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39話『必要欠くべからざる、です』

 

 ***



 西千代総合病院の一室で語る、者たち。


「いいざまだ。……これじゃあ、ゲオッ、見世物小屋の、ミュータントと変わりない。このまま、逝かせてくれれば、良かったものを……ゲホゲホッ」


 話し辛そうな口腔。呼吸するのも必死。

 鼻穴から細い管を差し込まれ、右足甲に点滴用の針管。頭、左目と左耳、右腕、胸部の包帯が、痛々しい。財務省官僚の黒折くろざきそうの左腕袖は、平らだ。


「何をおっしゃられますか。まだまだ居て頂かないと困りますよ。そのために蘇らせたんですから」


 スーツで身を包んだ外務省の大火おおひ聖飛せいとが、意気消沈真っ只中の男の見舞いにやってきた。

 事件の日、彼は帰国したその足で会合に参加する予定だった。が、航空機の出発が遅延、その場に居合わせなかった。


「あなたのかたきは、必ず取ります!」


 真剣な眼差しは、覚悟を示していた。


「な! 三佐波さんざみ


「はい、当然でございます」


 検察庁の三佐波さんざみ麻郷まさとが、距離を置いた位置で会釈した。

 スーツで誤魔化す、吊り目で嫌らし感を漂わせるこの男に対しては、怪しむ者もいる。幸運にも『偶然過ぎる』、と。その声は大火の耳にも、届いていた。それでも組織の一員として、必要な人材のようだ。お伴としてこの部屋に居合わせているのだから。


「只今、伊豆海を非公開で全国手配しています。見つけ次第処理する予定です。黒折さんたちの無念は必ずや、この私めが……」


「三佐波くん……君の気持ちは、嬉しい、ゥゴッ、だが、隠密で頼む。……君が動くと、事が、大きすぎる、ゥバッ、証拠を、残さグフォッグフォッ」


 声帯を動かす度に、顎を突き上げ咳き込む。


「大丈夫ですか?」


 ティッシュを何枚も手に取り、男の口元のヨダレを拭き取った。目尻を下げ、惻隠の情を催していた。


「あ、ありがとうございます」


 目を合わせることなく、黒折くろざきは照れ感を隠した。それを見て見ぬ振りをした見舞いの男は態勢を戻し、別の男を鋭視。


「ということだ。任せたぞ」


「承知しました」


 直立姿勢を正し、眼鏡男は腰に角度をつけた。



「……三佐波くん」


 寸刻の沈黙を許さず、微々に口を動かす。大火の目配せで、名指しの者は呼ぶ者の傍へ。


「どうして、護衛がいたのに、こんな目に?」


「は、はい……」


 眼差しにて、大火に伺いを立てた。


「構わない。納得するまで説明してやってくれ」


「は、はい……実は……」


 丁寧な説明だったが、言い訳でしかなかった。

 建毘師たけびしのシールドには、複数種ある。事件当日、会場内壁に沿って対幽禍(かすか)のものを張っていた。それは外からの侵入を防御できても、内にある幽禍は別策になる。

 直毘師の少年自身が、場内に入って来た。それに対処するために、建毘師をSPとして待機させていた。

 失敗は、彼らが自身をシールドで保護していなかった。闇畾あんらいを受撃してしまうことに。この時、自らをシールド内にするよう、張っておくべきだった、と報告した。ただその場合でも、少年は他の方法で攻撃してきた可能性はある、と付け加えて。


「……つまり、少年のほうが、一枚上手だった、グフォッ、……ハァ~、建毘師が、どれだけの者かと思えば、聞いて、呆れるよ、ウゲェッ」


「申し訳ございません」


 三佐波は俯き加減で、閉眼した。


「まぁ仕方がありません。建毘師と言えども、最近の者は実践での経験など無いですからね。失敗を繰り返しながら、鍛錬してもらうしかありません」


「はい、その通りでございます」


 同調するしかないようだ。


「ただ、やはり気になるのは、あの少年を手引きした者の存在です」


「見当もつかないのか?」


「少々手こずっております」


「お前らしくないな」


「申し訳ございません。少年を捕まえて白状させたいところですが、残念ながら……。唯一の家族である姉も消息不明。……可能性として、阿部阪らが匿っているとも考えられます」


