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36話『何で今更勾留なの?』

 

 ***



 ドサッと台所側から入ってきたのは、ボサボサ髪の女。


「木戸さんがどうしたって?」


 居間にいる者へ尋ねた。なのに、自らの身長より高めの冷蔵庫に向かい、取り出したペットボトルの液体を勢いよく、胃に流し込む。「姉さん、おはよう」という声には反応せず。生き返ったような吐息を吹き、再び、隣室の弟を見た。


「で、どうしたって?」


「んん、勾留された」


「いつ?」


「今朝」


「そう……なんで?」


「共犯。ホテルで起きた事件の……」


「あの爆破犯の!? まぁまぁ。で、パパは何て?」


「自分でメール見ろよ」


 着替えてなかった学生服上着を脱ぎ、自身の左肩に掛けた嵩旡。


「メール? さっき電話してたじゃない」


「ちょっと訊きたいことあったから」


「あっそ、それで」


「…………」


「コウ君から聞いたほうが早い」


 呆れ顔ながらの溜め息。


「ったく……嵌められたんだろうって。つまり、邪魔者の排除」


「……NSネス


「いや、HSハス、か」


「ハ、!? だって被害者は、HSハスメンバーが殆んどだったんでしょっ!?」


「だね」


「じゃ何で?」


「龍門氏に確認したらしいけど、伊豆海のことは知らなかった、って」


「そぉお。……ってことは」


反逆者トレイター


「あるいは派閥抗争……」


官僚やつらを憎む伊豆海を利用して殺らせた。復活させたのは、それが狙いだった、かも」


「それがNSネスでなく、」


「第三の勢力」


「第三? 勢力ねぇ~……でも、これでハッキリしたわね。組織ネスに大きな亀裂が生じてるってこと」


「まだ判らない」


「何それ?」


「伊豆海単独の復讐かもしれない。お姉さんのこともあるし、まだハッキリしてないってこと」


「単独ねぇ。……福岡の高校生がピーポイントでわざわざ東京まで来たってわけ?」


「……事前に情報を手に入れてれば」


「情報……ふ~ん、その情報提供者が……」


「木戸さん」


「まぁまぁ木戸さん、可哀想に。……ホントは誰なんだろうね?」


 両肩を軽く上げた嵩旡。


「で、パパは何て?」


「木戸さんの勾留と伊豆海の件は、別に考えて動くって」


「そうね」


「でも、木戸さんの件で調べるつもりないみたい」


「あっそっ」


「でも何で今更勾留なの?」


「それを考えてた」


 二人の沈黙。


「邪魔なのは分かるわよ。刺されて生死彷徨ったのに、凝りず、組織を追っていただろうから。でも何故、今?」


「ジャーナリストとしての活動封じ。反社会派分子として世間にレベリングするためか、いや、」


「何かを掴んだ!?」


「もしくは、掴む寸前だった」


「先手、を打たれたってことね!?」


「あり得るね」


「なら、危ないんじゃない、木戸さん……」


「でも僕たちが動くのは、マズい」


「そうね。……」


 二人の会話を邪魔する、着信音。すぐに操作した嵩旡がいた。


「何かあった?」


<どうして柳刃さんが勾留されなきゃいけないのぉ?>


 その大音量に、耳からスマホを離した。さらに剣幕は収まらず。ただ聴いていた。


「何とかして、って言ってもできないよ」


<何か手はないの?>


「僕たちの役目じゃない」


<でもぉ……>


「レイさん、柳刃さんのこと、嫌ってたんじゃないの?」


<そ、それと、これとは、別。奴らのやり方が気に入らないだけ!>


 怒り心頭の少女の要望には「応えられない」と、再度伝えた。建毘師は本来影の護衛役だ。一市民のために、動くことはない。それに、司法界に縁があるわけでは、なかった。


<……どうなるの?>


「起訴されれば、裁判になる。でっち上げの証拠でも、裁判員が信じれば有罪、だね」


<有、罪……>


 悲しそうな、想いが伝わってきたのだろう。沈黙の相手に嵩旡は、父に相談してみることにした。結果に約束はできない、と伝えて……。



 

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