3話 富山の女医(2)
奥側のソファーにバッグを置き、睨みを利かす組織の女。座るよう、ジェスチャーしている。取材慣れしている感が、否めない。
「貴重なお時間、ありがとうございます」
一応感謝の意を示しながら、すでに座している彼女とは向かいの、シングルソファーに腰を下ろす。
「5分だけですから。それで、何を訊きたいのかしら?」
(5分?! ……まっ、いい)
相手は美脚を揃え、斜めに。“魅せる”ことを熟すその美姿勢は、オヤジたちを魅了するに値する。ただ、威圧感、冷静さは人並み以上。20歳代とは思えないほどの、風格。組織中核にいる女と聞いているが、嘘ではなさそうなオーラが、緊張感を演出していた。
私も場を踏んできたジャーナリスト。臆することなく、直球勝負することに。
「NS、あなた方組織は、何を企んでいるのですか?」
「企む? ……フッ」
軽く鼻で笑われた。
「思い出しました。柳刃さんって確か、以前雑誌で闇組織のなんちゃらを書いた人ですね。官僚の顔写真まで出して……。国会議員の先生方、怒ってましたよ。『俺たちは木偶じゃない』ってね。
……何か誤解されているようですが、NSはこの国を、良くしようとしているだけですよ」
「……殺人を犯しても」
「殺人? 何のことかしら。もし殺人が起きているようでしたら、警察にご連絡されればよろしいかと……」
「……フン」
鼻で笑い返した。
「そうでしたね。あなたは進毘師、助けることはあっても、殺しはしない」
「あらっ、そこまでご存知なんですね。優秀なジャーナリストさんだこと……」
「お褒めの言葉として……ですが私の知る奉術師とあなたとでは、根本的な違いがあるように感じています」
「奉術師!? 誰のことをおっしゃってるのかしら?」
「あなたもご存知の、命毘師の女子高生です」
「あぁ〜あの子、ねぇ。レイちゃん、って言いましたっけ!? 素直でいい子ですよねぇ」
「はい、いい子です。あなたとは違う」
「あらっ失礼ね。私も素直だし、いい子……そんな年齢じゃないかぁ……いい女、ってことで」
「世間はそう見てるかもしれませんがね。……彼女は純粋に人を助けたいと思って活動している。あなたは、自分の利のために活動している。違いますか?」
「……否定しませんわ。
私は私の信念、願望、ビジョンのためにやってるんです。何か問題でも!? レイちゃんだって、己の信念を貫くためにやってるんでしょう。価値観の違い、じゃないかしら」
「…………」
「もう終わり?」
「それでは伺います。なぜあなたは、NSに属しているんですか? そこで何をしたいんですか?」
「……それでは伺いますが、柳刃さんはなぜ、フリーでいるんですか?」
「……フリーでいることで、やりたいことが出来る、性分に合ってる、からでしょうか」
「同じことです。私も組織にいる方がやりやすい、それだけのこと……」
「やりたいこととは?」
「残念ながらあなたにお話しする筋合いは、どこにもありません。
……でもこれだけ……組織のこと、計画のことをどこまでご存知なのか知りませんが……私は今の計画とやらに、それほど興味ないってことです。
確かに、国内の不要分子を治療することは共感しますが、それと私の望みは、別ってことです」
「不要分子の治療……つまり、組織に反する者は殺す、ってことですよね!?」
「さぁ。……別に治療って一つじゃないから。その人、その時の症状に適した処置をするだけです」
(さすが医者だな)
「組織に属してるって言っても……人数多過ぎて……何を企み、どこで何をしているのか、なぁんて、下っ端の私には……」
(よく言うよ)
「もういいのかしら?」
「では、兵庫にある通称LERD。落成式に行かれてましたよね!? 医者であるあなたには無関係のはず。なぜあそこに?」
「いけません!? 招待されたから行ったまでです」
「(わざわざ兵庫の山奥まで!?)……あの施設、表向きは警察庁と連携した専門機関……ですが、地下では国民監視システムを充実させる計画だったとか……。
ところが! いつの間にか変更され、当初の目的とは違う何かが地下で実行されている。それが“プロジェクトAR”……ではないかと考えたのですが、それに関わっているのでは?」
相手の表情が、微妙に硬くなった。
「……あなた、それ以上首を突っ込むと、命の保証ないわよ」
「ご心配なく、既に殺されかけました。ハハハッ、お陰で二ヶ月も入院してましたよ」
嫌味笑いを含め、自らの立場を伝えた。