「阿部阪……厄介だな」


「はい」


「引き続き頼む」


「はい」


 再び静粛したが、すぐに崩れた。


「今の、やり取りはンゴォッ、な、何ですか? ゲェッ、手引き、した者? 直毘師以外に、誰かいる、みたいゲヘッ」


 ベッドの男は、困惑がる。


「はい。先日の会合を知っている者は、限られた者です。少年に教えた者、内通者がいる、と推測されます」


 眼鏡男の応えで驚きの表情に、変わった。


「っ!? 内通グフォッグフォッ……ま、まさか、ッグゥ、こうなるよう、仕組んだ、者が、傍に、いたと!? グフォッグフォッグフォッ」


 咳き込む者と目が合うと、首肯した大火。


「黒折さんは心配なさらず。先ずはご養生ください。この件については、こちらで早急さっきゅうに対処しますので」


「でも、どうやって……」


 その問いに三佐波が応えた。


「少年との接点を、怪しい者から調べております」


「せっ……通信、履歴!?」


「その他盗聴、盗撮。場合によっては……」


「……お前は、怖いな、グフォッ」


「必要欠くべからざる、です」


 目元と口元に、ニヤつきを含ませた。


「目星は?」


 目配せした大火は、ベッドに背を向け窓側へ移動した。その代わりに三佐波が、知りたい者への傍に寄る。


「手始めにNSネスの保守派でございます。龍門氏もまだ活発に動いておりますので」


「……老いぼれ教祖かぁ」


 頷きで伝える。


「元同志だった大童子氏も、この度犠牲になっております。つまり、裏切り者への制裁、もしくは風間氏の敵討ち、と考えられなくもありません。

 ただ真っ先に調査致しましたが、直接の接触はございませんでした。別の者に依頼した可能性を踏まえ、周辺人物を調査している最中でございます。数人に絞っておりますが、現段階では確証まで辿り着いておりません。それに……」


 間を置いた。


「それに!?」


「実は、龍門氏は今回犠牲なったメンバーのうち4人を、蘇生よみがえりさせております。ならば、少年を使い、あんなテロのような方法でる必要があったのか、と疑念も残ります。見せしめ、かもしれませんが……」


 さらに報告を続けた。

 蘇生した者たちの名と状況、その者たちの見舞いに昨日龍門が行ったこと、NSネスの再編成を企んでいること、などを。


「フン、小賢しい」


 終える前に、口を挟んだ。体を反転させ歩み寄る、HSハス首脳トップ


「さっさと隠居すればいいものを」


「片、付けましょうか?」


「いや、いい。今は泳がせておけ」


 仲間だった若土じゃくと夢李ゆめりを失った今、総務省官僚らを仕切れるのは、龍門の息のかかる仁井鉄にいがねぜんだと理解していた。彼を味方に付けるまでは仕方がない、と諭した。


「彼女にも奴の行動を、逐一報告するよう伝えろ!」


「はい。……あちらの4名に関しては如何致しましょう?」


「様子を見る。見張るなり、看護師を買収するなりして、情報を集めてくれ。動きがあったら、すぐに報告を」


「はい」


「とにかく急げ。……お前に負担を掛けすぎているのは分かってる。が、お陰でやっと流れが見えてきた。ここで止めてはならん。既に計画は遅れてるからな、頼むぞ。

 もし、お前が解決できなければ、他の者に任せるしかない」


 しかめ面になる大火のコトバで、緊張感を増す三佐波は無言のまま、低頭した。


「今日はもういい。私はもう少し黒折さんと話をしていく」


「はい。では、これにて」


 会釈し、扉へと歩み。その縁で立つ者の傍で、足を止めた。


兼光ターシア、大火さんをよろしく」


「承知しております」


 ギョロッとした両目を下げる、小柄な正装男がいた。ターシアと呼ばれる者、兼光直右衛門。進毘師すせりびしである。



 ***



 

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