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41話『論点がズレてきている気がする』―1

 

 ***



<申し訳ございません。防ぐことができませんでした>


「ま、気にしないで下さい。簡単にいくとは私も思ってませんから。奴らも必死でしょうしね」


<そうですが、これ以上悪化するのは>


「確かにそうです。これ以上好きにさせておけません」


<……遠馬さん、やはり私には重荷過ぎま>


美優ミューさん。私は、私たちは兄の理優リューさんと同じくらい、あなたを信じています。だから任せたいんですよ」


<そんな……あ、ありがとうございます。でも>


「君は優しい人です。立場を考えると、厳しくてもいいんですが……今の時代、それは窮屈のようです。

 君の良さは部下の気持ちを理解し、理論的に対処することが出来ること。それが君への信頼や人望の深さに繋がっています」


<勿体ないお言葉です>


「どちらにしても、まだまだこれから。奴らの暴挙を防ぐために協力をお願いします」


<は、はい!>


「お、そうだ、美優ミューさんにお願いがございます」


<はい>


「あの娘、端上レイのライフスタイルや行動、弱味などを探っておいてくれませんか。彼氏や友人関係もです。持病やアレルギーなんかも。少しでも情報が欲しいですね」


<はい。しかし、大丈夫なんでしょうか?>


「あの日以来警戒しているでしょうし、阿部阪たちの目も厳しいと思います。それでも、命毘師をコチラ側につけるためには、致し方ありません。

 学校関係から探りを入れてもよろしいですよ。勿論、隠密で。

 では、お願いしますね」


<承知しました>


 相手の返事を確認した後、指でモバイル画面を押した。スピーカー音声での通話は、切れた。



「あの娘については、あまり無理しないほうがいいんじゃない!?」


 正面の女が、異論を含めた。


「今ここで阿部阪たちとやり合うのは、得策じゃない、と仰りたいんですね。同感です。ですが、命毘師かれがまた海外たびに出る以上、あの少女は味方なかまに欲しい。それだけのことです」


「……失礼、余計なことを」


 ソファーに座する者は、黙った。三五城みつき十百香ともかは、現防衛省大臣官房秘書課課長で、省内では春日局と言われるほどリーダーシップに長けている人物だ。


「いいえ、いいんです。そもそも、微力の女子高生と侮って情報なしに行動したために……私のミスですから。

 まさか阿部阪が傍にいるとは」


 スキンヘッド男は、天井を見上げた。


遠馬とおばさん。処理させたのに続けて甦ったことに加え、それが端上菜摘の娘のせいだった、と知れば、私でも彼女との接触を早々に指示します。

 それに、組織こちらには命毘師が少ないですからね。まだ微力のヒヨッコだとしても、いえ命毘師の卵だからこそ、欲しくなるのは当然です」


 斜め前に座る天出てんで彰子あきこが、宥めてくれた。外務省の大火おおひ聖飛せいとは後輩であり、相容れない立場。大火が曹操型なら、彼女は劉備型だ。外交手腕を買われ女性初の大臣官房外務報道官まで登りつめたが、今は外務省研修所に身を置いていた。


「ありがとうございます。ですが、正確に迅速に穏便に済ませるのが、私の役目。やはり、功を焦りました」


 相対する二人とは、意思が一致。阿部阪のトップが守護する端上の娘については、時機ときを見て再接触を試みることになった。


「あの〜、阿部阪のトップとは誰のことですか? 」


 ソファーで寛いでいたもう一人の者が、横槍。

 前腕部支持型杖ロフストランドクラッチを傍に置き、右足ギプスの男は、退院してきた総務省の仁井鉄にいがねぜんだ。

 その近くのパイプ椅子に座る、部下のしろがね将太しょうたと目が合った上司は、一つ頷きながら口を開く。


「あぁ、ご存知なかったんですね。

 阿部阪敬俊という者です。建毘師たけびし一派の実質的に統括している者です。かなりの使い手と聞いてます」


「へぇ〜。その敬俊というボスと息子が、か弱い命毘師の高校生を守護しているってことですよね!? 」


「そのようです」


「あまり詳しくないので、教えてもらいたいのですが」


 と前置きしながら、疑問を漏らした。皇族や要人を守護するのが建毘師。「なぜ統括者ほどの人物が、ヒヨッコの命毘師を護っているのか。何か規則ルールでもあるのか」と。

 ソファーに座る三人は、唖然とした。誰も答えられなかった。

 質問した者が、さらに口を開く。


「パッと考えられるのは3つ、でしょうか。

 1つ目は、手の空いてる他の者がいなかった。2つ目。命毘師が微力で、それほど注力する必要性なし。動きやすい状態にしていたかったから。3つ目……その命毘師が重要な人物であるから。つまり、ボスが護らなければならないほどの」


 三人は互いに見合わせていた。

 少女の母は命毘師として能力が高かったことを明かす、遠馬。端上菜摘を知っているのは、唯一彼だけだった。しかし、15年前に転移させたとして、今も微力であることを考慮すれば、「3つ目の可能性は低い」だろう、と判断した。

 ただ、遠馬の目には別の輝きがあった。何か隠しネタを持っている感だ。一瞬見せたそれを、隣の男だけは見逃さなかった。

 情報を集め、適宜に対処すると、スキンヘッド男はそれについて締めた。



「急遽集まって頂いたのは……」


 本題へ。


「あれ? もう一人来るんじゃ」


 その者は、毎度『急用が』と言ってこの場に来ない。自由気ままな彼には呆れるほど、頭を抱えていた。


「いつものことなので。では……」


 スキンヘッド男は、そのまま続けた。

 各地で起きている連続殺害事件の容疑者たちが、密かに差し向けた者たちによって一時的だが、収まった。だが、解決に至らなかった。工作は成功したのかもしれないが、再発したとなれば、相手方が動いたのか、一枚上手だったのか。

 言えることは、HSハスが勝負を掛けている今の異常的状況を、隠密かつ全力で防御しなければならない、ということだった。


 新たな計画を進めて、早2年。だが、組織の役割であったコトが思惑通りいかないことで、全体的な遅れが生じていた。上からの圧が強くなってきたことに危機感を察し、一気に暴挙策を講じていたのだ。

 それに抵抗する者たちが、対抗策を練るために集まっていた。



 

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