36話『何で今更勾留なの?』
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ドサッと台所側から入ってきたのは、ボサボサ髪の女。
「木戸さんがどうしたって?」
居間にいる者へ尋ねた。なのに、自らの身長より高めの冷蔵庫に向かい、取り出したペットボトルの液体を勢いよく、胃に流し込む。「姉さん、おはよう」という声には反応せず。生き返ったような吐息を吹き、再び、隣室の弟を見た。
「で、どうしたって?」
「んん、勾留された」
「いつ?」
「今朝」
「そう……なんで?」
「共犯。ホテルで起きた事件の……」
「あの爆破犯の!? まぁまぁ。で、パパは何て?」
「自分でメール見ろよ」
着替えてなかった学生服上着を脱ぎ、自身の左肩に掛けた嵩旡。
「メール? さっき電話してたじゃない」
「ちょっと訊きたいことあったから」
「あっそ、それで」
「…………」
「コウ君から聞いたほうが早い」
呆れ顔ながらの溜め息。
「ったく……嵌められたんだろうって。つまり、邪魔者の排除」
「……NS」
「いや、HS、か」
「ハ、!? だって被害者は、HSメンバーが殆んどだったんでしょっ!?」
「だね」
「じゃ何で?」
「龍門氏に確認したらしいけど、伊豆海のことは知らなかった、って」
「そぉお。……ってことは」
「反逆者」
「あるいは派閥抗争……」
「官僚らを憎む伊豆海を利用して殺らせた。復活させたのは、それが狙いだった、かも」
「それがNSでなく、」
「第三の勢力」
「第三? 勢力ねぇ~……でも、これでハッキリしたわね。組織に大きな亀裂が生じてるってこと」
「まだ判らない」
「何それ?」
「伊豆海単独の復讐かもしれない。お姉さんのこともあるし、まだハッキリしてないってこと」
「単独ねぇ。……福岡の高校生がピーポイントでわざわざ東京まで来たってわけ?」
「……事前に情報を手に入れてれば」
「情報……ふ~ん、その情報提供者が……」
「木戸さん」
「まぁまぁ木戸さん、可哀想に。……ホントは誰なんだろうね?」
両肩を軽く上げた嵩旡。
「で、パパは何て?」
「木戸さんの勾留と伊豆海の件は、別に考えて動くって」
「そうね」
「でも、木戸さんの件で調べるつもりないみたい」
「あっそっ」
「でも何で今更勾留なの?」
「それを考えてた」
二人の沈黙。
「邪魔なのは分かるわよ。刺されて生死彷徨ったのに、凝りず、組織を追っていただろうから。でも何故、今?」
「ジャーナリストとしての活動封じ。反社会派分子として世間にレベリングするためか、いや、」
「何かを掴んだ!?」
「もしくは、掴む寸前だった」
「先手、を打たれたってことね!?」
「あり得るね」
「なら、危ないんじゃない、木戸さん……」
「でも僕たちが動くのは、マズい」
「そうね。……」
二人の会話を邪魔する、着信音。すぐに操作した嵩旡がいた。
「何かあった?」
<どうして柳刃さんが勾留されなきゃいけないのぉ?>
その大音量に、耳からスマホを離した。さらに剣幕は収まらず。ただ聴いていた。
「何とかして、って言ってもできないよ」
<何か手はないの?>
「僕たちの役目じゃない」
<でもぉ……>
「レイさん、柳刃さんのこと、嫌ってたんじゃないの?」
<そ、それと、これとは、別。奴らのやり方が気に入らないだけ!>
怒り心頭の少女の要望には「応えられない」と、再度伝えた。建毘師は本来影の護衛役だ。一市民のために、動くことはない。それに、司法界に縁があるわけでは、なかった。
<……どうなるの?>
「起訴されれば、裁判になる。でっち上げの証拠でも、裁判員が信じれば有罪、だね」
<有、罪……>
悲しそうな、想いが伝わってきたのだろう。沈黙の相手に嵩旡は、父に相談してみることにした。結果に約束はできない、と伝えて……。




