと。彼と面識があるからでもあるが、彼の今後の動向だ。


 その日の早夜、阿部阪氏と連絡を取り合った。その際、病院で撮影した2人の男の写真と共に、私が遭遇した事件現場のものも、送りつけていた。

 実行犯の名を告げた、が、驚く反応もない相手。予想をしていたかのようだ。少年の復帰よりも、過激な行動に対する不安を覗かせた。そこは私も同調した。


「なぜ彼に力があるんですか? 無くなったんじゃ!?」


 元直毘師(なおびし)の少年、伊豆海いずみようは、転命てんみょうによって蘇生よみがえった。“力”なき実姉のみょうを受け取ったことで、奉術師ヴィタリストとしての“力”は無になった、と聞いていたからだ。


「誰かに、仕組まれた」


 彼曰く。奉術師には“転移”という術があるらしい。つまり、“奉術師のみょう”を血筋の者へ、故意に伝授する方法だと言う。命毘師みょうびしの端上レイも、それで母の意志を受け継いだ、との初耳。

 少年に“奉術師のみょう”が宿った同時期、病死した直毘師が間際、その“転移”を誰かに行なった形跡がある、とのことだった。その名を聞いて、納得した。


「彼の姉が、消えた」


 阿部阪氏から、ついでの情報。少年の復帰を察知し、調べたとのこと。

 福岡で同居していた姉が、姿を消していた。先月のことだ。今も行方が分からない様子。少年は口を閉ざしている、と言う。高校に通いながら、ちょくちょく欠席しては出かけている。姉を探すためなのか、それとも組織の活動を手伝っているのか。

 しかし、今回の都内で起きた事件の被害者は、新組織ハスの中核衆だ。姉の行方不明が関係している、と想定できる。いわゆる“人質”だ。


「誰が彼を動かしているのですか?」


 その問いは、阿部阪氏も答えられず。ただ懸念していたことは、少年の“力”が『以前より増しているのでは!?』ということだった。


 なぜ、“力”を憎んでいた少年は再び、活動を始めたのか。誰が少年を利用しているのか。そして、政財界を操る裏組織の内外で、何が起きているのか。そして、奉術師ヴィタリストたちの行動に変化が生じているように感じているが、それが何なのか。

 謎が謎を呼び、より深まっていく。


 翌朝、住居兼オフィスのある賃貸マンションから、ある人物との約束のために出掛けた。が、2人のスーツ男たちが、立ちはだかる。私の身元を確認した上で、折り畳まれていた一枚の紙を、目前で広げた。裁判所の許可状だった。

 容疑は、“共同正犯”の嫌疑。それから数日、勾留されてしまう……。



 ☆―☆―☆



 

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