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29話『お姉さん、殺されるぞ』

 

「それで、お姉さんとは会えたかい?」


「……はい」


「ショック、って感じはなさそうだけど」


「ショック、ですよ。僕の、たった一人の、大切な家族でしたから」


「……すまない。平気なわけ、ないよな」


「……でも……」


「ん?」


「これで、スッキリしました」


 言いながら、走行前方に顔を向ける。


「スッキリ?」


「これで僕には、弱みがなくなった。僕のことを知らない姉……女を守るために、犬のような人生を送る必要がなくなった、ってことです」


「なっ!?」


 驚きの表情で、顔を助手席の者へ。


「奴らは方法を誤った。これで僕には、怖いもの、ナシです」


「何をする気だ?」


「……何もしません。ただ、命令に従う必要はなくなった。気が楽になった、ってことです」


 戸惑いの男の目が、揺らぐ。


「お姉さん、殺されるぞ」


「……だって、僕のことを憶えてないんですよ。同じことです」


「だが、君の唯一の家族じゃないか」


「……家族……姉にとっては、違う。姉弟きょうだいとして、元に戻れない、もう二度と。……そんな方法も、そんな奉術師も、存在しない。……ですよね!? トラさん」


「……そうだが……」


 的を得た事実に、返す言葉が見つからないのだろう。沈黙の空気が車内を埋めた。赤信号で停車させたトラと呼ばれる男は、空気を入れ替えるために、口を開く。


「ところで伊豆海くん、君はどんな方法でお姉さんを見つけた? お姉さんに恨みを持つ人間などいないだろっ。誰の幽禍を使ったんだい?」


「……自分のモノです」


「君の!? どういう意味だ?」


 前方に指を指す、助手席の少年がいた。青信号であることを教えられた男は、ドライブ発進。キューとハイブリッド独特の音色を奏でながら。返答のない少年の意図を、考えながら。


「もしかして、怨恨ではなく、思入れで捜し当てたってことかい!? 君の姉を想う幽禍が、大切なお姉さんを察知したってことだね!?」


 キャップ帽少年の笑みは、男からは見えない。


「でも、いくら君の能力でも、福岡からココまでは難しいだろっ!?」


「……僕の能力、計れますか? 日本全体を網羅できるようになってる、かもしれませんよ」


「冗談、だよね!?」


「……フッ、ご想像にお任せします」


「フ、フハハハッ、君には脱帽するよ。私が危険を冒しながら、お姉さんの居場所を見つけて連絡したのに、すでに見つけてたなんて。それも、まさか自分の幽禍で探しだすなんてなぁ。ということは、祓毘師はらえびし闇喰やみくしてもらったわけだ。

 そんな方法があるとは……誰も思いつかないだろうね」


 頼んだ祓毘師が誰なのか、尋ねる必要はなかった。少年が頼める者など限られていた。

 事実、以前協力関係であった祓毘師、みなと耶都希かづきとの別れの日に頼み、少しばかりの幽禍を抽出。自らの管理下に。悟られないよう、常に頭上10キロ付近で浮遊させていた。もしもの時のために、だ。


「だが、それだけお姉さんのことを想っているのに……君は、忘れられるのか?」


「忘れるんじゃない。諦めるんです。僕たちの、運命を……」


 サングラス男の目元が、力む。少年の“運命”に影響を及ぼしているのが組織であることを、心咎めていた。「すまない」と口から漏れる。再び、巻き込んでしまった、まだ未成年である彼に対して。だが、男の責任でないことを伝える少年によって、少しばかりか救われたようだ。


「まさかあんなやり方で、君を、引っ張り出すなんて……呆れて言葉が出ない」


「伊豆海家の血筋、いいえ、父の、責任ですから……」


 父は組織の一員として、表顔は刑事、裏顔は直毘師の活動をしていた。陽がまだ1歳の時、力の転移によって受け継いでいた。その直後、組織の陰謀によって父は殉職、させられていた。そのことを知らず、去年まで組織の一員として活動していたのだが……。



 

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