38話『これが最期かもしれん』―2
「そう言えば、君は公安検察の三佐波とは、大学の同期だったよね!?」
「はい」
「どんな人物なんだい? 彼は」
「同期と言ってもそれほど深い仲ではありませんが……正直、あまり関わりたくないタイプ、というか……そうですねぇ……笑裏蔵刀……でも笑みも胡散臭いですし、事大主義……と申しますか……確かに聡明で貢献度は高いと聞いてます。ただ一度怒らせると怖いらしく……修復は困難で……つまり人間関係は殺伐しているというか……だから私の同期や後輩に、三佐波と仲の良い者はいないと思います」
「そうかぁ……」
「どうか、されたんですか?」
「……彼もあそこにいたが、無傷だ。トイレに行っていたらしいが、タイミングが良すぎる。
護衛《SP》の腹痛は少年の仕業だとしよう。だが、三佐波は少年が来るのを分かってたかのように、動いている。どうも裏がありそうな気がしてならない」
「……彼は、幸運の持ち主なんでしょう。……裏……もともと裏表あり過ぎて……何を考えているのか、凡人の私には理解不能です」
暫く考え、思い出したように。
「そう言えば……」
「何だね?」
「昨年の夏、彼から有明の封鎖を頼まれたことがあります」
三佐波が、少年直毘師らを放逐するために、警察を動員した日のことだ。騒動後の始末が大変なほど埋立地は、穴ボコや石コロで荒れていた。
「彼は傷一つ……あれ? 直毘師……直……あの少年は三佐波が放逐した直毘師ですか!?」
怪我人は目を見開き、トーンを高めた。
相手の肯定に驚きの表情を見せていたが、冷静さを取り戻す。
「少年は何故あんなことを? もしかして、報復……目的は三佐波……。私たちは、それに巻き込まれた!?」
「それは判らぬ。組織に対する恨みが強いと聞いとるからな。三佐波だけじゃなかろう。
どちらにしても、少年は近々処理されるだろうが、問題は他にある」
「他の、問題?」
「何故少年は、あの時間に、あの場所で、集会があることを知っておったのだ!? それを知っている者と言えば、組織の者」
悟ったように、より驚愕の顔に変えた神無月。
「裏切り者?!」
僅かに首を縦に振る老人がいた。
ベッドに脱力体を任せ、信じ難いという様相で天井を見上げた男がいた。
「HSに反旗を翻す者がいるのか、NSの者なのか、それとも……。だが閻魔に誓って言おう。わしの知るとこでは、NS派に少年と手を組む者はいない。
あの直毘師を復帰させ、利用しているのはHSだ。それも悪どいやり方で……。
今回の暴走は、彼のスイッチが入ったのだろう。そこに合いの手を入れたのが、内部にいるに違いない。
つまり、組織を壊したい者がいる、と考えても可笑しくないんだよ」
相手の見解に動揺している、少年にやられた男は、コトバを失っていた。
「誰が味方で敵なのか……もはや組織は二本どころか、三本、いやさらに分断する恐れが……。それこそ思う壺。
早々に修正をかけ、再編成する必要がある。じゃが、わしも歳。だからこそ組織強化は最重要課題なんだよ、神無月くん!」
病室に響く、真剣な大御所の強声。さらに続く、男のビジョンと意気込みを聴かされ、弱気の者は呑まれていった。
「少し、考えさせて、ください」
曇りゆく神無月の表情。
若き官僚と言うが、神無月とて40歳代半ば。妻子を持つ身として、ハイリスクを避けたいと考えるのは、吝かではない。しかし、足を踏み入れている以上、組織を抜ける選択肢はなかった。
翌日午後、まだ起き上がれない彼は看護師に頼み、別室の者を呼び寄せていた。
「俺は今まで通り、NSに付く。考えは古いと感じてはいるが、根本は同じ。経済大国の地位を向上させるために、尽力するつもりだ。
HSのやり方は過激過ぎる。あれでは国を守るどころか、足元を掬われ大打撃を被るだろうよ。一時的でも国力が弱体すれば、侵入を許してしまうぞ」
パイプ椅子に座っている片腕ギプスと単頭帯の男。
亡くなったNSトップの風間を慕っていた同世代の経産省官僚、武津呂謙太郎だ。
昨日面会に来ていた龍門の想いに同調、同意していることを神無月に伝えた。
他の2人の意思も確認したかったのだろう。部屋に呼んだ。
武津呂はパイプ椅子をぽっちゃり男に譲り、ベッド裾に腰を落としていた。
「どっちに付いても、又誰かに襲撃されるかもしれないじゃないですかぁ。言われた通りにやってるだけなのに……。逆らったとか失敗したとかなら納得できますよぉ。でも私が何をしたっていうんですか。嫌ですよ、もう痛いのわぁ……。
何なんですか、あの少年は!? 何で組織はあんな少年を使ってるんですか? もっと真面目で従順な人いるでしょっ。ぅわぁ嫌だ嫌だ、思い出すだけで腹が立ってきた。
とにかく、NSとかHSとかどっちでもいいです。とにかく、リーダーシップの優れた人に付いていきますよぉ!」
片腕ギプス包帯で左目眼帯の人事院の一人、農末球児だ。
恐怖と痛感と怒りが残る今では、結論を出すには早かったようだ。
「元々僕はですね、HSの計画には違和感があったんですよねぇ。そう思いません!? いくら大人しい国民だって黙っちゃいませんよ、ったくぅ。最悪、暴動が起きたって可笑しくないことでしょっ、あれって!? やっぱり日本人の感覚ではついていけませんって。自立できる力持ってるんだから、もっと強気でいればいいんですよ。
もしHSの戦略が失敗して、国内がボロボロになったら、誰が責任取るつもりなんでしょうね!? って言うか、失敗したらこの国はなくなってるでしょうけどね。
僕はNSに協力しますよ。遠馬さんと理優さんも同じ気持ちだと思いますけどね。勿論、龍門さんたちがちゃんとしてくれるなら、ですけど」
複頭帯と右足固定ギプスしている車椅子の眼鏡男は、法務省官僚の銀将太は、即決だった。
感化された神無月は、新たなNS編成へと心が傾いた日となった。




