30話『迷惑です』
「……伊豆海くん、君は強いな」
「弱いです。だから続けてる。……折角貰った生命、なのに……約束、したのに」
「約束……あぁ、あの命毘師の娘か!?」
「……姉と2人で幸せになるって……もう人を殺さないって……」
腿にある右手が、拳化していた。それが、少年の本音なのだろう。悔しさなのか、弱さなのか。悟った男は、再び謝罪を示した。「我々」として。
ドアウィンドウから眺める無言少年の背中は、小さく感じられた。
「君の復活を聞いて、また仲介役を名乗り出たんだが……」
「トラさんは、こんなことをしてて、大丈夫なんですか?」
「私のことは心配しなくていい。最初にも言ったが、もし、その携帯に私以外の者から連絡きたら、それは罠だと思いなさい。すぐに破壊するか、海に沈めなさい」
「分かってます」
2人のみで連絡を取り合う専用携帯電話を、少年に渡していた。盗聴などの詮索を回避するためだ。
カーナビを見つめながら、右左折の確認。しばらくの間運転に集中していたが、余裕が出てきた男は、会話を再会。
「君はさっき、『命令に従わなくてもいい』と言ったが、しばらくの間、指示通りに動いていて欲しい。機会が来るまで」
「チャンス!?」
視線を横から、前方へ。
「そうだよ。チャンスを待つのも大切なことだ。
今組織内部には不穏な動きもあって、怪しいと言わざるを得ない。国をどこへ向かわせようとしているのか、予想すらできない。
ただ言えることは、確実に三佐波が権力を付けてきている。今君への依頼はほとんど、彼からだ。私の立場上、三佐波には、逆らえん」
「さんざみ……私を殺せと命じた、二重人格のサイコ野郎……」
「サイコ野郎か、ハハッ、正しくだな。……だが、奴は頭が切れる。君の復活を企んだのも、彼だ。君の能力、その正確性、残虐性に惚れてるからな」
「迷惑です」
「確かに迷惑な話だ。……それでも、君を必要としている」
「……迷惑です」
「あぁ」
「でも、トラさんも、僕を利用しようとしている。そうでしょ?」
「フフッ、よく分かったね。……君を、味方につけておきたいのさ」
ホルダーのペットボトル飲料で喉を潤した後に、男なりの意志を語り続けた。
「私はね、この国から殺人罪が減ればと願っているんだ。減ってはきているが、それでもまだ、年間300件を超えている。公表されているものだけで、だ。
それにぃ、昔と違って、犯罪傾向が変わったよ。動機が複雑なんだ。対処しろったって限界がある。法的にもな。
人口も税収も減っているこの国で、警官を増やすことは有り得ない。なのに、テロも想定しなければならない、新たな外国犯罪組織にもサイバー犯罪にも対処しなければならない。どこにそんな人員と金があるというんだ!
……警察への要求が増えれば、警官らの負担は増えるばかり。どこにそんな時間と余裕があるというんだ。もうすでに、限界なんだよ、警察組織は。
……今の建前のやり方じゃ、被害者も増える可能性だってあるんだ。だから君たち、奉術師による犯罪対策が必要なんだよ!
……すまない、愚痴になってしまったね」
「……大変、なんですね」
「いや、すまなかった。でも解っていて欲しい。私は私利私欲で君たちを、伊豆海くんを、利用しようとは考えていない。
組織が指向転換しようとしている今、いつか君の力を借りることになると思う。同時に、君を、守りたいと思っている。勿論、君の意向を踏まえた上でだ」
「……HSに逆らうつもり、ですか?」
「逆らう!? 違う、NSの正当性を重んじたいだけだ。
確かに改善すべきことはある。時流に適した施策が必要だ。それは組織の中でも一致しているはず。ただ、HSの考えはどうも、納得できない感が強い。と言っても、私の意見が通るはずもない。所詮官僚部隊の世界だ。
HSの勢力は増すばかり……表向き、準ずる他にない」
少年の質問は、組織全権をHSが支配した時について。男の意思は固まっていなかった。だが懸念は感じられ、対応策の必要性を示唆した。HSの目的について。男も理解に苦しんでいた。ただ、国力衰退に結びつく匂いを感じている、と伝えた。




