表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/49

44話『一回コドクになってみて』―4

 

 ***



 ――『大阪・奈良『生活保護者連続殺害事件』の容疑者逮捕』――


 ニュース速報のテロップから始まり、正午のニュース番組では、最初に伝えられた。


 ――『本日午前9時20分ごろ、大阪・奈良の生活保護者7人を殺害したとして、紅井恵美子容疑者、37歳を逮捕したもようです。繰り返します。……

 ……2本の鋭利な刃物を使い、胸部と背中を刺したことで……大阪府警によりますと、家宅捜索で凶器となるモノを発見、……。

 現在聴取(しらべ)に対し、紅井容疑者は沈黙を続けており……。生活保護者を狙った経緯、被害者の個人情報の入手先、殺害の手法について……』――


 会社の休憩所でテレビに釘付けの、立ち竦む群れ。唖然とした口を閉じられない男たち、両手で鼻口を隠す女たち。元同僚の逮捕に、ショックを隠しきれずにいた。


 世間を賑わせたニュースになったが、これで終わらせなかった。その日の夜、愛知・岐阜事件の容疑者、元会社役員65歳男の逮捕は、深夜まで視聴者を虜にした。

 ネット上では既に『次はどこの犯人が逮捕されるか?』『○○の犯人の職業は何か?』と、ギャンブル感を匂わせていた。

 期待に反せず翌々日には、福岡・佐賀事件の印刷会社勤務の派遣社員、沖縄事件の電子工科大学准教授が、半日差で逮捕。さらに2日後、宮城・秋田と北海道事件の容疑者が、数時間差で逮捕された。

 タイミングの良さに、マスメディア関係者、政治家、大衆人が驚愕した。喜びの声も高々に揚がった。当然の如く、逮捕に至った経緯について疑問の声が、警察に寄せられていた。



 ***



「え〜ぇ本年4月に本格稼働したLERDラード、先端情報研究開発センターと連携しまして、警察庁開発の新システム“()メシ()”を、本事件の容疑者確保のため、臨時的に運用しましたことを、ご報告致します。

 本事件が広域重要指定事件と認定された先月より、事件に関わる情報を精査し、各県警察本部に提供、各署捜査員の努力によって、容疑者を断定。逮捕に至りました」


 白髪交じりの威圧的な刑事局長は、緊急会見で得意顔を見せた。


 準公的施設ラード、この名を知る者は少なくない。汚職を隠蔽しようとした殺人事件として国会議員、地方議員、ゼネコン社長らが逮捕された、疑惑付きの施設だ。


「ネメシス」に関する詳細は極秘であるとし明言を避けたが、容疑者特定と確保に貢献したことは、紛れもない事実と語った。

 2、3時間ほどで容疑者名を数人割り出し。捜査員によるリアル情報受信から瞬時分析。2日間で確保できた、流れについて説明した上で。


「残念ながら、“()メシ()”はまだ実験段階のシステムであり、法の整備および国会承認が必要とされるものであります。

 しかし、「生活保護者連続殺害事件」の容疑者らをこれ以上野放しにすることは、国民皆様の生活と安全安心の社会を守る我々、警察庁刑事局の責務としてあってはならないと考え、私の独断と責任において、本件に限り“()メシ()”活用を指示した次第です」


 その責任を取り、彼は辞任の意を表明した。

 報道陣らのどよめく声が、会見場に広がった。しかし、空気を読めていないのか、故意なのか。トーンを高め話し続ける会見の主役が、正面中央の長テーブル向こうに立っている。


「当事件は、容疑者一人ひとりに指示した首謀者がいると、我々刑事局は睨んでおります。残念ながら“()メシ()”を使い、首謀者を断定するには、正式な手続きが必要です。……」


 将来、重大な事件における迅速な容疑者確保のみならず、複雑化する事件への対処、テロリストや組織的な犯罪を未然に防ぐ、超高速情報分析と最新防犯機能を混成させた、スーパーコンピューターによるシステム「ネメシス」は不可欠なアイテムである、と。

