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47話『さて、答えを聞こう』

 

「もしかして……」


「あら、お気づきになりました!? あなたとこのようにするのは、二度目になりますね」


「どうして?」


「どうして、このようなことを、と言うことでしょうか?! 私は仕える身、ただ従うのみです」


「でもあなたは」


「無駄口はいらない」


 女二人の会話は閉ざされた。

 仕える女に誘導されながら、建物内のエレベーターへ吸い込まれていく。


「あなたは、建毘師たけびし……何故ネスの味方を……」


 レイの疑問が続いた。男を気にせず、女も応える。


「私たちの一族は、権力者によって滅ばされる寸前でした。何百年の前の話ですが……。『生き残るために権力者につく』、先祖が残した教訓です。

 阿部阪一族がこの現代において、意味なき皇族守護を行っているのと同様、私たちがネスに属するのも意味はありません。ただ、時世を生きるため、です」


「そ」


「そこまでだ」


 女同士の話しを、また遮られた。

 すぐに開いたエレベーターを、降りるよう指示され。5、6歩で立ち止まる。


「では、目隠しを取ります」


 女によって、少女のそれは外された。眩しさに馴れながら、正面を見つめる。

 透明ガラス、のようなもの。その向こう側は部屋。だが中は真っ暗。ガラスに写る自分と人によって、内部は検討もつかない。

 左、右と頭を動かし始めた。

 変哲もない照明で浮き出る、白の壁と天井、クリーム色絨毯の廊下、のみ。右後方のエレベーター付近には、車で一緒だったサングラス男が。左斜め後方に、誘導してくれたポニーテール女が立っていた。


「ここは?」


 レイのその質問には、ただ微笑していた。

 寸刻、暗闇だった部屋に明度の動き。少女は正面に顔を戻した途端、目を見開いた。

 音が響くほどにガラス壁を両手で叩き、凝視。


「涼夏!?」


 照明具が明らかにしたのは、正面奥に診察白衣を纏った一人と、二つのストレッチャー式ベッド。まさしく、病室、いや研究室のような部屋。

 両手両足に拘束ベルトで固定され、複数の電子機器に繋がれたままの、二人。廊下側に足を向け、もの静かに寝ていた。


「涼夏!」


 声を張り上げるレイ。

 聞こえていないからだろうか、全く反応がない。


「な、何をしたの?」


 後方の女に強い口調で迫るが、閉眼し無言。


「一部の記憶を奪った」


 代わりに応えたのは、スキンヘッド男。


「奪っ……もしかして、闇喰やみく!?」


「そうだ」


 キョロめく真友は、入室できるかもしれない、十数メートル先にある扉を発見。駆け寄り、扉を押したり引いたり。だが開かない。

 扉横のセキュリティ装置を、見つけた。


「開けてよ!」


 強声する少女のもとへ、歩み寄る組織の男と、女建毘師。


「早く、開けて!」


 スローペースにイラつくレイは、催促した。


「条件次第では……」


「条、件?」


 焦りと怒りの中で、耳を傾けようとする少女がいた。


「条件って、何?」


「君が私たちのプロジェクトに協力すること。もしくは、この場で、命毘師をやめること。どちらかを選択してくれ」


 歯を食いしばりながら、沈黙した。簡単に答えが出せる条件では、なかった。


「もし……もし、両方断ったら……」


 小声で尋ねた。


「あの二人は既に、君との記憶や思い出はない。つまり、君のことを覚えていない。もし君が断れば、千堂美紀との思い出を消す。君が逆らえば、次に親子の絆を消すことになるだろう」


「なっ!?」


 少女の口元は、驚嘆を明らかにしていた。


「あの二人は関係ないでしょっ。なんで」


 含み笑いを見せる男。


「楽しい記憶、思い出、知性を作る知識を全て消し去り、怒り、恨みの記憶や情念だけを残した場合、人間はどうなると思う」


 その意味を理解しているからこそ、返す言葉が見つからないのだろう。唇を噛み締め、怒りを封じ込めようとしていた。


「人間は醜い生き物なんだよ。少し手を差し伸べれば、どんなに大人しい女性でも子供でも、凶暴になるんだ。平気で相手を傷つける。いやむしろ、怒りや恨みをぶつけるために、攻撃相手を手当たり次第に見つけ、思いのままに痛めつけ、時には殺したりもする。一切罪悪感など持たずに、だ。そうしなければ、自分が殺される、という恐怖観念を抱き、小さい心は崩壊。自ら命を落とす行為に没頭するだろう。

 さて、あの親子はどうなるかな。君は知っているはずだ。闇に冒された人間が、どれほど醜いかを」


 潤う目。言葉の詰まる喉。そして、震える身。


「君の力を強制的に奪力することは簡単だ。私たちの邪魔をしないように。……だが、それでは大して意味はない。

 私たちは、君の力を歓迎する。仲間になるか、君の力を頂戴するか、どちらかだ。君に断る余地はない。だろ!? 端上レイ君」


 瞬時間合いを詰め、男の胸ぐらを掴んだ。その動きで溜めていた涙も、流れた。ただ、それ以上攻める意欲を、失っていた。


「どちらにしても、あの二人は君のことを知らない。ただ、親子水入らずの生活は続けられる。仕事も学校もそのままだ。

 それを君の我儘プライドで、壊す気かい? 

 そんなこと出来ないだろぉ。君は優しくて、思いやりのある子だと聞いている。それに君は今居候の身だ。転校でもすればいいじゃないかぁ。

 勿論、大切な友だちを失うのは辛い。そのまま残って、あの親子と新たに思い出作りにするのも自由だ。

 さて、どうする?」


 俯く少女の目には哀愁、口元には怒りがあった。流るる涙は床で堰き止められ、滲む血は小さな下唇から溢れゆく。


「君の母親だって協力してくれれば、ご主人を犠牲にすることはなかった。でも、君は違う。自分だけが少しだけ犠牲になればいい。別に命までろうなんて思っちゃいない。

 ……あの二人を解放するためには、協力してくれればいいんだよ。ただそれだけだ」


 力一杯握りしめていた両拳を緩め、膝を崩し、座り込んだ。一滴、二滴、四滴と落ちる水滴は、彼女の顔真下の床を新たに濡らしていった。


 沈黙が続く中、男が口を開く。


「さて、答えを聞こう。……」



 

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