21話『幽禍さんたちにお願いしようかなぁ』
「それじゃぁ、教えるよ」
ほのかな笑みで、大人の顔を見せる碧。
「伊武騎さん!」
制止しようとした少年に掌を見せ、制止した。
「レイちゃん、約束してくれない!? 今回の伊豆海の件、絶対に関わらないって」
その眼は、真剣。
「……うん、分かった」
姿勢を正し、首肯するレイ。彼女と見つめ合いながら、軽いため息を一つ。カップに手を出し、ホットコーヒーで喉を潤した碧が、そっと語りだす。
「お姉さんが、消えた」
聞き返したほど、予想すらしてなかった応え。行方不明の背後に裏組織の存在を疑う少女に対し、阿部阪らが調査中だと言う。
碧の見解は、伊豆海陽が自らの意思で能力を再得したこと。その理由に、活動再開を取引にされた可能性を示唆しながらも、姉を探すため、だとした。
「まっ、彼の経験上、警察に捜索願いなんか出さないだろうし、まして、俺たちの助けも求めないでしょ。……彼は、伊豆海は、自分の力で探すつもりなんだと思うよ」
陽のこと、光のこと、二重のショックが少女を襲った。結果、より一層不安を膨らませ、青年の話しには上の空状態。
「でもほらっ、彼は能力もあるし頭もいいから、大丈夫だよ、きっとぉ」
暗く沈んだ雰囲気を、明めようとする碧がいた。
「レイさん、伊武騎さん、もし彼から連絡あったら必ず、僕たちに教えてください。伊豆海くんはレイさんたちのこと、感謝してるはずですから。連絡来る可能性は、ゼロじゃない」
嵩旡のコトバに、少女も青年も無言で頷いた。
「とにかく、レイちゃんは阿部阪さんたちの指示がない限り、関わらないこと。
心配しないで。彼、学校サボってないみたいだし、以前の彼に戻っただけだから。……ってことで、この話は終わりっと。で、今日の本題」
碧の強制終了感はあったが、レイもその件から離れようと努める。彼を呼び出したのは、本人だったからだ。
「あっうん、できるかどうか分からないけど、幽禍さんとのコミュニケーション、どうやって取るのかなぁって。視えるから、もしかしてって……」
「ふぅ~ん」
隣席の少年をチラ見した相手に対し、付け加えた。相談した阿部阪たちに反対されたことを。「だろうね。俺でも反対する」と共感されてしまった。だが、引き下がらない。
「でも、この前直毘師の人が学校まで来て、」
「な、直毘師が来たぁ~!? 誰よそれ?」
「えっとぉ〜……」
「早味良三姉妹」
代わりに答えた少年。
「あいつらかぁ……レイちゃん、何かされたの?」
「私は大丈夫。阿部阪くんたちが護ってくれたから。学校の窓ガラス割られたくらいかなぁ」
「くっそー、今度お仕置きせんといかんねぇ」
「ダッ、それはいいの、うん、揉めると厄介だし……それに茉莉那さんが、きつ〜く注意してくれたから」
「ならいいけど。でも今度来たらその場で俺に連絡くれたら、即行で行くから!」
「あっ、ありがとう、ございます。……そ、それでね、もし直毘師が攻めてきても、先に幽禍さんたちにお願いしようかなぁ、と思って」
「幽禍さんに、お願いかぁ。ハハハハハッ、レイちゃんらしいや」
笑う碧に、無表情の嵩旡。なぜ笑っているのか解らないのだろう。キョトンとするレイに、さらに続けた。
「阿部阪さんたちが反対している理由はね。レイちゃんがめちゃ優しいからだよん。幽禍に情がいっちまわないか、心配なんだねぇ〜。
幽禍は闇の寄生物。世間で言う幽霊と誤解されてるモノだよね。つまりコミュニケーションを取るってことは、それに触れることになる。感受性が高ければ高いほど、闇の哀しみ、憎しみなんかをモロに感じるんだ。
でも幽禍は人からのモノだけど、人じゃない。厳しい言い方かもしれないけど、コミュニケーションという概念はやめたほうがいいかなぁ。もし幽禍を儡る時は、感情移入せずコントロールすること。じゃないと、精神が闇に喰われちまうよん。まぁ、祓毘師よりは影響少ないけど、ね。
闇嘔受けたことあるレイちゃんなら、何となく分かるでしょっ。闇の恐ろしさは」
「う、うん、わ、分かった」
ホッとした表情を見せる男たちだったが。
「感情移入しない、コントロールする。で、どうすれば……」
諦めていない少女に、目が点の両名。
「……こ、嵩旡くん……」
「……お任せ、します」
「俺、責任取れないよぉ」
「僕もです」
「ぇ、エェ〜〜~」
「大丈夫。誰にも責任を押し付けたりしませんから。でも危なかったら、助けてください」
頑固な顔つきと勝手な思いつきの少女に、困惑と不安だらけの青年。連続のため息。碧の鼻先に冷や汗らしきものが、浮かび上がってきた。
「一応ですが、幽禍が反応するかどうか試してみては……。反応しないなら、レイさんも諦めるでしょうし……」
「そ、そうだね……うん、そうしよう。反応するかどうかの確認だけなら。もしレイちゃんが危うくなったら、俺が助けるから」
少年建毘師からの提案に同意するも、顔には危機感を滲ませていた。しかし、先ほどと違い、目の前の少女が目を輝かせ嬉しそうに、「ありがとう」を伝えてきた。さらに「頼りになるね」と持ち上げてきたことに、気を良くした碧がいた。
「では……ちょっとだけ講義、するとしましょうか」




