22話『闇って何かを望んでるんですか?』
「では……ちょっとだけ講義、するとしましょうか」
「碧先生、よろしくお願いします」
背筋を伸ばし一礼した女子高生を前に、得意気な顔付きになった、先生と呼ばれた青年。
「ェフェン!」
軽く咳払いをし、低トーンで講義開始。
「それでは先ず、幽禍とは何でしょうか?」
挙手する相手。
「はい、端上レイさん」
「幽禍とは、人の命に、恨み、悲しみなどの情念や記憶といった闇が、寄生しているものです」
「そうです。では、その特徴は?」
「人が亡くなった後も命から離れず、浮遊し続けます。闇だけでは存続できないからです。その期間は、命のエネルギー量によって違います。それからぁ……あ、幽禍の行動範囲は、闇の大きさや個体情報などによります」
「はい、大正解です。それでは、俺たちの力は主に何に対して可能ですか?」
「はい……命です」
「そうですね。ということは、幽禍を動かすには?」
「え〜っと、命を動かす、ですか!?」
「その通〜りです。ですがぁ、幽禍には闇という足枷があるため、自由気ままには動けません。それどころか、その人の個体情報、つまり情念や記憶のみの範囲……んんん、人間がよく使う執着心のようなものがあるので、容易には動こうとしないんですねぇ。
では、どうすれば良いのでしょうか?」
「えっと……え〜っと……んんん……」
腕を組み、目を閉じ、考え始めた。
「ではヒントです」
それに反応し、目を開けたレイの正面には、両肘を付き前のめりになっている、講義する者の顔が。
「腰が重い人を動かそうと思ったら、単純にどんな方法を使いますか?」
「腰が重い……動かない人を、動かす……ご褒美をあげる、とか!?」
「その通~り!」
人差し指を顔の横に、立てていた。
「正確には、幽禍の闇が望むことをしてあげる、ってことです」
「望むこと……へっ? 闇って何かを望んでるんですか?」
「はい」
「例えばどんな?」
「それは、クククククッ解りません」
「え~何それ〜ぇ、意味不明なんですけどぉっ」
生徒と先生の演技は、終わった。
「だよねぇ~、ゴメンゴメン。
でも、本当に闇の望みなんて解らないんだ。相手は言葉を持っているわけじゃないから、ね」
「それじゃぁ碧兄たちは、どうやって?」
「そうだねぇ〜、闇儡と幽動では違うんだけど……レイちゃんの要望は闇儡だから、先ず、幽禍のエネルギーと性から、『なぜ浮遊しているのか?』を読み取るんだ。それから『あっ、この幽禍はこんなこと望んでるんだろうなぁ』って勝手に解釈する。例えば、憎しみが強い幽禍なら、その憎しみを形にして晴らしたいはず、って感じね。ただパターンが多いから、解釈も様々。
経験豊富な直毘師なら、それほど苦労しないんだけどね」
「へぇ〜ぇ」
「大事なことは、コチラからも発信すること、だね。
自分が何をする者なのか、何が出来るのか、なんかを伝えるんだ。すると幽禍は『おっ、なんか面白れぇ奴がいるぞ』って思ってるかどうかは知らないけど、俺たちのとこへ寄ってくる。
直毘師の力量で、寄ってくる幽禍も変わる。数も質も。……つまり、幽禍の持つ闇エネルギーより、大きな力が必要になるってことだね。じゃないと、『なんだあいつ!?』って無視されるだけ」
「へぇ~面白~い! 碧兄も無視されること、あるの?」
「そりゃ〜昔はありますよ。
戦国武将とか、現在は英雄とされてるけど実際には闇深い人とか、山賊に村民全員殺されて強姦された美女とか、産まれた時からずっと地下室で虐待を受けながら育った青年とか」
「も、もういいです、そのくらいで」
「ゴメンゴメン。
……今は、大抵の幽禍は儡れるようになったけどね。
強いて言うなら、闇の望みに関係なく、幽禍を無理矢理動かすこともできるよ。だって俺たちは、命を制御すればいいから。でも幽禍は戻ろうとする反発力があったりするから、相当なエネルギーを使うことになる。だから、向こうから来てもらえるように試みるんだ」
「そっかぁ、結構難しいことやってるんだね。……で、寄ってきた後は?」
「あとは交渉って感じ、かな」
「交渉? お願いとは違うの?」
「……お願いかも、ハハハハハッ。まっ一応こっちの要望と幽禍の望みが一致すれば、交渉成立、って感じかな。大抵言う通りに応えてくれるね。
その際直毘師として、ギミッキングしないといけない。じゃなきゃ、行動してくれないよ。ここ、重要。そのためにも必ず、幽禍と対面する必要があるんだ」
「ギミッキングって、何?」
「簡単に言うと、見えないところに細工すること、かな。例えば、絡繰り人形が動くように、細かいところを細工するみたいに」
「分かった! 幽禍をいじるってことね」
「まぁそんな感じ」
「ギミッキングって、どうやるの?」
「そこまで教えるの?」
「だって重要なんでしょ!?」
「そりゃぁそうだけど、レイちゃんは直毘師じゃないし……ねぇ、嵩旡くん」
「……秘密にすると、後々厄介です」