 つまり、このアイテム活用のために法を定め、国会承認と、国民の理解を促した、と言うわけだ。


 一方的な会見は15分ほど。辞任表明した警察庁幹部は低頭し、場を動いた。


「局ちょ~ぉ! 今起こっている誘拐事件の犯人も、子どもたちも見つけることは出来るんですかぁ?」


 質問の嵐の中でも、聞き取れた声量。

 体勢を変えぬまま立ち止まった相手は、僅かに顎を下げ、スーッと会見場から消えた。

 後を追いかける記者クラブの者たち。同調せず、ゆったりとパイプ椅子に預けていた腰を離す男。


「黙っちゃ、いねぇよなぁ」


 呟きながら、歩き出した。数人残る第四会議室を出た後、エレベーターホールで騒ぐ者たちを後目に、階段を下りた。


 外務省と法務省を主軸に草案作成中の“テロ等準備罪法”来年度成立と、来期の警察庁予算増額は、これでほぼ確定、と呼んだ。刑事局長の辞任は、建前上の生贄とも言えた。

 建物を出た男は、影組織の計画が前進したことを、悟った。

 現在起こっている各地の多発事件と連続逮捕劇は、組織内の衝突の表れ。国民をも巻き込んでいる両極端な策術は、まさしく己らの野望を、果たすためだと知っていた。

 HSハスと対抗する旧NSネスらの闘いは肌で感じていたようだが、これほど激化するとは想定していなかった。事前に教えてもらっていても、だ。いや、状況を知っているからこそ、ある程度の驚きで済んでいるのかもしれない。


 ジャーナリスト白谷は、“ネメシス”と称されたシステムについて、優位性と危険性を、前日発売された雑誌で伝えていた。代理執筆者ゴーストとして。システム運用の推進を後押しすべきことも、理解していた。

 優位性の一つとして、NSネスの組織的犯罪撲滅計画を。危険性にリンクさせ、HSハスの売国的完全監視計画の企み、を。




 各地の容疑者逮捕で世間が騒々しい間も、行方不明になる子は後を絶たず。刑事局長の会見前日までに、都内の中学生、横浜の高校生の姿が消えた、と報じていた。その保護者が不適切な生活保護受給者とは、見なされていない。


 これまでとターゲットが違うだけでなく、事件なのか家出なのか、その不明確さがより混乱させ、より危機感を煽っていた。

 捜査上入手された映像でも、尾行された形跡、誘拐された様相は窺えなかった。誘拐よりも家出の可能性を、警視庁は強調し始める始末だ。

 家出人は日々、増えている世情。その一部だと言わんばかりの態度だった。誘拐であれば、犯人から要求があって然るべきだ。そのような応答も、なかった。

 所在と生死も不明、理由も不可解のまま。次々に消えていく。


 東京、神奈川、千葉、埼玉、栃木に範囲を拡げ。中学生、高校生が主だが、11歳の女子や19歳の少年もいて。

 騒ぎに乗じて家出し1日で発見された子も、いた。悪ふざけで行方不明の真似をする子も、いた。

 確認された者8人、未確認者は14人以上と報告された。

 お陰で捜索は混乱極まりなく、右往左往の状態が続いた。


 それでも共通点を必死に掘り出した、警視庁生活安全部の課員たち。生活保護者の親ではなく、子どもたち自身に問題があることが、判った。窃盗、器物破損、暴行、動物虐待、売春などを繰り返していた。補導されたこともなく、表面おもては良い子だった。

 虐められている子たちもいたが、その反動なのか、生活苦によるストレスなのか、行為に及んだ理由は定かでない。

 言えることは、少年少女らの命に危険が迫っていること。課員の誰もが、そう察した。

 非行については公にせず、家出人・・・捜索としては異例の4200人以上の捜査員を投入。にも関わらず、発見できず。

 5週間目を迎えるも、音沙汰なし。神隠しにでも遭ったように、打つ手を失っていた。



 ***



 8月3日。行方不明15人の子どもたちが皆、別々の場所で、無事に発見された。


 前日に開かれた第191回臨時国会で緊急審議されたが、「ネメシス」捜査は否決された。HSハス側の荒息の結果だ。

 しかし、NSネス側も看過するわけにはいかなかったのだろう。再び「ネメシス」、稼動。そして24時間以内に、全員の居場所を突き止めた。


 外傷はなく、外出禁止のストレスがあったのみ。食事も娯楽も性欲も、インターネット発注で事足りたらしく。生活の不便さや孤独感はなかったと、皆が声を揃えた。生活費の心配はなく、上限額の中で自由に遣うことができた、と証言した。

 調査では、一切の証拠が見つからなかった。


 検査入院後、各々の体調に合わせ退院帰宅した15人。

 しかし、子どもたちは洩れることなく、8月8日の朝、自ら命を絶った。全員が同じメッセージを、残して……。


『ひとりのセカイへ シアワセになりたい』



 ***



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