40話『一回コドクになってみて』―3
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『生活保護者連続殺害事件』は、全国へと拡大……いや、感染という表現が正しいかもしれない。事件発生に変則性が、生じたからだ。
5月初旬、愛知で男、2日後岐阜で女が亡くなった。死因は、内臓破裂による出血性ショック死。最も酷い部位が、小腸だ。科捜研によれば、リモートコントロールによる超小型爆弾によるモノと断定。過酸化アセトンを使用したモノと、疑った。
この頃には、事件が起きる度にニュース速報がテレビ、SNSで伝えられる異常な状態に、なっていた。
今回の犯行には専門知識を要するため、犯人逮捕は時間の問題、と誰しもが考えた。緊迫感漂う中で3人目を予想していたようだが、事件は飛び火した。
犠牲者は、北海道の生活保護世帯の女2人。死因は、窒息死だった。食道から咽頭付近までアクリルポリマーが、付着していた。検死医によれば、口から入ったモノが吸水し膨張、気道を塞いだ、と考察した。
さらに、愛知で1人の内臓破裂死があった3日後、沖縄では男2人が連日で、心不全で死亡した。呼吸困難に陥り、もがき苦しんだ。救急搬送されたが、治療の甲斐なく。目撃者の証言によれば、飲酒の場でスマートフォンを弄っていた、だけだと言う。検死医によって、一酸化炭素の血中濃度が高いことが、判った。
以後も続く。北海道の女が1人、岐阜で男が1人、沖縄で男が1人、北海道で女1人。宮城・秋田で発見された男女2人の遺体は、急性高ナトリウム血症によるものだった。さらに、北海道の女1人、沖縄の男1人、宮城の女1人、沖縄の男1人、宮城・秋田の男女2人。
地域別に異なる犯行と言えども、まとまりある事件と見なしても不思議ではない。生活保護受給者として不適切と判定された者のみが、選罰されていた。
沖縄で犠牲者が出た頃、警察庁刑事局長らが急遽会見を、全国民に向け、臨んだ。各地で起きている『生活保護者連続殺害事件』を広域重要指定事件として、刑事局が主体となることを。そして容疑者らの逮捕を、国民に約束した。あらゆる手段を講じても、と。
だが空虚かな、事件は止まらなかった。
マスメディアによる無知な見解と無能なコメンテーターによって、不安と恐怖が侵蝕していった。
SNSでの多くは「犯人は誰か?」ではなく、「次はどこだ?」「次の殺害方法は?」とギャンブル性を強めた。恐怖心の狭間の娯楽感を大衆人の脳に沸き立たせ、パラダイムを奇形させたのだ。
しかし、そんな世間を嘲笑うかのように秋田5人目の事件後、犯行は21日間、沈静化した。
未だ容疑者確保に至らない中、各メディアでは落ち着きを見せていた。それを見計らったように、頃合いだったのか、騒然とさせるためなのか……事件再発。
6月の最終土曜日。各々の手段で、6地域で、6人目が、顔の見えぬ者によって、手に落ちた。一日中臨時速報が、大勢の手足を止めた。
「これって、テロ、だよね!?」
あちらこちらの、その呟きによって世の意識が一気に、『連続殺害事件』から『テロ』へ移換した日になった。
国内外で臨時ニュースが流れ、指揮する者への警告が出された。犯人らに対して、のみならず警察庁および各管区警察署、行政にも罵倒中傷が飛び交うことに。
この日の夜には、初めて官房長官による内閣総理大臣のコメントが、流れた。『テロ』と騒ぎ立てる民衆を、大人しくさせるためだった。
しかし、政府の遺憾の戯れ言や警察庁の警告など、意味を持たず。
無視するが如く再び、次の土曜日、同様事件が勃発。電波や通信系は、騒動によってパンク状態に陥ったのだ。
「次は、東京だ」と予想していた輩たちは、「東京で何故起きないのか?」などと呟き始めていた。しかし……
待ち人を望むように、既にポトンと、落ちていた。それは小さく、騒がれず、誰も想定しない方法だった。
場所は狭都市、東京。
1週間前の土曜に、1人の行方不明の届出が街の交番にあった。だが家出の可能性を理由に、所轄は捜索しなかった。そして次の土曜、1人の行方不明の届出。その所轄は、上へ報告した。
ここで動き始めた、警視庁。2人とも、生活保護世帯の十代半ばの子どもだったからだ。
マスメディアは、同日に各地で起きた『生活保護者連続殺害事件』をテロとして、取り上げていた最中。知らされることはなかった。
警視庁は稀にある誘拐事件と同様、非公開での捜査を指示した。情報収集に奔走した。翌日には、『連続殺害事件』のターゲットとされている不適切な者、とは言い難い状況であること。友達の家へ一人で出掛け、姿を消したこと。さらに、携帯電話など贅沢なモノ、金銭を所持していないこと、などが分かった。
身代金目的の誘拐の可能性、を排除した。生活保護者への憎悪による犯行、つまり子どもの命の危険性が高い、と判断した。つまり、公開捜査に踏み切る決断、に繋がった。
開示が遅れたことは事実だが、警視庁は「捜査方法に誤りはない」と公言。マスメディアらは都民一部の意見を大袈裟に取り上げ、「連続殺害事件につながるなら、早く公表すべきだった」と反論した。
そんなメディア関係者の姿勢が反転する、出来事が起きる。
――『大阪・奈良『生活保護者連続殺害事件』の容疑者逮捕』――
ニュース速報のテロップから始まり、正午のニュース番組では、最初に伝えられた。
――『本日午前9時20分ごろ、大阪・奈良の生活保護者7人を殺害したとして、紅井恵美子容疑者、37歳を逮捕したもようです。繰り返します。……』――




