41話『論点がズレてきている気がする』―1
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<申し訳ございません。防ぐことができませんでした>
「ま、気にしないで下さい。簡単にいくとは私も思ってませんから。奴らも必死でしょうしね」
<そうですが、これ以上悪化するのは>
「確かにそうです。これ以上好きにさせておけません」
<……遠馬さん、やはり私には重荷過ぎま>
「美優さん。私は、私たちは兄の理優さんと同じくらい、あなたを信じています。だから任せたいんですよ」
<そんな……あ、ありがとうございます。でも>
「君は優しい人です。立場を考えると、厳しくてもいいんですが……今の時代、それは窮屈のようです。
君の良さは部下の気持ちを理解し、理論的に対処することが出来ること。それが君への信頼や人望の深さに繋がっています」
<勿体ないお言葉です>
「どちらにしても、まだまだこれから。奴らの暴挙を防ぐために協力をお願いします」
<は、はい!>
「お、そうだ、美優さんにお願いがございます」
<はい>
「あの娘、端上レイのライフスタイルや行動、弱味などを探っておいてくれませんか。彼氏や友人関係もです。持病やアレルギーなんかも。少しでも情報が欲しいですね」
<はい。しかし、大丈夫なんでしょうか?>
「あの日以来警戒しているでしょうし、阿部阪たちの目も厳しいと思います。それでも、命毘師をコチラ側につけるためには、致し方ありません。
学校関係から探りを入れてもよろしいですよ。勿論、隠密で。
では、お願いしますね」
<承知しました>
相手の返事を確認した後、指でモバイル画面を押した。スピーカー音声での通話は、切れた。
「あの娘については、あまり無理しないほうがいいんじゃない!?」
正面の女が、異論を含めた。
「今ここで阿部阪たちとやり合うのは、得策じゃない、と仰りたいんですね。同感です。ですが、命毘師がまた海外に出る以上、あの少女は味方に欲しい。それだけのことです」
「……失礼、余計なことを」
ソファーに座する者は、黙った。三五城十百香は、現防衛省大臣官房秘書課課長で、省内では春日局と言われるほどリーダーシップに長けている人物だ。
「いいえ、いいんです。そもそも、微力の女子高生と侮って情報なしに行動したために……私のミスですから。
まさか阿部阪が傍にいるとは」
スキンヘッド男は、天井を見上げた。
「遠馬さん。処理させたのに続けて甦ったことに加え、それが端上菜摘の娘のせいだった、と知れば、私でも彼女との接触を早々に指示します。
それに、組織には命毘師が少ないですからね。まだ微力のヒヨッコだとしても、いえ命毘師の卵だからこそ、欲しくなるのは当然です」
斜め前に座る天出彰子が、宥めてくれた。外務省の大火聖飛は後輩であり、相容れない立場。大火が曹操型なら、彼女は劉備型だ。外交手腕を買われ女性初の大臣官房外務報道官まで登りつめたが、今は外務省研修所に身を置いていた。
「ありがとうございます。ですが、正確に迅速に穏便に済ませるのが、私の役目。やはり、功を焦りました」
相対する二人とは、意思が一致。阿部阪のトップが守護する端上の娘については、時機を見て再接触を試みることになった。
「あの〜、阿部阪のトップとは誰のことですか? 」
ソファーで寛いでいたもう一人の者が、横槍。
前腕部支持型杖を傍に置き、右足ギプスの男は、退院してきた総務省の仁井鉄善だ。
その近くのパイプ椅子に座る、部下の銀将太と目が合った上司は、一つ頷きながら口を開く。
「あぁ、ご存知なかったんですね。
阿部阪敬俊という者です。建毘師一派の実質的に統括している者です。かなりの使い手と聞いてます」
「へぇ〜。その敬俊という男と息子が、か弱い命毘師の高校生を守護しているってことですよね!? 」
「そのようです」
「あまり詳しくないので、教えてもらいたいのですが」
と前置きしながら、疑問を漏らした。皇族や要人を守護するのが建毘師。「なぜ統括者ほどの人物が、ヒヨッコの命毘師を護っているのか。何か規則でもあるのか」と。
ソファーに座る三人は、唖然とした。誰も答えられなかった。
質問した者が、さらに口を開く。
「パッと考えられるのは3つ、でしょうか。
1つ目は、手の空いてる他の者がいなかった。2つ目。命毘師が微力で、それほど注力する必要性なし。動きやすい状態にしていたかったから。3つ目……その命毘師が重要な人物であるから。つまり、彼が護らなければならないほどの」
三人は互いに見合わせていた。
少女の母は命毘師として能力が高かったことを明かす、遠馬。端上菜摘を知っているのは、唯一彼だけだった。しかし、15年前に転移させたとして、今も微力であることを考慮すれば、「3つ目の可能性は低い」だろう、と判断した。
ただ、遠馬の目には別の輝きがあった。何か隠しネタを持っている感だ。一瞬見せたそれを、隣の男だけは見逃さなかった。
情報を集め、適宜に対処すると、スキンヘッド男はそれについて締めた。
「急遽集まって頂いたのは……」
本題へ。
「あれ? もう一人来るんじゃ」
その者は、毎度『急用が』と言ってこの場に来ない。自由気ままな彼には呆れるほど、頭を抱えていた。
「いつものことなので。では……」
スキンヘッド男は、そのまま続けた。
各地で起きている連続殺害事件の容疑者たちが、密かに差し向けた者たちによって一時的だが、収まった。だが、解決に至らなかった。工作は成功したのかもしれないが、再発したとなれば、相手方が動いたのか、一枚上手だったのか。
言えることは、HSが勝負を掛けている今の異常的状況を、隠密かつ全力で防御しなければならない、ということだった。
新たな計画を進めて、早2年。だが、組織の役割であったコトが思惑通りいかないことで、全体的な遅れが生じていた。上からの圧が強くなってきたことに危機感を察し、一気に暴挙策を講じていたのだ。
それに抵抗する者たちが、対抗策を練るために集まっていた。




